5 / 5
5.
しおりを挟むフィオナが、ぼんやりと目を覚ますと、なんだか豪華な部屋に寝ていた。
ここ、どこ?
慌てて身体を起こすと、頭が割れるように痛くて、またもやベッドに突っ伏してしまった。
部屋の中にいたらしい、侍女達(?)が、フィオナが起きたことに気づき、かいがいしくお世話をしてくれるが、吐き気もあり、うまく喋ることができない。
すぐに偉そうなお医者様が来て、一通りの診療が終わると、フィオナはそのまま放置されてしまった。
何一つ分らず終いだ。
学園の寮に帰りたい。
そう思うフィオナだが、今の姿は、いかにも高級そうだがネグリジェ姿。いくら何でも、この姿では外には出られない。
それでも、部屋の扉を開けて、何とかしてみようと考えたのだが、なんと扉には鍵がかかっていた。
監禁されている?何が我が身に起こっているのか。
パニックになってしまったフィオナだった。
それから何日も何日もフィオナは監禁されたままだった。
暇をつぶすためなのか、部屋には様々なジャンルの大量の本が届けられた。
毎日部屋の何か所にも花が飾られ、食べたことも無い高級なお菓子が日替わりで送ってこられる。
大事にされていることは判るのだが、フィオにすれば、ここから出してくれ。それだけだった。
世話をしてくれる侍女達に何度話しかけても、決して答えてはくれない。
フィオナが半べそをかいても、それは変わらなかった。
監禁されて1週間ほどたった時に、部屋にオリヴィアがやって来た。
部屋から出ることができる!
フィオナは喜んだ。
「あなたがそれほどまでに殿下のことを思っているなんて、私は気づきませんでしたの。今まで、あなたを悪しざまに言っていたことを、お詫びするわ」
「へ?」
フィオナがオリヴィアへと何かを言う前に、いきなりオリヴィアが頭を下げたのだ。
「オ、オリヴィア様っ。頭など下げないで下さいっ」
高位貴族に頭を下げられて、フィオナは焦る。
「いいえ、私はあなたに謝らないといけないわ。
殿下の命を守るため、自分が毒をあおるなど、私には、できることではないわ」
「ほえ?」
フィオナの手を取り、オリヴィアが話を続ける。
「あなたが身を挺してくれたおかげで、殿下は無事よ。
まさか学園のレストランの食事に毒が入れられているなんて、誰も思ってもいなかったわ」
「おにょ」
フィオナはオリヴィアが何の話をしているのか、判らない。
まるで、フィオナがレオンを庇って、毒を飲んだようではないか。
フィオナはレオンから渡されたスープを飲んだだけだ。
まさかスープの中に毒が入っていた?
でもフィオナはピンピンしている。
「オリヴィア様っ。この部屋に入ってはいけないと、レオン様から言われていたでしょう」
「でも、私はフィオナに謝らなければ、ガイっ、手を放しなさいっ」
いきなり部屋に入ってきたガイは、嫌がるオリヴィアを連れていってしまった。
部屋に残されたフィオナ。
結局フィオナは助けを求めることも、自分の状況を聞くことも出来ないままだった。
期待はしていなかったが、扉に手をかけてみたが、やはり鍵がかかっていた。
また、このまま監禁かと思われた午後、レオンが部屋へとやって来た。
「フィオナ、待たせたね。やっと根回しが終わったよ」
いつもの無表情のレオンなのだが、フィオナには、不穏な雰囲気が感じられた。
「私はいったいどうなったのですか」
レオンの雰囲気に、聞くのはためらわれたが、聞かない訳にはいかない。
「簡単なことだよ。
フィオナは私のスープに入れられた毒に気づいて、自らがそれを飲むことによって、私を助けてくれた。
おかげで私は無事だった」
「違いますっ。私は殿下から飲めと言われたから飲んだだけです。毒など知りません」
「皆、感激してくれたよ。
自分の命を捧げてまで私を守ってくれた。真の忠義だと」
レオンは愛しそうにフィオナの頬を撫でる。
フィオナはゾッと……はしなかった。
すごく憶えがあるから。
「国民を煽るのは簡単だったよ。
身分が低いからと、日陰にいた男爵令嬢が、自分の愛する王子のために、自らの命を差し出したのだからね。
巷では、この話題で持ちきりだ。
身分の低い令嬢と王子の命をかけた恋物語だ。国民の好きなシュチエーショだよ」
いつもは言葉数の少ないレオンが楽しそうに話している。
「私たち王族が妃の資質として求めるのは、王族のために、最後に肉の盾になれるかどうかだ。
フィオナはそれをクリアできたのだよ。
婚約者だったオリヴィアは、自分には出来ないことだと、向こうから婚約の解消を言ってきた。手間が省けたよ」
「嵌めたわね」
フィオナの声は低い。
こいつのやり方はいつもそうだ。
自作自演に巻き込みやがって。
「障害は無くなったよ。
どうせ私は臣下に降って王族ではなくなるのだ。妻の身分にこだわるよりも、国民に喜ばれる方が得だ。
命を懸けた男爵令嬢を妻に迎えるのだ。国民から、多大な支持を受けることができる。
周りの者たちも、国民感情を考慮して、今は苦言を呈してくることはない。
さっさと婚約をしてしまお…ふごぉっ」
レオンは最後まで話ができなかった。
フィオナの鉄拳がレオンの顎にヒットしたからだ。
「正孝、てめぇ何やってくれてるのよっ」
「雪ちゃん」
殴られたレオンは嬉しそうだ。
フィオナはこの部屋に閉じ込められてから、徐々に思い出してきた。
自分の夫だった正孝のことを。
幼馴染だった夫は、何故か雪子のことが好きだった。
好きで好きで、好き過ぎた。
雪子がドン引きするぐらいには、好意を寄せてきた。
雪子も正孝のことを愛していたから結婚したし、子どもも生んだ。
でも、思ったのだ、次の人生では、正孝とは距離を取ろうと。
この執着に付き合うのは疲れたと。
レオンがいつ正孝の記憶を思い出したのか、そんなことは、どうでもいい。
今生でも正孝は雪子を見つけて、雪子のことが好き過ぎている。
それなのに、正孝に一目惚れしたとか。
雪子は学習能力なさすぎ。
なんでわざわざストーカー相手に逆ストーカーしてんだよ。
もう根回しは済んだとレオンは言っていた。ならばフィオナがこの部屋から出せと言えば、すぐに出してくれるだろう。
基本、正孝は雪子の意志を尊重してくれた。
ただ、先に外堀を埋めて、雪子が嫌だといえなくするだけだ。
今回のように。
チロリとフィオナはレオンを見る。
レオンは無表情ながら、ご機嫌そうだ。
逃げてやる。
今生では逃げ切ってやる。
せっかく生まれ変わったのだ、もう正孝の相手はしなくてもいいだろう。
決意を固めるフィオナだった。
前世を完全に思い出したフィオナが逃げ切ることができるのか。
それともレオンが外堀を埋め尽くして、フィオナを手に入れるのか。
それは、二人にしか判らない未来のお話。
¨ ¨¨ ¨ ¨ おしまい ¨ ¨ ¨¨ ¨
※ 皆さまー。現ナマです。
最後まで、お付き合いいただき、ありがとうございました。
これにて完結です。
こんなんで終わるなよと言われそうですが、力尽きたと思ってください。
今度は、もう少し時間をかけて、ましな物語を作りたいと思います。
また、お会いできることを願っています。
2020.6.9
棚から現ナマ
応援ありがとうございます!
1
お気に入りに追加
1,617
この作品の感想を投稿する
みんなの感想(63件)
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。
大ドンデン返し~~!?すっごく面白かったです!!
感想をありがとうございます。
どうぞ、お気に入り登録などをしていただければ、励みになります。
宜しくお願いします。
すっごく好みでしかない物語。
是非是非長編化を!!
感想をありがとうございます。
長編化するならば、現在連載中のBLが終了してからになります。
どうぞ、モチベーションが残っているよう、応援してください。
宜しくお願いします。
久し振りに読みました
(しばらく現ナマさまの作品を読んでませんでした_|\○_)
前垢でログインしなくなって見失ってましたが、HOTランキングに上がったBL作品に、棚から現ナマ様のBL⁉️と、開いた後に、こちらへ戻ってまいりました
何回読んでも新鮮な気持ちで読める、さすがです
雪ちゃんは、輪廻転生の環から解脱しない限り正孝君にガッチリホールドされる世界にしか生まれられないのではないかと改めて思いました
本気で逃げたいなら、お釈迦様の弟子になるしかないですね(笑)ꉂꉂ(ˊᗜˋ*)ʬʬ
さて、他の作品も読んでくるかなーニ三 ˙ᴗ˙ )📱
こちらの垢でも、作者、各作品にお気に入り登録しますので、今後は見失わないはず⋯⋯
お久しぶりです。
この作品も、懐かしいです。
長編にリメイクしたいと、むくむくと思ってしまう、今日この頃です。
もしかしたら、やっちゃうかもです。
その時は、宜しくお願いします。