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人外との日常

It's show time

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ワイナール皇国暦286年、4の月



ゴウゴウと風を切る音が煩わしい
これだけの高さでは、その場に佇むだけで強風が吹きすさ
高度は約1000m、上からも下からも人は米つぶ程にも見えない高さだ

「さて、この辺りから始めようかな?
派手にやる為にも演出は大事だよね」

「ふむ?まだ龍体にならなくてもいのか?」

「うん、もう少し待ってくれる?
リズ達が冒険者組合や屋敷に到着したら行くよ
せっかく派手にいくんだから見物人は多い方が良いからね
それまでは面倒だろうけど俺に掴まってて?
……あ⁉︎そうか、全員浮かせればいいのか」
“ポウ”っと円座座布団サイズの《位置固定浮台Position floating》と書いた魔方陣を2つ浮かべると、アナヴァタプタとタクシャカを乗せる

「どう?」

「うむ、問題無いな。では暫し待とう」
「うむ、面倒ではあるな、己で飛べぬは焦れったいものだ
龍体であれば飛べるのでな、尚更だ」

「ハハッ、確かに焦れったいだろうね
ゴメンね?もう少し辛抱してよ
じゃあ手順を確認するね?
少し降りたところに、俺が特大の発光魔方陣を創るから
龍体になったアナヴァタプタが魔方陣の中心を威厳を示しつつ降りる
あ、その時に咆哮ひとこえいっとく?
地の果てまで轟く様に、物理的な力は無しで
それと、降りる場所は指示するから問題無いよ
あ、あと、魔方陣には何の魔法効果も無いから安心していいよ」

「うむ、承知した」







「はあ………」
「どうしたの?トゥリーサ?」
「う~ん…」
「なによ?悩み事なの?
あ⁉︎わかった⁉︎ライザーさんが居ないからでしょ!」
「なーーー⁉︎ライザーさん⁉︎なに言ってんの⁉︎違うわよシリミカ⁉︎そんな訳ないじゃない⁉︎なんでライザーさん⁉︎バカじゃないの⁉︎それに組合長代行は7人も居るのに、なんでライザーさん⁉︎意味わかんないわよ⁉︎」
「ヒドッ⁉︎バカじゃないのってアンタ……
じゃあ、なによ?普段は頭がお花畑のトゥリーサが深い溜め息なんかいたら男関係だって思うでしょ?」
「お花畑って…シリミカの方がヒドくない?
それに、なんで男関係でライザーさん一択なのよ⁉︎」
「はあ?トゥリーサ、自分で気付いてないの?
アンタ最近、なんかあればライザーさん、ライザーさんって、自覚ないの?」
「え?まさか?そんなことないでしょ?
ライザーさん達って5人組なのよ?
あ、騎士隊としてって意味ね?
だから、後4人居るライザーさん達なのにライザーさんのことばっかり言う訳ないじゃない
それってライザーさん達に失礼じゃない?」

シリミカが指折り数えている

「え?シリミカ?なに数えてんの?」
「いやー、この短い会話の中でトゥリーサが何回ライザーさんって言ったかなーって」
「え⁉︎なに?その棒読み?そんなに何回も言ってないわよ?2回ぐらいでしょ?」
「うんにゃ、8回言ってるね、間違いなかとです!」
「なによソレ⁉︎どこの言葉よ⁉︎」
「それに、ライザーさん達って7人だったらリズさんが仕切ってるけど
男組だったらフワックさんが隊長なんだよ?
それを、ライザーさん達っておかしいでしょ?
言うならフワックさん達じゃないの?」
「…………」
「ほらみろ」
「…騎士団の人達が凄く沢山警戒に出てきたよね?」
「うわ⁉︎あからさまに話を変えた⁉︎」
「え?変えてないよ?昨日、辺境伯様のとこ行って話しをしたら騎士団を出すって言って下さったんだもん
気になるでしょ?」

「トゥリーサ?」
シリミカがトゥリーサの両頬を“ガシッ”と挟み見つめ合う
「ちゃんとアタシの目を見て言ってごらん?」

トゥリーサの目がシリミカと視線が合わない様に揺れ動く

「トゥリーサ、アンタね…目が泳ぐどころか、目が回って空飛んでんじゃないのよ…」

“ギィー”っと冒険者組合の扉が開く

「あら?暇だから遊んでいたのですか?」

「「リズさん⁉︎」」








“ダカダッダカダッダカダッダカダッダカダッ…”

「ん?」
北側街門の警戒をしていた騎士の1人が目を細め街道の先を見る
「どうした?」
「あ、いや、デッカイ馬が来る」
「ん?デッカイ馬?そりゃロウ様のヴァイパーじゃないか?」
「あ⁉︎そっか⁉︎」
「お?御帰りになられたのか?」
警戒していた騎士団がゾロゾロと門脇に集まって街道の先を仰ぎ見る

「うん、ヴァイパーだな」
「その後ろから7騎続いているぞ」
「おお、ロウ様の騎士隊も全員帰ってきたのか」
「うん、無事に帰って来られた様で良かった」
「一応、夜組との交代時間だが丁度良かったな」
「あゝ、ロウ様のことだ、慰労の言葉をかけて下さるだろうな」

“ダカダッダカダッダカダッダカダッダカダッ…”

ヴァイパー率いる騎馬8騎が街門までくると、騎士団が騒めく

「あれ?ロウ様が居ない?」
「え?ワラシちゃんしか乗っていないぞ?」
「あ、ホントだ?コマちゃんも居ない」
「どうしたんだろう?」

「騎士団の皆さん、街門警備、ご苦労様です」
街門まで来たリズが馬上から声を掛ける
「騎乗のままで通りますね」

「あ、はい、お疲れ様です」
「どうぞ、お通りください」
「あの、リズさん、ロウ様は?」

「あゝ…え~っと、もう直ぐ判りますよ。うふふふふ…」
リズとミアが華の様な笑顔を魅せる

「「「「「「「………………」」」」」」」
騎士団、門衛、住民問わずその場に居た男連中が蕩けた





リズ達が冒険者組合前まで来ると、リズが下馬し
「フワックさん達はヴァイパー、ワラシと御屋敷へ向かってください
そして、大旦那様とロベルト様にお報せして
私とミアは冒険者組合で観ています」
「「「「「了解です」」」」」

「コウトーの全員で楽しみましょう」

「「「「「はい♪」」」」」



リズとミアが馬を馬繋ぎに手綱を繋ぎ、冒険者組合内に入っていく

「リズさん、ミアさん!お帰りなさい!」
「決して遊んでません!」

「そんなに慌てなくても大丈夫ですよ
以前も言いましたが暇な時は好きにしていればいいのです
仕事が無い寸暇に無理に仕事する必要はありません」

「「は、はい」」

「それよりも、もう少ししたら外で面白い事が始まりますよ
待合の椅子を全部外に出して見学しましょう」






「おお!ヴァイパーとワラシちゃん!フワックさん達も!
お帰りなさい!」
辺境伯邸の門衛がニコニコと挨拶しながら正門を開く

「ただいまー!」
「ヒヒン」
「「「「「ただいま戻りました」」」」」

「あれ?ロウ様は?」

「もう直ぐ戻られますよ、楽しみに待っててください」

「ふ~ん?はいよ、さあ入って」

「ありがとー!」



「俺とトロリーで御隠居様とロベルト様にお報せしてこよう、馬を頼むよ」
とフワックが下馬しオムルに手綱を託す

「あいよ、じゃあ俺たちはヴァイパーと馬場に行っておく」
フワック達が屋敷玄関へ向かうのを見送り、オムル達は馬房へ向かう




「スコットさん、御隠居様とロベルト様は何方どちら御出おいでですか?」

「はい、ロベルト様は執務なさっておいでです
大旦那様は大奥様と御部屋ではないでしょうか?」

「ありがとう、行ってみるよ」

「何かございましたか?」

「あゝ、いや、ロウ様が派手に帰還される御予定でね
御屋敷の皆様も御一緒に迎えられれば、とね?」

「ほう⁉︎そうなのですね?では、私は屋敷の使用人達を集めましょう
玄関で宜しかったですか?」

「あ、いや、馬場の方にお願いします」

「馬場?……わかりました、何やら楽しい事になりそうですね」

「ええ、間違いなく」





“コンコン”
「失礼します、フワックです。入室しても宜しいでしょうか?」

「ん?フワック?入りなさい」

「失礼致します」

「フワックおかえり、ロウ君は見付かったのかな?」

「はい」

「ん?あれれ?ロウ君が見付かって君達が帰ってきたのに、ロウ君が顔を出さない?
何かあったのかな?」
ロベルトが怪訝な顔をしペンを置く

「はい、何かあったか、と言われれば何かありました
そして、間も無くロウ様は帰還されます
ですので、ロベルト様には御足労をおかけしますが
御家族様と御一緒に馬場の方へ御出で戴きたく存じます」

「ほう?馬場へ?なるほど、理由があるのだね?
よし分かった、妻子と馬場へ向かおう」

「ありがとうございます」


暫くしてロベルトがキャリー、キャロル、ロワールを伴い玄関へ出ると
丁度、ロシナンテとキホーテも出てきた

「おお、お主らも今から馬場か?」
「はい、フワックから報され向かう所でした
ん?スコット?君達は?」
「は、使用人達は裏玄関から向かいます」
「おお、使用人全員で行くのだな?」
「は、ロシナンテ様、ロウ様がお望みな御様子なので」
「うむうむ、では参ろうか」






遥か高空でロウが望遠視していると、辺境伯邸の表と裏からゾロゾロと人が出てきて馬場へ向かっている
目を転じ、コウトー中心部辺りを視ると、冒険者組合前には職員達と通行人が座っているようだ
コウトー全域を俯瞰してみると時間帯的なものか買い物をしている人達が多いようだった

「大体の人達が外に居る様だね、いい頃合いかな?」
ロウが右手に魔力を籠め、魔方陣を描く
中には《華光輪乱舞》《重低音響》と書いて魔方陣を完成させると、魔力を余分に流し込み直径300mぐらいに拡大させ
ゆっくりと高度を下げる

この時点で気付いたのは勘が鋭い者か、初めから聞かされていた者達だけだが
街中では勘が鋭い者達が指差したからか、異変に気付き見上げる人達が徐々に増えている

魔方陣を高度500mぐらいまで下げると、指を“パチン!”と鳴らし魔導式を起動させた

「It's show time!」





この日、コウトーに神話が天降る

その日はコウトー住民にとっては普通の日だった
だが、不思議な雰囲気の日だった
何があったのかは住民には判らない
しかし、何かがあったのは住民には判る
その理由は朝から隊列を組んで行進する騎士団を目撃したからだ

住民達は、朝から甲冑の音を響かせコウトー各街門へ行進して行く騎士団を見た
戦争が始まったとの話は露ほども聞かない
近隣で魔獣が大量発生したとも聞かない
ドラゴンが来襲してきたとも聞かない
何が始まったのかと訝しみつつ、何か辺境伯辺りの考えがあっての事だろうと無理にでも納得させる

そして、それは夕刻に近い刻限に始まった

“ドーーン  ドーーン  ドーーン  ドーーン”

一定のリズムで腹に響く重低音が空から降ってきた

住民達が“なんだなんだ”と空を見上げる
ある者は路上で、ある者は自宅の窓から、ある者は食事の途中でナイフとフォークを持ったまま外へ出てきた

そして、見上げた先には……
コウトー上空、視界一杯に拡がる緋金に輝く魔方陣
そして、壮大な野外劇pageantが始まる
魔方陣がカチカチカチカチと小刻みに回転しだすと、様々な光彩の華が魔方陣から飛び出し乱舞し始める
住民達は生まれて初めて観る、あまりにも華やかな光景に見惚れていた

“ドーーン  ドーーン  ドーーン…”変わらず響く重低音
しかし…突然、掻き消される

“グオオオオォォォォォーーーーン……”

ビリビリビリと空気を震わす咆哮が響き、見惚れていた住民達が我に返って魔方陣を注視する

魔方陣の中心部から金銀混じりの細長い巨大な龍が“ゴバァ”と、うねりながら顕れた

「ひっ⁉︎」「り、龍⁉︎」「うわ…うわわ…」「アバババババ…」「ヒィー⁉︎」「お、お助け…」「あ…あ…」


そして再び響く咆哮
“我は龍王である”

そして、再び“ドーーン  ドーーン  ドーーン…”と重低音が響く中を、ゆっくりと辺境伯邸へ降下していった


「りゅ⁉︎龍王さま⁉︎」「な、な、な、な…」「なんだってー⁉︎」「ありがたや…ありがたや…」「ず、瑞兆だ!瑞兆だぞ‼︎」「なんと神々しい…」「え⁉︎あの方向は⁉︎」「辺境伯様だ!辺境伯様の御屋敷へ降りていくぞ!」「俺、行ってくる!」「俺もだ!」「アタシも!」「だ、誰か…ワシも連れてっておくれ」「ん?婆さん、俺が背負ってやるよ!」「僕らも行こう!」「「「「うん!」」」」
住民達が辺境伯邸へ動き出した横を、辺境領騎士団は隊列も無く我先にと辺境伯邸へ駆けていた







「ロウよ、あそこに降りるのか?」
背に乗るロウ達を振り返る

「うん、そうそう、集まっている人達を潰さないでね」

「うむ、それは大丈夫だろうと思うが、創世の神より小さな者がおるぞ?
大丈夫か?我が気に充てられぬか?」

「うん、周りに普通の人よりも魔力が強い人が数人居るから大丈夫じゃないかな?」

「そうか。しかし、ロウよ、派手にとはああいう事なのか?
流石に少し恥ずかしかったぞ?」
「うむ、そうだろうそうだろう
我でなくて助かったわ」
「タクシャカよ…変わってやろうか?」
「いや、遠慮しておこう。我は地味なのでな」

「そお?恥ずかしかったの?俺的にはカッコイイと思ったんだけどな?」
【うん、私もカッコイイと思ったよ?】
「それに、タクシャカも拗ねないでよ?
いつか、見せ場を作ってあげるから」

「む、カッコイイか…我がカッコ良かったのか?…ふふふ…」

「な⁉︎そんな筈はない!我は拗ねてなどおらぬ!変な勘違いは止してもらおうか!
しかし、こういう事が再びあるのか?
その時は、我が出るのもやぶさかではないぞ」
タクシャカが、そっぽ向いたまま話している

「ククッ、機会があったらお願いするから待っててよタクシャカ」

「うむ、気長に待っておる」






茫然自失のていで見上げる、コロージュン辺境伯家の人達の真っ只中に、ゆっくりゆっくりと降りていく龍王



「ロウ君……龍を捕まえるかも、とは言ったが龍王とは聞いてないよ…」
「ロウよ……なんともはや……」
ロベルトとロシナンテが龍王を見上げ、呆れたように呟く


「暫く龍体のままで待ってて」
10mぐらいの高さまでアナヴァタプタが降下すると、アナヴァタプタに一言言ってロウ、コマちゃん、タクシャカが飛び降りる

「御祖父様、叔父さん、ただいま戻りました」

「お、おかえりロウ君」
「うむ…おかえり…うむ、おかえり
その…なんだ…今回は普通に説明してくれるのだろうな?」

「嫌だなぁ御祖父様、僕は隠し事なんてした事ありませんよ?
それと、説明の前に叔父さんにお願いがあります」

「ん?んん?お…お願い?何だろうか?私に出来る…出来る事なのかな?」

「はい、コロージュン辺境伯家当主であるロベルト叔父さんにしか聞けないお願いです」

「う…うん、とりあえず聞いてみようかな?」

「はい、では、こちらにいる」
タクシャカを平手で示し
「タクシャカ龍王」

「え⁉︎此方の方も龍王⁉︎」

「そして、こちら」
上空のアナヴァタプタを平手で示し
「アナヴァタプタ龍王を御屋敷に居候させて下さい!」

「「「「「「「「は?」」」」」」」」

「「「「龍王を居候⁉︎」」」」







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