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人外との日常

野次馬は馬では無く…

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ワイナール皇国暦286年、4の月



「……アレは…アナヴァタプタではないか……」
「うむ、何をやっておるのだろうな…」
「アナヴァタプタは、ああいう気質のモノであったか?」
「一緒に行ったタクシャカは、アナヴァタプタの背に乗っておるようだ」
「他の龍王を背に乗せるとは、アナヴァタプタはどうしたのだ?」
「ふむ、気持ち悪くはないのだろうかな?」
「しかし、あの魔方陣は何であろうか?」
「うむ、あの様な大きな魔方陣をアナヴァタプタとタクシャカが創れたのか」
「ふうむ、ほんの数日の間に何があったのであろうか?」
「お?アナヴァタプタが魔方陣の中に入って往くぞ?」

山に残った龍王達がアナヴァタプタとタクシャカを遥か遠目で見下みおろしいぶかしむ
さすがにロウとコマちゃんは小さ過ぎ、タクシャカの陰に入っていたのか見えなかったようだった







「は~~英雄の子孫って、こういう事なんだぁ…」
組合前に出した椅子に座って、トゥリーサが龍王降臨を見上げながら呟く

「?トゥリーサさん?なんの事を言っているの?」

「あ、いえ、辺境伯様の御屋敷に竜人の事を報告に行った時に《コロージュン家が英雄の子孫だと解るだろう》って言われたんです
その時は大袈裟だな?とも思ったんですけど
まさか、龍王が顕れるなんて…ビックリしちゃいました」

「そんなことをロベルト様が仰っていられたの?
龍王様のことを予測されていたのかしら?」
ミアが首を傾げる

「まぁ、ロウ様の叔父上様ですから不可思議な予知の力があっても不思議ではありませんね
流石は英雄ロンデルに創始はじまるコロージュン家なのでしょう」

「リズさんとミアさんの御主人様も、そんな不可思議な力を持っているんですか?」

「不可思議な力?不可思議な力ですか……
ん~~~、持って…ん~?不可思議…?
確かに、不可思議な力を持っていらっしゃると思いますが…
ロウ様の場合は説明されれば、なるほどと思える事しか為さらないので、よく判りません
彼の御方の凄いところは、誰にでも出来る《思考》を、いつ如何なる刻も巡らせるところでしょうか?」

「思考?考える力?なのですか?」

「えぇ、そうですね
ただただ考え、予測し、実行し、結果を出されます
強大な魔法の力も持っておられますが、私はあの思考力の方が凄いと思いますね」

「うふふ…《考えるのは無料タダ》ですものね」

「そうねミア、うふふ…」







「騎士団が大勢出張ってきたから、てっきり竜人がコウトーにまで来るって思ったら龍王が来ちまったよ…」
「あゝ…なんか、有り得ない事ばっかだな…」
「そういや、さっきフワックさん達が辺境伯の屋敷に駆けていくの見たぜ」
「あ⁉︎俺も見た!あの魔獣と緑の子も一緒だった」
「もう1人の子はいたか?」
「いや、見なかったぞ?」
「え?まさか、食われ…」
「あぁ⁉︎だから、組合じゃなく辺境伯の屋敷に⁉︎」
「だったらマズイな…俺たちのせいにされないか?」
「うわー、無いとは言えないのが怖いな…」
「そうだ!ジャイのせいにしちまおう!」
「は⁉︎なんで俺のせいなんだよ!」
「お前が1番無礼な態度だったんだから向こうも納得だろ?」
「はあ⁉︎バカ言ってんじゃねーよ!」
「それよか、竜人は退治してきたのかね?」
「どうだろう?退治してくれてたら良いんだが…」
「しかし、せっかく狩った獲物が無駄になっちまったなぁ」
「そりゃしょうがねぇ、俺たちが竜人に喰われなかっただけ良かったんだ」
「確かにそうだよな…」
「しかし、龍王は辺境伯の屋敷の上で何してんだろうな?」
冒険者達が街角で空を見上げて話し込む







「え~、え~っとね?ロウ君?」

「ダメなんですか⁉︎」
ロウが、この世の終わりみたいな表情をする

「い~え、ダメではありませんよ、ロウ?
あなたに、そんな顔をされては黙っていられません
ロベルト!何とかなるのでしょう?」

「え?御祖母様?」

「えぇ、えぇ、ダメではありませんよロウ様
最初は初めて御目にかかった龍王様には驚きましたが
当屋敷に龍王様が起居されるとは、なんて光栄な事でしょうか」

「キャリー叔母様…」

「いや、いや、待ってくれキャリー、お袋様
私も否やはないのだよ?
しかし、タクシャカ様は屋敷に御迎え出来るのだが
アナヴァタ“ガチッ”あ⁉︎くふぅ…ひた噛んら…
アナファラフラはま、か、ほほきてね…」
ロベルトが口を抑えて平手をロウに向け“ちょっと待って”ポーズをとる

「大丈夫ですか?叔父さん?血が出ていますよ?魔法で治しましょうか?」
ロウが問いかけるも、ロベルトが顔を振って自分で治癒する

「ありがとう、もう大丈夫だよロウ君。以前教えてもらった治癒魔法が早速役に立ったよ…」
言いつつもロベルトは涙目だ
「さっきの続きを、アナヴァタプタ様は流石に大き過ぎてね
一般の家屋よりは万事の造りが大きな屋敷だが、ざっと見て20m?30m?の身体は流石に入れないんだよ」

「あゝ、なんだ、龍王だからダメでは無いんですね?良かった」

「もちろんだよ、キャリーも言っていたが神話にも登場する伝説の龍王様が、我が屋敷に起居してくれるなんて光栄だからね」

「だってさ、アナヴァタプタ、タクシャカ、良かったね」

「うむ、感謝しよう」
「うむ、なかなか話が通じる者だな」

「じゃあ、そろそろ外が騒がしくなってきたからアナヴァタプタも降りて?」

「うむ」
ギュルギュルと竜人になり、フワリと降り立つ
いかな?」

「ほおう⁉︎なるほど⁉︎龍王様は竜人に化ることが出来るのですな?
いや素晴らしい‼︎
タクシャカ様は最初から、その御姿なのかと勝手に思っておりました‼︎」

「御祖父様?凄く興奮していますが大丈夫ですか?」

「ロウよ、これが興奮せずにはいられるものか⁉︎
下位龍や中位龍とは違うのだぞ⁉︎
龍王様なのだぞ⁉︎
下位龍は当然としても、どうにかすれば儂等でも中位龍までは闘える
だが、龍王様は別だ!絶対に人の力など及ばない存在!最も神に近しき存在!
それが龍王様なのだ‼︎」

「は…はあ……凄いんですね……」

「また⁉︎この子は何でサラッと言うんだ⁉︎冷静か⁉︎」

「まぁまぁ親父殿、落ち着いて」
「あなた、落ち着いて」
御義父様おとうさま、落ち着いてください」
「おじいさま、おちついて!」
「じーちゃー」

「ゔっ…いや、すまぬ…龍王様方の前でお見苦しい真似を…
しかし、ロウは怖いもの知らずで困ったものだ…」

「?我等はロウに従っておるのだが?」
「うむ、我等はロウに降参したのでな?であるから、これからロウの世話になるのだぞ?」

「「へ?」」
「「え?」」
「な、な、な、な、な、なんっじゃとおおぉぉぉぉーーー!!!!」







「なあ頼みますよ門衛さん、入れてくださいよ」
辺境伯邸正門で、ちょっとした騒ぎになっている

「やっと来たんですから、お願いします」
「じっと見るだけですから!」
「うんうん、私らも龍王様を拝見したいんですよ」
「まじお願いします!」
「見たいーー!」
「物見高いのも当然でしょう?龍王様なんだから」

数百人の民衆が辺境伯邸の正門前に集まり騒ぎ立てる

「まぁ待て待て、そんな事を言われても俺たちが許可出来る訳がないじゃないか
ここは辺境伯様の城なんだぞ?
こんなに正門前に集まるだけでも大問題なんだぞ?」

「門衛の言う通りだ!
無理に押し入ろうとするなら、俺たち騎士団が排除に動くぞ!」
街門から急いで戻ってきた数十人の騎士団が“スラッ”と剣を引き抜く
「今、辺境伯様へ問い合わせているから、暫し大人しく待て!
便乗し騒ぎを起こす者どもは斬って捨てる」
「うむ、我々はコウトー住民を護る立場だが
場をわきまえぬ者共には容赦はせぬ!」

「横暴だ!」「頼んますよ!」「一目見るだけですから!」「納得いかねーっすよ!」「我々の神を見る権利はあるでしょう?」「龍王様を見たいんですよ!」「見せてー!」

「お前達は、他人の家に高貴な客が来たからと言って押し掛けるのが当たり前なのか?」
「まったくだ、常識で考えろ!」
「とりあえず、龍王様には御伺いに行っているから大人しく待て!」

「「「「「…………」」」」」







茫然自失なロベルトとロシナンテの元へ“ガチャガチャ”と鎧擦れの音を立てて騎士がやってくる
「ロベルト様、民衆が正門前に集まり騒いでおります!」

「…はっ⁉︎………ん?なんだって?
恐怖で暴動でも起こったのかい?」

「は、いえ、その…龍王様を近くで見たいと不敬な事を…
討ち払いますか?」

「ん~?それは私が決める事では無いな?
龍王様に御伺いしなければな?
そして、あながち不敬でも無いんじゃないのかい?
ちょっと、いき過ぎた尊崇の気持ちなんだろう」
ロベルトが、アナヴァタプタとタクシャカを見て、ふと気付く
「あ、そうか…ロウ君に判断を任せるかな
龍王様方の庇護者はロウ君なんだろう?」

「はあ…そうですね、立場上は僕が庇護者ですよね…
そうだなぁ、その住民の中にバカが居なかったら問題は無いかな?
でもなぁ、あんな登場しといて今更だけど龍王は見世物じゃないんだよね?
だから、暫くしたら街中で買い物なんかする龍王を見る機会があるって言って引き取ってもらって?
それでも騒ぐようなら、違う目的があるかもしれないから
しつこく騒ぐ人の職業とか調べてみて?
ひょっとしたら宗教関連かもしれないしね?
そうなったら辺境伯たるロベルト叔父さんの出番になっちゃうから」

「うん、なるほどね?
聞いたかい?その方針でいこうか?」

「はっ!では住民を散らしてきます!」

「力尽くじゃなくて説得でね?
龍王が《見世物になるのは不快だ》って言ってたって言って良いよ」

「はい、ロウ様!そのようにします!」
騎士が正門に戻って行った





「意外と物見高い住民なんですね?」

「うん、まぁ、ああいう空一面に広がる様な娯楽なんて初めての事だしね
あ⁉︎こんな言い方は龍王様方に失礼だね」

「うん?構わぬぞ?」
「うむ、これから世話になるのだ、如何程の事も無い」

「じゃあ、屋敷に入りましょうか?
叔父さん、部屋を用意してもらえますか?」

「あぁ、そうだ、そうだった!スコット!頼むよ!」

「はい、畏まりました!
ロウ様?2人部屋で宜しいのでしょうか?」

「うん、そうだね、それでお願いしますね」

「はい、では暫し居間でお待ちください
龍王様方が不便に感じる事が無いように準備させて頂きます
わたくし供にとっても起居して頂き、御世話をさせて頂くのは光栄な事ですから
さあ、皆さん急ぎましょう!」

「「「「「はい!」」」」」

スコットと使用人達が急ぎ邸内へ向かった





ロウ達、龍王達、辺境伯家の人間が邸内の居間へ移動し
上座下座関係無く床座に座りこむ
「さて、と…アナヴァタプタとタクシャカには今後の生活の事は僕が教えますけど
御祖父様達やロベルト叔父さん達は聞いておく事は無いですか?」

「ふ~むむ、儂は魔法の事などを聞きたいのう」

「いや、御祖父様?そんなのは後で暇な時にでもゆっくりと聞いて下さい…」

「あなた…6歳のロウに諭されるなんて…しっかりして下さいな?」
「あ…いや、すまぬ…」

「ロベルト叔父さんは?何かありますか?」

「うん、最初に聞きたいんだが、龍王様方が報告された人を食う竜人なのだろうか?」

「⁉︎あゝ、そうです、冒険者達からの報告であれば間違いありません
ただ、事実なのですが語弊が無いように言えば、人が主食では無く一定の基準があって食べるのであって、無差別に人を狩って食っている訳ではないです」

「ふむ、なるほど……ちなみに、その基準を聞いて良いかい?」

「ええ、それ……」
「それは、無礼な者供だな」
「うむ、我等に無礼をはたらいた者は食ってきた」
アナヴァタプタとタクシャカが被せて話し出した

「ただのう、我等は元よりモノを食わぬでな?」
「うむ、ロウに出会うまではモノの食い方を知らなかったようだ、惜しい事をした」

「ふむふむ、確かに龍王様に無礼な事をしたら罰は必要になりますね?」

「え?ロベルト叔父さん?納得しちゃうの⁉︎」

「それはそうだよロウ君、私達の法は人の為の物だからね?
人より遥か高みの存在を縛る法なんて無いよ?
ワイナール皇国ばかりじゃなく、古今東西でね?
人の法なんて簡単に食い破るだけの力を持っているんだもの、当然じゃないか
法ってね?弱い存在が自分達を守る為って側面もあるんだよ?少人数であればおきてって言い方もするね
自分達が害されないように他を縛るんだよ」

「はあ…なるほど……確かに神や龍王は縛れませんね」

「ふふっ、そう、弱い我々を横並びの平等にする為の為政者に都合が良いものが法と考えてもいいね
まぁ、結局は能力が無い為政者も法にとらわれる事になるんだけどね?」

『まぁ、そうだわな?人治じんちよりは法治ほうちが庶民には都合が良いしな?法にもよるがな』

「次は、モノの食べ方を知らなかったとは?
どう言う意味なのですか?龍王様方」

「うむ、我等は本来なら人の様に食物を必要とせぬでな」
「うむ、であるならば料理というモノを知らなかったのだ」

「あぁなるほど!ですから、ロウ君が作った料理を初めて食べたのですね?」

「叔父さん、僕が作ったのは肉を焼いただけなので、厳密には料理と言うには御粗末な物でしたけどね?
お恥ずかしい限りです」

「ははは…そりゃ仕方がないんじゃないか?
野外だったんだろう?
何でも、そつなくこなすロウ君でも充分な道具や食材が無ければ無理だろうね」

「まぁ、確かにそうなんですが…」

「ふむ、しかし、それじゃあ様々な料理を龍王様方に食べて頂き
下界には美味しいモノが沢山あるというのを知ってもらわなければならないね?」

「ほう?それは肉を焼くだけでは無いと言う意味か?」
「シチューやパンとやら以外にも料理があるのか?」

「もちろんで御座いますよ、アナヴァタプタ様、タクシャカ様
肉でも焼くだけでは無く、炒めたり、煮たり、揚げたり、蒸したりと調理方法がありますよ
それに合わせて、味付けも様々ありますね
それに、私どもの領地には他に無い米と言う食べ物もありますから楽しんで頂けると思います」

「ほう、ほう、それは美味そうであるな」
「うむうむ、なにやら楽しみが増えそうだ」

「ふふっ、辺境伯家料理人の腕の見せ所ですね?叔父さん」

「まったくだよ、気合いを入れて頑張ってもらおう」




“コンコン”扉がノックされスコットが入ってくる
「お話中に失礼いたしますロベルト様
龍王様方のお部屋を御用意出来ました」




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