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脇役剣聖、手紙が届く

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 サティとフルーレの修行から二十日ほど経過。
 二人とも、かなり動けるようになってきた。

「シャァァァァァ!!」
「───っ!!」

 潜在解放したサティの双剣乱舞。
 完全確実に殺す気の斬撃───だがフルーレは目を見開き、その全ての斬撃を紙一重で回避。
 サティの斬撃数は六十くらい。そして、最も力の入った最後の一撃に棒切れを合わせ───。

「『パリィ』」
「!!」

 受け流す。
 勢いがありすぎたサティはなんと空中で一回転。そのままフルーレの蹴りがサティの腹に突き刺さり、サティは吹っ飛んで近くの木に激突した。
 だが、サティはすぐに起き上がる。

「まだまだァァァァァ!!」
「上等」

 燃えるようなサティに対し、フルーレは冷静沈着……本当に、この二人は水と油だな。
 実力はフルーレが遥か上。だが、サティはこの十日でメキメキと力を付けている。
 最近では、サティだけじゃなくフルーレにも『潜在解放』のツボを押している……まぁ、最初は上半身裸で、俺に背中を見せるのを躊躇していたけどな。
 二人とも、スキルの使用は禁止。純粋な剣技だけで鍛えている。

「ふむ……」
「ラス」
「ん、ギルガか」

 二人を見ていると、俺の隣にギルガが来た。

「……なかなか仕上がっているな」
「ま、身体はな。サティも十日でここまで強くなった……ま、新兵から中隊長補佐くらいに上がった感じ」
「例えがわからん。スキルの使用は?」
「してない。ま、今はそっちのが都合いいしな……わかるだろ?」
「ああ。ふ……オレも、お前に鍛えられた時は、スキルの使用は禁止だったな」
「俺の教育方針、文句あるか?」
「あるわけがないだろう。それより……お前宛に手紙だ」

 ギルガがそう言い、屋敷へ戻った。
 あの表情……なんか、すごい嫌な予感するんだが。

「うっぁぁぁ!?」
「はい、おしまい」

 すると、剣を棒切れで叩き落とされたサティが地面に倒れ、フルーレが棒切れをサティに向けていた。
 いつものパターンで終わりか。そう思っていると───なんと、フルーレの棒切れが、ぽきんと折れてしまった。
 初めての光景……どうやらサティの攻撃が、フルーレの『パリィ』を僅かながらに上回ったようだ。

「……嘘」
「あ、あはは……フルーレさん、これ……あたしがやったんですよね?」
「……はぁ、そうよ。全く、ボロボロのくせに嬉しそうな顔しちゃって」

 フルーレは棒切れを捨て、サティに手を伸ばす。
 サティが立ち上がると、身体に付いた砂や泥をはたき、顔の汚れをハンカチで拭っていた。なんだか姉妹みたいだな。
 俺は手をパンパン叩き、二人に近づく。

「お疲れさん。サティにフルーレ、二人ともこの二十日でだいぶ成長したな」
「……あの、師匠」
「ん?」
「その……あたし、本当に強くなったんですか?」
「ああ。確実にな……というか、気づいてないのか?」
「え?」
 
 『潜在解放』のツボを刺激すると、普段の数倍以上、身体機能が強化される。だが、効果が切れると全身疲労で動くことすらできなくなるんだが……こうして効果が切れても、サティは普通に立ち上がり、歩き、俺の前に立っている。
 考えられるのは、『潜在解放』に身体が適応したんだ。
 サティを見ると……魔力の流れがスムーズだし、通り道も拡張している。頭のてっぺんから、つま先まで、綺麗に『気』が循環している。
 同じく、フルーレもだ。こっちはもともと綺麗な流れだったが、さらに洗練されている。

「……よし、サティ」
「は、はい」
「スキルの使用を許可する。そうだな……あそこの岩に、お前の『雷』をブチ当ててみろ」
「え……」

 俺が指差したのは、ここから十メートルほど離れた岩。
 大きさは直径五メートルくらい。なかなかの大きさだ。
 サティは、俺と岩とフルーレを交互に見る。

「サティ、自信を持ちなさい。それとも、スキルの使い方を忘れた?」
「い、いえ……」

 スキルは、直感で使う。
 指を動かしたり、眼球を動かしたり、口や瞼を開閉するのと同じだ。
 サティは右手を岩に向ける───すると。

「え……え、え? え、え……」

 バチバチと、紫電が立ち上る。
 右手に集まった紫電の塊。いや、右手だけじゃない、全身を包み込み、サティの銀髪が紫電色になりブワッと広がった……あ、もしかしてこれ。

「ちょ、サティ!! 魔力を込めすぎよ!! もう少し抑えなさい!!」
「えとえと、えっと……ど、どど、どうすれば!!」

 うわぁ……て、テンパってる。
 そっか。今までスキルを上手く放出できず、ひたすら魔力を多く練りこんで放出しようとしていたんだっけ……それが、『潜在解放』で拡張した『流れ』をスムーズに通って、右手のひらから一気に放出されようとしてるんだ。
 
「ラスティス・ギルハドレット、何とかしなさい!!」
「あー……無理に止めると、練りこんだ魔力が身体に留まって体調崩すかも。まぁ仕方ねぇな……おいサティ」
「は、は、はいぃぃぃ!!」
「そのまま、思いっきりブッ放せ」
「はいぃぃぃ!!」
「ちょ、ま……」

 そして、サティの右手のひらから『紫電の雷』が発射された。
 直径五メートルくらいある紫電の砲撃。速度も音速に近く、岩を一瞬で破壊し、そのまま真っすぐ地面を抉りながら数百メートルほど飛び……ようやく消えた。
 とんでもない威力の『雷』だった。

「おー……すごい威力だな。自然を司る『神スキル』は派手なのが多いなぁ」
「ふん!!」
「おっぶ!?」

 フルーレに殴られた!! い、いってぇ!?」

「な、なにすんだ!?」
「大馬鹿!! あんな魔力を込めた砲撃、どんな威力になるかわかるでしょうが!!」
「いや、大丈夫だって。あっちの方は森しかないし、ほら……被害もないだろ?」
「上空に放つとかあったでしょうが!!」
「……あ、そっか」
「……ったく、もう。ほらサティ、立ちなさい……サティ?」

 サティは、自分の手を見て、俺とフルーレを見た。

「し、師匠……あ、あたし、初めて、こんな『雷』を出せました」
「ああ。『潜在解放』で魔力の通り道を拡張させたのと、常に魔力を全身で循環させていたから、魔力の流れ方も直感で掴めると思ったが……ま、見ての通りだ。あとは、魔力の調節と、『神スキル』と剣技を融合させた技を作る。で、実戦で磨けばいい」
「…………うっ」

 すると、サティはぽろぽろと泣き出した……え、ええ? なになに、なんで?
 フルーレがサティを抱きしめ、頭を撫でる。

「うれしかったのね。本当の意味で、『神スキル』を使うことができたから」
「……はいっ」
「泣いていいわ。いっぱい泣いたら、また笑顔で頑張りましょう」
「はいっ!!」
「さ、泥だらけだし、お風呂に入りましょう。そのあとは、甘い果実水でも飲みましょうか」

 そう言い、サティとフルーレは屋敷に戻った。
 フルーレ……あいつ、マジで世話焼きだ。でも、サティもなついてるし……このままフルーレに預けるってのもアリかもしれない。
 なんとなくほほえましい気分になっていると。

「……おい、ラス」

 ギルガがいた。
 青筋を浮かべ、指をゴキゴキ鳴らしながら。

「ぎ、ギルガ? なんだ、どうした?」
「……手紙だと伝えたはずなのに来る気配はない。そして轟音。何があったのかと見に来たら、地面が抉れている……」
「あ、いや、これはその」
「…………」
「……す、すみませんでした」

 次の瞬間───ギルガの容赦ないゲンコツが、俺の頭に落ちるのだった。
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