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閑話①/サティ、再会

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「じゃ、俺らは王城行ってくる。いつ帰るかわからんから、自由にしていいぞ」
「はい!!」

 アルムート王国王都に到着し、ラストワンのおススメ宿を一部屋取り、サティは荷物を置く。
 到着するなり、ラスはめんどくさそうにため息を吐いた。どうやら、王城に行きたくないらしい。
 ラストワンは、サティに小さな包みを渡した。
 
「サティちゃん。お兄さんからお小遣いだ」
「えっ、そんな、お金持ってますし、大丈夫です!!」
「いいって。若いんだから、そういうの気にしないでもらってくれ。で、パーっと使っちゃいな。美味いスイーツ食べるのもいいし、可愛い服やアクセサリー買うのもいい。ずっと修行ばかりだったんだろ? 気晴らしも必要だ」
「ラストワン様……」
「む……じゃあ俺も。ほれ」

 ラスは、金貨を一枚サティへ渡す。

「あー……気付かなくて悪かったな。お前もその、女の子だしな……必要なモン、いろいろあるだろ。村じゃ揃わない物、あるもんな」
「師匠……」
「ほほー、オレに対抗か?」
「アホ。ほれ、さっさと行くぞ」

 ラスは部屋を出て、ラストワンも「じゃ、また」と出て行った。
 ラストワンの包みを開けると、金貨が三十枚ほど入っていた。これだけあれば欲しい物は何でも買えるし、遊べるだろう。

「……ありがとうございます」

 サティはもう一度、小さくお礼を言う。
 そして、普段着に着替え、腰に剣を二本差し……気付いた。

「……そういえば、ずっと使ってる剣、ボロボロかも」

 ラスから借りた鉄の剣は、ボロボロだった。
 雷の制御ができるようになってからは溶解させることもなくなったが、魔獣や盗賊との戦いでだいぶ傷んでいる。

「せっかくだし、武器屋を覗いてみよっかな」

 サティはそう決め、さっそく出かけるべく部屋を出た。

 ◇◇◇◇◇◇

 サティは、オシャレなどに特に興味はない。
 甘いものは好きだが、それだけのために店に入ることもない。
 アクセサリーは、「チャラチャラして邪魔」と身に着けない。例外は髪留めくらい。
 趣味は特になかったが、最近は『神スキル』を磨くことが何より楽しい。
 そして、もう一つ。

「剣。どんなのあるかなー」

 剣。
 サティは、剣が好きだった。
 剣術は得意でも苦手でもなかった。でも……剣の造形的な、形が好きだった。
 今は、ラスからもらった古い双剣を使っている。
 せっかく王都に来たのだし、自分だけの剣を買うのもいいかも……と、考えていた。
 
「えっと……武器屋、どこかな」

 アルムート王国、城下町。
 王都の名前もアルムート。建国何年とかは、サティにはわからない。
 好きなパン屋などはあった。でも、騎士団在籍時、休みの時もスキルを磨いていた。なので、王都にはあまり詳しくない。
 なので、詳しい人に頼ることに。

「えっと、この辺だったかな……あ、あった」

 サティが見つけたのは、小さなパン屋。
 常連、と呼んでもいいくらいは通ったことがあり、店に入ると。

「いらっしゃい……おやまあ、サティちゃん」
「おばさん、お久しぶりです」
「いや~、久しぶりだねぇ」

 パン屋のおばさんが、サティを見て顔をほころばせる。
 サティも嬉しくなり、さっそくトレイを手に店内を見回る。
 
「あ。これこれ、おばさん特製のクロワッサン」
「ふふ、当店自慢の一品だよ。自家製ジャムもあるからね」
「はい。じゃあ、これで」

 クロワッサンを買い、店内の隅にある小さなカフェスペースへ。
 そこで、買ったばかりのパンを食べていると、おばさんがお茶を淹れてくれた。

「サティちゃん。最近見なかったけど……騎士団、やめたのかい?」
「え、ええ……いろいろあって、今はギルハドレット領地にいます」
「ギルハドレット領地……遠いねえ」
「今日は、師匠のお供で来ました。えへへ……おばさんのパン、すごくおいしいです」
「そりゃうれしいねえ」

 おばさんと笑い合っていると、おばさんの顔が少し曇る。

「どうしたんですか?」
「……実は最近ね、アロンダイト騎士団がねえ」
「え?」
「七大剣聖のランスロット様のおかげで、上級魔族が倒されただろ? それで、アロンダイト騎士団も大活躍だったそうじゃないか」
「……ええ」

 違う、と叫びたかった。
 だが、今はそんなことを言っても意味がない。

「アロンダイト騎士団は全員女の子らしいんだけど……やっぱり、素行の悪い子がいるんだよ。その子たちが、無茶な値引きしたり、商品をタダ同然で持っていくことが増えているのさ」
「え……そんなこと、イフリータが許すわけないと思いますけど」
「ああ~……サティちゃん、知らないんだね。アロンダイト騎士団は今、入団者が増えて、新しく部隊編成されたのさ。えーと、『四聖天キャメロット』だったかな? 四人の隊長で回してた部隊を十三に分けて、『円卓十三騎士ナイツオブザラウンド』とかいう十三人で回してる。その中の何人かの隊長さんが、厄介でねぇ……」
「……そうなんですか」

 いつの間にか、そんな大所帯に……と、サティは思った。
 だが、もう自分には関係がない。

「あ、おばさん。この辺に、武器屋ってないですか?」
「武器屋? ああ、それなら───」

 サティは、武器屋の場所を聞いた。
 お土産に、焼きたてのパンを大量にもらい、おばさんと抱擁して店を出た。

「おばさん、変わってなかったな……ふふ」

 それがうれしく、サティは微笑む。
 焼きたてのクロワッサンを袋から出し、食べながら歩き出した。
 そのまま、しばらく歩き慣れた城下町の裏通りを散策している時だった。

「……あ」

 見慣れた女性用騎士服を着た数人の女性騎士が、こちらに向かってきた。
 しかも───……そのうちの一人は、見覚えがあった。
 サティは咄嗟に目を逸らしてしまうが、向こうは逸らさない。サティの元へズンズンと来て立ち止まる。

「よォ、サティ。ハハッ、騎士団とヴァルファーレ公爵家から追放された出来損ないじゃねぇか」
「……エニード」

 エニード。
 クセの付いた群青色のロングヘア。着崩した騎士服。腰に下げた剣。そして、サティを嘲笑うようなニヤけ顔をした少女だった。
 エニードはニヤニヤしながら、後ろにいる少女たちに言う。

「おお、紹介するぜ。コイツらはアタシの部下。ククッ、知ってるか? アロンダイト騎士団が再編成されてな。お前がいたころの数倍以上の人数になってる。数が増えたから、部隊を十三に分けてそれぞれ隊長を任命した。そのうちの一人がアタシってわけだ」
「…………ふぅん」

 エニードは、昔からサティを馬鹿にしていた。
 それは、今も変わらないらしい。

「気分がいいぜぇ? 今や、アロンダイト騎士団はアルムート王国騎士団より立場が上だ。それも全部、親父のおかげよ。くくっ、上級魔族さまさまだぜ」
「……嬉しそうだね」
「そりゃそうだ。上級魔族が来たから、親父が活躍できた。おかげで、今はこんな羽振りもいい」
「エニード。あなた、ヴァルファーレ公爵様が直接上級魔族と戦ったわけじゃないって知ってるでしょ。なんでそんなにうれしそうなの?」
「ハッ、上級魔族を倒したのは、七大剣聖の脇役だろ? ンなこと、どうでもいいんだよ。それに、脇役でも倒せたんだ。上級魔族ってのも、大したことネェんだな」
「……脇役」
「脇役剣聖、ギルハドレットだったか? まぁ、そいつが頑張ったおかげで、親父の地位も向上したってわけだ。ハハッ、そいつも喜んでるだろうよ」
「…………」

 パチッ、と……サティの髪が紫電で爆ぜた。
 そのことに、エニードは当然気付く。

「んだよ、面白くなさそうだなぁ? ああ~……お前、脇役剣聖の世話になってるんだっけ? くははっ、お似合いじゃねぇか? お前、アイツの奴隷としてご奉仕でもしてんのか?」

 エニードは、親指をしゃぶりながらゲラゲラ笑う。
 エニードの部下たちはサティを知らないが、『そういう立場の人間』だと気付くなり馬鹿にしたように笑った。
 そして───サティの髪が紫電で爆ぜる。

「は、なんだ、ヤんのか?」
「師匠を馬鹿にしないで」
「フン、剣聖に言いつけるか? いいぜぇ? どうせ脇役剣聖だ。アタシらでも相手できるに決まってらぁ。ああその前に、生意気なお前をシメてやろうか」

 エニードが剣を抜こうと柄に触れた……が。

「……あ? ンだ、ああ?」

 剣が抜けない。
 部下たちも剣を抜こうとしたが、抜けない。
 サティが磁力を操作し、剣と鞘がぴったりくっついていることに気づいていない。
 サティは、右手をエニードたちに向けた。

「『雷磁界マグネガ』」
「「「「「「ッッッ!!」」」」」」

 エニードたちの身体が何かに引っ張られ、ビタッとくっついた。

「なっ!? てめ、何を、おま、離れっ」
「剣、鞘、ベルト、ボタン、髪留め……ああ、ネックレスに指輪、ピアスなんかもしてるんだ。全員、金属まみれだね。おかげで、簡単にくっつくよ」

 ギチギチと、圧迫される。
 呼吸が困難になり始めるが、磁力が止まらない。

「エニード。確かに、あたしは無能だったけど……今は、追放されてよかったと思ってる。だって、師匠に会えたし、素敵な友人や同士もできた」
「が、ッカ……」
「師匠を馬鹿にしないで。上級魔族が大したことない? あたしは、上級魔族がどれだけ強くて恐ろしいかをこの身で体験した。この程度の磁力を振りきれないあなたたちじゃ、出会った瞬間に殺されるよ」

 ギロッとエニードを睨み、ようやく磁力を解除する。

「ッガハ!! げひっ、げふっ……って、テメぇ!!」
「エニード。不思議なの……以前はさ、あなたも、他の子たちも怖かったし、かなわないと思った。でも……今は、全然怖くない」
「っ!!」

 エニードは、サティの目が冷たく、どこまでもエニードに無関心だと気付いた。
 
「じゃ、もう行くね」

 サティは、エニードを素通りして、町の大通りに戻る。
 エニードは、サティの目を見て悟ってしまった。

「…………っ」

 一皮剝けた。
 何があったのかは知らない。だが……サティはもう、エニードの知る『弱虫』ではなくなっていた。
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