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脇役剣聖、ようやく領主邸に

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 さて、ようやくギルハドレットの街に到着した。
 ちなみに、俺は領主だが来るのは久しぶりである。
 正門の前に立ち気付く。

「あれ、正門……なんかデカくなってるな」
「師匠、知らなかったんですか?」
「ああ。来るの久しぶりだし……わかってたけど、人の往来すげぇな」

 祭りが開催されているせいか、人がかなり多い。
 正門前なのに、すでに音楽隊が奏でるメロディーや、出し物に興奮する人たちの笑い声が聞こえる。それに、いい香りもする。
 正門を守る守衛も増えている。新しく雇ったのかな?
 そこには、見知った顔があった。

「おーい、クロヴィス」
「ん? おお、ラスじゃねぇか」

 守衛のクロヴィス。こいつも俺の元部下。
 ギルガの部隊の副隊長で、よく一緒に酒を飲んでいた。
 今は、ギルハドレットの警備部隊総隊長である。
 近づき、拳を突き合わせる。

「忙しそうだな」
「そりゃな。おいおい、子連れか?」

 子連れに、フルーレの眉がぴくっと反応した。

「違う違う。俺の弟子たちだ。修行終えて、しばらく町でのんびりするんだよ」
「そうか。見ての通り……大盛況だぜ」

 ぞろぞろと、観光人たちが街に入っていく。大きな馬車も普通に入っていくのがすごい。

「おいおい、宿屋は足りんのか?」
「ああ。フローネのヤツ、祭りを開催するって決まった時から、新しい宿屋をいくつも建てるよう指示出した。前は二軒しかなかったが、今じゃ二十軒以上の宿があるぜ。同時に、いろんな商店も建てたし……オレはよく知らんが、商人や商会たちを大勢呼んで交渉したそうだ」
「あいつ、金儲けの嗅覚は鋭いからな……」
「今、町に入ってくるのは商人の家族や、商人がここに来るまでに寄った町や村で声掛けした連中らしいぜ。新規でダンジョンが出たって話もあるだろ? 他領地から来る冒険者や、移住希望も殺到してるって話だ」
「ギルハドレットも賑やかになるぜ……」
「ははは。まあ、オレとしてはデカい酒場がいくつもオープンして、楽しみが増えたがな」

 まあ、そういう領地運営関係はフローネ、ホッジに任せるか。

「ってか、フローネ……あいつ、妊娠してるんだろ? 仕事して平気なのか?」
「ホッジがいるし大丈夫だろ」
「まあ、これから顔出すから様子見るか」
「おう。っと……そろそろ待ちくたびれちまうな」

 と、サティが俺のマントをぐいぐい引っ張る。
 その目は「師匠、長い」と言っているようだ。

「悪い悪い。じゃあクロヴィス、今夜一杯付き合えよ」
「おう。では、祭りを楽しんでくれよ……ってか」

 もう一度拳を合わせ、俺たちはようやく街に入った。

「もう、師匠長いですー」
「悪い悪い。さ、領主邸に行くぞ」
「……さっきの『子連れ』って言葉、忘れないからね」

 おおう、フルーレがちょっと怒っていた……あとでフォローするか。
 エミネム、ヴォーズくんは周囲をキョロキョロしている。

「部隊長、すごい喧噪ですね」
「そうですね……お祭りなんて初めてです。というか、もう部隊長じゃありませんよ」
「あ、そ、そうですけど……すみません、つい」
「ふふ。まあいいですけどね」

 確かに、すごい喧噪だ。
 人だかりのある場所では大道芸をしていたり、おじさんが露店を開いている。
 領主邸は街の奥にある一番大きな建物だ。改築したって話は聞いたけど……お、見えてきた。

「あれが領主邸だ……って、デカいな」
「なんで案内するあなたが驚いているのよ」
「いや、初めて見たからな。改築したって聞いたけど……でっかいな」
「四階建てですね。でも、領主邸はこういうものでは? グレムギルツ領地にある領主邸は、もっと大きいですけど……」
「いや、公爵家と比べられても……とりあえず行くか」

 門の前にいる守衛は若い。俺をジロジロ見て言う。

「何者だ」
「あー……ホッジいるか? ラスが来たって伝えてくれ」
「ラス? まさか……ラスティス様ですか?」
「ああ。いちおう、七大剣聖な。ほれ」

 俺は七大剣聖の証であるマントを見せると、びしっと敬礼した。

「少々お待ちください!!」

 守衛くんは屋敷へダッシュ、それから一分ほどで戻ってきた。
 門が開き、中に案内される……なんか、知らない家に来たみたいだ。
 玄関が開くと、ホッジが出迎えた。

「やあラス。修行は終わりかい?」
「ああ。見て分かるだろ?」
「……うん。みんな、かなり強くなっているね。もうボクじゃ相手できないかな?」
「まだお前のが上だ。少なくとも、剣技だけならな」

 ホッジと拳を合わせ、俺はサティたちに向き直る。

「さて。荷物置いたら自由時間だ。しばらくは修行のことを忘れて、祭りを満喫するといい」
「やったあ!! えへへ、フルーレさん、エミネムさん、一緒に遊んだり、おいしいものいっぱい食べましょうねっ!!」

 サティは大喜び。フルーレとエミネムも苦笑した。

「ホッジ、祭りは十日続くんだっけか?」
「ああ。今日は四日目だから、あと六日残ってるよ」
「じゃあ、六日は休暇としようか。ここ領主邸は自由に使っていい。客間は空いてるよな?」
「もちろん。ああ……でも、二階は使えないんだ。使うなら四階の客間にしてくれ」
「なんだ、改築終わってないのか?」
「ううん。『フィルハモニカ楽団』って知ってるかい? 実は、ケイン君が王都から呼び寄せた有名な楽団でね……祭りの最終日に、ステージで歌ってもらうんだ。いちおう安全のために、町の宿屋じゃなくて、領主邸の二階を貸し切ってる」
「へ~、そうなのか」

 フィルハモニカ楽団……なんか聞いたことあるような。

「師匠!! 四階ですね? よーし、荷物置いて遊びに行きましょうっ!!」
「きゃっ!? さ、サティ!?」
「わわっ!?」

 話に飽きたのか、サティはエミネム、フルーレの手を掴んで階段を駆け上がった。
 ホッジは、ポケットから大きな袋を出す。

「ヴォーズ君だったね。これは仕事の給金だよ。荷物運び、ご苦労様」
「こ、こんなに!?」
「危険手当も含めている。それと、キミの奥さんは街の『ヴォルフィード亭』って宿に泊まっているから、顔を出すといい。もちろん、宿泊費はいらないよ」
「あ、ありがとうございますー!! あの、ラスティス様」
「ああ。じゃあ六日後に。ささ、行った行った」
「はい!! では!!」

 ヴォーズくんはダッシュで領主邸を出た。

「ヴォルフィード亭って、ギルハドレットで一番の高級宿じゃなかったか?」
「まあね。最近改築して、王都の一等地に構えても恥ずかしくない宿になったよ。ちなみに、ヴォーズくんの奥さんは最高級スイートルームに泊まってる」
「お前、ほんといい奴だな……さて、フローネに挨拶したら、俺も休むか」
「フローネなら執務室だよ……」
「やっぱ仕事してんのか……ん?」

 ふと、視線を感じたような気がした。

「どうしたんだい?」
「……いや、気のせいか。で、フローネは元気か?」
「……稼ぎ時だって興奮してるよ。あまり無理して欲しくないんだけど、ボクの言うことあまり聞いてくれなくてね……ラス、何とか言ってくれないか?」
「あいつが俺の言葉聞くと思うか? ったく」

 とりあえず、フローネに挨拶して、ひとっ風呂浴びに行きますかね。

 ◇◇◇◇◇◇

 ◇◇◇◇◇◇

 一階へ降りる階段の陰に、一人の少女がいた。
 口を押さえ、やや顔色を悪くし……もう一度、気配を消して階段下を見る。
 すでに、そこには誰もいない。

(な、なんで……!?)

 綺麗な淡水色の髪を揺らし、同じ色の瞳を見開いている。
 服装はラフなシャツ、そしてパンツにサンダル。
 部屋着。誰もいないから、少しだけ廊下に出た。そして、声が聞こえたので様子をチラッと見に来たのだが……そこにはいた。

(ら、ラスティス・ギルハドレットに……フルーレ・リュングベル。七大剣聖が二人……って、待って。ここ、ギルハドレット……うそ、あの影の薄い脇役剣聖の領地!?)

 水色の髪の少女───……フィルハモニカ楽団の歌姫ミルキィは、青くなった。
 たった今、ここが七大剣聖ラスティスが治める領地と気付いたのだ。

(ま、まずい……ば、バレちゃう)

 フィルハモニカ楽団の歌姫ミルキィ、それは真の名前ではない。
 七大剣聖序列三位、ロシエル・ヴァレンシーネンは、慌てて部屋に戻り鍵をかけるのだった。
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