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フィルハモニカ・ステージ③/共闘

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 サティは双剣を構え、俺に言う。

「師匠、修行の成果、見てください!!」
「お、おい!?」

 俺と並ぶな否や、サティはウェルシュに突っ込んだ。

「アハッ!! バカの特攻、嫌いじゃないよ!!」
「バカじゃないです!! 『雷磁集鉄バンキング』!!」

 ウェルシュも特攻してくる。そして、サティは周囲にの磁力の結界を広げ、周りにある鉄製品を一気に集約……すげえ、磁力が格段に向上してやがる。
 鍋、包丁、金属食器が一気に集まり、巨大な『塊』となって突っ込んで来るウェルシュの正面へ。

「うっざあ!!」

 だが、ウェルシュは腕を薙ぎ払うだけで鉄の塊を弾く……が、サティはすでに側転し、ウェルシュの真横に位置していた。

「『磁付加アサイン』!!」
「っ!?」

 ウェルシュの身体が薄く輝き、磁力を帯びる。
 すると、弾き飛ばした金属の塊が戻ってきた。

「何度来ようがッ!! って、何コレ!?」

 再び弾き飛ばした瞬間、塊が腕にくっついた。けっこうな重量で、ウェルシュはバランスを崩す。
 するとサティは全身に雷を纏わせ、紫電に輝く。

「『雷人形態トール・モード』!! おりゃぁぁぁぁ!!」
「早っ、こいつ……!?」

 なるほど、身体能力を向上させる技……しかも、練度が高い。
 ダンジョンで戦い続けることで、雷や磁力だけじゃなく、純粋な剣技も練られ、磨かれている。
 圧倒的な速度での連撃に、腕に鉄塊をくっつけたままのウェルシュは捌ききれない。そしてついに、サティの斬撃がウェルシュの胸を軽く裂く。

「この、ガキ……」
「まだまだ止まりません!! はぁぁぁぁぁぁ!!」
「───あっそ」
「───サティ!!」
「ぐぇっ!?」

 一瞬、俺はゾッとした。
 そして飛び出し、サティの首根っこ掴んでバックステップ。ウェルシュと距離を取る。
 サティはむせて、恨みがましい眼で俺を見る。

「し、師匠ぉぉ……なにすんですか」
「バカ。調子乗りすぎだ……見ろ」

 ウェルシュを見ると、腕が真っ赤に染まっていた。そして、くっついていた鉄塊がドロドロに溶け、ステージの床を容易く溶かす。
 ウェルシュの頭にツノが生え、両腕がドラゴン化し、背中には翼、尻尾も生える。

「アタシは『赤竜』……熱を自在に操る力を持つ。こんな鉄を溶かすの、朝飯前だね」

 胸の傷も治ってしまう。
 こりゃけっこうヤバイな。街中じゃ思い切り戦えない。

「ハーフの竜人、厄介だな」
「それ、さっきも聞きましたけど……ハーフって何ですか?」
「……あいつらは、魔界最強の『竜人族』だ。見ての通り、ドラゴンの力を宿す魔族だよ」
「ドラゴン……」
「で、ハーフってのは、竜人の中に眠るドラゴンの力を半分だけ解放することができるって意味だ。クォーターだったら四分の一、ハーフは半分、スリークォーターが四分の三、でフル解放が完全にドラゴン化できるって意味だ」
「それって、えっと……『完全獣化オーバービースト』ですか?」
「似て非なるモンだ。ドバトは鳥系の魔族だが、空を飛ぶくらいと見た目くらいしか鳥の特徴ないだろ? だいたいの魔族が、見た目くらいしか元となる魔獣の力を行使することはできない。でも……『竜人』は別だ。さらに、『滅龍』カジャクトは自分の『竜人』としての力と、七大魔将としての力を行使できる。だから『滅龍』カジャクトは七大魔将で最強なんだ」
「ま、まじですか」
「マジだ。ちなみに、竜人は『理想領域ユートピア』を一切使わない。魔力を全て身体強化に当ててる」
『……カジャクトを持ち上げるけど、ボクの方が強かったよ』

 ルプスレクスの声が聞こえてきた……なんだこいつ、拗ねてんのか。
 とりあえず説明終わり。
 サティを放し、俺は言う。

「いいか、竜人と戦う時は、攻撃を喰らうな。パンチ一撃で死ぬぞ」
「は、はい」
「ってわけで……次は俺の番だ」
「ふーん。おっさんが相手ね。楽しませてくれるといいけど」
「楽しませるさ。それにしてもお前、竜人ってことは『滅龍』カジャクトの部下か? まさかもう入り込んでいるとはな」
「は? なにあんた、姐さんのこと知ってんの?」
「当たり前だろ」
「……ちょい待った」

 と、ウェルシュが俺に手を向けてきた。
 何か放つとかじゃない。『ストップ』という意味で手を向けてきた……なんだ、ウェルシュの顔色が急に悪くなった。

「そういや、ギルハドレットだっけ……お、おっさん、名前は?」
「ラスティス・ギルハドレットだけど……」
「…………マジ?」
「マジだ。なんだよ、それがどうかしたか?」
「…………」

 ウェルシュは真っ青になり、「やっちまった」と言わんばかりに頭を抱えていた……何なんだ?。

 ◇◇◇◇◇◇

 ◇◇◇◇◇◇
 
「この、ヌメヌメ野郎め……!!」

 スレッドは、グイバーを拘束しようと『糸』を出し続けていたが、グイバーの身体に触れたとたんに『糸』が溶けた。
 理由は、グイバーの全身。
 体中から『毒液』が流れ出し、触れた瞬間に糸が溶けてしまうのだ。

「ククク……ボク、『毒竜』だからさ……触れたら死ぬよ?」

 ギザギザの歯を見せつけるように笑うグイバー。
 そんな時だった。

『ボス、ターゲット確保しました。ミルキィちゃんはどうっすか?』
「今忙しい!! それどころじゃねぇ!! っとぉ!?」

 グイバーが接近、毒を纏った手でスレッドに触れようとした。
 仮面に触れ、スレッドは慌てて仮面を投げ捨てる。
 素顔が露わになるが、それどころじゃない。
 糸を槍のようにしてぶつけるが、何をしても溶けてしまう。

「無駄、無駄。効かないよ」
「めんどくっせぇ……!!」
「結構楽しめそうだと思ったけど、期待外れだな……残念?」
「あぁ? テメェ……オレをなめんなよ?」

 スレッドの雰囲気が変わる……全力を出そうとした時だった。

「グイバー!! ストォォォォップ!! ヤバイ、こいつらラスティス・ギルハドレットよ!!」
「へ?」
「姐さんの標的!! ヤバイ、アタシら手ぇ出したのバレたら殺されるっ!!」
「……マジで」
「マジ!!」

 グイバーの顔色が急激に変わる。
 ウェルシュとグイバーが顔を見合わせて頷き合うと、背中から翼を出し上空へ。

「ま、また来るわ!! その時は本気だから!! それと、姐さんには今日のこと内緒で!!」
「マジでお願い……言わんでおいて」
「はぁ!? おいマテ、オレの本気はここから……」

 グイバー、ウェルシュの二人はあっという間に消え去った。
 ラスティス、サティ、スレッドはポカンとする。

「……とりあえず、終わったのか」
「みたいですね。あ!! お兄さん!! お兄さんが怪盗カルマだったんですね!?」
「やべっ、顔バレしちまった!! とりあえずさらばっ!!」

 スレッドは逃げ出した。
 
「ラスティス・ギルハドレット!! 避難誘導が終わったわ……って」
「あ、あれ? ラスティス様……敵は?」
「逃げた……よくわからん」

 フルーレ、エミネムが来たが、すでに広場は誰もいない。
 こうして、魔族の襲撃及び、仮面怪盗カルマの誘拐は未遂で終わった。

 ◇◇◇◇◇◇

 ◇◇◇◇◇◇

「……逃げられた」

 ロシエルは、剣聖の服を着て広場に戻ってきたが、すでに終わっていた。
 舌打ちし、ラスティスにバレないようその場を後にする。
 屋敷に戻り、部屋に戻り……服を脱ぎ下着姿でベッドへダイブ。

「ステージ、邪魔された……」

 せっかくのステージを、台無しにされた。
 やはり、それは許せない。
 ロシエルは起き上がり、ミルキィの服に着替え、手紙を書く。
 それを持ち、屋敷の地下へ。

「おおミルキィ!! 大丈夫だったか!?」
「はい。オジサマが守ってくれたので……あの、楽長。これ……さっき届きました」
「む? おお、これは……七大剣聖ロシエルからの依頼か。ふむ、彼もミルキィのファンだとは知っていたが……よく依頼が来るな」
「ええ。あの方、私の歌が好きで……王都まで戻らなきゃ」
「うむ。領主には私から話しておく」
「お迎え来るみたいなので、準備して行きますねっ」
「ああ、気を付けてな」

 楽長、そして団員たちに挨拶し、ミルキィは部屋へ。
 荷物を全て片付け、必要最低限の物だけ持ち、屋敷を後にした。
 そして、ギルハドレットの街の安宿に移動……剣聖の服に着替え、剣を腰に差す。
 マフラーで顔を隠し、帽子を深くかぶる。

「……まずは、ラスティス・ギルハドレットに接触。魔族は間違いなくまた来る……今度はボクが斬ってやる」

 ミルキィは王都へ……そして、七大剣聖序列三位ロシエルが、ギルハドレットにやってきた。
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