【R18】変態に好かれました

Nuit Blanche

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変態の家族も変態でした

恐怖の○ドンされました

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「凛鈴」

 体がビクってなった。
 頭の中でけたたましくサイレンが鳴り響く。警戒レベルマックス。
 低い声でちゃんと名前を呼ばれたらやばいのは昨日思い知らされた。
 明確な理由はわからないけど、怒ってるよね……?
 昨日の恐怖はまだ忘れてない。一気に蘇ってきた。
 どうしたら、回避できる?
 考えろ、考えるんだ、凛鈴。

「あっ、あのね、た……っ!」

 たっちゃん、って呼んでみたら正気に戻るんじゃないかって浅はかな考えは実行できなかった。
 ぐるんと世界が動いて、背中に衝撃が走る。
 目の前には竜也君、その向こうに天井が遠い。

 本当に床ドンされた……?
 胸キュンよりも恐怖で心臓が縮こまるような感覚。
 感じるのはときめきじゃなくて、恐怖だけ。
 見上げた竜也君は全然笑ってない。今まで散々安売りしてきたスマイルを今はくれない。
 猛獣の捕食、それがしっくり来る気がした。食われる……!
 話せばわかる! って言いたいけど、わからないのは薄々わかってる。
 話してわかるなら私はこんなに苦労させられてない。
 でも、抵抗しないわけにはいかない。

「ねぇ、んっ!」

 竜也君の唇が落ちてきた。
 悪足掻きさせてもらえなかった。
 唇には柔らかく濡れた感触、影本君の顔が近すぎてわからない。どんどんぼやけていく。
 時間が止まったような気がする。呼吸することを忘れてたくらい。
 息苦しくなって、弱々しく竜也君の胸を押して、どうにか解放してもらえた。

「は、ぁっ……」

 凄く頭がぼーっとする。まだ唇に感触が残ってる気がする。
 今のがまさかファーストキス……?
 ほんとに奪われちゃったの……?

 見上げた竜也君は相変わらず怖い顔をしてる。
 なんで、って聞きたいのに、声が出ない。
 完全に蛇に睨まれてる。今日こそ私の命日になっちゃうのかもしれない。

「天馬にキスされそうになってたでしょ? 俺が間に合ったから良かったものの」

 竜也君は答えをくれた。
 あれは竜也君の位置からはそう見えたのかもしれない。
 だから、引き剥がして未然に防いだと思ってるのかもしれない。
 でも、天馬君だって本気でしようとしたわけじゃないと思う。
 多分、私からかわれた。
 年下にからかわれるってどうなんだろうって思うけど、チビなせいで年下にいじられるとかしょっちゅう……地味に辛い。

「だから、その唇が誰のものかわからせないと」
「やっ……」

 そもそも、私の唇は私の物なのに。竜也君に所有権を譲渡したつもりもないのに。
 また顔が近付いてきて、慌てて竜也君の胸を押すけど、びくともしなかった。男の子の体って凄く硬い。

「嫌じゃないでしょ? 俺以外の唇を知る必要なんてないんだから」

 あまりに自分勝手なのに、何も言わせてもらえないまままた唇が触れた。

「んっ! ……ぅん……ふ、ぁ……んぅっ!」

 竜也君の舌が、閉じた唇をこじ開けようとしてるのがわかった。
 だから、拒むように唇を閉じたかったのに、呼吸が続かなかった。
 息継ぎをしたくて口を開いたのに、させてもらえない。

「ん、ぁっ……ゃ、ぁ……んんっ」

 迎え入れたつもりはなかったのに、にゅるっと入ってきた舌は生き物みたいに私の口の中で好き勝手に動く。
 気持ち悪いはずなのに、ゾワゾワしてわけがわからなくなっていくのは酸欠だから?
 苦しくて、タップするのに竜也君は全然やめてくれない。
 クラクラして、縋るようにギュッと竜也君の服を掴む。
 溺れそうになってるみたいで、藁を掴む的な意味であって、離れたくないわけじゃなかった。

「っ、は、ぁ……」

 ようやく竜也君の唇が離れて、どっちの物ともわからない唾液が繋がってて、ぷつって切れたのが凄く卑猥だった。
 竜也君の唇が濡れてるのが何だか凄くエッチで見たくないのに、目が離せない。
 でも、怖い。
 まだ竜也君の怒りは収まってないんだと思う。
 窒息させられるんじゃないかと思うのに、今だって息が詰まりそうなほど怖い。

「なんで、あいつに媚売るの? そんなにあいつがいいの?」

 まるで尋問されてるみたい。
 さっきまで楽しかったのに、本当に夢だったみたいに急に怖くなった。
 天馬君の嘘吐き……全然、大丈夫じゃない。
 エッチなことされてもキスはまだだったのに強引に奪われた。ディープなのまでされちゃった。
 もうお嫁に行けないなんて言っても竜也君の中では自分の嫁に確定しちゃってるみたいだし……
 大事にしたいみたいなことを言っても、結局私の気持ちは全然大事にしてくれない。
 まるで体だけが目当てみたい。
 セフレでもいいから竜也君と付き合いたいっていう女の子はいっぱいいるのに。
 入れ食いで食べ放題、選り好みもし放題のくせに、どうして私にこだわるの?
 きっと、このまま無理矢理されちゃうんだ……そう思うと涙が溢れた。

「ひっく……」

 竜也君は怖い人だ。
 ヤリチンのチャラ男にだって、乙女ゲー好きの腐男子にだって化けられる。
 もう何が竜也君の本当かわからない。

「りりちゃん……」
「やっ!」

 頬に触れた手を思わず振り払って、視界に入ったのは傷付いたような顔をする竜也君だった。
 もう怒ってない?
 でも、なんで、そんな顔をするの?
 泣いてるのは私なのに、なんで、竜也君まで泣きそうなの?

「ごめんね、ビックリしたね。痛かったよね。ムードがなかったよね」

 指で涙を拭われて、急に竜也君の声が優しくなって、うんうんと頷く。
 いきなり床ドンされて怖かった。
 あんな貪るみたいに激しいディープキスをされるとは思わなかった。
 ムード以前に竜也君とキスするのはまだ早いと思ってたけど、言うとまた面倒臭くなるから黙っておく。
 多重人格者を相手にしてるような怖さがあるし、どこでスイッチが切り替わるかわからない。

「お詫びさせて」

 お詫びって何だろう? またご飯? 餌付け?
 できれば帰りたいと思う間に体が起こされて、竜也君の腿の上に乗せられた。
 キスのせいでぐったりして抵抗もできなくて、体を預ける形になる。
 まるで自分が迫ってるみたいで嫌なのに、しっかり抱き締められてる。
 頭に回された手にポンポンされて、自分が落ち着いていくのがわかる。
 私を怖がらせるのも落ち着かせるのも竜也君なんて皮肉だと思う。
 でも、怖い竜也君と優しい竜也君がいるから仕方ないのかもしれない。飴と鞭?

「嫌な思い出にしてほしくないから」

 私のトラウマ製造機と化してるくせに、竜也君は変なところで気を使うのかもしれない。
 でも、髪に、耳に、額に、頬に口づけられるのは嫌じゃなかった。
 チュッと音がするのも絶対わざとなのに、竜也君の思惑通りキュンとしてるのかもしれない。
 くすぐったくて、でも、愛されてるって思っちゃう。それは押しつけでしかないのに。

「りりちゃん」

 甘い声で呼ばれて、目が合って、竜也君の唇が次にどこを狙ってるのかわかった気がして、腰が引けた。
 だけど、腰に回された手が許してくれなかったし、より密着させられる。
 凄くドキドキして恐怖を上回ってきた。こんなの絶対に竜也君の思うつぼなのに。
 既に絆されてるのかもしれない。

「大丈夫、今度は優しくするから」

 信じるわけでもないのに、そうされたいわけでもないのに、唇を撫でられて目を閉じていた。

「ん……ふっ、あ……はぁっ……」

 さっきのキスと全然違う。
 ついばむようなキスは嫌だと思わなかった。苦しくない。
 キスしながら髪を撫でられて愛されてる気になって身を委ねちゃう私は単純なのかもしれない。
 軽い女じゃないって思うのに、竜也君の優しい面には弱い。

「とろけた顔しちゃって……凄い美味しそうだけど、今日はもう我慢しないとね」

 唇が離れて、もう終わりなのが名残惜しくなって、その気持ちを慌てて振り払う。
 我慢しなくていいなんて言ってあげられない。そのツケは全部私に降りかかってくるんだから。
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