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私の問いかけにしんと一瞬静まり返ったが、すぐ聖王がにっこりと笑って答えた。
 
「私がアラビアン嬢をお慕いしているからです」

「………え?」

思わぬ答えに固まる私。お慕い………聖王が私を?アラビアンとして聖王に出会った記憶はない。なんて混乱したけど、ふと聖王を見ていると笑顔があまりにも……張り付けたような笑顔であるような、そんな気がした。

何かを隠すように。そもそも慕っているからと聖女の魂を持つユリアを、私につけるような贔屓許されるのだろうか?

「嘘が下手ですね。その理由じゃ私も納得できそうにないですよ?」

そんな私が感じた聖王の違和感にメラニー様も感じたのか、私の代わりに問い詰めてくれた。すると聖王は困ったような笑みに変わる。

「……慕っているのは本当ですよ。貴女は覚えてないでしょうが私たちは結婚の約束をした仲ですから」

「け、結婚!?」

私をからかってる?と思ったが、聖王の先程とは違い、こちらを見つめる優しい笑みに嘘が感じられない。だけど、聖王と出会った記憶もだが、結婚を約束した男性など、王太子殿下以外には思い出せなかった。

王太子殿下の場合は親同士の取り決めなところもあるけど………。

「今は白紙となりましたけど、王太子殿下との婚約は幼い頃になされています。まさか婚約中にそんな出来事があったとでも?」

オネエ様の言葉にはっとする。婚約自体小さい頃だから、その前に結婚の約束をしたとなるともはや2、3歳……さすがに真に受けるはずもない年齢だ。

「はい。王太子殿下とアラビアン嬢は元々殿結ばれた契約のようなものでしたから。来るべき日が来た時にはアラビアン嬢の意思次第では白紙に戻せたものです」

「そんなの親から聞いてすら……いや、その前にアラビアンとの婚約が何故王太子殿下を守ることになる?」

婚約中に約束された結婚話という不貞にもなりかねない驚きよりも、王太子殿下を守るためにされた婚約契約という言葉に、頭がズキリと痛む。何か、大事なことを忘れているような………そんな頭の痛み。オネエ様の質問の答えにわかる何かがあるだろうか?

「ああ、知ってるのは限られた人だけで、最低条件として闇の存在を知る人たちのみです。アラビアン嬢とクララ嬢のご両親も知らないことですよ。まあ、王太子殿下がバカなせいで守るも何もなくなりましたが。全てが片付けば廃嫡でしょうね。見ていた限り操られたわけでもなく、自分の意思で王族が闇の存在に加担したようなものですから」

「それはいい気味………こほん、それはそれとして質問に答えてくださいませ」

オネエ様本音が……。しかし、聖王はわざとはぐらかしたように見える。言いたくないのか、言えないのか。私に何かあるのだろうか?王太子殿下を守るような何かが。

この世界の物語とは別の何か大事なことを忘れている気がする。その忘れた何かが答えに繋がっているのではないだろうか?

今日だけで何度か痛む頭はその何かを思い出そうとしている自分がいる。

思い出さなくては取り返しのつかない何かがあるような………何を、私は何を忘れている?
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