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6、国立魔界学校
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「魔王様。私事ではありますが、第四子が生まれました」
サミュエルはアルノルトを抱いて、ニコニコ報告してきた。
「良かったな」
デイノルトは書類に判を押しながら言った。
印鑑を持つ手が疲れでガクガク震える。
震えを片方の手で抑えこんだ。
「初めての女の子だったんですよ」
「そうか」
正直、疲れ過ぎて部下のおめでたい話を喜んであげられる余裕がない。
寝不足で頭も割れるように痛いし……
何より仕事がもう一週間分もたまっている。
「サミュエル。悪いが、早めに復帰してもらえないか? 無理なら宰相代理を立てて欲しいのだ」
デイノルトはこんなことは本当は言いたくない。
しかし、仕事が進まないのは事実だ。
躊躇いながら、サミュエルの反応を待った。
「そうですか……宰相代理を探しましょう」
サミュエルはちょっと寂しそうに言った。
諦めたような顔をしているサミュエルを見て、胸が痛んだ。
本当はそんなことしたくないのだが仕方ない。
「もしかしたら、貴様は宰相に戻れないかもしれん。宰相代理にかなりの負担を強いるからな。大変な時に助けてもらうのだから、恩に報いなければならぬ」
デイノルトはサミュエルの顔が見られなかった。
誇り高く、仕事をこよなく愛するサミュエルだ。
きっとデイノルトの言葉に傷ついているだろう。
「承知いたしました。魔王様」
サミュエルは丁寧に頭を下げた。
こんな時でもきっちりした男である。
「すまない。サミュエル。今まで一緒に頑張ってくれたのに……」
サミュエルは幼少時代は付き人として、デイノルトが魔王になってからは宰相としてずっとデイノルトを支えてくれていた。
サミュエルはデイノルトにとって親友だと思っている。
サミュエルはどうか知らないが……
「一緒に宰相代理を探しましょうか」
サミュエルは分かっていますよと言うようにニコッと笑った。
デイノルトは仕方なく宰相代理の条件を考えた。
まず子どもが生まれるかもしれない年齢はダメだな。
家族を犠牲にしないと宰相の仕事は終わらない。
かと言って、親の面倒をみなければならない年齢もダメだ。
仕事が出来て、面倒見が良く、部下に慕われる人材。
更にデイノルトに絶対的な忠誠を誓える者。
裏切りは許さない。
長時間労働にもニコニコ耐え、文句一つ言わない。
そんなところか。
「天涯孤独で結婚願望がなく、キャリア豊富で信頼が厚く、俺様に絶対的な忠誠を誓い、文句を言わない者はいないか?」
「その条件だと……絶対いないですね」
サミュエルが難しい顔をしていた。
「うちの魔王城は人材不足か?」
魔族人口は多い気がするが……
国家公務員だから、人気は高いはずなんだけどな。
「元々家族経営ですし、ブラック気味ですからね」
「そうか?」
そんな風には思えないが……
俺様が魔王になってからは超ホワイトだと思うぞ。
もしや、先代が酷すぎたのか?
そういえば、今年に入って新人が十人辞めたという報告があったような気がする。
「その条件で募集をかけても魔王様のお眼鏡に叶う者が来てくれるかどうか……」
俺様が気に入る者じゃないと一緒に働くのは厳しいからな。
サミュエルは幼少時代から一緒にいるから、一番気心が知れている。
ストレスなく安心して魔王でいられるのは、サミュエルが宰相であるという要因が大きい。
正直、こいつより忠誠心が厚い者をデイノルトは知らない。
サミュエルは口では悪態をついたり、生意気なことを言ってくるが、デイノルトのことをとても大切にしてくれている。
さりげなくデイノルトの体調を気遣ってくれるし、気分が落ち込んでいる時はさりげなく気分転換をさせてくれる。
サミュエルをこのまま手放してしまって良いのだろうか。
いや、駄目だ。
デイノルトにはこいつが必要だ。
こんなにデイノルトを尊重してくれる者は後にも先にもいないだろう。
デイノルトは結構人見知りだし、サミュエル以外の奴と良い仕事が出来る気がしない。
「そうだ! 託児所を城内に作るのはどうだ?」
デイノルトは思いつきで言ってみた。
半分は冗談だが。
「魔王様?!」
サミュエルは驚いたように目を丸くした。
サミュエルがこんなに驚いたのは、子どもの時にデイノルトがサミュエルの靴にカエルを入れた時以来だな。
「問題が全て解決するではないか。アルノルトも貴様の子どももそこに預ければ良い」
「確かに……」
サミュエルは『魔王様、どうしたんです? 変な物でも食べましたか?』と言う眼差しでデイノルトを見つめている。
「無茶苦茶な提案だと思いましたが、なかなか素晴らしいです」
あ……提案がサミュエルの中で可決された……
ちょっと嬉しい。
デイノルトの提案が採用されることはほとんどないからな。
いつもデイノルトの提案は華麗に流されている。
「これで仕事中にもアルノルトの顔が見れるぞ」
デイノルトはアルノルトに頬擦りした。
アルノルトは少し嫌がっている。何故だ?
もしかしたら、アルノルトに鬱陶しいという感情が芽生えてきたのかもしれない。
アルノルトもだいぶ自我が出てきたな。
少しショックだったが、アルノルトの成長の証だと思うことにしよう。
「魔王様。託児所兼学校を作るのはいかがでしょう?」
サミュエルは明るい笑みを浮かべながら言った。
「学校?」
学校って、人間界で子ども達が色々なことを学ぶ施設のことか?
もちろん、魔界にはそんなものはない。
「王子のお世話をする中で思ったのです。王子に最高の教育を施したいと。王子は魔界の将来を担うお方です。王子が信頼できる人材も一緒にその学校で育てましょう」
歴代の王子は母に育てられている。
デイノルトには母がいなかったから、例外だが……
母がいなくなってから、デイノルトは城内に捨て置かれていたらしい。
衣食住ですら確保されず、飢えに耐えていたのを朧気に覚えている。
そんなデイノルトを救った者がいた。
それは父の補佐をしている宰相だった。
デイノルトは宰相つまりサミュエルの父親に育てられたようなものだ。
デイノルトの教育というよりも衣食住の確保が最優先であり、魔界には教育をするという発想があまりなかった。
デイノルトは魔王になってから様々なことを学び始めたのだが、なかなか大変だった。
学校を作るのは魔界初の試みである。
上手くいけば、優秀な人材確保や国力の上昇に繋がるかもしれない。
デイノルトとサミュエルはアルノルトを寝かしつけながら、深夜まで学校作りの案を出しあった。
サミュエルはアルノルトを抱いて、ニコニコ報告してきた。
「良かったな」
デイノルトは書類に判を押しながら言った。
印鑑を持つ手が疲れでガクガク震える。
震えを片方の手で抑えこんだ。
「初めての女の子だったんですよ」
「そうか」
正直、疲れ過ぎて部下のおめでたい話を喜んであげられる余裕がない。
寝不足で頭も割れるように痛いし……
何より仕事がもう一週間分もたまっている。
「サミュエル。悪いが、早めに復帰してもらえないか? 無理なら宰相代理を立てて欲しいのだ」
デイノルトはこんなことは本当は言いたくない。
しかし、仕事が進まないのは事実だ。
躊躇いながら、サミュエルの反応を待った。
「そうですか……宰相代理を探しましょう」
サミュエルはちょっと寂しそうに言った。
諦めたような顔をしているサミュエルを見て、胸が痛んだ。
本当はそんなことしたくないのだが仕方ない。
「もしかしたら、貴様は宰相に戻れないかもしれん。宰相代理にかなりの負担を強いるからな。大変な時に助けてもらうのだから、恩に報いなければならぬ」
デイノルトはサミュエルの顔が見られなかった。
誇り高く、仕事をこよなく愛するサミュエルだ。
きっとデイノルトの言葉に傷ついているだろう。
「承知いたしました。魔王様」
サミュエルは丁寧に頭を下げた。
こんな時でもきっちりした男である。
「すまない。サミュエル。今まで一緒に頑張ってくれたのに……」
サミュエルは幼少時代は付き人として、デイノルトが魔王になってからは宰相としてずっとデイノルトを支えてくれていた。
サミュエルはデイノルトにとって親友だと思っている。
サミュエルはどうか知らないが……
「一緒に宰相代理を探しましょうか」
サミュエルは分かっていますよと言うようにニコッと笑った。
デイノルトは仕方なく宰相代理の条件を考えた。
まず子どもが生まれるかもしれない年齢はダメだな。
家族を犠牲にしないと宰相の仕事は終わらない。
かと言って、親の面倒をみなければならない年齢もダメだ。
仕事が出来て、面倒見が良く、部下に慕われる人材。
更にデイノルトに絶対的な忠誠を誓える者。
裏切りは許さない。
長時間労働にもニコニコ耐え、文句一つ言わない。
そんなところか。
「天涯孤独で結婚願望がなく、キャリア豊富で信頼が厚く、俺様に絶対的な忠誠を誓い、文句を言わない者はいないか?」
「その条件だと……絶対いないですね」
サミュエルが難しい顔をしていた。
「うちの魔王城は人材不足か?」
魔族人口は多い気がするが……
国家公務員だから、人気は高いはずなんだけどな。
「元々家族経営ですし、ブラック気味ですからね」
「そうか?」
そんな風には思えないが……
俺様が魔王になってからは超ホワイトだと思うぞ。
もしや、先代が酷すぎたのか?
そういえば、今年に入って新人が十人辞めたという報告があったような気がする。
「その条件で募集をかけても魔王様のお眼鏡に叶う者が来てくれるかどうか……」
俺様が気に入る者じゃないと一緒に働くのは厳しいからな。
サミュエルは幼少時代から一緒にいるから、一番気心が知れている。
ストレスなく安心して魔王でいられるのは、サミュエルが宰相であるという要因が大きい。
正直、こいつより忠誠心が厚い者をデイノルトは知らない。
サミュエルは口では悪態をついたり、生意気なことを言ってくるが、デイノルトのことをとても大切にしてくれている。
さりげなくデイノルトの体調を気遣ってくれるし、気分が落ち込んでいる時はさりげなく気分転換をさせてくれる。
サミュエルをこのまま手放してしまって良いのだろうか。
いや、駄目だ。
デイノルトにはこいつが必要だ。
こんなにデイノルトを尊重してくれる者は後にも先にもいないだろう。
デイノルトは結構人見知りだし、サミュエル以外の奴と良い仕事が出来る気がしない。
「そうだ! 託児所を城内に作るのはどうだ?」
デイノルトは思いつきで言ってみた。
半分は冗談だが。
「魔王様?!」
サミュエルは驚いたように目を丸くした。
サミュエルがこんなに驚いたのは、子どもの時にデイノルトがサミュエルの靴にカエルを入れた時以来だな。
「問題が全て解決するではないか。アルノルトも貴様の子どももそこに預ければ良い」
「確かに……」
サミュエルは『魔王様、どうしたんです? 変な物でも食べましたか?』と言う眼差しでデイノルトを見つめている。
「無茶苦茶な提案だと思いましたが、なかなか素晴らしいです」
あ……提案がサミュエルの中で可決された……
ちょっと嬉しい。
デイノルトの提案が採用されることはほとんどないからな。
いつもデイノルトの提案は華麗に流されている。
「これで仕事中にもアルノルトの顔が見れるぞ」
デイノルトはアルノルトに頬擦りした。
アルノルトは少し嫌がっている。何故だ?
もしかしたら、アルノルトに鬱陶しいという感情が芽生えてきたのかもしれない。
アルノルトもだいぶ自我が出てきたな。
少しショックだったが、アルノルトの成長の証だと思うことにしよう。
「魔王様。託児所兼学校を作るのはいかがでしょう?」
サミュエルは明るい笑みを浮かべながら言った。
「学校?」
学校って、人間界で子ども達が色々なことを学ぶ施設のことか?
もちろん、魔界にはそんなものはない。
「王子のお世話をする中で思ったのです。王子に最高の教育を施したいと。王子は魔界の将来を担うお方です。王子が信頼できる人材も一緒にその学校で育てましょう」
歴代の王子は母に育てられている。
デイノルトには母がいなかったから、例外だが……
母がいなくなってから、デイノルトは城内に捨て置かれていたらしい。
衣食住ですら確保されず、飢えに耐えていたのを朧気に覚えている。
そんなデイノルトを救った者がいた。
それは父の補佐をしている宰相だった。
デイノルトは宰相つまりサミュエルの父親に育てられたようなものだ。
デイノルトの教育というよりも衣食住の確保が最優先であり、魔界には教育をするという発想があまりなかった。
デイノルトは魔王になってから様々なことを学び始めたのだが、なかなか大変だった。
学校を作るのは魔界初の試みである。
上手くいけば、優秀な人材確保や国力の上昇に繋がるかもしれない。
デイノルトとサミュエルはアルノルトを寝かしつけながら、深夜まで学校作りの案を出しあった。
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