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Chapter.7 愛され続けて
Act.4-01
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高遠さんと逢う日になった。私はお昼ご飯を食べ終わってからいそいそと支度を始めた。
親には、七緒の所に泊まると嘘を吐いてしまった。先に七緒と佳奈子にも伝えたら、ふたりとも口裏を合わせてくれると言ってくれたから甘えることにした。
ただ、少なからず罪悪感はある。でも、本当のこともなかなか言えない。
高遠さんとの待ち合わせは午後六時、私の実家の最寄り駅だ。高遠さんのことだから、休みであれば時間よりも早く来ているだろうと思ったけれど、案の定だった。
「お待たせしました」
駅構内で待っていた高遠さんに声をかけると、「全然」とにこやかに返された。
「まだ時間じゃないよ。俺も適当に時間潰ししてたし」
そうは言うものの、時間を潰せるような場所は近くにはない。変に気にさせないように、高遠さんなりに配慮してくれているのだろう。
「じゃあ、行こうか?」
高遠さんは自然に私の手を取る。手を繋ぐのも当たり前になってきたけれど、それでもまだ少し緊張する。手を通して私のドキドキが伝わらないかと気になった。
◆◇◆◇
高遠さんの運転する車でご飯を食べに行ってから、そのままアパートに直行した。
夜に来るのは考えてみたら初めてだ。全く同じ場所なはずなのに、日中とではまるで雰囲気が違う。
「風呂、入るよね?」
部屋に入るなり、高遠さんが訊ねてくる。
「一応、家で済ませてきましたけど……」
「入らない?」
「――じゃあ、軽く……」
変な返答の仕方だと我ながら思った。
高遠さんは微苦笑を浮かべ、小さく頷く。そして、浴室に向かい、再び部屋に戻って来た。
「どうする?」
私の隣に胡座をかくなり、高遠さんは私に訊いてきた。
「何がですか?」
不思議に思いながら訊き返すと、わずかに口の端を上げながら私を凝視してくる。
「一緒に入る?」
「一緒に、って、高遠さんとお風呂に、ってことですか……?」
恐る恐る訊ねる私に対し、高遠さんは、「そうだよ」と当然のように返してきた。
「ふたりでいるのに別々に入るなんてもったいないよ」
「それは……、水道代とかガス代とかですか……?」
「そんなケチ臭いこと言うわけないだろ」
高遠さんは笑いを含みながら続けた。
「俺がもったいないと思うのは時間だよ。絢がすぐ側にいるのに別行動なんて不自然じゃない?」
「それはちょっと違うんじゃ……」
「ん? 絢は俺と一緒にいるのが不服なの?」
「そうは言ってませんよ……。ただ……」
「ただ?」
私の顔をこれでもかというほど、高遠さんは真っ直ぐに見つめてくる。私が言いたいことは理解しているはず。けれど、あえて言わせようとしている。
根負けするのは悔しい。でも、高遠さんの方が何枚も上手だ。結局私は諦めて、「恥ずかしい……」とポツリと漏らした。
「まだ……、高遠さんと一回しかしてないのに……」
高遠さんは相変わらず、私に視線を注いでいる。しばらく真顔だったけれど、不意に表情を崩し、私を引き寄せた。
親には、七緒の所に泊まると嘘を吐いてしまった。先に七緒と佳奈子にも伝えたら、ふたりとも口裏を合わせてくれると言ってくれたから甘えることにした。
ただ、少なからず罪悪感はある。でも、本当のこともなかなか言えない。
高遠さんとの待ち合わせは午後六時、私の実家の最寄り駅だ。高遠さんのことだから、休みであれば時間よりも早く来ているだろうと思ったけれど、案の定だった。
「お待たせしました」
駅構内で待っていた高遠さんに声をかけると、「全然」とにこやかに返された。
「まだ時間じゃないよ。俺も適当に時間潰ししてたし」
そうは言うものの、時間を潰せるような場所は近くにはない。変に気にさせないように、高遠さんなりに配慮してくれているのだろう。
「じゃあ、行こうか?」
高遠さんは自然に私の手を取る。手を繋ぐのも当たり前になってきたけれど、それでもまだ少し緊張する。手を通して私のドキドキが伝わらないかと気になった。
◆◇◆◇
高遠さんの運転する車でご飯を食べに行ってから、そのままアパートに直行した。
夜に来るのは考えてみたら初めてだ。全く同じ場所なはずなのに、日中とではまるで雰囲気が違う。
「風呂、入るよね?」
部屋に入るなり、高遠さんが訊ねてくる。
「一応、家で済ませてきましたけど……」
「入らない?」
「――じゃあ、軽く……」
変な返答の仕方だと我ながら思った。
高遠さんは微苦笑を浮かべ、小さく頷く。そして、浴室に向かい、再び部屋に戻って来た。
「どうする?」
私の隣に胡座をかくなり、高遠さんは私に訊いてきた。
「何がですか?」
不思議に思いながら訊き返すと、わずかに口の端を上げながら私を凝視してくる。
「一緒に入る?」
「一緒に、って、高遠さんとお風呂に、ってことですか……?」
恐る恐る訊ねる私に対し、高遠さんは、「そうだよ」と当然のように返してきた。
「ふたりでいるのに別々に入るなんてもったいないよ」
「それは……、水道代とかガス代とかですか……?」
「そんなケチ臭いこと言うわけないだろ」
高遠さんは笑いを含みながら続けた。
「俺がもったいないと思うのは時間だよ。絢がすぐ側にいるのに別行動なんて不自然じゃない?」
「それはちょっと違うんじゃ……」
「ん? 絢は俺と一緒にいるのが不服なの?」
「そうは言ってませんよ……。ただ……」
「ただ?」
私の顔をこれでもかというほど、高遠さんは真っ直ぐに見つめてくる。私が言いたいことは理解しているはず。けれど、あえて言わせようとしている。
根負けするのは悔しい。でも、高遠さんの方が何枚も上手だ。結局私は諦めて、「恥ずかしい……」とポツリと漏らした。
「まだ……、高遠さんと一回しかしてないのに……」
高遠さんは相変わらず、私に視線を注いでいる。しばらく真顔だったけれど、不意に表情を崩し、私を引き寄せた。
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