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愛しいひと(桔平視点)

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 ゆっくりゆっくり──馴染ませたつもりだったけれど、さすがに指も三本目となると、亜沙姫さんが小さく呻いた。

「……大丈夫ですか」
「ご、ごめんね?」
「俺は、まったく」

 ただ、……あなたが辛いのはイヤだ。
 眦に浮かぶ透明な涙に、唇を落とす。亜沙姫さんは肩を揺らした。

(……唇にキスするよりも)

 不思議だな、と思う。
 亜沙姫さんは、額や頬にキスされるほうが、戸惑うみたいだった。ほのかな照れが、どうにも可愛らしい。
 ゆっくりゆっくり、指でナカをひらいていく。
 指も、手のひらも、亜沙姫さんから溢れた柔らかな水分でトロトロになっている。めちゃくちゃに嬉しい。

「んっ」

 時折漏れる、痛みだけじゃない声が愛おしい。けれど、けれど……もう、限界だった。

「亜沙姫、さん」
「……?」

 トロリとした視線。ヤらしすぎる。
 俺は下着ごと、ハーフパンツを脱ぎ捨てた。

「挿れていい、ですか」
「いいけど、……わ、ちょっと待って」

 亜沙姫さんの声に、わずかに理性が戻った。
 眼鏡無しだとよく見えないのか、起き上がって近くまで来る。
 息がかかる。……そのまま口に突っ込んでしまいたいくらいに、亜沙姫さんが近い。

「ヒトのココ、見るの初めてだよ」
「……ヒトの」
「うん。動物のはあるけど。馬とか」
「馬」

 ……馬と比べられるのは嫌だな、とちょっと思った。

「これはヒト属のオスとしては大きい? 普通? 小さくはなさそう」
「……そこそこに、……大きいほうではないか、と」
「ふうん」

 観察されている。どうしたものか。

「触っていい?」
「……いいですが」
「わ、なるほどなるほど」

 亜沙姫さんがはしゃいでいる。指先で先端や裏筋を撫でられて、正直たまったものではない。

「亜沙姫さん」
「なぁに?」
「男を煽るのが上手ですね」

 ほかにどうとも言いようがない。どうしろというんだ、こんなの──!

「へ?」

 ぽかんとしている亜沙姫さんをベッドに押し倒した。
 それからベッドサイドの棚からゴムの箱を取り出す。
 ……実のところ、夕食前にこっそり薬局まで買いに行ったのだけれど。

「あ、つけなくていいよ」

 亜沙姫さんが軽い感じで言う。

「私、生理重いからピル飲んでるの」
「……」

 亜沙姫さんを見つめた。ピル?

「知らない? 生理痛とかずいぶん楽になるんだ。泊まりがけのフィールドワークの予定も立てやすいし」
「そうでしたか」

 女性はなにかと大変だな、と考えつつ──やっぱり、冷や汗だ。
 もし、……こんなの、俺じゃなかったら……。
 後腐れなくセックスできそうなひと、を亜沙姫さんが「適当に」見つけて、いたら。
 そんなひとに「ゴムつけなくていい」なんて言い放っていたとすれば。
 そうなれば、彼女は適当にナマでヤり捨てされていたかもしれない。
 下手をすれば、複数人に無理やり、とか……。
 ゾッとした。

「亜沙姫さん」
「なぁに?」
「もっと自分を大切にしてください」

 探究熱心なのはわかる。
 そこにつけこんで、結婚してまで抱こうとしてる男の台詞じゃない。けど、だけれど──。
 うまく言葉にできなくて、ただ抱きしめた。

「鮫川くん?」
「約束してください」

 こいねがうように、俺は言う。

「あなたはもう俺の妻なので、俺以外とはセックスできません。死ぬまで。一生」
「? うん」

 もちろんだよ、と亜沙姫さんは言う。
 その言葉に、安心した。ほんとうに、安心した。
 俺は、なにがあろうと──彼女を傷つけない。大切にして、守り抜く。
 だから、だから──身体だけでも、俺にください。

(俺だけの、ものに)

 裏表を確認して、ゴムをつける。
 亜沙姫さんは不思議な顔をした。

「……私とは、直接的な粘膜の接触はイヤなかんじ?」

 ナマでしたくないの? をこんな風に表現するひとって、他にいるのだろうか?

「とてもしたいです、したいですが」

 なんでそう、少しネガティブなんだろうか。

「けれど、俺は──言いましたよね、俺はあなたを大切にしたいんです」
「……ふうん?」

 分かったような、分からないような顔で亜沙姫さんが言う。……ほんとこのひと、よく今まで誰にも手籠にされなかったな。
 ぐい、と亜沙姫さんの膝裏を押し上げて、足を開かせる。

「……ちょっと」

 亜沙姫さんが目線を散らす。
 目の縁がほんのりと赤い。

「恥ずかしい、ね?」
「……っ」

 可愛い。可愛いの塊が恥じらってる。ほんとに、なんなんだ。俺を殺す気か。

「亜沙姫、さん。痛かったら言って、ください」

 それだけなんとか告げて、……彼女の身体に押し入る。

「……っ!」

 亜沙姫さんが息を飲む。
 めりめりと音がしそうなほど、ナカは狭くて──なのに、温かくて、柔らかくて。

(すご、い)

 これが女性の、……亜沙姫さんの、ナカ。
 半分ほどのところで、一度止めた。

「大丈夫、ですか」

 本能が、俺の腰を突き動かそうとしている。彼女の痛みなんか無視して、この快楽を味わおうと先端が打ち震える。
 残り少ない理性で、それを押さえつけた。

「ごめん、ね」

 亜沙姫さんが細い声で言う。

「ヒトって、ほら、処女膜、あるから……」

 ちょっと痛いみたい、と亜沙姫さんは浅い呼吸で言う。耐えさせるのが辛くて、その頬をそっと撫でた。

「……やめますか? 今日は」
「っ、ううん! シ、て?」

 大丈夫だから、と亜沙姫さんは気丈に言う。
 ぐ、と唇を噛み締めて、ゆっくりと腰を進めた。

「っあっ、いっ、た……」
「亜沙姫さん」

 名前を呼ぶ。呼ぶけれど、ナカが吸い付くように蠢いて、俺は今度は止められない。止められないまま、奥まで貫いた。

「はぁ、……っ」

 亜沙姫さんの、悩ましい声。痛みとも、喘ぎともつかない。

「全部、入りました」
「ほ、んと……?」

 亜沙姫さんが優しく笑う。

「良かったぁ……」

 あまりに可愛くて、キスを落とす。
 角度が変わったせいか、亜沙姫さんが呻く。やはり痛いのか。俺ばかりが、気持ちいい。

「うごいて、いいよ?」

 唇を離すと、亜沙姫さんが微笑んだ。

「鮫川くんの、気持ちいいように、して……」

 息を飲んで──ゆっくりと、腰を動かす。あまりの気持ち良さに、先端から蕩けていきそうだった。

「ん、ふ、ぁっ、ぁ」

 亜沙姫さんの声。痛いのか、気持ちいいのかすら、分からない。
 せめて、と亜沙姫さんの身体に触れる。少しでも、気持ちよくいてほしい。
 ぷくりとした肉芽に触れると、亜沙姫さんの声に、たしかに甘いものが混じる。

「ぁあっ、やぁっ、はぁ……っ」

 そんな声は、俺の理性を更に蕩けさせて。

「っ、鮫川、くん、っ、おっきくしないで……っ」
「亜沙姫、さん」

 声が掠れる。格好悪い。

「もう、イき、ます」

 多分、早い……と思う。こんなにすぐ、と自分でも思うけれど、初めてだから、とも思う。
 慣れたら、保つのだろうか。
 亜沙姫さんが何かを覚悟するように、きゅっと目を閉じた。

「っ、少し、だけ……っ」

 すこしだけ、我慢してください。
 俺は華奢な彼女の腰を掴んで、抽送を速くする。頭がくらくらした。
 俺の動きに合わせて、亜沙姫さんの豊かな乳房が揺れた。すこし、信じられないものを見ている気分だ。
 亜沙姫さんの唇から、健気な声が漏れる。

「んっ、はぁっ、ぁっ、ぁ」

 亜沙姫さんの温かいナカが、きゅうと収縮する。吐精を誘うように、ぐちゅぐちゅと蠢いて──。

「……っ」

 出した瞬間、亜沙姫さんをかき抱いた。
 ゆるゆると、全てを吐き出しながら──その耳の上あたりに、すこし無造作に口付ける。
 好きだと、強く思う。愛していると、そう強く感じる。この人しか、いない。はっきりとした確信。

「鮫川、くん……」

 亜沙姫さんが俺の名前を呼ぶ。
 何かに気がついたような、そんな声色だった。
 
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