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第四章 新天地
吸収合併ー3
しおりを挟む「……わかった。じゃあね。週末会える?」
「まだ、わからない。忙しいんだ」
「さっきは私優先って言いませんでしたか?」
「気持ちはいつだってお前優先だ」
全くもう……。
「……」
「里沙?怒ったのか?」
「私……あなたをよく知らないのにどうしてこうなってるんだろう。今猛省している最中です」
「……まあ、しょうがないな。だが、里沙も俺から離れられるとは思えないぞ」
言いたいことはわかります。否定もしないけど、それにしたって、もう。
「わかったわ。会えそうなら連絡して」
「ああ。会えなくても連絡する」
「うん。じゃあね」
そう言うと電話を切った。
翌日。
偶然、書類を持ってきた関根課長と話した。目で合図されて、ちょっと打ち合わせ室に入った。向かい合わせで座ったら、じっとこちらを見ている。
「その後、どう?大丈夫?まさか会社がこんなことになるとは思わなかったね」
「全くですよね。関根課長は部長になると聞いてましたけど……もしかして、もう部長ですか?」
「うん。部長兼課長みたいな不思議なポジションだな。とはいえ、本社へ移ってどうなるかはまだわからないから……」
「そうですね」
「北村さんは僕以上に変化がありそうだ」
こちらを見てにやりと笑っている。
「私的にはようやく秘書を辞めて会計部に戻れると思って喜んだのもつかぬまでがっかりです」
「うちの斉藤もそうだが、女性で長く勤めて目端の利く人は貴重だよ。ある意味、管理職候補だ。向こうへ行くと職種も変わるかもしれないよ。ふたりは今回のこと色々あったけど、貢献したからね」
「……あまりそうとは思えないんですけど」
「鈴村君とはその後どう?」
「……え、ええ?」
「最後にあのカフェで話したとき、君の様子が変だったのは気付いたよ。彼との関係だろ?君ら絶妙に気が合ってたもんな。鈴村君が君のこと気に入っているのはすぐにわかった」
恥ずかしい。私あのとき本当に自分だけ蚊帳の外で彼のことを知らないのかと思ったら悲しくて、表情や態度に思い切り出ていたかもしれない。最終日だと知っていたし。
「気に入っているというか、少しふたりで探ったりしていたので気心が通じたと言うだけだと思いますけど」
「……まあいいさ。彼は社長が勧めてきた縁談があるのを知ってる?」
頷いて返した。
「そうか……知ってたんだね。でも、おそらく心配はいらないよ。瞳さんはおそらく鈴村さんとは結婚しないから。あ、瞳さんというのはその縁談相手である氷室商事社長のお嬢さんだよ。僕は彼女のすぐ上の兄である俊樹と友人だから知ってるんだ」
「そうなんですか?」
「そう。彼女は頑固だからね。お父さんが心配して彼との縁談を考えているらしいんだけど、本人同士は全くその気がないって聞いてるから……」
関根課長。もしかして、私を元気づけるためにこのことを言いに来てくれたの?
「あの。課長、もしかして……」
「うん?まあね、君らはお似合いだからさ。両思いなんだろうというのはすぐにわかったし。実はさ、斉藤と俺も最近付き合いだしたんだ」
「……ええ?!本当ですか?お二人こそいい感じでしたよね」
恥ずかしそうに頭を掻いている。
「あの事件以降、彼女といることが増えてね。なんだかそういうことになったんだ」
「良かったですね。私もなんだか嬉しいです!」
「だからさ、君達にもうまくいってほしいと思ってさ。縁談の話を本社に行ってから聞くときっとショックだろうし、でも知っていたんなら意味なかったかもしれないな。余計なお世話だったかもしれないけど……すでに付き合ってるんだろ?」
隠してもしょうがないだろう。
「縁談を片付けてから付き合うという約束ですけど、なかなか……」
「やはりそうだったのか。まあ、彼が本気になって出来ないことは何もないだろうから、心配しないで待っていればいいよ」
「……だといいんですけど」
「まあ、そのうちゆっくり四人で食事でもしよう。同じ会社になるんだし、これからは協力してね。君もどこの部署になるかわからないけど、よろしく頼むよ」
「もちろんです。斉藤さんにもよろしく伝えて下さい」
「ああ」
そう言うと、関根課長は出て行った。
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