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第五章 二人の決意

エピローグー3

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「さっき京子さんが、今日は斉藤さんが帰るし、昼は君がひとりになると教えてくれたんだ。誰かに誘われるかもと言われたから、急いで走って見に来ればこの始末。里沙……いい加減にしてくれ」

「どういう意味です?鈴村さん。まさか、彼女と……」

 すると、後ろから相模君の上司の梶原室長が現れた。そして、相模君の肩をぽんと叩いた。

「相模君。この企画室にいるんだったらもう少し観察力がないとだめだな。北村さんを連れてきたのが誰なのか、そして彼女を見つめている彼の視線に気付かなかったとしたら少しお粗末だ。気付いてないのは君と福原君ぐらいだな」

「ええ?!北村さん、本当なの?」

 私は何も言えず、じろっと賢人を見た。

「なんだよ?いいだろ。いい加減、俺も我慢の限界だ。一緒にランチへ行こうとしていただろ?」

「ランチくらいいいじゃないですか」

「へえー。俺も秘書達とランチに行ってもいいんだ?」

「……ずるい」

 あっけにとられている相模君を梶原室長が連れて出て行った。

 部屋にはもう誰もいない。すると彼が私を抱きしめた。

「里沙、俺は気が気じゃない。相模がお前を好きなのはみんな知ってる。そのほかにも役員でもお前を狙ってる奴がいる」

「賢人こそ私を信用していない。それにもう、たった今ここで公表しちゃったじゃない、はあ……まさか、室長も知ってたなんて……」

「梶原の言うとおりだな。ここにいる奴は目端が効くことも重要なんだ。空気が読めない奴はまずダメ。そういう点で梶原がさっき言っていたことは大切なことなんだよ」

「そんなことはどうでもいいです。もう、わかったから。ああ、お腹すいたー」

「……ぷっ。おかしな奴。よし、食事に行こう」

「賢人、午後の予定は大丈夫なの?」

 彼は腕時計を見て、私の腕を引っ張った。

「二時から会議だ。急ぐぞ」

「ねえ、やっぱり会社の近くに家を借りようかな……」

「は?どうした急に……」

「家が近いと一旦帰ることもできるし、あなたの秘書になってからも役に立ちそう」

「……里沙お前」

「私も京子さんみたいになりたい。落ち着いたら私を秘書にしてくれる?」

 ちろりと横目で彼を見上げると肩を抱かれた。

「もちろん。ここは秘書と結婚しても仕事も一緒にいられるいい会社だ。利用しない手はないな」

「それなら、色々我慢しなくて済むわね」

「ああ、お互いにな」

 ふたりで目を合わせクスッと笑う。

「じゃあ、同棲しましょうか?」

「その前にお前の両親へ会いに行こう。面倒だから俺としては……」

「そのことだけど……もしそういうことなら、きちんとしてね。私それだけは楽しみにしてるの……順番間違えないでね。私達、最初からずいぶんと秘密だらけだったし、付き合うのに順番が違ってるから」

「ああ、わかった」

 さすが、元偽装潜入捜査員。私の言ったことを察してくれたようだ。

 二週間後、彼からディナークルーズに誘われて、夜景を見ながらプロポーズされた。

 知り合ってようやく一年が経つかという頃だった。こんなに早く決断していいのかと皆に聞かれたが、全く考えていなかった。親や友人に指摘されて初めて気付いた。

 彼とは出会ったあの地下室から、運命だった気がする。

 猫背にボサボサ頭、黒縁眼鏡、ヨレヨレのスーツ。今も思い出すと笑ってしまう。

 運命とはどこに転がっているかわからない。

 私達も京子さん達同様、公私共に過ごす日々がようやく始まりそうだ。


 fin.

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