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一章:幸せを知らない男は死にたいらしい
存在しない男 04
壊れてしまったものを、日常とは呼ばない。
アレは、ただの地獄であり、死を望む程の苦痛と屈辱でしかない。
見付かったならば、必ず連れ戻され、あの地獄に身を投じることになるのだ。
サチの大好きな男は、もう何処にもいないらしい。
『死』とは何かを、サチは詳しく知らない。
消えてなくなってしまうことだと漠然と捉えていた。
とても痛くて苦しい想いをすると消えてなくなるのだと思った。
死んだ、何処にもいない、もう会えない、苦痛に喘ぎながら死んでいった。
男の最期を告げた人間の言葉をサチなりに解釈した結果、『死』とは、お尻に太くて固い逸物を咥え、刃物で体中を切られ、熱したナイフに焼かれるよりも痛くて苦しいことの先にあるのだと認識された。
涙が止まらなかった。
男はどれだけの苦しい想いをして消えていったのだろうか。
サチを置いていなくなってしまった。
もう会えないのだ。
知らない人間に犯されながら、サチは男のことを思っていた。
痛くて苦しいのに、どんなに乱暴に犯され男からされたように傷付けられても、サチは死ななかった。
どうせなら死んでしまえばいい、と何度も考えた。
男の元に行きたかった。
けれども、サチを捕まえた人間は、死ぬ寸前になるとサチを生かすのだ。
いつまでも続く果てのない地獄だった。
* * * * * *
あああああっ、と声を張り上げる。
自分の置かれている状況がわからない。
今まで感じたこともないような柔らかなものに体が沈み込んでいる。
肩を掴まれて揺さぶられていた。
無意識に「いややあ!」と叫び、腕を振り回す。
見たこともない男だった。
耳に何かを引っ掛け目の部分は輝いて見える。
サチを育てた男が時々仕事に着ていた服と同じ形の衣服を身に纏っていた。
「落ち着いて下さい。私は幸在さんの幼馴染で桐谷と申します。危害を加えるつもりはありません。幸在さんから傷一つつけるなとの命令ですからね。大丈夫ですか? 随分と魘されていましたよ」
幸在、と聞いて昨日の記憶が蘇る。
目の前の男の言葉の中からわかる部分だけを拾い集め、彼が危ない人間ではなく、キリヤと言う人間だと知る。
暴れるのをやめたサチの頭を撫でてくれる男の手は優しかった。
「あ、あの、ユキさんは? オ、オレ、捨てられたんですか?」
逃がさない、死なせない、と宣っていた少年の姿が見えないのが酷く不安だった。
あの少年の「大丈夫」は、サチをとても安堵させた。
彼が抱き締めてくれると胸の奥が満たされて熱くなる。
足りなかった何かが並々と注がれて、サチを一杯にするのだ。
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