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聖夜の街のキッチンカー🎄Kitchen car in the Noël Town
第43話 妖精と共存する街
しおりを挟む「ドラコ! レティお姉ちゃん! 久しぶりー!」
ノックするなり、ピカピカの笑顔で私たちを出迎えてくれたのは、ライだった。
ライは、五歳ぐらいの男の子の見た目をした、黄色い髪と瞳の精霊である。
「ライくん、こんにちは。招待状、すごく嬉しかったよ。ありがとう」
「ライ、久しぶりですー! 元気だったですか?」
「うん! ドラコも、レティお姉ちゃんも元気そうだね。アデルお兄ちゃんにも会いたかったけど、仕方ないよね」
「フウとトール様はどうしてるですか?」
「フウは多分、街に遊びに行ってると思う。お父さんは、奥の部屋で仕事道具のお手入れをしてるよ」
ライとフウ、そして雷精トールの住む家は、人の家と大差なかった。
赤い煉瓦の外壁、傾斜の強い三角の屋根、四角い煙突。暖炉に肘掛け椅子、壁に飾られたタペストリー。
インテリアは暖色系の物が多い中、特に目を引いたのは、キラキラしたオーナメントで飾り付けられた小さいモミの木だった。
よく見ると、オーナメントは全て魔石でできている。
他にも家のあちこちに魔石が置かれていて、それがライやフウの余剰魔力を吸い取っているから、この家の中では力を暴走させなくて済むようになっているらしい。
聞けば、外装も内装も、聖夜の街によく見られる建物と同じ造りになっているのだそうだ。
なんでも、天気の精霊であるフウとライが、人の生活を知るために、このような造りの建物に住んでいるのだとか。
天気の精霊の力は、人の生活と密接に関わる。その暮らしを自ら体感することで、大災害をしょっちゅう引き起こすことがないようにするのが目的だ。
まあ、それでも前回の姉弟喧嘩のように、家の外で予期せず力を暴走させて、災害を起こしてしまうこともあるようだが。
「さあ、荷物を置いたら、僕たちも街に行こっ」
「そうですね。お店が閉まっちゃったら困りますし」
「聖樹祭の前日だからお店は夜までやってるけど、レティお姉ちゃんが手紙で相談してくれたやつ……キッチンカー、だっけ? それの許可をもらうのは、早めに行った方がいいかも」
「じゃあ、ノルくんのお店より先に、町長さんのおうちまで行きましょうか」
そうして私たちは、聖夜の街へと向かった。
ドラコは大きな魔物体になるわけにはいかないので、私はライとドラコに手を繋いでもらって、町長の屋敷のすぐそばまで連れて行ってもらうことに。
安全だとわかっていても、足元が見えてしまう分、ドラコの背に乗って飛ぶ時よりずっと怖かった――アデルだったら気絶していたかもしれない。
*
町長の屋敷は、街の役場を兼ねている。
他の家と同じく煉瓦造りの外壁と尖った屋根だが、ひときわ大きく立派な建物だった。
ドラコと二人で中に入る。建物内には、来館者が利用できるサロンやギャラリー、ライブラリーも備えられていた。
ちなみにライは、寄りたいところがあるとかで、一旦別行動中だ。
私は久しぶりに触れる人間の文化に少し緊張していたが、驚くことに、妖精たちも平気で出入りしていた。中には私と同じように妖精を連れ歩いている人もいる。廊下で窓を拭いている小柄な清掃員も、よく見ると人間ではなさそうだった。
「この街は、完全に妖精さんたちと共存しているのね」
「はい。大陸北部の聖王国では当たり前の光景です。大陸南部にある帝国は、少し違うみたいですけど」
「そうなんだ」
私も、私の母も、聖王国に生まれていれば――いや、それは無粋な考えだ。
だいいち、私が聖王国に生まれて、何不自由なく暮らしていたとしたら、アデルに出会うこともなかった。
アデルの痛みを理解してあげることも、なかっただろう。
「精霊様からいただいた加護も、妖精さんたちとの暮らしも、本来はとっても幸せなことなのよね。なのにどうして争いが起きてしまうのかしら」
帝国北部、恵みの森の周辺に逃げてきた人々は、精霊の加護を持たないために虐げられ、奪われ、傷つけられた人たちだ。
だから彼らは精霊を憎んでいるし、その力を持つ人間を恨み、畏れている。
「……人間がみんな、レティみたいに誰かの役に立ちたいと思ったり、アデルみたいに欲のないような者ばかりではないということです」
争いの発端は、大陸で一番の力と国土を欲した、帝国の皇帝だったと聞いたことがある。
戦争が終結した後に件の覇王がどうなったのか、現在帝国領がどんな状態になっているのか、それは私にはわからない。
「でも、少なくともこの街では、精霊の加護の有無で他者を差別するような人はいません。優しく大らかな人が多いですから、レティと近い考え方の人もたくさんいると思うです。だから、この街でキッチンカーの営業をするのはとてもいい考えだと思うですよ」
「……うん、そうね。無事に許可が取れるといいなあ」
「きっと大丈夫ですー! 持ってきたフルーツ飴は、見た目も良いし、何より最高に美味しいですから!」
「ふふ、ありがとう、ドラコ」
そしてその後、ドラコの言葉通り、思った以上にあっさりとキッチンカーの営業許可を取ることができたのだった。
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