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02 裁き
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フランクの両親である王と王妃の玉座の間。
エミリーは縄で両手を縛られた状態で衛兵に脇を抱えられ、ふたりのまえに立たされていた。
「……エミリー。
なぜ、フランクを殺したのだ?」
王が悲痛な声で問いかける。
結婚を目前に控えた息子が無惨な最後を遂げたことが、彼を打ちのめしていた。
エミリーは嗚咽しながら答える。
「殺すつもりなんてありませんでした。
ただ、彼がデコピンを望んだから」
「デコピンというのが殺害方法か?」
「いいえ、ただの罰ゲームです」
罰ゲーム。
この場にふさわしくない言葉が響く。
「わが息子は、罪に対する罰を受けたと?」
「いえ……罪はありませんでした。
デコピンを体験したいとおっしゃるので」
「それで殺したのか」
殺したのだな、と王は繰り返す。
そのとき、横で黙っていた王妃が椅子の肘かけを激しく叩いた。
怒りを隠さずに叫ぶ。
「エミリーあなた、息子になんてことをしたのですか!
息子は、息子のなきがらは、それはそれはひどい有様でした。
おでこが深く抉れ、脳が飛び散って……ああ……っ!」
王妃は泣き崩れた。
エミリーのほうも泣きながら弁明する。
「ごめんなさい。
まさかあんなに、おでこが脆いなんて……。
本当に私は知りませんでした」
「息子のせいだとでもいうのですか!?」
「いえ……」
詰問されエミリーは口ごもった。
フランクのせいではない。
それは間違いないと彼女は思う。
では、誰が悪かったのか。
分厚くなったおでこを持つ弟が悪いのか。
そうではない。
「私が、悪かったんだと思います……。
幼いころから、ただ純粋に威力を高めたくて、デコピンを磨きつづけてきたのです」
「殺すためのナイフを研ぐように、ですね?」
「ナイフだなんて、そんな!」
だがエミリーはわかっていた。
自分のデコピンは、ナイフを刺すよりも殺傷力が高かった。
いつのまにかそこまで、鍛錬していた。
「エミリー。
おまえは殺人罪で死刑です」
王妃が無慈悲に告げる。
王も横で、あたりまえとばかりにうなずいている。
エミリーは涙を流すだけだった。
愛するフランクを失い、もはや生きる気力もない。
殺してくれるというなら本望だ。
ひと思いにくびり殺してほしいと思った。
だが――
「わたくしたちは、息子の死にざまよりもむごい死をおまえに与えることにしました」
「えっ……」
デコピンで脳漿を散らすよりもむごい死。
エミリーは身ぶるいした。
足ががくがくと震えて立っていられず、その場に崩れて膝をついた。
「戦場にいってもらいます。
ただし武器を持つことは許しません」
王妃の言葉に、兵士たちが歓声をあげた。
フランク王太子を殺した罪人に、ふさわしい最期が告げられたのだ。
「おまえは丸腰で前線に行き、そのデコピンとやらで戦いなさい。
そして蜂の巣になって死ぬがよい!」
エミリーは縄で両手を縛られた状態で衛兵に脇を抱えられ、ふたりのまえに立たされていた。
「……エミリー。
なぜ、フランクを殺したのだ?」
王が悲痛な声で問いかける。
結婚を目前に控えた息子が無惨な最後を遂げたことが、彼を打ちのめしていた。
エミリーは嗚咽しながら答える。
「殺すつもりなんてありませんでした。
ただ、彼がデコピンを望んだから」
「デコピンというのが殺害方法か?」
「いいえ、ただの罰ゲームです」
罰ゲーム。
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「わが息子は、罪に対する罰を受けたと?」
「いえ……罪はありませんでした。
デコピンを体験したいとおっしゃるので」
「それで殺したのか」
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怒りを隠さずに叫ぶ。
「エミリーあなた、息子になんてことをしたのですか!
息子は、息子のなきがらは、それはそれはひどい有様でした。
おでこが深く抉れ、脳が飛び散って……ああ……っ!」
王妃は泣き崩れた。
エミリーのほうも泣きながら弁明する。
「ごめんなさい。
まさかあんなに、おでこが脆いなんて……。
本当に私は知りませんでした」
「息子のせいだとでもいうのですか!?」
「いえ……」
詰問されエミリーは口ごもった。
フランクのせいではない。
それは間違いないと彼女は思う。
では、誰が悪かったのか。
分厚くなったおでこを持つ弟が悪いのか。
そうではない。
「私が、悪かったんだと思います……。
幼いころから、ただ純粋に威力を高めたくて、デコピンを磨きつづけてきたのです」
「殺すためのナイフを研ぐように、ですね?」
「ナイフだなんて、そんな!」
だがエミリーはわかっていた。
自分のデコピンは、ナイフを刺すよりも殺傷力が高かった。
いつのまにかそこまで、鍛錬していた。
「エミリー。
おまえは殺人罪で死刑です」
王妃が無慈悲に告げる。
王も横で、あたりまえとばかりにうなずいている。
エミリーは涙を流すだけだった。
愛するフランクを失い、もはや生きる気力もない。
殺してくれるというなら本望だ。
ひと思いにくびり殺してほしいと思った。
だが――
「わたくしたちは、息子の死にざまよりもむごい死をおまえに与えることにしました」
「えっ……」
デコピンで脳漿を散らすよりもむごい死。
エミリーは身ぶるいした。
足ががくがくと震えて立っていられず、その場に崩れて膝をついた。
「戦場にいってもらいます。
ただし武器を持つことは許しません」
王妃の言葉に、兵士たちが歓声をあげた。
フランク王太子を殺した罪人に、ふさわしい最期が告げられたのだ。
「おまえは丸腰で前線に行き、そのデコピンとやらで戦いなさい。
そして蜂の巣になって死ぬがよい!」
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