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地下へ続く階段
しおりを挟む夕食も終わり、今はリーストファー様と一緒に先生と呼ばれていた男性の部屋にいる。
「クスッ」
「どうした?」
「懐かしい事を思い出しました。まだ子供の頃、お父様は夜遅くまで執務室にこもっていたんです。今思えば昼間はリックを鍛えていたり王宮へ行ったりしていたので、夜遅くまで執務におわれていたと分かります。
ですが当時読んでいた本の内容が隠し部屋が出てくるお話だったんです。本棚の本を引けば本棚が動き隠し部屋が現れました。私はお父様が執務室にこもるのは隠し部屋があるからだとそう思いました。その部屋で一人だけ何かをしていると。お父様は私やライアンが執務室に入るのを良く思っていなかったので」
執務室には陛下からの密書だったり、まだ子供の私やライアンが読んではいけない内容の書類だったり、きっとお父様にとって執務室は当主の砦だった。
公爵家を公爵領を、そこに関わる全ての人を守る場所。
部屋の外から見た執務室は、本棚にはぎっしりと分厚い本が並び、机の上には書類の束が置いてあった。主のいない執務室でも足を踏み入れてはいけない聖域のような、そんな空気があった。
「エーネ国にそんな仕掛けを作る細工職人もいないのに、そもそも隠し部屋を作って何を隠すというのか。執務室には小部屋もあります。その小部屋にはお父様と筆頭執事しか入れません。わざわざ隠し部屋を作る意味がないと。
ですが年季の入った本棚をこうして見ると思い出してしまって」
「その本では何を隠していたんだ?」
「奥様の姿絵や肖像画、それから下手な刺繍のハンカチや手紙、それから石も置いてありました。奥様から貰った大切な物。その旦那様にとって奥様と出会ってから頂いた宝物が飾ってありました。それを隠していたんです。
リーストファー様なら何を隠します?」
「俺か…、俺ならミシェルの絵かな」
「隠さず捨てて下さい」
リーストファー様は『ククッ』と笑っている。
「でも誰かに見せたくないもの、見られたくないもの、見られては困るもの、隠し部屋なんてそんなものだろ」
リーストファー様は本棚から本を一冊手に取りペラペラと本のページをめくる。
「まあでもこの本棚は動かしてはいないようだぞ?こんな重い本棚を動かせば床に傷がつく。見た所動かした形跡はない。だが隠し部屋か…」
リーストファー様は本をペラペラとめくり、最後のページをめくり終わった。
「うん、隠し部屋があるのかもしれないな」
本を本棚に戻しながらリーストファー様は言った。
「どうしてそう思うのです?」
「孤児院の周りには小屋や家はなかった。戦闘の訓練は裏の森の中で人目を盗んでできる。だが恐怖を与える部屋は必ずこの孤児院の中に作ったはずだ。俺なら自分の部屋の身近に作る」
「拷問部屋ですか?」
「ああ。誰も近づかず、声を出しても聞こえない。そして闇の世界…」
リーストファー様は私を見つめた。
「この下だ」
リーストファー様はコンコンと足で床を鳴らした。
「地下?」
「地下牢と言うだろ?辺境でも地下に牢屋がある。光も入らず閉塞された空間では恐怖が勝つ。精神から追い込み早く出たいと、この閉ざされた闇から抜け出したいと罪を認める」
リーストファー様は机を動かし絨毯をめくった。
床には窪みがあり床の一部を持ち上げれるようになっていた。
「ミシェル、リックを呼んできてくれ」
リーストファー様の真剣な顔に私は頷きリックを呼びに行った。
リックと部屋に戻り、リックはリーストファー様の足元を見た。
「きっとこの床を持ち上げたら地下へ続く階段がある」
リックは頷いた。
「俺とリックが中に入ったらこの床を戻しミシェルはこの部屋から出てくれ」
「危険です」
「それが分かっているならこの部屋に居るのも危険だと分かるな?」
リーストファー様とリック二人の真剣な顔に私は頷いた。
「俺達が中に入ったらベーン副隊長かカイン小隊長を呼んで来てくれ」
「分かりました」
リーストファー様はランプを持ち、リックが床を持ち上げた。床の下には思った通り地下へ続く階段があり、リーストファー様とリックは階段を下りて行った。
「では閉めます」
二人に声が届いたのかは分からない。それでも私は床を下ろしベーン副隊長かカイン小隊長を探した。
辺りをキョロキョロと見渡し探していても二人の姿は見当たらない。
「おい、何をそんなに焦ってるんだ」
突然肩を叩かれ体がビクっと震える。
「ルイス様…」
ルイス様の顔を見て、知らず知らず入っていた力が抜けた。
ルイス様に事情を話し、ルイス様はベーン副隊長とカイン小隊長のもとに走って行った。
部屋の外で待っているとベーン副隊長とカイン小隊長、それからルイス様がこちらに走って向かってきた。
「この部屋か?」
「はい」
ベーン副隊長とカイン小隊長は部屋の中に入った。
「カインは俺と待機。ルイスは夫人を安全な部屋に連れて行け」
ベーン副隊長はそう言うと扉を閉めた。
「行くぞ」
「ですが、」
「ここでは足手まといになる、それくらい分かるだろ?」
「はい…」
もし誰かがまだ地下に潜んでいて、リーストファー様とリックが取り押さえたとしても、その誰かは暗殺者の可能性が高い。
地下から出てきた時、もし私がこの場に居たら真っ先に私を人質に取るだろう。この中で一番弱く、安全な場所まで連れて歩くには女性の方が都合がいい。私が誰か分からなくても。
「心配なのは分かるけどな、信じろ。リーストファーをお前の護衛を。あいつ等にとってお前が傷つくのが一番耐え難い。だから今は安全な場所に行くぞ。リーストファーの代わりに必ず護ってやるから」
「はい、お願いします」
私はルイス様の後ろを付いて行った。
離れ難い、それでも今は我儘を言う時ではない。
だから二人共、無事でいて…。
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