褒美で授与された私は王太子殿下の元婚約者

アズやっこ

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強奪か勝利品か

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皆で楽しく話しながら食事をしているとヒラヒラと葉っぱが落ちてきた。


「葉っぱ?」


私は上を見上げた。


「もーらい」

「あ!それ僕の、返してよ」


フィンの大きな声にフィンを見れば泣きそうな顔をしている。

フィンから奪ったパンを手に持ち立っている少年。その後ろには少年より小さい子供の姿。


「返しなさい。人から奪ってはいけないわ。人から奪えば強奪よ?欲しいのなら欲しいと言えばいいでしょう?」

「お前等エーネ国の奴等だろ?エーネ国だって奪ったじゃないか。俺達からここを奪ったじゃないか。ならそれはいいのかよ」

「私達エーネ国はこの地を奪った訳ではないわ。国同士の戦いで勝ち負けがある以上何かを犠牲にしなければならないの。ここでは大勢の人が戦い大勢の人の血が流れた。それはなぜ?国を守る為よ?

国同士が戦う理由は様々だけど、エーネ国とバーチェル国は国土を賭けた。勝てば国土の一部を貰い、負ければ国土の一部を差し出す。そしてここの地はエーネ国が保有する事になった。奪ったのではなく戦い得た勝利品。

エーネ国が強奪した訳ではないわ、バーチェル国王はこの地を差し出したの」


大勢の血が流れた以上何もお咎めなしという訳にはいかない。国土を賭けて戦った以上、負ければ国土の一部を差し出さないといけない。国によっては国全土をと言う国もある。国の半分の国土をと言う国もある。

それでも今回エーネ国が得た国土はここだけ。それもバーチェル国にとってみれば何の痛手もない捨て地のようなもの。

決して強奪ではない。

エーネ国の国土が欲しいと先に戦を仕掛けたのはバーチェル国。

強欲なのはバーチェル国の方だわ。

もし私ならこの地ではなく、もっと栄えている地なり辺境なり、勝利品として得た後すぐ国に貢献できる地を選ぶ。

強奪か勝利品か、それは国によってその思いは違う。バーチェル国が勝ちエーネ国の一部を得ていたらそれは勝利品と呼んだだろう。でも実際は負け、国の一部を失った。


「申し訳ありません」


女性がこちらに叫びながら向かってきた。


「申し訳ありません」


女性は息を切らしながら頭を下げた。


「母ちゃんは下がってろよ」

「そういう訳にはいかないでしょう。息子のした事に頭を下げるのは親として当然でしょう。

今度は何をやったの?その手に持っているのはなに?」


少年は咄嗟に手を後ろに隠した。


「貴女の息子さんがこの子のパンを奪いました」

「やっぱりエーネ国の奴等は非道な奴等なんだな」


私は少年の顔を見た。


「私は事実を述べたまでよ?」

「本当に申し訳ありません」


母親は深々と頭を下げた。

見た目から少年はもう善悪が分かる年齢。子供のした事だから、そう大目に見る事もできる。

それでもエーネ国に対し間違った偏見や怨恨のようなものが彼からは見える。それはこの地で暮らすこの子にとって今後暮らし辛くする。

エーネ国の人達もこの先ここに住むようになる。今住んでいる人達も少しづつ前を向き始めた。

その中で少年は孤立してしまう。


「どうして貴方はいつもそうなの。いつも言ってるでしょう、人から奪ってはいけないって。それは盗人だと何度言えば分かるの?

それにここはバーチェル国ではなくエーネ国になったと何度も説明したでしょう。私達はバーチェル国の国民ではなくエーネ国の国民だと、そう母さん何度も説明したわよね?

貴方は何度言えば分かってくれるのよ…」


母親は少年の両肩に両手を乗せて、少年は前後に揺れている。


「そんなにバーチェル国がいいなら貴方だけお爺ちゃんの家に行きなさい」

「嫌だ」

「なら少しは母さんの言う事を聞きなさい」


女性はとても疲れた顔をしている。

話からして少年は何度も誰かのものを奪っていた。ここに暮らしている人達?でもそんな話は聞いていない。

なら…、石垣を積んでいる労働者達?彼等はエーネ国の民だからその可能性は高い。彼等はきっと子供のする事だからと大目に見ていた。施しではないけど、食事に困っているのだろうと。


「もしかして食事に困っていますか?」


母親は私の方に向き直した。


「いいえ、蓄えはまだあります。畑もありますし、夫が戦に出る前に買い溜めをしましたので」

「そう…」


どんな食事かは分からないけど、フィン親子に比べても食事はきちんととれてる。顔色も良いし痩せてもいない。


「そういえば、紹介がまだだったわね。今度この領地を治める事になった、彼がホーゲル伯爵よ、そして私は妻のミシェル。ここがエーネ国のホーゲル領になったのは理解しているのよね?」

「はい」


女性は頷いた。


「そして貴女達はエーネ国の国民になった、それも理解しているのよね?」

「はい、私は騎士の妻です。戦に負ければこういう事もあると理解しています。エーネ国国王陛下は私達に選択をさせてくれました。本来なら私達平民に選択などありません。私は自分の意志でここに残る選択をしました」


女性は真っ直ぐ私を見つめている。その強い意志が私にも伝わる。

騎士の妻だからか、彼女自身の強さか、それは分からない。それでも自分の置かれた状況も理解している。

そして自分の意志でここに残った。


「兄ちゃん!」


少年は一人で走っていった。


「リック」


リックは少年の後を追いかけた。

残された弟は母親の服を掴んでいる。フィンよりも年上のその子は母親の顔色を伺っている。

シャルクの報告書通りならこの親子は今から向かう予定の家の家族。この大きな木から少し歩いた所に家はある。

居なくなった子供達を探し家を出た所で私達を見つけ飛んできた。

きっと何度も頭を下げてきたのだろう。

それでも、貴女は理解しここに残ると決めたけど、子供達はどうかしら。子供達に選択はない。親の選択に従うしかないのだから。



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