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家の馬車が迎えに来て、エマの家から帰る馬車の中。馬車の中で一人ボウっと窓の外を眺める。

私が帰るのを見送ってくれたラウル様。

私達が庭の散歩を終え、エマのもとに帰ってきた時、エマは私達の様子を見て「うんうん」と笑顔で頷き、「任せて」と右目をパチリと目配せした。

エマのお兄様はラウル様に詰め寄り、ラウル様の肩を抱き、私達から少し離れた所で何か二人で話しをしていた。

エマには軽く説明し、口止めをした。

「相手がラウル様だったのは驚いたけど、でもラウル様なら私も安心だわ。もし変な人だったら全力で止めないとと思っていたの。だから今日会う時に私も付いていくつもりだったの」

それからエマはラウル様の話を少しだけ教えてくれた。

ラウル様の詳しい事情は聞かなかったけど、「ラウル様には誰よりも幸せになってほしいの。だからセレナがラウル様を好きになってくれたら嬉しい」エマは「ラウル様は私の初恋の人なの」そう言った。

誰よりも幸せになってほしいと言ったエマはどこか辛そうな顔をした。

元奥様との離縁で傷ついたラウル様の姿を何度も目にしたのかもしれない。

「それでも私はセレナの幸せを一番に願っているの。セレナが心から好きになった人と結婚してほしい、その思いは変わらないわ。私の子供とセレナの子供を結婚させるのが私の夢なの」

エマはにこっと笑った。

エマには仲がいい婚約者がいる。私は二人を見ていて羨ましいと思っていた。私から見てもお互い好きなのが分かる。

ラウル様をもし好きになったとして、私は陰口に耐えられるのだろうか。

エマも「好きになってほしいとは言ったけど、本当は慎重にもなってほしいの。本来なら私も止めるわ。後妻が悪いとは言わない。けど、セレナが後妻になるのは、それはまた違う。ラウル様がどんなにいい人でも、やっぱり親友のセレナには……」エマは泣きそうな顔で微笑んだ。

親友の私には幸せな結婚をしてほしい。私も親友のエマには幸せな結婚をしてほしいと思ってる。エマを愛してくれて大切にしてくれる男性と…。

でも、初恋のラウル様にも今度こそ幸せになってほしい。それは私がショーンに抱く思いと同じなのかもしれない。

憧れや誘導された初恋の人。今は好きじゃなくても、一度は好きになった人。その人が不幸になる姿は見たくない。

初恋の人は誰にとっても特別な存在。

ラウル様の仮初の婚約者として振る舞ううちに、もしかしたら私はラウル様を好きになるかもしれない。そしたらエマは私の味方になり応援してくれるだろう。

もし、ラウル様とは別の男性を好きになったとしても、エマは私の幸せを喜んでくれるだろう。

初婚とか後妻とか、人を好きになればそんなことは瑣末なこと。

家に着き馬車を降りたら、そこから私は一目惚れを振る舞わないといけない。一目惚れをしたことはないけど、そこは婚約者に出会った頃のエマを真似ればいい。

今から家族を騙さないといけない。

セレナいい?これは勝負よ、家族を騙し勝ち続けないといけないわ。

馬車が止まり、私は一度深呼吸をした。

御者が扉を開ければ、一瞬眩しさに目が眩む。今日の空も私を後押ししてくれるかのように快晴。

「ただいま戻りました」

玄関の扉を入り声をかければ、奥からバタバタと足音が聞こえてきた。

「お姉様」

私に勢いよく抱きついてきたのは私の可愛い妹。

「アニーただいま」

「昨日はお姉様がいなくて寂しかったわ」

私よりも少し背が低いアニーの背を撫でる。

「お姉様、エマお姉様の家でのお泊りは楽しかった?」

「ええ、とっても」

私を見上げるアニーは少し拗ねたように私を見つめている。

「私は寂しかった…」

アニーは私をぎゅっと抱きしめた。

「今日はずっと私と一緒にいて」

「ええ」

私もアニーをぎゅっと抱きしめた。

拗ねていたアニーは嬉しそうに笑っている。

私はアニーが本当に可愛い。だからアニーには幸せになってほしい。願わくば好きな人と。

「お姉様、庭でお茶をしましょ?もう準備もしてあるの」

アニーは「ずっと待ってたのよ?」と私の手を引き庭へ移動した。

「お姉様聞いてる?」

今は庭でアニーとお茶をしている。

「え?ええ…。えっと、なんだった?」

「もう」

アニーは頬をぷくっと膨らませている。

「お姉様さっきからぼうっとして変よ?」

このやり取りを何度繰り返しただろう。

「そ、そう、かしら」

「エマお姉様の家で何かあったの?」

「え?な、な、何もないわよ、何もなかったわ」

私は焦ったように笑った。

「そう?でもお姉様帰ってきてから変よ?エマお姉様と喧嘩でもしたの?」

「喧嘩はしてないわ」

「なら何があったの?私には言えない?私はお姉様の味方よ?」

心配そうに私を見つめるアニー。

ごめんねアニー。本当のことを言えたらどんなに楽だろう。

でも私は大切な家族を騙すと決めた。


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