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しおりを挟む部屋の外が騒がしくなった。
今日お父様は王宮へ行っている。お母様とアニーは一緒にお茶会へ行った。3人共帰ってくるにはまだ早い。
どうしたのかしらと思っていたら突然勢いよく扉が開いた。
「「ラウル様」」
私と元奥様は同時に客間に入ってきたラウル様の名を呼んだ。私と元奥様は無意識に立ち上がっていた。
ラウル様は険しい顔をして歩いてきた。
「ロゼッタ、ここで何をしている」
ラウル様は私を背に隠した。
「セレナさんと仲良くお話していただけですわ」
仲良くというより、元奥様が勝手に話していただけですけどね。
「子供はどうした」
「メイド達に預けてきましたわ」
「昨日父上に言われた言葉をもう忘れたのか。父上は昨日言っただろ、子供の面倒を自分で見るのなら少しの間置いてやると」
「メイド達からお願いだから私達にお世話させてくれと頭を下げられましたの」
「メイド達にも面倒は見なくていいと伝達してある」
背に隠れている私にはラウル様の顔は見えない。それでも声は嫌悪のような、怒っているように聞こえた。
「自分の子供だろ、早くここから帰り自分で世話をしろ。入ってくれ」
ラウル様の声掛けにいつも私を送ってくれていた御者が入ってきた。
「連れて行け」
御者は元奥様を無理矢理連れて出ていった。
「すまないセレナ」
ラウル様は私を抱きしめた。
「何を言われた」
ラウル様は不安そうな顔をして私を見つめる。
「大した話ではありません」
「何か傷つけられることは言われてないか。何を言われたのか教えてくれ」
大した話ではないと言ってもラウル様は心配なんだろうと、私は元奥様が言っていたことを話した。
「ラウル様を愛してるとか、愛し合って出来た子だとか、そんな話です」
「そんな話は嘘だ」
「はい、ラウル様に聞いていたので嘘だとすぐに分かりました」
「他には?何を言われた」
「他にですか?あっ、昨日は家族水入らず3人で過ごしたとか、お義父様から3人で過ごしなさいと言われたとか、跡継ぎが出来て喜んでいたとか」
「父上は確かに3人で過ごせとは言った。だがそれは母上と3人でだ。跡継ぎも母上が勝手に言っているだけで、父上は危険視している。一応何を企んでいるのか探る必要があるからな、様子を見るために邸に留まらせているが」
「ラウル様の隣の部屋で過ごしていると言っていましたが本当ですか?」
「俺は離縁してから離れで暮らしていた。父上や母上と会いたくなかったからだ。確かに夫婦の時は隣は彼女の部屋だった。その部屋で今は過ごしているのかもしれないが、俺の部屋はもぬけの殻だ。確かに昨日父上に会いに行った。でも俺は父上と話をして宿屋に帰った。一緒に過ごしていない。信じてほしい」
「私はラウル様を信じてます」
「本当に?」
「はい、私に嘘をつく必要がありません」
ラウル様は安堵したのか、ようやく笑った。
それから二人で過ごし、ラウル様は宿屋に帰っていった。
「もうロゼッタが来ても会わなくていい」
そうラウル様に言われたのはつい先日のこと。
「これを読むの?」
私が座っているソファーによじ登り隣に座るダニエル君。
そう、私は今ダニエル君と一緒にいる。
それに今日が初めてではない。あの元奥様の襲撃の日の次の日、元奥様はまた我が家にやって来た。会わなくていいと言われていたから、会うつもりはないと帰ってもらった。元奥様はすんなり帰っていったけど、その時、ダニエル君だけ置いていった。
私も流石に初めはダニエル君と会うつもりも話すつもりもなかった。でも、置いていかれたダニエル君はずっとその場で立ち、泣くでもなく騒ぐでもなく、ただじっとその場から動かなかった。
私もね、無視するつもりだったの。でもまだ相手は3歳よ?母親に置いていかれて心細いのに、無視するのもね。
だから「こっちへいらっしゃい」ってダニエル君に声をかけた。初めは警戒していたダニエル君だったけど、トボトボと私の後を追ってきた。それから絵本を読んで、昼食を一緒に食べて、お昼寝もさせて。そしたら元奥様が迎えにきたわ。
次の日は「今日もこの子お願いね」と書いてある紙をダニエル君が持っていた。その次の日のその次の日も、毎日ダニエル君を置いていく。
流石にダニエル君が可哀想だし、私も迷惑。だから元奥様に言ったわ。そしたら「仕方がないじゃない。誰も面倒見てくれないんだもの。私だって用事があるの。なら何?この子を部屋に閉じ込めておけばいいの?それとも孤児院の前に置いておけって?貴女はそんな冷たい人なの?」話が通じない人っているのね。
もう今では諦めたわ。
ラウル様は今領地へ行っている。相談したくてもできないし、だから領地から帰ってくるまでは我慢しようと思っているの。
ダニエル君は手もかからないし、それにこれだけ毎日一緒にいると可愛く思える。今も私の服を引っ張り絵本の絵を指さしてる。
「これ?これは薔薇よ。とっても綺麗ね」
ダニエル君は笑って頷いた。
ダニエル君も私に懐いてきたと思う。でも少し気になるのが、一言も話さないこと。私はダニエル君の声を聞いたことがないの。
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