能天気男子の受難

いとみ

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『ルシオン』
それが今の自分の名前。現在13才。

前世の記憶も思い出したが、ルシオンとしての記憶もある。

ルシオンには、逞しく賢い父親と朗らかで優しい母親がいた。
1年前に事故で帰らない人となった。
もちろん、両親を愛していたから悲しいし、寂しい。
そんな辛い時に側にいてくれたのがフェルドだった。3歳年上の家族のような存在。

ルシオンの家柄は子爵家で裕福ではなかったが、幸せだった。毎日、メイドさん達や、フェルドのような使用人達と仲良く暮らしていた。
それが両親が亡くなって、生活は一変した。
一人息子だった俺はまだ幼く世間知らずで子爵家を継ぐには子供すぎた。

孤独な俺を見かねて、母の兄であるマークフェン侯爵家に養子入り。
俺1人よりは、知り合いがいた方が心細くないだろうという事で、一緒に邸に来たのがフェルドだった。
現在はフェルドは執事見習いとして、俺の側にいてくれている。


マークフェン侯爵家にはセレスという立派な跡取りがいる。俺の1歳上の従兄弟だ。
俺の茶色い髪よりもキラキラとした金色の髪に紫色の瞳、ややタレ目ぎみだが綺麗な顔立ちで品がある。
セレスは頭も良く、性格も穏やかで運動神経もバツグン。
イケメンで優しくて気品あるなんて完璧すぎる。

1才違いで何かと比較されていたルシオンは劣等感を抱いていた。

仲は悪かったというより、ルシオンが八つ当たりしてた、そんな関係だった。
その上、養子としてマークフェン家に来てますます仲良くしようと思わなくなった。

俺は両親の死と、馴染めない環境とで引きこもり状態だったのだ。



気分転換に散歩でもと、フェルドが部屋から連れ出してくれ、ぼーっと眺めて歩いている時に石につまずき派手に転んで頭をうち気絶。

なんて恥ずかしい。
フェルドの好意を無にした気がして申し訳なく思ってきた。
後でフェルドに謝ろう。


まだ2重記憶のため混乱しているが、だいぶ気持ちも落ち着いてきた。


「コンコン。」
気遣うように部屋の扉をノックされる。

「ルシオン様、気分はいかがですか?」
入って来たのはフェルドだった。
お茶の準備は整っていたが、俺の事を気遣ってこれから淹れてくれるらしい。俺の好きなお菓子もある。

さっきは混乱中だった為、返事も上の空でフェルドがお茶の用意をしてくれていたのも解らなかった。
フェルドがお茶を淹れてくれるのを見ながら

「…せっかく気分転換に外に連れ出してくれたのに…。悪かった。」

「ガチャン!」
「えっ!?」

フェルドはびっくりして俺を見て固まっている。
俺は、いつも冷静なフェルドが茶器を落としそうになってびっくりする。


はっ!そうだ。俺は無愛想だったんだ。両親が亡くなりますます殻に閉じ籠り状態で、グレていたようなものだ。
そんな俺が礼を言うなんて…。頭を強く打った衝撃で人格が変わったと思われても仕方ない。
変わったというより、前世の記憶が甦って中身だけは大人になったという感じだ。

さすがは執事見習いだけあって、何事もなかったかのように
「いえ、恐れ入ります。」
といつもの冷静なフェルドに戻った。


フェルドが少しだけ動揺しながら俺を眺めていた事は、お茶を飲み一息ついていて知らなかった。
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