57 / 87
第56話
しおりを挟む
不運とか不幸とか、まあとにかく自分にとって良くないこと、というのは立て続けに起きるもので。
「おい」
テオとの約束の通り、ティートさんをその場で待っていた私に声を掛けたのは、ティートさんではない別の人だった。
その人はもちろんアルノーさんでもなく、引き返してきたテオでも、クスィオンさんでも、ラスカでもなく。
「…………」
不遜に、不機嫌そうに眉を寄せてじっとこちらを見るのは白金の髪に青い眼を持った人物――リュシアン王子殿下だった。
え、何で? なんでリュシアン王子が此処にいるの?
いや、いてもおかしくはないけれど、書庫から少し離れた場所だよ? 人のとおりなんて多くないような場所だよ?
流石にこんな場所でリュシアン王子と遭遇するなんて思いもしなかったんだけど?!
困惑をしながらも表情には極力出さず、
「リュシアン王子殿下、ごきげん、」
「そのような挨拶はどうだっていい」
あ、はい。一応の礼儀の一環としての意味合いが強いので、それはわりと私もありがたいけど。
「貴様、何故竜の子供をシアに渡さない?」
やっぱそれかー。
まあ、それ以外にこんな場所まで来る理由はないよねー。
ただ何度言われたって、リフをアナスタシア王女に渡すことはないけれど。
「そのお話であればアナスタシア王女殿下との間で決着がついておりますので」
「決着? 貴様がシアに意地の悪い発言を繰り返しているだけだろう」
「…………」
嫌悪感を滲ませながらリュシアン王子が口にした言葉に、私は唇を真一文字に結ぶ。
それを見てどう感じたかはわからないけれど、黙り込む私にリュシアン王子は言葉を続けた。
「なぜそのような態度を取る? 先程はわざわざ書庫にやって来てまでシアを貶める発言を投げつけたそうではないか」
いや、わざわざ書庫までやってきたのはアナスタシア王女であって、傷付けるような発言はしたとはいえ先に勝手なことを言い始めたのもアナスタシア王女なんだけど。
だなんて言葉はリュシアン王子には届かないんだろう。
片方道理で事実の確認さえもなく私を責め立てるだけなのだから。
私は小さく息を吐いて口を開いた。
「申し訳ありませんが、どう言われようともリフをアナスタシア王女に託す事は万が一にもございません」
何事かと顔を覗かせたリフをそっと撫でながら、まっすぐにリュシアン王子を見据える。
それを真っ直ぐに受け止めたリュシアン王子は怪訝そうに眉を動かした。
「それは何故だ?」
「私はあの方のいう使者などではございません。それに、もし仮にそうであったとしても、リフを――仔竜を物のように扱うような方にどうして応じることが出来ましょう?」
「物のように扱うなどと言うのは控えろ。そのような事実はない。それに、仔竜を自分のアクセサリのように扱っているのは貴様の方だろう」
「…………は?」
仔竜を、リフを、私がアクセサリのように扱ってる?
バカバカしいにも程があるでしょ。だって、実際にそうした事をしてるのは――、
「お言葉ですが、私がリフをアクセサリのように扱うなどと、ありえません。むしろそのような言動をしているのはアナスタシア王女殿下ではございませんか?」
「貴様、俺の前でもそのような事をのたまうか」
「――のたまうもなにも、彼女の言うことは全て真実でしょう?」
と、はっきりとした声が響く。
凛としたその声は、向かい合う形になっているリュシアン王子の奥から聞こえた。
振り返るリュシアン王子の肩越しに見えたのはグレージュの短髪に蒼玉の眼を持った青年――ティートさんだ。
「そも、片方道理で責め立てるのはいかがかと思いますが?」
「ティート……貴様」
僅かに不機嫌さを滲ませた低い声を耳にしても、ティートさんは僅かに表情に笑みを携え、けれどもじっと責めるようにリュシアン王子を見つめていた。
「おい」
テオとの約束の通り、ティートさんをその場で待っていた私に声を掛けたのは、ティートさんではない別の人だった。
その人はもちろんアルノーさんでもなく、引き返してきたテオでも、クスィオンさんでも、ラスカでもなく。
「…………」
不遜に、不機嫌そうに眉を寄せてじっとこちらを見るのは白金の髪に青い眼を持った人物――リュシアン王子殿下だった。
え、何で? なんでリュシアン王子が此処にいるの?
いや、いてもおかしくはないけれど、書庫から少し離れた場所だよ? 人のとおりなんて多くないような場所だよ?
流石にこんな場所でリュシアン王子と遭遇するなんて思いもしなかったんだけど?!
困惑をしながらも表情には極力出さず、
「リュシアン王子殿下、ごきげん、」
「そのような挨拶はどうだっていい」
あ、はい。一応の礼儀の一環としての意味合いが強いので、それはわりと私もありがたいけど。
「貴様、何故竜の子供をシアに渡さない?」
やっぱそれかー。
まあ、それ以外にこんな場所まで来る理由はないよねー。
ただ何度言われたって、リフをアナスタシア王女に渡すことはないけれど。
「そのお話であればアナスタシア王女殿下との間で決着がついておりますので」
「決着? 貴様がシアに意地の悪い発言を繰り返しているだけだろう」
「…………」
嫌悪感を滲ませながらリュシアン王子が口にした言葉に、私は唇を真一文字に結ぶ。
それを見てどう感じたかはわからないけれど、黙り込む私にリュシアン王子は言葉を続けた。
「なぜそのような態度を取る? 先程はわざわざ書庫にやって来てまでシアを貶める発言を投げつけたそうではないか」
いや、わざわざ書庫までやってきたのはアナスタシア王女であって、傷付けるような発言はしたとはいえ先に勝手なことを言い始めたのもアナスタシア王女なんだけど。
だなんて言葉はリュシアン王子には届かないんだろう。
片方道理で事実の確認さえもなく私を責め立てるだけなのだから。
私は小さく息を吐いて口を開いた。
「申し訳ありませんが、どう言われようともリフをアナスタシア王女に託す事は万が一にもございません」
何事かと顔を覗かせたリフをそっと撫でながら、まっすぐにリュシアン王子を見据える。
それを真っ直ぐに受け止めたリュシアン王子は怪訝そうに眉を動かした。
「それは何故だ?」
「私はあの方のいう使者などではございません。それに、もし仮にそうであったとしても、リフを――仔竜を物のように扱うような方にどうして応じることが出来ましょう?」
「物のように扱うなどと言うのは控えろ。そのような事実はない。それに、仔竜を自分のアクセサリのように扱っているのは貴様の方だろう」
「…………は?」
仔竜を、リフを、私がアクセサリのように扱ってる?
バカバカしいにも程があるでしょ。だって、実際にそうした事をしてるのは――、
「お言葉ですが、私がリフをアクセサリのように扱うなどと、ありえません。むしろそのような言動をしているのはアナスタシア王女殿下ではございませんか?」
「貴様、俺の前でもそのような事をのたまうか」
「――のたまうもなにも、彼女の言うことは全て真実でしょう?」
と、はっきりとした声が響く。
凛としたその声は、向かい合う形になっているリュシアン王子の奥から聞こえた。
振り返るリュシアン王子の肩越しに見えたのはグレージュの短髪に蒼玉の眼を持った青年――ティートさんだ。
「そも、片方道理で責め立てるのはいかがかと思いますが?」
「ティート……貴様」
僅かに不機嫌さを滲ませた低い声を耳にしても、ティートさんは僅かに表情に笑みを携え、けれどもじっと責めるようにリュシアン王子を見つめていた。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
789
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる