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前篇:夢の通ひ路
第四十三話 其の二
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何度か、ぱちぱちと瞬きをしてみたものの、何も変わらない現実に雛菊を振り返ると、彼女もまた、信じられないといった表情で立ちすくんでいた。うん、この目は正常だ。
そこにいたのは、院、宮、姫宮に、仕えている女房達が複数名。
雰囲気は宴会そのものなのだけど、それとも違うような……。前者三人の前にはいくつかの膳が用意され、さすが皇族だ、遠目に見ても豪華なのはよく分かる。敷物の上に座り、院と姫宮の二人は宮の方を静かに見つめていた。その宮はというと、笛を構えている。やはり、この笛の音は宮が奏でていたものだったのだ。
そういえば以前、兄が、宮は笛の名手だと言っていたことをふと思い出した。確かに、ずっと聴いていたいくらい、美しく優しい――まるで、宮そのもののような、そんな音色だと思う。
紅葉に彩られた世界の中で、宮だけが、まるで時間が止まっているかのように見えた。あの人が私の夫だなんて、未だに信じられない。どんな言葉で表したとても、表現が追い付かず、ただ陳腐になってしまうような気がした。それくらい、彼も、彼の笛の音も圧倒的で目を奪われてしまう。
宮と私の距離はこんなにも近いのに、この足を進めればすぐ傍にいけるのに、どうしてこんなにも遠く、遠く離れているように思ってしまうのか。私と宮の間に、どうやっても越えられない時間の厚い壁が感じられて、胸がちくりと痛んだ。
あと何度こんなことを繰り返すのだろう。もう後戻りはできないと分かっているのに。
ざあっと強い風が吹いて、私の髪が揺れた。雛菊が小さな悲鳴を上げ、同時に笛の音が止んだ。
こちらに気が付いた宮が私を見つけ、にこりと微笑む。それだけでもやもやとしたものが吹き飛ぶのだから、私もなかなか単純だなと一人苦笑した。
「姫、待っていましたよ。早くこちらへ」
宮が呼びかけると、皆の視線が一斉に私に集められて、なぜか私は後ずさった。それは無意識だったのだけれど、判断は間違っていなかったと思う。
だって、こんな空気の中で「はい喜んで!」なんて言える度胸があるはずもない。しかも、庭に三人が集まって何をしているかも一切分からなければ、五条院の主である院までいるのだ。もう一度言うが、院だ。かつては帝だった院がいるのだ。宮や姫宮も皇族だが、院はまた違う、更に別格の存在である。
状況も読めない中、畏れ多くてそちらへなど行けるはずがない。初見のような御簾越しならまだしも、私が気安くお姿を拝見してよい相手ではないのだ。
ここはまず伏せて頭を下げるべきでは……?
そうだ、不敬になる! 直立不動でぼやっとしている場合ではない!
はっと気が付いて膝を折ろうとしたが、それはすんでのところで阻止された。いつの間にか来ていた宮が「今日だけは無礼講です」と笑う。
「父上も堅苦しいことはなしで、とおっしゃっていますから。ね?」
「さようなことをおっしゃられましても……あの、状況が全く分からないのですが。なぜ院や宮様が……?」
そもそも私は姫宮に急いで来いと言われてきたのであって、院や宮がいるだなんて一言も聞いていな――姫宮!?
嘘、と呟いたつもりが、唇が上下に小さく開いただけで、声にもならなかった。いや、宮がいる手前、ならなくてよかったのだけれど、自分の目が正しいかどうかをもう一度疑う羽目になるなんて。
「姫宮様……」
信じられなかった。今日は何度驚かされるのだろう。
秋の美しい風景に佇む、日本人形のような愛らしい姿。身に着けている打掛や扇は一級品だが、既にそれに負けないほど備わった気品が存在感を放っていた。初めて出会った頃よりも大分健康的になったあの少女は、柔らかい日差しの中に、ちょこんと座っている。
遠目にも、明らかに私と目があったはずなのに、どこか居心地が悪そうに視線をそらした。彼女が照れている時の仕草だ。しかし私の方は、不躾とは分かっていても目を伏せることができない。
――姫宮が、外にいる。
浮かんでくるのは、彼女が格子も御簾も全てさげ、几帳に囲まれた暗い牢獄のような部屋に籠っていたあの日々のこと。何度通っても、私はあの子を外に連れ出してあげることはできなかった。彼女の心を表すように建てられた几帳の数を減らすことが、やっとだった。
でも、今はその姫宮が、外にいる。それもきっと、自分の意志で。
たったそれだけのこと。だけど、とてもすごいことで、本当に姫宮にとっては勇気が必要なことで、そう思うだけで喉の上あたりがつんとした。どうしよう、泣いてしまいそう。
姫宮が、一歩、踏み出してくれた。あれほど嫌っていた光の中に。
「姫のおかげです。私達は、ようやくあの子の笑顔をみることができました」
「いいえ、私は何もっ……」
していません、と続けることができなかった。言葉が詰まって、代わりに、ただふるふると首を振る。
じわりと涙がまた滲んできて、奥へ押し込もうと何度かまばたきをするが、逆効果だった。姫宮に仕え、彼女のこれまでの境遇を知っていた身としては、どうしても他人事とは思えない。次から次へと、走馬灯のように色々なことが思い出されて、気を抜けば嬉し涙が溢れそうだった。
こんなことはまだ始まりで、あの子はこれからもっと幸せになっていくべき存在だ。それなのに、明るい空の下にいる姫宮を見ているだけで目頭が熱くなってしまう。
心配などいらなかった。宮の想いは姫宮へ届き、院や、おそらく上様との隔たりも解消されているのだろう。
姫宮が外にいることこそが、その何よりの証拠だった。
「貴女がいたからこその結果です、謙遜などしないで」
「姫宮様と、お話しになられたのでございますね。宮様の、皆様の想いが届いたようで、よろしゅうございました。本当に……」
「ええ。母上の形見のようなあの子を、どうして私達が憎むようなことがあるでしょうか。どれほどあの子を大事に思っていることか、何度も、あの子が分かってくれるまで伝えました。そうして、ようやくこの日を迎えることができたのです。まだ随分とぎこちない空気は残ってはいますが、以前に比べれば随分いい。あの子が、笑顔を見せてくれるのですから」
姫宮のそれは、花も綻ぶようなものだ。周りの人間も同じように笑顔にしてくれる。宮をはじめ、上様や院はずっと、そんな姫宮を見ることはできなかったのだろう。
中宮が亡くなってからの失われた家族としての時間は二度と戻ってこないけれど、この先、また新しい関係を築いていける。姫宮が過ごした不遇の時間でさえも無駄ではなかったと思える日が来るほど、幸せな日々が訪れるはずだ。私はそう思いたいし、そう願っている。
「姫宮のことでは心配をかけてしまいましたね。本当は姫にも、あの子と話したことを逐一伝えかったのですが、姫宮本人から許しが出なかったもので……すみません」
「姫宮様が……?」
「外へ出られるようになった自分の姿を、三の君に見せて喜ばせたい――、あの子はそう言いました。それまで、自分のことは姫には話してくれるなと。こうして外に出ることを、日々練習していたのです」
「宮様、私……」
「はい、あの子も待っているはずです」
最後まで口にせずとも分かってくれた宮は、こくりと笑顔で頷いた。
宮と女房達の手を借りながら前庭へ降り、まずは少し離れた院へ礼を取る。「よい」と許しをいただき、私は今度こそ姫宮の元へ参じた。照れくさそうに顔をほとんど扇で隠している姫宮は、ちらりと私を見ると驚いたように扇を下げて言った。
「そなた、何を泣いておるのじゃ!? ど、どこか痛いのか?」
「いいえ、姫宮様のお姿をこのように明るい陽の下で拝見できることが嬉しいのですわ。とても勇気の要ることでしたでしょう、姫宮様、よくなされました」
「……何を…… べつに、大したことではない」
「それならよいのです、おかしなことを申し上げましたわ」
ぷい、とまた顔をそらした彼女の横顔に朱が差していた。以前は青白くこけていた頬が、今は少しふっくらと丸みを帯び、柔らかい輪郭を作っていた。
「……嘘じゃ。本当は、御簾を上げるだけで眩しくて…… この光の中に入れば、我は消えてしまうのではと思うた」
無理もないと思う。長年遠ざけてきた世界へ足を踏みいれるには、相応の覚悟も必要としただろう。
姫宮の言葉に頷くと、けれど、と彼女が続ける。
「そなたの言葉があったから。そなたが、晴れた日の小川は美しいと言った。我はそれを見たかったのだ。いつか母上とも見た、あの景色を」
「それは、中宮様との思い出のまま、美しい光景でしたでしょうか」
「……うん。優しいせせらぎも、きらめく光も、そなたの申した通りであった。母上が愛した場所が、変わらずあった。我が目を背けていただけで、母上は、ずっとここにいらしたのだ。こうして、いつも我の傍に、光の中に」
姫宮の目が潤んだ。涙に揺れる瞳の奥に、確かに光が見えた。あの、暗闇しか映さなかった瞳が、小さく、だけどはっきりと輝きを持っている。
ああ、きっともう大丈夫――そう思えた。
院や上様、宮との関係性も、今後見違えるほどよくなっていくはずだ。元々、姫宮を愛している人達だ、姫宮が多少不器用に振舞ったとしても、彼らの方が上手くフォローして歩み寄ってくれる。そして、姫宮の本来持っていた明るさや素直さが見えれば、いい意味で、周囲の人々が驚き、彼女を見る目も変わっていく。全てがいい方向へと向かっている。
暗闇に籠った気難しく病弱な内親王は、もういない。二度と現れることもない。
「ありがとう、そなたに逢えてよかった」
ふわり、と姫宮が笑う。泣き笑いのような、少し、崩れた表情で。
でもそれは、私が今まで見てきた彼女のどんな表情よりも魅力的で、可愛らしいものだった。
そこにいたのは、院、宮、姫宮に、仕えている女房達が複数名。
雰囲気は宴会そのものなのだけど、それとも違うような……。前者三人の前にはいくつかの膳が用意され、さすが皇族だ、遠目に見ても豪華なのはよく分かる。敷物の上に座り、院と姫宮の二人は宮の方を静かに見つめていた。その宮はというと、笛を構えている。やはり、この笛の音は宮が奏でていたものだったのだ。
そういえば以前、兄が、宮は笛の名手だと言っていたことをふと思い出した。確かに、ずっと聴いていたいくらい、美しく優しい――まるで、宮そのもののような、そんな音色だと思う。
紅葉に彩られた世界の中で、宮だけが、まるで時間が止まっているかのように見えた。あの人が私の夫だなんて、未だに信じられない。どんな言葉で表したとても、表現が追い付かず、ただ陳腐になってしまうような気がした。それくらい、彼も、彼の笛の音も圧倒的で目を奪われてしまう。
宮と私の距離はこんなにも近いのに、この足を進めればすぐ傍にいけるのに、どうしてこんなにも遠く、遠く離れているように思ってしまうのか。私と宮の間に、どうやっても越えられない時間の厚い壁が感じられて、胸がちくりと痛んだ。
あと何度こんなことを繰り返すのだろう。もう後戻りはできないと分かっているのに。
ざあっと強い風が吹いて、私の髪が揺れた。雛菊が小さな悲鳴を上げ、同時に笛の音が止んだ。
こちらに気が付いた宮が私を見つけ、にこりと微笑む。それだけでもやもやとしたものが吹き飛ぶのだから、私もなかなか単純だなと一人苦笑した。
「姫、待っていましたよ。早くこちらへ」
宮が呼びかけると、皆の視線が一斉に私に集められて、なぜか私は後ずさった。それは無意識だったのだけれど、判断は間違っていなかったと思う。
だって、こんな空気の中で「はい喜んで!」なんて言える度胸があるはずもない。しかも、庭に三人が集まって何をしているかも一切分からなければ、五条院の主である院までいるのだ。もう一度言うが、院だ。かつては帝だった院がいるのだ。宮や姫宮も皇族だが、院はまた違う、更に別格の存在である。
状況も読めない中、畏れ多くてそちらへなど行けるはずがない。初見のような御簾越しならまだしも、私が気安くお姿を拝見してよい相手ではないのだ。
ここはまず伏せて頭を下げるべきでは……?
そうだ、不敬になる! 直立不動でぼやっとしている場合ではない!
はっと気が付いて膝を折ろうとしたが、それはすんでのところで阻止された。いつの間にか来ていた宮が「今日だけは無礼講です」と笑う。
「父上も堅苦しいことはなしで、とおっしゃっていますから。ね?」
「さようなことをおっしゃられましても……あの、状況が全く分からないのですが。なぜ院や宮様が……?」
そもそも私は姫宮に急いで来いと言われてきたのであって、院や宮がいるだなんて一言も聞いていな――姫宮!?
嘘、と呟いたつもりが、唇が上下に小さく開いただけで、声にもならなかった。いや、宮がいる手前、ならなくてよかったのだけれど、自分の目が正しいかどうかをもう一度疑う羽目になるなんて。
「姫宮様……」
信じられなかった。今日は何度驚かされるのだろう。
秋の美しい風景に佇む、日本人形のような愛らしい姿。身に着けている打掛や扇は一級品だが、既にそれに負けないほど備わった気品が存在感を放っていた。初めて出会った頃よりも大分健康的になったあの少女は、柔らかい日差しの中に、ちょこんと座っている。
遠目にも、明らかに私と目があったはずなのに、どこか居心地が悪そうに視線をそらした。彼女が照れている時の仕草だ。しかし私の方は、不躾とは分かっていても目を伏せることができない。
――姫宮が、外にいる。
浮かんでくるのは、彼女が格子も御簾も全てさげ、几帳に囲まれた暗い牢獄のような部屋に籠っていたあの日々のこと。何度通っても、私はあの子を外に連れ出してあげることはできなかった。彼女の心を表すように建てられた几帳の数を減らすことが、やっとだった。
でも、今はその姫宮が、外にいる。それもきっと、自分の意志で。
たったそれだけのこと。だけど、とてもすごいことで、本当に姫宮にとっては勇気が必要なことで、そう思うだけで喉の上あたりがつんとした。どうしよう、泣いてしまいそう。
姫宮が、一歩、踏み出してくれた。あれほど嫌っていた光の中に。
「姫のおかげです。私達は、ようやくあの子の笑顔をみることができました」
「いいえ、私は何もっ……」
していません、と続けることができなかった。言葉が詰まって、代わりに、ただふるふると首を振る。
じわりと涙がまた滲んできて、奥へ押し込もうと何度かまばたきをするが、逆効果だった。姫宮に仕え、彼女のこれまでの境遇を知っていた身としては、どうしても他人事とは思えない。次から次へと、走馬灯のように色々なことが思い出されて、気を抜けば嬉し涙が溢れそうだった。
こんなことはまだ始まりで、あの子はこれからもっと幸せになっていくべき存在だ。それなのに、明るい空の下にいる姫宮を見ているだけで目頭が熱くなってしまう。
心配などいらなかった。宮の想いは姫宮へ届き、院や、おそらく上様との隔たりも解消されているのだろう。
姫宮が外にいることこそが、その何よりの証拠だった。
「貴女がいたからこその結果です、謙遜などしないで」
「姫宮様と、お話しになられたのでございますね。宮様の、皆様の想いが届いたようで、よろしゅうございました。本当に……」
「ええ。母上の形見のようなあの子を、どうして私達が憎むようなことがあるでしょうか。どれほどあの子を大事に思っていることか、何度も、あの子が分かってくれるまで伝えました。そうして、ようやくこの日を迎えることができたのです。まだ随分とぎこちない空気は残ってはいますが、以前に比べれば随分いい。あの子が、笑顔を見せてくれるのですから」
姫宮のそれは、花も綻ぶようなものだ。周りの人間も同じように笑顔にしてくれる。宮をはじめ、上様や院はずっと、そんな姫宮を見ることはできなかったのだろう。
中宮が亡くなってからの失われた家族としての時間は二度と戻ってこないけれど、この先、また新しい関係を築いていける。姫宮が過ごした不遇の時間でさえも無駄ではなかったと思える日が来るほど、幸せな日々が訪れるはずだ。私はそう思いたいし、そう願っている。
「姫宮のことでは心配をかけてしまいましたね。本当は姫にも、あの子と話したことを逐一伝えかったのですが、姫宮本人から許しが出なかったもので……すみません」
「姫宮様が……?」
「外へ出られるようになった自分の姿を、三の君に見せて喜ばせたい――、あの子はそう言いました。それまで、自分のことは姫には話してくれるなと。こうして外に出ることを、日々練習していたのです」
「宮様、私……」
「はい、あの子も待っているはずです」
最後まで口にせずとも分かってくれた宮は、こくりと笑顔で頷いた。
宮と女房達の手を借りながら前庭へ降り、まずは少し離れた院へ礼を取る。「よい」と許しをいただき、私は今度こそ姫宮の元へ参じた。照れくさそうに顔をほとんど扇で隠している姫宮は、ちらりと私を見ると驚いたように扇を下げて言った。
「そなた、何を泣いておるのじゃ!? ど、どこか痛いのか?」
「いいえ、姫宮様のお姿をこのように明るい陽の下で拝見できることが嬉しいのですわ。とても勇気の要ることでしたでしょう、姫宮様、よくなされました」
「……何を…… べつに、大したことではない」
「それならよいのです、おかしなことを申し上げましたわ」
ぷい、とまた顔をそらした彼女の横顔に朱が差していた。以前は青白くこけていた頬が、今は少しふっくらと丸みを帯び、柔らかい輪郭を作っていた。
「……嘘じゃ。本当は、御簾を上げるだけで眩しくて…… この光の中に入れば、我は消えてしまうのではと思うた」
無理もないと思う。長年遠ざけてきた世界へ足を踏みいれるには、相応の覚悟も必要としただろう。
姫宮の言葉に頷くと、けれど、と彼女が続ける。
「そなたの言葉があったから。そなたが、晴れた日の小川は美しいと言った。我はそれを見たかったのだ。いつか母上とも見た、あの景色を」
「それは、中宮様との思い出のまま、美しい光景でしたでしょうか」
「……うん。優しいせせらぎも、きらめく光も、そなたの申した通りであった。母上が愛した場所が、変わらずあった。我が目を背けていただけで、母上は、ずっとここにいらしたのだ。こうして、いつも我の傍に、光の中に」
姫宮の目が潤んだ。涙に揺れる瞳の奥に、確かに光が見えた。あの、暗闇しか映さなかった瞳が、小さく、だけどはっきりと輝きを持っている。
ああ、きっともう大丈夫――そう思えた。
院や上様、宮との関係性も、今後見違えるほどよくなっていくはずだ。元々、姫宮を愛している人達だ、姫宮が多少不器用に振舞ったとしても、彼らの方が上手くフォローして歩み寄ってくれる。そして、姫宮の本来持っていた明るさや素直さが見えれば、いい意味で、周囲の人々が驚き、彼女を見る目も変わっていく。全てがいい方向へと向かっている。
暗闇に籠った気難しく病弱な内親王は、もういない。二度と現れることもない。
「ありがとう、そなたに逢えてよかった」
ふわり、と姫宮が笑う。泣き笑いのような、少し、崩れた表情で。
でもそれは、私が今まで見てきた彼女のどんな表情よりも魅力的で、可愛らしいものだった。
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