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8話 人の優しさ。涙。そして焦る
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しばらく歩くと《パン屋ドリー》と看板がある建物が見えてきた。こちらは肌色を基本としたレンガのような石でできており、屋根は濃い茶色。
食パンのような色合いで、おばさんの見た目とは裏腹に可愛らしい建物だった。
おばさんがちょっと待っとくれと鍵を開けて中へ迎え入れてくれる。店内に入るとパンの良い匂いが立ち込めていた。
パンの匂いを嗅ぐなんて、何年ぶりだろうと匂いだけで幸せな気分になる。
ルピも良い匂いが嬉しいのか、ピィー♪と嬉しそうに鳴いてパンを食べようとしていたので、慌てて止める。
「ルピ、ダメだよ!ここのパンは売り物だから、勝手に食べちゃダメなんだよ」
「ピィ…ルル…」
「アッハハハ‼︎良いさ良いさ!食べなお嬢ちゃん。お腹減っただろう。あとで美味しいものをこしらえてあげるから、ほどほどにね」
「ピィー♪」
「すいません。ルピが食べたパンはお金払います」
「なにを言ってるんだい!さっきも言ったろう?旦那の命の恩人なんだから、気にせず食べな。今日は店じまいでどのみちそのパンは、私達の夕食の1つになるんだから気にすることないさ。あんたも食べな」
「それなら、僕も一つ頂きます!」
「1つと言わず、食べたいだけ食べな!晩御飯ぶんは腹を空けときなよ!」
おばさんは夕飯の準備をすると台所へ向かっていった。
店じまいということもあり、そんなに多くはないパンを見渡しながらクリームパンを取り、頂きますと食べる。
口に入れた瞬間に柔らかいパンの食感がふわりとし、パンの香ばしい匂い。その中から優しい甘いクリームが口いっぱいに広がる。
パンってこんなに美味しかったんだ。パンってこんな味だったんだ。パンってこんなに柔らかいんだ…思えば思うほど自然と涙が出ていた。食べながら泣く僕をルピが心配そうに声をかけてくる。
「坊主⁉︎どうしたんだ⁉︎どこか痛むのか⁉︎」
慌てたようにおじさんが駆け寄り、その声におばさんもどうしたんだい⁉︎と台所から出てきた。
「あ…ごめんなさい…。僕…僕パンを食べるのなんて本当に小さい頃に食べただけで、こんな美味しいものが食べれるのが嬉しくって…」
そう言いながら泣く僕を見て、おじさんもおばさんも村ではそんなに苦労したのかいと、優しく背中を撫でてくれた。それにまた涙があふれてくる。
しばらく泣いたところで、おばさんが少し休んでなと2階の客間に通してくれた。ソファーに座ると疲れと安心感から来る眠気に逆らえず寝てしまった。
どれぐらい寝たんだろう…と思いながら目を覚ますと、部屋には小さなランプが付いておりタオルケットがかけられていた。
ルピの姿が見えなかったので一階に向かう階段を降りて行くと、楽しそうなおじさんおばさんの声に混じりルピの声も聞こえてきた。
「あんた小さいのに強いんだって!すごいじゃないかい‼︎うちの旦那なんて弱くて弱くて困ったもんだよ。アンタ‼︎馬が買えるまで小遣いはないよ‼︎」
「ピィー♪」
「おい!子供の前でそんなことを言うもんじゃないだろ⁉︎俺だって戦ったからここにいるんだし…」
「戦って勝てなけりゃ、意味ないさね」
「いや、それはだな…。数が多くて…」
キィ…と扉を開け
「すいません。僕寝ちゃったみたいで、ルピの相手をしてもらってありがとうございます」
「お!坊主起きたか。俺たちがこの子に相手してもらってるんだ。ありがとな」
「ピィ~ルル♪」
「この人のことで疲れさせて悪かったね。腹がへっただろう。お嬢ちゃんもあんたが起きるまでは食べないと待ってたんだ。さぁ、食べよう」
ルピの横に座ろうとして、ルピがワンピースを着ていることに気づく。会った時から大事な部分はフワフワの羽で覆われていたため、そんなものなんだろうなとルピの服なんて考えたことなかった。
「ルピ、そのお洋服どうしたの?」
「ピッ!(おばさんを指す)」
「女の子なのに裸は可哀想でね。即席で悪いけど作ったのさ」
「何から何まですいません…。ルピ、お礼は言ったの?」
「ピィ♪」
おばさんに満面の笑みで一礼するルピ。
「なんて可愛いんだい!お礼はその笑顔で十分さね」
おばさんはそう言いながら立ち上がると、手際よく料理を出してくれる。
野菜スープ。サラダ。ハンバーグのようなお肉。パン。それらが食卓に並んだ。
「「天の恵みに感謝して、頂きます」」
おじさんとおばさんが食卓に向かい、そう声をかけるので僕も真似をし同じ言葉を言った。
ルピもピルルルと手を合わせながら真似する姿が可愛い。
野菜スープは、野菜の甘みが胃を優しく包み込み、サラダは酸味の効いたドレッシングが口をサッパリとさせ、ハンバーグはめちゃくちゃジューシーだった。
おじさんに、サラダとハンバーグをパンに挟んで食べるとうまいぞ!と言われ食べてみると、肉汁にサラダの酸味が良い具合にきいてとても美味しかった。
この世界に来て、普通に食事が取れることがとても嬉しかった。ルピもとても美味しいのか、ピッピッ!とおばさんが作ってくれた一口サイズのハンバーグサンドイッチを頬張っていた。
食べ終わり、おばさんが食後の口直しにとお茶を出してくれ温かいお茶が体に染み渡る。
「そういや、あんた達の名前はなんていうんだい?」
「僕が久保颯人で、この子がルピです」
「クボハヤトって、クボが苗字なのかい?」
「そうですね。そうなると思います」
「あんたどっかのお坊ちゃんだったのかい?苗字があるのは貴族か王族ぐらいなもんさね」
ぇ⁉︎そうなの。しまった…これはミスったのか⁉︎焦りながら考える。
「僕を育ててくれた人が、クボって呼ばれて、僕がハヤトって呼ばれてて、村の人も僕をクボのハヤトって読んでたんでクボハヤトだと思ったんですが違うんですか?」
「あー!なるほど。その人はクボが名前さね。で、あんたがハヤト。クボのところのハヤトだから、クボのハヤトって呼んでたんだろうね。知らないのもビックリだけど、貴族かとビックリしたよ」
お。良い感じに解釈してくれたみたいで助かった。
食パンのような色合いで、おばさんの見た目とは裏腹に可愛らしい建物だった。
おばさんがちょっと待っとくれと鍵を開けて中へ迎え入れてくれる。店内に入るとパンの良い匂いが立ち込めていた。
パンの匂いを嗅ぐなんて、何年ぶりだろうと匂いだけで幸せな気分になる。
ルピも良い匂いが嬉しいのか、ピィー♪と嬉しそうに鳴いてパンを食べようとしていたので、慌てて止める。
「ルピ、ダメだよ!ここのパンは売り物だから、勝手に食べちゃダメなんだよ」
「ピィ…ルル…」
「アッハハハ‼︎良いさ良いさ!食べなお嬢ちゃん。お腹減っただろう。あとで美味しいものをこしらえてあげるから、ほどほどにね」
「ピィー♪」
「すいません。ルピが食べたパンはお金払います」
「なにを言ってるんだい!さっきも言ったろう?旦那の命の恩人なんだから、気にせず食べな。今日は店じまいでどのみちそのパンは、私達の夕食の1つになるんだから気にすることないさ。あんたも食べな」
「それなら、僕も一つ頂きます!」
「1つと言わず、食べたいだけ食べな!晩御飯ぶんは腹を空けときなよ!」
おばさんは夕飯の準備をすると台所へ向かっていった。
店じまいということもあり、そんなに多くはないパンを見渡しながらクリームパンを取り、頂きますと食べる。
口に入れた瞬間に柔らかいパンの食感がふわりとし、パンの香ばしい匂い。その中から優しい甘いクリームが口いっぱいに広がる。
パンってこんなに美味しかったんだ。パンってこんな味だったんだ。パンってこんなに柔らかいんだ…思えば思うほど自然と涙が出ていた。食べながら泣く僕をルピが心配そうに声をかけてくる。
「坊主⁉︎どうしたんだ⁉︎どこか痛むのか⁉︎」
慌てたようにおじさんが駆け寄り、その声におばさんもどうしたんだい⁉︎と台所から出てきた。
「あ…ごめんなさい…。僕…僕パンを食べるのなんて本当に小さい頃に食べただけで、こんな美味しいものが食べれるのが嬉しくって…」
そう言いながら泣く僕を見て、おじさんもおばさんも村ではそんなに苦労したのかいと、優しく背中を撫でてくれた。それにまた涙があふれてくる。
しばらく泣いたところで、おばさんが少し休んでなと2階の客間に通してくれた。ソファーに座ると疲れと安心感から来る眠気に逆らえず寝てしまった。
どれぐらい寝たんだろう…と思いながら目を覚ますと、部屋には小さなランプが付いておりタオルケットがかけられていた。
ルピの姿が見えなかったので一階に向かう階段を降りて行くと、楽しそうなおじさんおばさんの声に混じりルピの声も聞こえてきた。
「あんた小さいのに強いんだって!すごいじゃないかい‼︎うちの旦那なんて弱くて弱くて困ったもんだよ。アンタ‼︎馬が買えるまで小遣いはないよ‼︎」
「ピィー♪」
「おい!子供の前でそんなことを言うもんじゃないだろ⁉︎俺だって戦ったからここにいるんだし…」
「戦って勝てなけりゃ、意味ないさね」
「いや、それはだな…。数が多くて…」
キィ…と扉を開け
「すいません。僕寝ちゃったみたいで、ルピの相手をしてもらってありがとうございます」
「お!坊主起きたか。俺たちがこの子に相手してもらってるんだ。ありがとな」
「ピィ~ルル♪」
「この人のことで疲れさせて悪かったね。腹がへっただろう。お嬢ちゃんもあんたが起きるまでは食べないと待ってたんだ。さぁ、食べよう」
ルピの横に座ろうとして、ルピがワンピースを着ていることに気づく。会った時から大事な部分はフワフワの羽で覆われていたため、そんなものなんだろうなとルピの服なんて考えたことなかった。
「ルピ、そのお洋服どうしたの?」
「ピッ!(おばさんを指す)」
「女の子なのに裸は可哀想でね。即席で悪いけど作ったのさ」
「何から何まですいません…。ルピ、お礼は言ったの?」
「ピィ♪」
おばさんに満面の笑みで一礼するルピ。
「なんて可愛いんだい!お礼はその笑顔で十分さね」
おばさんはそう言いながら立ち上がると、手際よく料理を出してくれる。
野菜スープ。サラダ。ハンバーグのようなお肉。パン。それらが食卓に並んだ。
「「天の恵みに感謝して、頂きます」」
おじさんとおばさんが食卓に向かい、そう声をかけるので僕も真似をし同じ言葉を言った。
ルピもピルルルと手を合わせながら真似する姿が可愛い。
野菜スープは、野菜の甘みが胃を優しく包み込み、サラダは酸味の効いたドレッシングが口をサッパリとさせ、ハンバーグはめちゃくちゃジューシーだった。
おじさんに、サラダとハンバーグをパンに挟んで食べるとうまいぞ!と言われ食べてみると、肉汁にサラダの酸味が良い具合にきいてとても美味しかった。
この世界に来て、普通に食事が取れることがとても嬉しかった。ルピもとても美味しいのか、ピッピッ!とおばさんが作ってくれた一口サイズのハンバーグサンドイッチを頬張っていた。
食べ終わり、おばさんが食後の口直しにとお茶を出してくれ温かいお茶が体に染み渡る。
「そういや、あんた達の名前はなんていうんだい?」
「僕が久保颯人で、この子がルピです」
「クボハヤトって、クボが苗字なのかい?」
「そうですね。そうなると思います」
「あんたどっかのお坊ちゃんだったのかい?苗字があるのは貴族か王族ぐらいなもんさね」
ぇ⁉︎そうなの。しまった…これはミスったのか⁉︎焦りながら考える。
「僕を育ててくれた人が、クボって呼ばれて、僕がハヤトって呼ばれてて、村の人も僕をクボのハヤトって読んでたんでクボハヤトだと思ったんですが違うんですか?」
「あー!なるほど。その人はクボが名前さね。で、あんたがハヤト。クボのところのハヤトだから、クボのハヤトって呼んでたんだろうね。知らないのもビックリだけど、貴族かとビックリしたよ」
お。良い感じに解釈してくれたみたいで助かった。
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