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きっかけは、自分が彼女を家に招いたことであった。
試験が近いということもあり、一緒に勉強しようかということになったのである。図書室でも良かったのだが満員御礼の状態だった。皆、考えることは同じらしい。
「……私、ユキトくんのお部屋に行ってみたいな」
普段は気弱ゆえかあまり自己主張しない彼女のカナエがそう言ったのをユキトは了承した。親が留守の隙に彼女を連れ込むことに多少の罪悪感はあったが、時間的に小学生の弟は帰宅済みの筈で、変な気を起こす心配もないとある種の油断、楽観的なモノがあった。
玄関を開けると見慣れた弟の靴の他に、2足の履き潰された靴が乱雑に脱ぎ捨てられていた。どうやら弟が友人を連れ込んでいるらしい。
ユキトはそれらをきちんと揃え直してやりながらカナエへ言った。
「ごめん、弟が友達つれてきてるみたいだ。ちょっとうるさいかも」
「ううん、大丈夫……ていうかユキトくん弟さんいたんだね」
「あ、うん、まぁ……」
最近、自分とあまり口をきいてくれなくなった弟の顔を思い浮かべる。ついこの間までは宿題を教えたり、学校であったことや好きな漫画やアニメの話を聞かせてくれていたのに……反抗期だろうか?
自室のドアを開けながら隣の部屋のドアを見る。部屋の内側からは3人がゲームか何かに興じるはしゃぎ声が漏れ聞こえていた。
この時点でユキトはなんとなく【厭な予感】めいたものを感じていたが、今更「場所を変えよう」とも言い出せず。結局、部屋で向かい合って試験対策を始めた。問題が起きたのはその僅か5分後であった。
「兄貴、部屋に女連れ込んでんの?」
ノックもなしにドアが開き、悪ガキ3人組がドカドカと乗り込んできたのである。
「そ、颯真。お前なぁ……!」
ギョッとして立ち上がるユキトを無視して、弟の颯真とその取り巻き2人は挨拶もそこそこにカナエの方へと殺到していた。
「へー、兄貴の好みってこんななんだ」
「まぁまぁじゃん? ねえ名前なんて言うの?」
「あ、えと……カナエです。こんにちは……」
3人の勢いと無遠慮さに気圧されながらカナエがどうにか名前を答えている様子を見て、ユキトは慌てて間に入ろうとした。
「お前ら、あっち行け。俺ら勉強してんだよ」
「ちょっとくらいいーじゃん。なぁ? カナエ姉ちゃん」
「あ……う、うん。大丈夫だよ」
「カナエ、こいつらに気を遣わなくていいから」
ユキトは溜め息を吐いた。カナエの誰にでも平等に優しい所は好きだが、優しすぎてどんな相手にも強く出れない所は欠点と言えるだろう。
颯真たちはますます調子づいて質問を繰り出しまくる。
適当なところで切り上げさせようとユキトが見守っていると、質問の内容がやや妙な方向へと進みだした。
「カナエ姉ちゃんてさ、処女なん?」
「颯真の兄ちゃんとヤッた? 兄ちゃんのチンコどうだった?」
「オナニーしてる?」
ニヤニヤと笑いながら弟とその取り巻きたちがカナエへ口々に問いを投げかけている。思わずユキトは大声を出していた。
「お前たち、いい加減にしろ!」
颯真たちの年齢を考えれば、性的なことに興味を持つのは当然である。むしろ健全に成長していると言っても過言ではない。だが、いくらなんでも初対面の年上の異性に……ましてや実の兄の彼女へ浴びせかけるような内容の質問ではないだろう。ハッキリ言えば侮辱でしかない。
カナエの方を見ると、予想もしていなかった言葉の数々に顔を赤くしたり青くしたりして固まっていた。
ユキトはもはや我慢の限界だと言いたげに、颯真たちを部屋から追い出そうとした。「お前ら、向こうへ戻れ!」
しかしその程度で悪ガキ3人組が怯むはずがない。
むしろカナエへの蛮行とも取れる言動は酷さを増した。「きゃっ」とカナエが小さく悲鳴を上げる。取り巻きの片方、小太りの少年がカナエのブラウスの上から豊かな胸を触っていた。
「カナエ姉ちゃんおっぱいデカいなぁ! これでユキ兄ちゃんのチンポ挟んだり扱いたりしてんでしょ?」
それに追従するかのように、今度はもう片方の痩せぎすの少年も手を伸ばしカナエの下半身を撫でまわす。この2人はコウタとアキヒコといって、颯真とつるむ前から2人で行動していた悪ガキである。
「ケツもデカいよね。大人しそうな顔してんのに、スケベな身体してるよな。クラスの男、絶対姉ちゃんでシコってるって」
「や……あの、ね? 女の人の身体を勝手に触るのは、よ、良くないことなんだよ……?」
必死に宥めようとするカナエ。しかし悪ガキ3人組はそんな様子などどこ吹く風で、ますますエスカレートしていった。
「マジでいい加減にしろって!」
ついに堪忍袋の緒が切れたユキトが柄にもなく大声を上げながらカナエと悪ガキ3人を引き剥がした。勢いのまま殴りつけなかっただけ寛容だ。しかし、そんな兄を嘲笑するように颯真は耳元に口を寄せてこう告げた。
「なあ、アンタの彼女さ。俺らに貸してくんね?」
「なっ――」
コイツは急に何をバカげたことを言いだすんだ?
混乱するユキトと、取り巻き2人を連れて颯真は一度廊下へと出た。
「……さっきのはどういう意味だ?」
「そのまんまの意味だけど? カナエ姉ちゃん貸してよ。ぶっちゃけ顔はイマイチだけど、身体はマジでスケベだよね?」
「あっじゃあオレにも! オレ、ケツでやってみたいんだよなァ」
「JK食ったことはなかったもんな」
「……」
果たして眼前の3人が何を言っているのか、ユキトには心底理解できなかった。ようやく年齢二桁に足をかけたばかりの子供のくせに、言動は下卑た大人そのものだった。
「な、何言ってんだよお前ら……」
唖然とするユキトへ颯真はこう続ける。
「だからさァ、別に難しいこと言ってねぇだろ? カナエ姉ちゃん貸してよって」
「そんなことできるわけないだろ!」
この3人がいわゆる【問題児】として大人たちが手を焼いていることは知っていた。知ってはいたが、まさかここまでとは……それに、なんだかんだと自分には懐いてくれているとユキトは信じていたのだ。事実、こんな言動と態度を取られたのは今日が初めてである。
しかし、いつまでも圧倒されて呆然としている訳にはいかない。
「カナエに手を出すな!」
激昂する兄に、弟は意外にもあっさりと頷いた。
「そこまで言うんならいいよ。その代わり、兄貴のケツマンコ貸してよ」
「……っ! そ、んなこと」
「じゃあやっぱアンタの女使うわ。あーいうタイプって意外とスキモノだから、すぐにアンアン言うようになるよ」
「やめろ!」
「じゃあどうすんの? 兄貴、頭良いんだからどうすりゃいいかわかるよな?」
「う……」
主導権がとっくに颯真に握られていることを、ユキトは今更思い知った。ここで彼の要請を断ればカナエがどうなるかは明白である。
「わ、わかったよ……! それでお前らは満足するんだろ?」
項垂れ、震える声で了承する兄を颯真は歪んだ笑みで眺めた。
試験が近いということもあり、一緒に勉強しようかということになったのである。図書室でも良かったのだが満員御礼の状態だった。皆、考えることは同じらしい。
「……私、ユキトくんのお部屋に行ってみたいな」
普段は気弱ゆえかあまり自己主張しない彼女のカナエがそう言ったのをユキトは了承した。親が留守の隙に彼女を連れ込むことに多少の罪悪感はあったが、時間的に小学生の弟は帰宅済みの筈で、変な気を起こす心配もないとある種の油断、楽観的なモノがあった。
玄関を開けると見慣れた弟の靴の他に、2足の履き潰された靴が乱雑に脱ぎ捨てられていた。どうやら弟が友人を連れ込んでいるらしい。
ユキトはそれらをきちんと揃え直してやりながらカナエへ言った。
「ごめん、弟が友達つれてきてるみたいだ。ちょっとうるさいかも」
「ううん、大丈夫……ていうかユキトくん弟さんいたんだね」
「あ、うん、まぁ……」
最近、自分とあまり口をきいてくれなくなった弟の顔を思い浮かべる。ついこの間までは宿題を教えたり、学校であったことや好きな漫画やアニメの話を聞かせてくれていたのに……反抗期だろうか?
自室のドアを開けながら隣の部屋のドアを見る。部屋の内側からは3人がゲームか何かに興じるはしゃぎ声が漏れ聞こえていた。
この時点でユキトはなんとなく【厭な予感】めいたものを感じていたが、今更「場所を変えよう」とも言い出せず。結局、部屋で向かい合って試験対策を始めた。問題が起きたのはその僅か5分後であった。
「兄貴、部屋に女連れ込んでんの?」
ノックもなしにドアが開き、悪ガキ3人組がドカドカと乗り込んできたのである。
「そ、颯真。お前なぁ……!」
ギョッとして立ち上がるユキトを無視して、弟の颯真とその取り巻き2人は挨拶もそこそこにカナエの方へと殺到していた。
「へー、兄貴の好みってこんななんだ」
「まぁまぁじゃん? ねえ名前なんて言うの?」
「あ、えと……カナエです。こんにちは……」
3人の勢いと無遠慮さに気圧されながらカナエがどうにか名前を答えている様子を見て、ユキトは慌てて間に入ろうとした。
「お前ら、あっち行け。俺ら勉強してんだよ」
「ちょっとくらいいーじゃん。なぁ? カナエ姉ちゃん」
「あ……う、うん。大丈夫だよ」
「カナエ、こいつらに気を遣わなくていいから」
ユキトは溜め息を吐いた。カナエの誰にでも平等に優しい所は好きだが、優しすぎてどんな相手にも強く出れない所は欠点と言えるだろう。
颯真たちはますます調子づいて質問を繰り出しまくる。
適当なところで切り上げさせようとユキトが見守っていると、質問の内容がやや妙な方向へと進みだした。
「カナエ姉ちゃんてさ、処女なん?」
「颯真の兄ちゃんとヤッた? 兄ちゃんのチンコどうだった?」
「オナニーしてる?」
ニヤニヤと笑いながら弟とその取り巻きたちがカナエへ口々に問いを投げかけている。思わずユキトは大声を出していた。
「お前たち、いい加減にしろ!」
颯真たちの年齢を考えれば、性的なことに興味を持つのは当然である。むしろ健全に成長していると言っても過言ではない。だが、いくらなんでも初対面の年上の異性に……ましてや実の兄の彼女へ浴びせかけるような内容の質問ではないだろう。ハッキリ言えば侮辱でしかない。
カナエの方を見ると、予想もしていなかった言葉の数々に顔を赤くしたり青くしたりして固まっていた。
ユキトはもはや我慢の限界だと言いたげに、颯真たちを部屋から追い出そうとした。「お前ら、向こうへ戻れ!」
しかしその程度で悪ガキ3人組が怯むはずがない。
むしろカナエへの蛮行とも取れる言動は酷さを増した。「きゃっ」とカナエが小さく悲鳴を上げる。取り巻きの片方、小太りの少年がカナエのブラウスの上から豊かな胸を触っていた。
「カナエ姉ちゃんおっぱいデカいなぁ! これでユキ兄ちゃんのチンポ挟んだり扱いたりしてんでしょ?」
それに追従するかのように、今度はもう片方の痩せぎすの少年も手を伸ばしカナエの下半身を撫でまわす。この2人はコウタとアキヒコといって、颯真とつるむ前から2人で行動していた悪ガキである。
「ケツもデカいよね。大人しそうな顔してんのに、スケベな身体してるよな。クラスの男、絶対姉ちゃんでシコってるって」
「や……あの、ね? 女の人の身体を勝手に触るのは、よ、良くないことなんだよ……?」
必死に宥めようとするカナエ。しかし悪ガキ3人組はそんな様子などどこ吹く風で、ますますエスカレートしていった。
「マジでいい加減にしろって!」
ついに堪忍袋の緒が切れたユキトが柄にもなく大声を上げながらカナエと悪ガキ3人を引き剥がした。勢いのまま殴りつけなかっただけ寛容だ。しかし、そんな兄を嘲笑するように颯真は耳元に口を寄せてこう告げた。
「なあ、アンタの彼女さ。俺らに貸してくんね?」
「なっ――」
コイツは急に何をバカげたことを言いだすんだ?
混乱するユキトと、取り巻き2人を連れて颯真は一度廊下へと出た。
「……さっきのはどういう意味だ?」
「そのまんまの意味だけど? カナエ姉ちゃん貸してよ。ぶっちゃけ顔はイマイチだけど、身体はマジでスケベだよね?」
「あっじゃあオレにも! オレ、ケツでやってみたいんだよなァ」
「JK食ったことはなかったもんな」
「……」
果たして眼前の3人が何を言っているのか、ユキトには心底理解できなかった。ようやく年齢二桁に足をかけたばかりの子供のくせに、言動は下卑た大人そのものだった。
「な、何言ってんだよお前ら……」
唖然とするユキトへ颯真はこう続ける。
「だからさァ、別に難しいこと言ってねぇだろ? カナエ姉ちゃん貸してよって」
「そんなことできるわけないだろ!」
この3人がいわゆる【問題児】として大人たちが手を焼いていることは知っていた。知ってはいたが、まさかここまでとは……それに、なんだかんだと自分には懐いてくれているとユキトは信じていたのだ。事実、こんな言動と態度を取られたのは今日が初めてである。
しかし、いつまでも圧倒されて呆然としている訳にはいかない。
「カナエに手を出すな!」
激昂する兄に、弟は意外にもあっさりと頷いた。
「そこまで言うんならいいよ。その代わり、兄貴のケツマンコ貸してよ」
「……っ! そ、んなこと」
「じゃあやっぱアンタの女使うわ。あーいうタイプって意外とスキモノだから、すぐにアンアン言うようになるよ」
「やめろ!」
「じゃあどうすんの? 兄貴、頭良いんだからどうすりゃいいかわかるよな?」
「う……」
主導権がとっくに颯真に握られていることを、ユキトは今更思い知った。ここで彼の要請を断ればカナエがどうなるかは明白である。
「わ、わかったよ……! それでお前らは満足するんだろ?」
項垂れ、震える声で了承する兄を颯真は歪んだ笑みで眺めた。
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