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薄明かりに包まれた寝室、ベッドに上がっても、真山は正座して身を小さくしていた。すぐ目の前、膝を突き合わせた向かいには桐野がいる。
羽織らされたバスローブの裾を握って俯いたまま、真山は桐野の方を見られず、その視線は白いシーツの上に落ちたままだった。
桐野からの視線は痛いくらいに感じるのに、あんなところを見られてどんな顔をしていいかわからなかったし、桐野にどんな目で見られているのか確かめるのが怖かった。
「慎くん、顔を上げてくれ」
俯いた真山の肩が跳ねる。桐野の声は穏やかなものだったが、身体は固まってしまったかのようにいうことを聞かなかった。
「慎くん」
怖くて顔が上げられないでいると、頬を両手で包まれて顔を上げさせられる。
そこにあったのは、優しい桐野の笑みだった。
「ふふ。やっとこっちを見てくれた」
「そ、いちさん」
腫れた目元を見られてしまった。照明が落とされた部屋でも、こんなに近い距離では気付かれてしまう。見せたくなかった。きっと面倒臭いと思われる。
「たくさん泣いたんだな」
桐野の指先は赤みの差した目元を、冷えた頬を、労わるようにそっと撫でた。触れる指先の優しさに、真山の瞳に涙が滲む。
「すまない、君に、こんな顔をさせてしまった」
苦しさの見える桐野のせつなげな笑みは真山の心を溶かしていく。
真山の唇が震え、ぽつりぽつりと言葉を零す。
「おれ、あんたに抱いてほしくて。でも、そーいちさんから誘ってくれないから、俺ばっかり好きなのかと思って、寂しくて。そーいちさん、ほんとは、オメガと、したいんじゃ、ないかって」
思い出して悲しくなった。ずっと、桐野に誘ってほしかった。桐野の口から、甘やかな言葉で伺いをたてられるのをずっと待っていた。
真山の濡れた鳶色の瞳が揺れ、押し出されるようにして涙が溢れる。喉は引き攣るような痛みを訴えた。
「アルファの俺じゃ、あんたを繋いでおけないって思って、悲しかったし、悔しかった」
声が震える。
オメガでもない真山が桐野を縛っておくのは不可能だ。そもそも、アルファはアルファとつがいになるようにできていない。アルファとアルファの間には、互いを繋ぐものも縛るものも、惹きつける何かも、二人を強く結びつける確固たるものがない。
フェロモンも、つがいも存在しない。好きとか愛しているとか、そんな言葉を囁いて、身体を繋いで。アルファ同士の間にはそれくらいしかないのだ。
それも、オメガのフェロモンに当てられれば容易く壊れてしまう。真山には、それが怖かった。
だから余計にオメガを恐れ、同時に憧れた。
オメガはアルファとつがいになれる。そう簡単には離れられない。それはずっと眩く、ときに疎ましいほどの憧れとして真山の心に存在していた。
「俺がオメガになれたらいいのにって思っても、あんたに抱いて貰えなかったら、それも叶わない、から」
鳶色の瞳から透き通った雫を落とし、真山は鼻を啜った。
「離れようと思ったのに、辛くて、離れたくなかった。俺、もう、あんたから離れらんない」
真山はぽろぽろと涙を零しながら、その胸の内を桐野に伝えた。全部伝わらなくてもいい。ほんの一握りでも、一欠片でも、一粒でも、伝わってくれたらよかった。
「すまない。君に、そんな苦しい思いをさせていたなんて」
桐野は眉を下げると、真山を抱き寄せた。
優しく包み込むような桐野の腕の中は温かくて、真山はまた涙を落とす。落ちた雫は桐野のパジャマに暗い色の小さな染みをつくった。
「気付けなくて、ごめん」
静かな桐野の声は雨粒のように優しく真山の胸に落ちた。
「慎くん、僕はちゃんと君のことが好きだし、君を抱きたいと思ってる」
「っ、うそ……」
真山は信じられなくて桐野を見上げる。桐野の顔は真剣そのものだった。
「嘘じゃない」
「あんな、ケツでオナってるの、見たのに」
「あれは、可愛かったし、少し頭にきた」
「っえ」
「僕以外で気持ちよくなっているのが、許せなかった」
桐野の声が怒っているように聞こえたのはそのせいかと真山は思う。少し怖かったが、理由がわかった今は安堵が残るばかりだった。
「君を独り占めしたい気持ちが抑えられないんだ。ずっと、僕だけのものにしたい」
桐野はいつもよりもずっと饒舌だった。絶えず紡がれるその言葉は、桐野の深いところから生まれているように思えた。
羽織らされたバスローブの裾を握って俯いたまま、真山は桐野の方を見られず、その視線は白いシーツの上に落ちたままだった。
桐野からの視線は痛いくらいに感じるのに、あんなところを見られてどんな顔をしていいかわからなかったし、桐野にどんな目で見られているのか確かめるのが怖かった。
「慎くん、顔を上げてくれ」
俯いた真山の肩が跳ねる。桐野の声は穏やかなものだったが、身体は固まってしまったかのようにいうことを聞かなかった。
「慎くん」
怖くて顔が上げられないでいると、頬を両手で包まれて顔を上げさせられる。
そこにあったのは、優しい桐野の笑みだった。
「ふふ。やっとこっちを見てくれた」
「そ、いちさん」
腫れた目元を見られてしまった。照明が落とされた部屋でも、こんなに近い距離では気付かれてしまう。見せたくなかった。きっと面倒臭いと思われる。
「たくさん泣いたんだな」
桐野の指先は赤みの差した目元を、冷えた頬を、労わるようにそっと撫でた。触れる指先の優しさに、真山の瞳に涙が滲む。
「すまない、君に、こんな顔をさせてしまった」
苦しさの見える桐野のせつなげな笑みは真山の心を溶かしていく。
真山の唇が震え、ぽつりぽつりと言葉を零す。
「おれ、あんたに抱いてほしくて。でも、そーいちさんから誘ってくれないから、俺ばっかり好きなのかと思って、寂しくて。そーいちさん、ほんとは、オメガと、したいんじゃ、ないかって」
思い出して悲しくなった。ずっと、桐野に誘ってほしかった。桐野の口から、甘やかな言葉で伺いをたてられるのをずっと待っていた。
真山の濡れた鳶色の瞳が揺れ、押し出されるようにして涙が溢れる。喉は引き攣るような痛みを訴えた。
「アルファの俺じゃ、あんたを繋いでおけないって思って、悲しかったし、悔しかった」
声が震える。
オメガでもない真山が桐野を縛っておくのは不可能だ。そもそも、アルファはアルファとつがいになるようにできていない。アルファとアルファの間には、互いを繋ぐものも縛るものも、惹きつける何かも、二人を強く結びつける確固たるものがない。
フェロモンも、つがいも存在しない。好きとか愛しているとか、そんな言葉を囁いて、身体を繋いで。アルファ同士の間にはそれくらいしかないのだ。
それも、オメガのフェロモンに当てられれば容易く壊れてしまう。真山には、それが怖かった。
だから余計にオメガを恐れ、同時に憧れた。
オメガはアルファとつがいになれる。そう簡単には離れられない。それはずっと眩く、ときに疎ましいほどの憧れとして真山の心に存在していた。
「俺がオメガになれたらいいのにって思っても、あんたに抱いて貰えなかったら、それも叶わない、から」
鳶色の瞳から透き通った雫を落とし、真山は鼻を啜った。
「離れようと思ったのに、辛くて、離れたくなかった。俺、もう、あんたから離れらんない」
真山はぽろぽろと涙を零しながら、その胸の内を桐野に伝えた。全部伝わらなくてもいい。ほんの一握りでも、一欠片でも、一粒でも、伝わってくれたらよかった。
「すまない。君に、そんな苦しい思いをさせていたなんて」
桐野は眉を下げると、真山を抱き寄せた。
優しく包み込むような桐野の腕の中は温かくて、真山はまた涙を落とす。落ちた雫は桐野のパジャマに暗い色の小さな染みをつくった。
「気付けなくて、ごめん」
静かな桐野の声は雨粒のように優しく真山の胸に落ちた。
「慎くん、僕はちゃんと君のことが好きだし、君を抱きたいと思ってる」
「っ、うそ……」
真山は信じられなくて桐野を見上げる。桐野の顔は真剣そのものだった。
「嘘じゃない」
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「あれは、可愛かったし、少し頭にきた」
「っえ」
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桐野の声が怒っているように聞こえたのはそのせいかと真山は思う。少し怖かったが、理由がわかった今は安堵が残るばかりだった。
「君を独り占めしたい気持ちが抑えられないんだ。ずっと、僕だけのものにしたい」
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