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嫌な女

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ミア視点
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騎士様は何かを反芻するように顔を伏せ、自分の剣の柄にはめ込まれた装飾の緑色の石を指で愛おしそうに撫でた。

その緑色の石を見て、じわりと不愉快な気分になる。

その色を見ていると苛々するわ。あの女の瞳の色じゃない。

ついうんざりとした表情になってしまいそうになるのを堪え、出来るだけ庇護欲を誘うような”不安顔”を作る。

「──クリスティーナ様が欲しい……というのは一体」

「ミア嬢は、兄さん……ジョエルとどうなりたいんだ」

騎士様はこちらを見ずに、軽く息をつくと剣を戻し長椅子に腰かけた。

お貴族様はこれだから、と溜息をついてしまいそうになった。
お貴族様という人種はいつも遠回りで勿体ぶって、こちらから話をさせて足元を見ている。
全くいけ好かない。

「そんな、私はただジョシィのことを愛しているだけで……」

私はいつものようにシナを作り、か弱く見えるように声を震わせた。

男が好きな女というのはどういうものか、私は知っている。
女に何を求めているのか、どんな女に触れたいか、どんな女に許されたいか。

どうせこの男もあの女のように無垢で世の中の泥の存在にも気付かないような”綺麗”な女が好きなのだろう。

何か不都合なことが起きれば泣き、悲しみ、救いを待つような。
誰かに救われるまでその場から自分で動けないような女だ。
いや、救う者がいると信じ切っているから動かないのか。

あぁほんとに嫌な女。
私の大嫌いな女そのもの。

しかし、騎士様は表情を変えず前を向いたままだった。

「もうそういったのはナシにしよう。夜は短いんだ。それに、あなたの”魔法”もね」

”魔法”という言葉に、つい体が跳ねてしまった。

「……何の事だか」
「見ていればわかるさ。ジョエルに何か飲ませているだろう。ハーブティーが怪しいな。それに”歌”か」

騎士様には咎めるような、糾弾するような雰囲気もない。

「俺はあなたを止めに来たり、捕まえに来たんじゃない。願いを叶えに来た」

ジョシィとよく似た顔で、酷く冷たく笑う騎士様に自分と同じモノを感じた。
自分の気持ちをわかってくれるような気がした。そう。私の魔法使い様のように。



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