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第9話 雪解けの時
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改めて聞かれて、私は戸惑う。それは、未だ答えが出ていないことだった。
「……私、正直、どうしたらいいのかわからないの。あなたと結婚しなければ、別の男にあてがわれるだけ。それ以外の選択肢は用意されていない」
「それは……困ったね」
「そうでしょ?今までも、母は割とそういう強引なところはあったけれど、今回ばかりは素直に分かりましたって言えないの……」
いつの間にか私は、フォールスに縋る気持ちになっていた。彼なら、何とかしてくれるのではないかと。
「別の男というのは、もう決まっているの?」
「ええ……と言っても、まだ写真を渡されただけで、どんな方なのかまでは知らないの」
「そうか……今度、その写真を借りてもいいかい?」
「いいけど……どうするの?」
「誰なのか調べて、君との結婚を諦めさせる」
諦めさせる……そうか、それなら、誰とも結婚しなくて済むではないか。その考えに至らなかった自分に驚く。仕事でなら、いろんな可能性を瞬時に考え、答えを導き出せるというのに。
(でも、諦めさせるなんて、そんなこと)
「そんなこと……本当に、できるの?」
「分からない。でも、それしか他に方法ないだろう?それとも……おとなしくその男の妻になる?」
私は首をぶんぶんと振って必死に否定する。
「無理よ!」
「だろう?うまくいくかどうか分からなくても、やれば何か変わるかも知れない。諦めたら、そこで終わりだ」
「でも、あなたにそこまでやってもらうなんて、さすがに申し訳ないわ!」
「いいんだ……こっちが勝手にやることだから。君が気にすることないよ」
「でも……」
彼の優しさに甘えれば、全てうまくいくような気がする。でも、私と母の問題なのに、彼を巻き込んでいいのだろうか。今でも巻き込んでしまっているのに……。
すると、そんな私に、スクルさんの声が飛んできた。
「アステさん、気にすることはないよ。こいつは、君に償いたいことがあるんだろ?そんなの、思う存分利用してやれ。うまくいけば、お互いにとって利益しかない。そうだろ?フォールス」
「ああ、その通りだ。お互いの利害が一致してるんだ。君は好きでもない男と結婚しなくて済む。僕は、君に償うことができる。だから、君が気に病む必要はないよ」
スクルさんとフォールスの言葉に背を押される。ようやく、首を縦に振って、彼らの提案を受け入れた。
「でも、うまくいかなかったらごめん。その時は、ミスオーガンザも君も、納得できるような男を探してくるから」
「俺は?」
「スクルはだめだ!」
「はいはい」
ふたりのやり取りに、私は思わず笑ってしまう。仲がいいって言うのも、本当なのね……。
「ふたりとも、ありがとうございます。よろしくお願いします」
私は立ち上がると、ふたりに向けて、深く頭を下げた。
***
「でも、ミスオーガンザはなぜそこまで、君に結婚をさせようとするんだろうね。僕は、政略結婚を強いられても仕方ない立場だけど、君は必ずしもそうじゃないだろ?愛のない結婚を迫るなんて、見ていていい気分はしないよ」
フォールスに言われて、私も疑問に思う。たしかに、母は事業で成功していて、私を政略結婚に利用する必要はない。
(それなのに、ここまで強引に結婚をさせようとするのは……なぜ?)
私には、あんなに共に過ごしてきたというのに、母の考えがちっとも分からない。そのことが、とても不安にさせる。
「……でもフォールス、あなたはいいの?愛がない結婚でも」
ふと、そのことが気になった。彼も、誰かを好きになったのだから、恋をして結婚をしたいのではないか、と。
「うん……そうだね……僕はもう、好きな子に振られちゃったから。もう、あんなに誰かを好きになれる気がしない」
まるで吹っ切れたように話すフォールス。それでも、彼の顔は切なそうに見える。
恋をしたことがない私には、可哀想と思うと同時に、なぜか羨ましかった。
「……ねえ、それ、人間の女の子って、本当なの?」
「知ってたの?」
「ええ、母から聞かされたのと……あと、スクルさんからも」
私が素直に答えると、すかさずスクルさんの声が飛んできた。
「俺は聞かれたから答えただけだからな。自分からペラペラ喋ってなんかないぞ?」
「ご、ごめんなさいスクルさん」
誤解を生むような発言だった。私は慌てて謝る。
「アステさんが謝ることじゃないさ。振られたコイツが悪い。ま、そもそも、好きになる相手が悪かったんだ。フォールスも見る目がない」
「うるさいな!君の妹みたいなもんだろ!?馬鹿にしてたって彼女に言うぞ?」
「馬鹿になんてしてないだろ?あの子をどうにかできるなんて魔王様しかいな……っと、口が滑った」
「スクル!」
「あーはいはい。外野は黙りますよ」
目の前の光景にぽかんとしていた私に、フォールスは慌てる。
「ごめんアステ……。しかし、ミスオーガンザの情報網は恐ろしいな。みんなの言う通りだ。僕は、人間の女の子に恋をして、でもその子には、もっと大切なひとがずっとそばにいたんだ。それでも、好きになるのを止められなかった」
「そ、そうだったのね……ごめんなさい私、デリカシーのない質問をしたわ……」
「いいんだ。こういう話は、誰かにした方が気が紛れるって分かったよ。むしろ、聞かせてしまって申し訳ない」
「ううん……話してもらえて、嬉しかった」
そう言ってから、私は自分の言葉に驚く。
(私……彼に、嬉しかったと……言った)
あんなに恐れていたはずの彼に、いつの間にかそんな感情を抱けるようになった自分に、驚くしかなかった。
「……私、正直、どうしたらいいのかわからないの。あなたと結婚しなければ、別の男にあてがわれるだけ。それ以外の選択肢は用意されていない」
「それは……困ったね」
「そうでしょ?今までも、母は割とそういう強引なところはあったけれど、今回ばかりは素直に分かりましたって言えないの……」
いつの間にか私は、フォールスに縋る気持ちになっていた。彼なら、何とかしてくれるのではないかと。
「別の男というのは、もう決まっているの?」
「ええ……と言っても、まだ写真を渡されただけで、どんな方なのかまでは知らないの」
「そうか……今度、その写真を借りてもいいかい?」
「いいけど……どうするの?」
「誰なのか調べて、君との結婚を諦めさせる」
諦めさせる……そうか、それなら、誰とも結婚しなくて済むではないか。その考えに至らなかった自分に驚く。仕事でなら、いろんな可能性を瞬時に考え、答えを導き出せるというのに。
(でも、諦めさせるなんて、そんなこと)
「そんなこと……本当に、できるの?」
「分からない。でも、それしか他に方法ないだろう?それとも……おとなしくその男の妻になる?」
私は首をぶんぶんと振って必死に否定する。
「無理よ!」
「だろう?うまくいくかどうか分からなくても、やれば何か変わるかも知れない。諦めたら、そこで終わりだ」
「でも、あなたにそこまでやってもらうなんて、さすがに申し訳ないわ!」
「いいんだ……こっちが勝手にやることだから。君が気にすることないよ」
「でも……」
彼の優しさに甘えれば、全てうまくいくような気がする。でも、私と母の問題なのに、彼を巻き込んでいいのだろうか。今でも巻き込んでしまっているのに……。
すると、そんな私に、スクルさんの声が飛んできた。
「アステさん、気にすることはないよ。こいつは、君に償いたいことがあるんだろ?そんなの、思う存分利用してやれ。うまくいけば、お互いにとって利益しかない。そうだろ?フォールス」
「ああ、その通りだ。お互いの利害が一致してるんだ。君は好きでもない男と結婚しなくて済む。僕は、君に償うことができる。だから、君が気に病む必要はないよ」
スクルさんとフォールスの言葉に背を押される。ようやく、首を縦に振って、彼らの提案を受け入れた。
「でも、うまくいかなかったらごめん。その時は、ミスオーガンザも君も、納得できるような男を探してくるから」
「俺は?」
「スクルはだめだ!」
「はいはい」
ふたりのやり取りに、私は思わず笑ってしまう。仲がいいって言うのも、本当なのね……。
「ふたりとも、ありがとうございます。よろしくお願いします」
私は立ち上がると、ふたりに向けて、深く頭を下げた。
***
「でも、ミスオーガンザはなぜそこまで、君に結婚をさせようとするんだろうね。僕は、政略結婚を強いられても仕方ない立場だけど、君は必ずしもそうじゃないだろ?愛のない結婚を迫るなんて、見ていていい気分はしないよ」
フォールスに言われて、私も疑問に思う。たしかに、母は事業で成功していて、私を政略結婚に利用する必要はない。
(それなのに、ここまで強引に結婚をさせようとするのは……なぜ?)
私には、あんなに共に過ごしてきたというのに、母の考えがちっとも分からない。そのことが、とても不安にさせる。
「……でもフォールス、あなたはいいの?愛がない結婚でも」
ふと、そのことが気になった。彼も、誰かを好きになったのだから、恋をして結婚をしたいのではないか、と。
「うん……そうだね……僕はもう、好きな子に振られちゃったから。もう、あんなに誰かを好きになれる気がしない」
まるで吹っ切れたように話すフォールス。それでも、彼の顔は切なそうに見える。
恋をしたことがない私には、可哀想と思うと同時に、なぜか羨ましかった。
「……ねえ、それ、人間の女の子って、本当なの?」
「知ってたの?」
「ええ、母から聞かされたのと……あと、スクルさんからも」
私が素直に答えると、すかさずスクルさんの声が飛んできた。
「俺は聞かれたから答えただけだからな。自分からペラペラ喋ってなんかないぞ?」
「ご、ごめんなさいスクルさん」
誤解を生むような発言だった。私は慌てて謝る。
「アステさんが謝ることじゃないさ。振られたコイツが悪い。ま、そもそも、好きになる相手が悪かったんだ。フォールスも見る目がない」
「うるさいな!君の妹みたいなもんだろ!?馬鹿にしてたって彼女に言うぞ?」
「馬鹿になんてしてないだろ?あの子をどうにかできるなんて魔王様しかいな……っと、口が滑った」
「スクル!」
「あーはいはい。外野は黙りますよ」
目の前の光景にぽかんとしていた私に、フォールスは慌てる。
「ごめんアステ……。しかし、ミスオーガンザの情報網は恐ろしいな。みんなの言う通りだ。僕は、人間の女の子に恋をして、でもその子には、もっと大切なひとがずっとそばにいたんだ。それでも、好きになるのを止められなかった」
「そ、そうだったのね……ごめんなさい私、デリカシーのない質問をしたわ……」
「いいんだ。こういう話は、誰かにした方が気が紛れるって分かったよ。むしろ、聞かせてしまって申し訳ない」
「ううん……話してもらえて、嬉しかった」
そう言ってから、私は自分の言葉に驚く。
(私……彼に、嬉しかったと……言った)
あんなに恐れていたはずの彼に、いつの間にかそんな感情を抱けるようになった自分に、驚くしかなかった。
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