上 下
21 / 77

第19話 返事

しおりを挟む
 私とフォールスは、門までの距離を、ゆっくりと歩きはじめる。

「……求婚は、どうするの?」

 突然、フォールスに質問され、私はそうだったわ!と焦る。

「すっかり忘れていたわ……私ったら。あんな風に言ってもらえたのはとても嬉しかったけれど……でも、お断りしようと思うの」
「そうか」
「きっとスクルさん、わたしをからかってあんな事を言ったのよ。そうでしょ?」
「それは……どうかな」
「そうなの?親友のあなたが言うなら、違うのかしら……。でも私、スクルさんのことをまだ何も知らないし、結局、そんな軽々しくはいなんて言えないわ」
「……君がそう決めたなら、きっと、それが正解だと思うよ」
「そう?よかった。あなたに背中を押してもらえると、ちょっと安心した」
「……」
「フォールス?どうしたの?」
「……いや、何でもない」
「そう……」

 そのまま無言になる私たち。もう、目的地はすぐそこに迫っている。

(どうしてだろう、この時間が終わってしまうのが、とても寂しい)

「おいフォールス、待ちくたびれたぞ……って、あれ?お姫様も一緒でしたか」
「ええ、母に門まで送るよう言われて。でも、ふたりを見送ったら戻るわ」
「……疲れてるのに、すまない」

 私はスクルさんに理由を説明すると、フォールスは申し訳なさそうに、私に謝ってきた。

 私は首を横に振って否定する。みんなが心配するよりは疲れていないのに、なぜそんなに気をつかうのだろう。

「いいの。気にしないで。ふたりの顔を見るだけで、元気になるのよ?」

 私がそう言うと、スクルさんはフォールスに「聞いたか今の!?」と話しかけ、それから、とても感動したといった表情で、私にこう言った。

「お姫様、素直に自分の気持ちを言ってくれるようになりましたね」

 そんな評価をされたのが意外で、私はキョトンとしてしまう。

「そ、そうなの?そんなつもりなかったわ……」
「それでいいんですよ。お姫様が俺たちに心を開いてくれたみたいで、嬉しいです」

 にこにこと笑顔のスクルさんに、わたしも思わずつられてにこにこしてしまう。

(もしかして私、彼の素直さに感化されていたのかしら)

 と、そこにフォールスの咳払いが響く。

「……ところでスクル。お前が首を長くして待ってた答えが、とうとう出たらしいぞ」
「え?」

 スクルさんが、何のことかと首を傾げると、フォールスは黙って私を指差す。

「ああそうか!結婚の返事か!」

 私の顔を見て、ピンときたらしい。

「お姫様、返事を聞かせてくれ……」
「あ……ええと、スクルさん」

 私は、慌てながらスクルさんに体を向けると、ずっと待たせてしまった返事を伝えた。

「待たせてしまって、本当にごめんなさい。それで……お気持ちはとても嬉しかったのだけれど……」

 慎重に、言葉を選んで言う。ひとの頼みを断り慣れていないせいか、結論まで一息で言えない。息を整えて、言葉を続けた。

「求婚は……お受けできないわ」
しおりを挟む
1 / 4

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!


処理中です...