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第32話 愛してる
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ところで、とフォールスに言われ、何も言えず黙っていた私は、彼を見た。
「君が僕との結婚にためらってるのは、さっきスクルに話してた通り、僕と君の立場が原因?」
私は頷く。
「……気持ちが分かるまでの時間が欲しいとは言ったけれど、本当に引っかかっているのは、それだわ」
時間を置けば、頭が冷静になって、恋だの愛だのというのは単なる気の迷い、と片付け諦められるのではと期待していた。
だって、彼の立場も、私の生まれも、私にはどうにもできないのだ。それを無視する勇気など、持てそうにない。
そう考えていた私に、フォールスは別の質問を投げてきた。
「結婚の問題は別として、君は僕の事……どう思ってる?保留されてた答えを聞きたい」
「あなた……待つって言ってくれたじゃない……」
「僕の忍耐力は、君の貞操を守るために使い切ってしまった」
私の抗議もむなしく、そう言われたらもう何も言い返せない。
仕方ない。私は、どう話せばいいか迷いながら、口を開いた。
「私、あなたの側にいると、胸が苦しかったり、動悸が激しくなる。離れている時は、とても恋しくなる。あなたが笑うと嬉しくて、悲しそうにしてると辛い。あなたに、私が出来る事があるなら、何でもしてあげたいと思ってしまう。キスをされても、嫌だなんて思わなかった。……ねえ、これって、やっぱり、そういう事なのかしら」
愛という言葉を口に出すのが躊躇われて、あれこれと、回りくどく説明してしまう。
でも、フォールスにはちゃんと伝わったようだった。
「そんなの、確実にそうだろ!?くそ……ああ……夢みたいだ。ねえアステ、きちんと言ってほしい。僕を、愛してるって」
その瞬間、私の頭の中に警告が響く。
お前はそこを越えてはいけない。お前のような女が、その手を取ってはいけない。選ばれし純血の血筋を、混血の女が穢してはならない。
でももう、その警告に、私は心を動かされなかった。
(なぜ私は、いつまでも、遠慮し続けなければならないの?)
これまで決して芽を出すことのなかった、反抗という種が、芽吹く。
私は心を決めた。まっすぐフォールスを見る。
「私、フォールスを……愛してる」
言い終えないうちに、私の唇は、フォールスの唇で塞がれていた。しかも、前にされたような、そっと触れるようなものではない。
「んっ……」
何度も離れ、また塞がれ、その繰り返し。
「あっ!んっ!ちょっと!んんっ!待って!んむっ!」
一体何回するのか、と思うくらい終わらない。
やっと彼が離れてくれた時には、うまく息ができてなかった私の呼吸は荒くなっていた。
「もう遠慮しなくていいと思ったら、止まらない……」
「もう!」
またしようとするので、慌てて手のひらでフォールスの顔を押さえた。
「むぐ」
「ちょっと落ち着いて!あなたと違って私、全然慣れてないのよ?あまりにもいそぎすぎだわ!」
迫るフォールスと、拒む私。その攻防は、馬車が止まるまで続いた。
***
結局、あれ以上キスをするのは諦めたフォールスだったけれど、私の手をずっと握ったまま、離してくれなくなった。
そして、馬車を降りても彼は、私の手を離す気配がない。
「離れたくない」
「もう……子供みたいな事言わないの。私は逃げたりしないから、ね?もう遅いし、あなたも早く帰って休まないと」
私の言葉に、納得いかないまま渋々といった様子で手を離すフォールス。
「式についてはスクルに任せるから、何かあれば彼に言ってほしい。あと、ミスオーガンザに挨拶に行こうと思う……明日までに予定を立てるから、それもあわせてスクルに伝えさせる」
「分かったわ……何から何まで頼りっきりで……お願いした張本人が何もしないなんて、本当にごめんなさい。落ち着いたら、あなたにもスクルさんにも、たくさんお礼をさせて?」
「分かった……楽しみにしてる」
彼は、名残惜しそうに私を見て、それから、こんな質問をしてきた。
「……ねえアステ。もし僕が、何の地位も持たない男だったとしても、僕と結婚したいと思う?」
なぜ彼はそんな事を聞くのだろう。私は、彼が領主だから好きになった訳でもなく、ただ彼自身が好きだというのに。
「私、むしろ、そっちの方がいいわ」
そう答えると、フォールスはほっとしたような表情になる。
「でもなぜ、絶対に叶わない夢を聞くの?あなた、残酷ね」
「そんなつもりじゃ……」
ごめんなさい、気にしないで、と私は首を横に振る。
「そうね。そんな世界があったらいいわ。ただの男と女として出会って、愛し合って……そして私はあなたの妻になる。まるで夢のよう」
私の答えに、フォールスは嬉しそうに笑う。
「分かった……ありがとう、アステ。僕も、覚悟が決まったよ」
そう言うと、フォールスは私を抱き寄せる。私は、彼の言葉の意味が分からず、首を傾げる。
「フォールス、ねえ、どういうこと?覚悟って……」
「それは秘密。じゃあ、最後に一回だけ」
私から体を離したかと思うと、フォールスはすかさず私にキスをした。
「もう……こんなところで……」
「油断した君が悪い。じゃあ、また!」
彼は、私に文句を言う暇も与えず、馬車へ乗り込んでいってしまう。
「困ったひとね、本当」
私は、呆れるのと、少しの嬉しさとを感じながら、動き出した馬車を見送った。
「君が僕との結婚にためらってるのは、さっきスクルに話してた通り、僕と君の立場が原因?」
私は頷く。
「……気持ちが分かるまでの時間が欲しいとは言ったけれど、本当に引っかかっているのは、それだわ」
時間を置けば、頭が冷静になって、恋だの愛だのというのは単なる気の迷い、と片付け諦められるのではと期待していた。
だって、彼の立場も、私の生まれも、私にはどうにもできないのだ。それを無視する勇気など、持てそうにない。
そう考えていた私に、フォールスは別の質問を投げてきた。
「結婚の問題は別として、君は僕の事……どう思ってる?保留されてた答えを聞きたい」
「あなた……待つって言ってくれたじゃない……」
「僕の忍耐力は、君の貞操を守るために使い切ってしまった」
私の抗議もむなしく、そう言われたらもう何も言い返せない。
仕方ない。私は、どう話せばいいか迷いながら、口を開いた。
「私、あなたの側にいると、胸が苦しかったり、動悸が激しくなる。離れている時は、とても恋しくなる。あなたが笑うと嬉しくて、悲しそうにしてると辛い。あなたに、私が出来る事があるなら、何でもしてあげたいと思ってしまう。キスをされても、嫌だなんて思わなかった。……ねえ、これって、やっぱり、そういう事なのかしら」
愛という言葉を口に出すのが躊躇われて、あれこれと、回りくどく説明してしまう。
でも、フォールスにはちゃんと伝わったようだった。
「そんなの、確実にそうだろ!?くそ……ああ……夢みたいだ。ねえアステ、きちんと言ってほしい。僕を、愛してるって」
その瞬間、私の頭の中に警告が響く。
お前はそこを越えてはいけない。お前のような女が、その手を取ってはいけない。選ばれし純血の血筋を、混血の女が穢してはならない。
でももう、その警告に、私は心を動かされなかった。
(なぜ私は、いつまでも、遠慮し続けなければならないの?)
これまで決して芽を出すことのなかった、反抗という種が、芽吹く。
私は心を決めた。まっすぐフォールスを見る。
「私、フォールスを……愛してる」
言い終えないうちに、私の唇は、フォールスの唇で塞がれていた。しかも、前にされたような、そっと触れるようなものではない。
「んっ……」
何度も離れ、また塞がれ、その繰り返し。
「あっ!んっ!ちょっと!んんっ!待って!んむっ!」
一体何回するのか、と思うくらい終わらない。
やっと彼が離れてくれた時には、うまく息ができてなかった私の呼吸は荒くなっていた。
「もう遠慮しなくていいと思ったら、止まらない……」
「もう!」
またしようとするので、慌てて手のひらでフォールスの顔を押さえた。
「むぐ」
「ちょっと落ち着いて!あなたと違って私、全然慣れてないのよ?あまりにもいそぎすぎだわ!」
迫るフォールスと、拒む私。その攻防は、馬車が止まるまで続いた。
***
結局、あれ以上キスをするのは諦めたフォールスだったけれど、私の手をずっと握ったまま、離してくれなくなった。
そして、馬車を降りても彼は、私の手を離す気配がない。
「離れたくない」
「もう……子供みたいな事言わないの。私は逃げたりしないから、ね?もう遅いし、あなたも早く帰って休まないと」
私の言葉に、納得いかないまま渋々といった様子で手を離すフォールス。
「式についてはスクルに任せるから、何かあれば彼に言ってほしい。あと、ミスオーガンザに挨拶に行こうと思う……明日までに予定を立てるから、それもあわせてスクルに伝えさせる」
「分かったわ……何から何まで頼りっきりで……お願いした張本人が何もしないなんて、本当にごめんなさい。落ち着いたら、あなたにもスクルさんにも、たくさんお礼をさせて?」
「分かった……楽しみにしてる」
彼は、名残惜しそうに私を見て、それから、こんな質問をしてきた。
「……ねえアステ。もし僕が、何の地位も持たない男だったとしても、僕と結婚したいと思う?」
なぜ彼はそんな事を聞くのだろう。私は、彼が領主だから好きになった訳でもなく、ただ彼自身が好きだというのに。
「私、むしろ、そっちの方がいいわ」
そう答えると、フォールスはほっとしたような表情になる。
「でもなぜ、絶対に叶わない夢を聞くの?あなた、残酷ね」
「そんなつもりじゃ……」
ごめんなさい、気にしないで、と私は首を横に振る。
「そうね。そんな世界があったらいいわ。ただの男と女として出会って、愛し合って……そして私はあなたの妻になる。まるで夢のよう」
私の答えに、フォールスは嬉しそうに笑う。
「分かった……ありがとう、アステ。僕も、覚悟が決まったよ」
そう言うと、フォールスは私を抱き寄せる。私は、彼の言葉の意味が分からず、首を傾げる。
「フォールス、ねえ、どういうこと?覚悟って……」
「それは秘密。じゃあ、最後に一回だけ」
私から体を離したかと思うと、フォールスはすかさず私にキスをした。
「もう……こんなところで……」
「油断した君が悪い。じゃあ、また!」
彼は、私に文句を言う暇も与えず、馬車へ乗り込んでいってしまう。
「困ったひとね、本当」
私は、呆れるのと、少しの嬉しさとを感じながら、動き出した馬車を見送った。
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