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「お姉様が、……戦争がして、みたい……と言い出した?」
何を仰っておられているのでしょうか。
いいえ、いいえ、言葉の意味はわかります。だけれど意味がわかりません!
戦争がしてみたい?
どうしてそんな恐ろしいことを仰ったのでしょう。
わたくし自身、戦争については書物で知る程度ですが、それがどんなに恐ろしいことかは承知しております。
それなのに、まるでチェスでもしたいというような、そんな軽い気持ちで仰ったかのように聞こえます。
ゼノン様を疑っているわけではありません。
だけれど……いいえ、ああ、どうして。
もしそれが、本当ならば。
「……それでは、お姉様の、興味のために……多くの血が流された、そういうことなのですか……?」
「アナスタシア」
なんということでしょう。
なんということでしょう!!
幼い頃よりお姉様は次期女王として大切にされておりました。
両親に愛され、褒められ、その姿をどれだけ羨ましく思ったでしょう。
おばあさまはそれに対して、いつもお父様に何かを注意しておられたような気がしますが、それでもわたくしはその光景がいつだって羨ましかったのでよく覚えています。
(……あら? でも……)
わたくしが十歳になるまで、それは当時女王であったおばあさまが亡くなるまでは、王宮で暮らしていました。
だけれど、そう、よく考えれば……お姉様はダンスやピアノの勉強はしてらしたけれど、他のお勉強をしていたのかしら。
わたくしは、おばあさまに語学や乗馬、政治についてもいずれは学ぶのだと教わっていたような、ああ、記憶がどうして途切れ途切れなのかしら。
「アナスタシア」
「……ゼノン様、わたくしにどうしてそれを」
「知っているか、知りたかった」
思い出せないおばあさまとの記憶に、ずきりと頭が痛んでわたくしはそれについて一旦考えることを止めました。
お姉様のことは気にかかりますが、それよりも何故今になってゼノン様がこのようなことを話題になさったのか、わたくしはそちらが気になったのです。
もしかしたら、戦争の責任について揉めているのでしょうか?
「知らなかったのならば、覚悟してほしい」
「え?」
「……戦自体は、我が国の圧勝と言ってよかった。前線で指揮を執り、被害を耳にしたきみの姉上は、戦争がこんなに恐ろしいものだとは知らなかったのだとあっさりと降伏したんだ」
血みどろで、硝煙の匂いに混じった死臭、それらが身近に迫って、お姉様はあっさりと白旗を揚げたというのです。
部下たちの命を差し出してもいい、国の権利をあげるから、自分の命だけはどうか許してほしい……そう言ったのだとか。
それを聞いてわたくしは気が遠のくかと思いました!
さすがに塔に閉じ込められていた身とはいえ、わたくしだって王族です。
どれだけあり得ない言葉なのかと……ゼノン様のお言葉を疑うわけではございませんが、お姉様の神経を疑ってしまいます。
「では、戦争の始まりも終わりもも、お姉様が関与していたのですね……」
「初めは、外交の場での戯れ言だと笑い飛ばされたが……その後兵士を差し向けられ、宣戦布告が届き始まった。和平交渉の使者を差し向けたところ殺害され、そこからは……殺し合いだった」
ゼノン様は、静かにわたくしに向かってそう言いました。
その表情もお声も、感情というものをどこかに忘れてしまったかのように、平坦でした。
「そして戦争は終わりを迎え、賠償金と戦争を始めた責任者であるアリョーナ姫の処断をインフォルトニ国王に求めたところ、賠償金の他に『慈愛の人』を差し出すからそれで手を打ってほしいと懇願された」
「……!」
「それを聞いたクレオンが、ディーヴァスの国王陛下を説得して俺とアナスタシアとの結婚に持ち込み、今に至るんだ」
「……」
「それが今回の経緯だ。思うところはあるだろうし、納得が出来ないのも理解する。だが……どうか、俺の妻でいてくれないか」
「え?」
「何も知らないのをいいことに、全てを勝手にこちらの都合で推し進めるのは、フェアじゃないと思う。化け物に嫁いでくれて、その身を任せてくれるだけでも俺は……嬉しくて。だからこそ、シアが望むように、出来る限り添いたい。離縁、以外で」
「ゼノン様……!」
ああ、なんてこのお方は優しいのでしょう。
何も知らせずに、わたくしをここに閉じ込めてしまったって許されるでしょうに。
わたくしは、国に嫁ぐ覚悟で参りましたのに、このように優しくされて、ゼノン様のおそばにいたいと、幸せな日々を噛みしめていて、申し訳なくすらおもっておりましたのに!
「……それから、アリョーナ姫は国民から恨まれていると聞く。いくら人々に箝口令を敷こうとも、あの降伏宣言を耳にした兵士たちが黙ってはいられないだろう」
「……お姉様……」
国のために命がけで戦ったというのに、そのような振る舞いを見せられてはきっとかれらも愕然としたに違いありません。
妹として、彼らには申し訳ないことをしたと謝りたいところではありますが、今更わたくしにそのようなことを言われてもきっと困ってしまうのでしょうね。
「もし、あちらの国で暴動が起きたとしても、ディーヴァス王国は静観するつもりだ。シアが救ってくれと懇願しても、無理だろう」
「……はい」
「だが、きっと今の王家に不満を持つ者たちがシアを次の女王にと掲げる可能性もある」
ゼノン様の言葉に、わたくしはハッとしました。
そうです、勿論わたくしも王族なのですから、王位継承権が存在していてもおかしくありません。
両親がいくらわたくしを疎もうと、わたくしが王家の血を引いていること自体は事実なのですから!
「わたくしを、女王に……」
「それでも、俺の妻でいてほしい。女王になんてならず、この家で、俺の……妻で」
ゼノン様は、お優しい。
ディーヴァス王国の将軍の妻、敗戦国の姫としての役目、それらでわたくしを縛れば、わたくしだって迷うことなく是と答えますのに。
まるでわたくしに選択権があるかのように懇願するゼノン様に、わたくしはただそっと抱きつくことしか出来ませんでした。
「……わたくしも、ゼノン様の妻でありたいです……」
何を仰っておられているのでしょうか。
いいえ、いいえ、言葉の意味はわかります。だけれど意味がわかりません!
戦争がしてみたい?
どうしてそんな恐ろしいことを仰ったのでしょう。
わたくし自身、戦争については書物で知る程度ですが、それがどんなに恐ろしいことかは承知しております。
それなのに、まるでチェスでもしたいというような、そんな軽い気持ちで仰ったかのように聞こえます。
ゼノン様を疑っているわけではありません。
だけれど……いいえ、ああ、どうして。
もしそれが、本当ならば。
「……それでは、お姉様の、興味のために……多くの血が流された、そういうことなのですか……?」
「アナスタシア」
なんということでしょう。
なんということでしょう!!
幼い頃よりお姉様は次期女王として大切にされておりました。
両親に愛され、褒められ、その姿をどれだけ羨ましく思ったでしょう。
おばあさまはそれに対して、いつもお父様に何かを注意しておられたような気がしますが、それでもわたくしはその光景がいつだって羨ましかったのでよく覚えています。
(……あら? でも……)
わたくしが十歳になるまで、それは当時女王であったおばあさまが亡くなるまでは、王宮で暮らしていました。
だけれど、そう、よく考えれば……お姉様はダンスやピアノの勉強はしてらしたけれど、他のお勉強をしていたのかしら。
わたくしは、おばあさまに語学や乗馬、政治についてもいずれは学ぶのだと教わっていたような、ああ、記憶がどうして途切れ途切れなのかしら。
「アナスタシア」
「……ゼノン様、わたくしにどうしてそれを」
「知っているか、知りたかった」
思い出せないおばあさまとの記憶に、ずきりと頭が痛んでわたくしはそれについて一旦考えることを止めました。
お姉様のことは気にかかりますが、それよりも何故今になってゼノン様がこのようなことを話題になさったのか、わたくしはそちらが気になったのです。
もしかしたら、戦争の責任について揉めているのでしょうか?
「知らなかったのならば、覚悟してほしい」
「え?」
「……戦自体は、我が国の圧勝と言ってよかった。前線で指揮を執り、被害を耳にしたきみの姉上は、戦争がこんなに恐ろしいものだとは知らなかったのだとあっさりと降伏したんだ」
血みどろで、硝煙の匂いに混じった死臭、それらが身近に迫って、お姉様はあっさりと白旗を揚げたというのです。
部下たちの命を差し出してもいい、国の権利をあげるから、自分の命だけはどうか許してほしい……そう言ったのだとか。
それを聞いてわたくしは気が遠のくかと思いました!
さすがに塔に閉じ込められていた身とはいえ、わたくしだって王族です。
どれだけあり得ない言葉なのかと……ゼノン様のお言葉を疑うわけではございませんが、お姉様の神経を疑ってしまいます。
「では、戦争の始まりも終わりもも、お姉様が関与していたのですね……」
「初めは、外交の場での戯れ言だと笑い飛ばされたが……その後兵士を差し向けられ、宣戦布告が届き始まった。和平交渉の使者を差し向けたところ殺害され、そこからは……殺し合いだった」
ゼノン様は、静かにわたくしに向かってそう言いました。
その表情もお声も、感情というものをどこかに忘れてしまったかのように、平坦でした。
「そして戦争は終わりを迎え、賠償金と戦争を始めた責任者であるアリョーナ姫の処断をインフォルトニ国王に求めたところ、賠償金の他に『慈愛の人』を差し出すからそれで手を打ってほしいと懇願された」
「……!」
「それを聞いたクレオンが、ディーヴァスの国王陛下を説得して俺とアナスタシアとの結婚に持ち込み、今に至るんだ」
「……」
「それが今回の経緯だ。思うところはあるだろうし、納得が出来ないのも理解する。だが……どうか、俺の妻でいてくれないか」
「え?」
「何も知らないのをいいことに、全てを勝手にこちらの都合で推し進めるのは、フェアじゃないと思う。化け物に嫁いでくれて、その身を任せてくれるだけでも俺は……嬉しくて。だからこそ、シアが望むように、出来る限り添いたい。離縁、以外で」
「ゼノン様……!」
ああ、なんてこのお方は優しいのでしょう。
何も知らせずに、わたくしをここに閉じ込めてしまったって許されるでしょうに。
わたくしは、国に嫁ぐ覚悟で参りましたのに、このように優しくされて、ゼノン様のおそばにいたいと、幸せな日々を噛みしめていて、申し訳なくすらおもっておりましたのに!
「……それから、アリョーナ姫は国民から恨まれていると聞く。いくら人々に箝口令を敷こうとも、あの降伏宣言を耳にした兵士たちが黙ってはいられないだろう」
「……お姉様……」
国のために命がけで戦ったというのに、そのような振る舞いを見せられてはきっとかれらも愕然としたに違いありません。
妹として、彼らには申し訳ないことをしたと謝りたいところではありますが、今更わたくしにそのようなことを言われてもきっと困ってしまうのでしょうね。
「もし、あちらの国で暴動が起きたとしても、ディーヴァス王国は静観するつもりだ。シアが救ってくれと懇願しても、無理だろう」
「……はい」
「だが、きっと今の王家に不満を持つ者たちがシアを次の女王にと掲げる可能性もある」
ゼノン様の言葉に、わたくしはハッとしました。
そうです、勿論わたくしも王族なのですから、王位継承権が存在していてもおかしくありません。
両親がいくらわたくしを疎もうと、わたくしが王家の血を引いていること自体は事実なのですから!
「わたくしを、女王に……」
「それでも、俺の妻でいてほしい。女王になんてならず、この家で、俺の……妻で」
ゼノン様は、お優しい。
ディーヴァス王国の将軍の妻、敗戦国の姫としての役目、それらでわたくしを縛れば、わたくしだって迷うことなく是と答えますのに。
まるでわたくしに選択権があるかのように懇願するゼノン様に、わたくしはただそっと抱きつくことしか出来ませんでした。
「……わたくしも、ゼノン様の妻でありたいです……」
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