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第2章……迷宮都市編

27話……準備

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 宿に到着して部屋を取る。

「4人部屋と1人部屋をお願い」

 リンは自分のゴールドランクを示す冒険者証を見せながら受付の店員に尋ねる。

「ゴールドランクですね。4人部屋は1泊大銅貨1枚と銅貨2枚、1人部屋は1泊大銅貨1枚になります」
「お願いするわ」
「かしこまりました。それでは銀貨1枚と銅貨2枚になります」

 ここでもサーシャが収納魔法で財布を取りだして支払う。
 共有資金の管理はいつの間にかサーシャになってたんだな。適任だと思う。

「ではコチラ鍵のお渡しです。外出の際は受付にお預けください」
「分かりました」

 鍵を受け取りひとまず全員で部屋に入る。

「さて、今日は自由行動にして明日朝から迷宮に行ってみようと思うんだけどみんなはどうする?」

 自分に浄化魔法を掛けて汚れを落としてからリンはベッドに倒れ込む。

「自由行動でいいの?  なら俺ちょっと買い物行きたいんだけど」
「そうなの?  行ってらっしゃいな。でも強引なナンパはしちゃダメよ?」
「しねぇよ!」

 先程のギルドでの一件だろう、リンはケラケラ笑いながらそう揶揄してきた。

「クリード様、何を買いに?」
「うん、資金もかなり貯まったから今の剣を予備に回してもうちょっと質のいい剣と軽い鎧でも買おうかなと」

 俺がそういうと、ソフィアとアンナがピクリと反応を示した。

「クリード様、なぜ鎧を?」

 サーシャが問うてくるが、当然の疑問だろう。

「鎧も身に付けずに前衛で剣を振り回すのって違和感じゃない?  それに今日のギルドみたいになんの装備もしてないと舐められるっぽいからね」
「なるほど、確かにそうかもしれませんね……」

 まぁ動きにくいのは嫌だから軽めの皮鎧とかでいいんだけどね。
 鎧の質とかじゃなくて鎧を身に付けているってことが大事。
 それに作業服って会社のロゴ入ってるからね、一応隠したいし……

「クリード殿、御一緒してもよろしいでしょうか?」
「あ、自分も行きたいッス!」
「ん?  2人も何か買うの?」

 今装備してる装備の他に正式装備みたいなのも持ってるんだよね?

「私も槍を新調しようかと……国から支給されている装備は国の紋章が入っているので今は使えません」
「同じくッス。自分は盾が欲しいッス」
「なるほど、国の紋章が入ってるんじゃここでは装備出来ないよね」

 チラリとサーシャの方を見るとウンウン頷いている。
 一番目立ってたの君だけどね……

「じゃあ買いに行く?  あ、誰かはサーシャの護衛に残らないといけないかな?  リンだけでいいの?」
「私も一緒にお買い物行くので護衛の心配はいりませんよ?」
「え?  サーシャもなにか買いたいものあるの?」
「はい。今着ているこのローブはリンさんからお借りしている物なので、あまり目立たないローブを買おうかと」

 俺が指摘してからサーシャは修道服で出歩かなくなっていたがリンからの借り物だったのか。
 俺の装備を買いに行った時に……いや、あの時は武器屋しか行ってないからローブを買う時間は無かったのか。

「そういうことならみんなで行こうか。リンはどうする?」
「あたしは部屋に居るから4人で行ってらっしゃい」

 なんかそんな気はしてた。


「ちょっと外出してきます。1人残ってますのでこの鍵だけお願いします」

 受付に俺の部屋の鍵を預けて街に出た。
 手には冒険者ギルド受付嬢手書きの地図、めぼしい武器屋、防具屋、道具屋、雑貨屋、食事処などが書き込まれた大変分かりやすい地図だ。
 これで銅貨1枚なんだからお買い得である。

「えっと、近いのは武器屋だね。武器屋からで大丈夫?」
「大丈夫ですよ。先にクリード様とソフィアの買い物済ませちゃいましょう!」

 武器屋は宿と冒険者ギルドのちょうど中間辺りにある。
 ちょうど昼を過ぎたくらいなので屋台で買い食いしながら進み武器屋の看板の出ている店に到着した。

「いらっしゃい」

 店主は無骨な職人という感じの人で愛想の欠片もない。
 愛想を買いに来たわけでもないし俺は日本の服屋さんみたいに店員に引っ付かれるのは苦手なのでむしろちょうどいいとすら思う。

「クリード様、剣はこっちみたいです!」

 少し広めの店内をキョロキョロ見ているとサーシャがお目当ての武器の並んでいる場所を見つけてくれたのでそこへ行く。

「どんな剣を買うのですか?」
「そうだなぁ……基本は両手剣だね。今使ってるのとあんまりリーチとかは変わらない方がいいかな?  それに今のは鉄製だからもう少しランクの高い武器が欲しいかな……」

 迷宮に潜るのだからそれなりの武器は必要だろう。

「でしたら……こっちの剣なんてどうですか?  薄く光っててすごく綺麗です!」

 サーシャが指さしているのはミスリルの剣、確かに形状は今使っている剣に似通ってるし使いやすそうではある……
 だがお値段が……

「ちょっと予算オーバーかな……金貨1枚と大銀貨2、3枚くらいまでかな……」

 サーシャが指さしたミスリルの剣は金貨2枚と大銀貨5枚、ほぼ俺の全財産である。

「足りない分は私が出しますよ?  それに武器を買うということであればリンさんもパーティ共有資金から少し出すくらいは何も言いませんよ?」

 心揺れるな……

「いや……そういうのは辞めよう。お金のことをなぁなぁで済ませると後で大変なことになる。それに俺にはあのミスリルの剣はまだ早いと思う。身の丈にあった剣で腕を磨いてからの方がいいと思う」
「クリード様はしっかりしていますね。差し出がましいことを申しました」
「いや、気持ちは嬉しいよ。ありがとう」

 サーシャにお礼を言って物色を再開する。
 今見ているのは鋼鉄の剣のコーナーだ。

「うーん……」

 やっぱり少し重いかな?
 けどまぁこの程度の重さなら問題は無いか。
 並んでいる剣を端から取り出して握っていくがピンと来ない。

 鋼鉄の剣コーナーも終わりに差しかかる頃、これだ!  と思う剣を見つけた。
 見た感じほかの剣との違いなんてわからないんだけど、何が違うんだろう?

 まぁ直感とかそんなんだろ、前回もこの選び方で正解だったんだし今回もあやかろう。

「これにするよ」
「はい。ソフィアは決まりましたかね?」

 サーシャと共に槍コーナーに居るソフィアを探すとすぐに見つけることが出来た。
 アンナとなにか話しながら選んでいたようだ。

 手には1本の槍が握られており、アレで決まったのだろうか?

「ソフィア、決まりましたか?」
「はい。これにしようと思います」

 ソフィアが選んだのは鋼鉄の槍らしい。
 何本か握ってみて一番しっくり来た槍を購入することに決めたようだ。
 俺と同じ選び方だね。

 剣と槍の代金をそれぞれ支払い次は防具屋、アンナは特に悩む素振りも見せずあっさりと鋼鉄の盾に決めていた。
 早い……

 サーシャの方も数分悩んだだけで決めたようで、数枚ローブを購入していた。

 俺も3人を待たせないようにサイズと動きやすさ、会社のロゴが隠れるかどうかだけを基準に安い皮鎧を購入した。

 武器の買い物の半分以下の時間で終わってしまった……

 女性の買い物は長いと思って覚悟していたが拍子抜けもいいところである。

 それから適当に食事や食材を購入して片っ端からウルトに積み込む。
 これで明日からの迷宮探索の食事は心配しなくていいだろう。

 適当に散策しながら宿に戻ってリンと合流、5人で夕食を食べながら軽く迷宮の話を聞いて解散、早めに就寝することにした。

 迷宮探索……ドキドキする響きだな!
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