『乙女ゲー』のモブだが、振られ令嬢をゲットして、レーティングを『D』にしてみた

藍川 東

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3.つっこみどころが多すぎる

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 「ずいぶんと、騒がしいな」

 そういって俺がその場に踏み出した。
 サリアたちを取り囲んでいた貴族たちが割れ、俺が通る道を作る。
 五人の世界に入ってきたイレギュラーに、責め側の四人が怯むのがわかった。
 「陛下ご不在の宴だ。あまりはしゃぎすぎるのはどうかと思うぞ、エディアール」
 「お控えいただきたい、叔父上。これは俺とファムの……」
 「『控えろ』?」
 おいおい。
 ちょっと凄まれたからって、そうあからさまにビビるなって。
 まあ、原作ゲームにはない展開だけどな。
 エディアールの後ろに隠れている娘なんか、めちゃめちゃ不審げに俺を見てくる。
 おそらく『主人公』としての記憶があるのだろう。
 知ったことではないが。
 貴族の間では、上位のものをあからさまに見つめるのは礼儀違反だと、教えてやっていないのか?
 対してサリアは俺の登場に慎ましく頭を垂れた。
 さすが公爵令嬢。
 さらされたうなじから背中にかけてのラインが、実に美しい。
 
 「誰にものをいってるのか知らないが、私が唯一頭を垂れるべきは陛下のみ。『お前』が立太子されていれば話は変わるが、でなければ、私はお前にとって一族の年長者にあたるはずだが?
 まさかその私に向かって『控えろ』などといってるわけではないだろうな?」
 「ぐっ……」
 いや、まじで悔しそうな顔とかするなって。
 だいたい、現王の一人息子なのに、十八歳の成人の儀式のとき立太子されなかったことに危機感持てって。

 今回の兄王の行幸だって、自分がいない間に王宮内を統治できるかどうかのテストだろう。
 それなのに、こんなぶちかましやがって。
 自分の立ち位置、わかってるのか?
 兄王は確かに家族に情けがある優しい人だけど、王としてはまた別だぞ。

 『原作』など知ったこっちゃない俺としては、この国の大公として振る舞うだけだ。

 さてさて、『ギャフン』にツッコませていただきますか。

 まずは、『権威によって得た主席』からだな。 
 「私も学園を卒業した身だが、主席の宝珠はいただけなかった身だ」
 成績は主席だったけどな。
 主席のサリアを含む周囲の手助けがなければ、卒業も危うかった、どこかの王子と違って。

 「それは、殿下がご在籍中に隣国からの侵攻をくい止めるため、兵を率いて赴かれたからで……」
 俺の近くにいた、同級生にあたる男爵が合いの手をいれた。
 いい合いの手だぞ、ソルグ男爵。今度、俺のサロンに招待してやる。

 そう。在学中に兄王に呼び出されて、隣国からの侵攻を阻止したりした。
 ついでに領土も賠償金もぶんどってきた。

 王族としての務めを果たし、ついでに国に利をもたらしたってのに、学園長のタルボは『出席日数不足』をたてに俺への宝珠の授与を拒みやがった。
(出席日数の足りていた次席が授与を断った結果、俺の年代では『宝珠授与者なし』になった)

 「そうだな。王族としての勤めを果たすため、やむを得ずの仕儀であったが、既定の出席日数に足りなかった者に、宝珠授与の資格なし、という学園の規則にそった結果だ。タルボ学園長の、学徒としての高潔はお人柄ゆえのご判断だった」

 当時は、お前が学園の教授でござい、学問は国政とは独立したものですからな、とそっくり返っていられるのは誰のお陰だコノヤロウっ、と思ったが、こんなところで生きてくるとは。
 人生万事塞翁が馬だな。

 「それにカル『教授』に聞くが、お前を『教授』に認定したのはどなただったかな?」
 「タルボ学園長ですが」
 自分に言いがかりをつけられたと思ったのか、気色ばんで答えてくる。
 こちらの思惑通り。
 「では、サリア嬢を主席と認めたのは、どなただったかな?」
 「そ、それは……」
 王族にも忖度しない学園長が、公爵令嬢に忖度するか?
 これでもサリアの主席認定が怪しいと言うなら、その学園長に認められた自分も、怪しまれなければならない。
 これでひとつ終了。
 では、次にいこうか。

 「次は、『兵をわたくししている』だったか」
 脳筋ザクト相手なので、噛んで含めるように、子どものように可愛げがないが、子どもに言い聞かせるように話してやる。
 「国の中枢を成す者に、護衛として近衛兵を付けるのは当然かと思うが」
 「おっしゃる通りですが、サリア嬢は公爵令嬢。王族ではありません」
 仮にも王族である俺に反論するなら、『恐れながら』くらいはつけてしかるべきだぞ。
 なんでこんな野生児みたいなのが、仮にも皇太子候補の側近なんぞしているんだ。

 「サリア嬢は陛下がお認めになった、将来の皇太子妃だな」 
 うだうだいいそうなエディアールを無視して話を進める。
 実際のところ、こいつがさっさと立太子されていれば、サリア嬢にこんな言いがかりをつけられずにすんだんだぞ。
 「王妃殿下亡き今ー-かの御方の御霊が安らかならんことをー-宮廷で女主人が行うべき事柄すべてを行ってきたのは、サリア嬢だ。まさか知らないとはいわないな」
 王妃亡きあと、王は後妻を迎えなかった。たしなみとして愛人は幾人かかけているが、その誰にも王宮の女主人としての役割を預けなかった。
 必然的に、幼いころから『王子の婚約者』と王に決められたサリアがすべてを担わざるを得なかった。
 それこそ有力な貴婦人たちとの定期的な茶会。王族の名を冠した慈善事業。季節ごとの宮廷の装飾。王や王族、功を建てたものを迎えるパレードの段取りも、ありとあらゆる差配だ。
 あまりに卒なくこなされたいたので、きっとこの脳筋は気がついていないに違いない。
 間の抜けた顔で突っ立っている。
 せめて知らなかったことを恥じる素直さでもあれば、救いようもあったかもしれないが、無知を恥じるという容量すらこいつの脳にはないらしい。

 自分が理解していないことすら理解しないまま、投げ出しやがった。
 「自分の取り巻きの女どもとくだらない茶会をしていたり、王宮の飾りつけに口を出しているのは存じております。本当にくだらない些事ですな」
 ……は?
 さすがに父親の伯爵が人壁をかき分けて、ありえない発言をした次男をどうにかしようと近づいてきているが、俺は片手を挙げてそれを制した。
 ここは『王子の側近』としての発言として、実家の伯爵家とは切り離しておいた方がいい。でないと、伯爵家すら危うくなりそうだ。
 というか、こいつ本当に貴族社会で生きてきたのか? そして礼節と気品と矜持を重んじる近衛騎士なのか? 

 「くだらない茶会、か。同盟国からの来賓の夫人をもてなすことも、些事、か?
 いや、むしろ外交は、剣を持たない戦いのひとつだろう。国益のためそれを成している婦人の警護を怠っていることこそ、国益に反する、ひいては忠義に反することではないか」
 こんな学園に入りたての子どもすらわかるようなことを、滔々と述べるのも恥ずかしいが、相手の理解度を考えれば致し方ない。
 「剣を取っての戦いは、最終手段だ。騎士同士の戦いになるとはいえ、騎士の名誉を得るために周囲は傷つき血が流れる。それをできるだけ避けるため、近衛騎士は厳しく己を律し、主への忠義を貫き、威を示すことによって、無用の流血を避ける。近衛騎士の心得のひとつに書かれていることだ。
 まさかこんなことを、『近衛騎士』に説く羽目になるとは思いもよらなかったな」
 さすがに脳筋でも、入隊の時から折に触れ、繰り返されてきた騎士の誓いの一節なら、頭でわからなくても体で覚えているはずだ。
 あからさまにムッとした顔で黙り込む。
 だから、仮のもお前の主人よりも年長の王族に対して、なんという態度をとるんだ。
 この場でなければ、不敬罪で捕縛させているところだぞ、近衛兵に。
 もう、相手にするのすら面倒だ。

 さて、もうひとり、というか。
 俺はエディアールとその後ろのファムとかいう娘に向き合った。
 目を合わせると、力を入れて睨み返された。
 この期に及んで、自分の立場への揺らぎをまったく感じずにいられるのが、逆にすごいぞ。
 鈍感力か。
 わが国の成り立ちは、王家が周囲を平定して独力で王位についたのではない。
 周囲の諸侯を交渉によってまとめ上げ、その手腕を買われて盟主になったに過ぎないのだ。
 それを全く理解していないから、立太子されないのだぞ、エディアール。

 「あとは、あぁ、『噂を広めている』だったか。これに何かいうべきなのか? さすがに疲れてしまったよ」
 ため息をついて、髪をかき上げた。
 一部、貴族たちの壁から黄色い声が上がったが、なんだろうか。
 いい加減サリアも疲れているだろうし、この場を切り上げてしまいたい。
 彼女を見ると、目が合った。
 さっと逸らされてしまったが、頬か赤くなっている。彼女も疲れてしまったのだろう。

 「噂程度で右往左往するのも、いかがものと思うが……
 だがもし、王子たるお前の名誉を傷つけるものだったとしたら、それを告げた者を順に辿って、その噂を発した者を特定する必要があるな。エディアール、その噂の内容と、それをお前に告げた者は?
 まさか王子であるお前に、誰から聞いたとも言えない不確かな噂を吹き込んだりするような、不埒な輩がいるとは思わないが」
 エディアールはちらりと後ろの娘を振り返った。娘はただエディアールを見つめ返すだけだ。
 なんの解決にもなっていない。
 まぁ、わかっていていったんだ、俺も。
 そのファムとかいう娘が、涙ながらにサリアにいじめられている、悪い噂を流されて、危害を加えられそうで怖い、とでも訴えたんだろう。
 そしてお前は、なにも疑うこともなく、それを真に受けたんだろう。
 側近二人もご同様か。
 この国も未来も、そこそこ薄暗いぞ。

 「では、サリア嬢への『言いがかり』はすべて一掃された、ということだな」
 黙り込んだ四人を睨みつけつつ、周囲に目を配る。
 言いがかりをつけてきた四人の賛同する者はほとんどいない。というか、皆無じゃないか?
 みなすでに、この場の最後の結末の行方を、興味津々に見ている。
 心配そうにしているのは、サリア嬢の友人たちだろう。
 それもすでに、そう深刻な状態ではない。

 「さて、本日ご不在ながら、陛下はサリア嬢に『王族に嫁してほしい』と願われ、公爵とサリア嬢はその意をくみ、いままでエディアールの婚約者となっていた。
 しかし、エディアールが『独断で』婚約を破棄した以上、サリア嬢を王家に迎えるためには、別の王族が必要だ。
 それも前より地位が上の、な」
 『独断で』を強調しておく。
 王子たる身が王の決定を破棄したのだ。一方的に。
 エディアールの顔が青ざめている。ようやっと自分の行動のまずさに気づいてきたようだ。
 ま、挽回の機会は与えないけれどな。

 俺は固まっている四人に背を向けると、マントを揺らしゆっくりとサリアの前に立った。

 「かような場になってしまったが、私にとっては千載一遇。このような好機が巡ってくるとは、日ごろの行いに神がよしみしたもうたのだろう」
 日ごろの俺を知っている連中からは、ざわめきと笑いが聞こえる。
 ふん。なんとでもいってるがいい。

 俺は首から鎖で下げていた伴侶の指輪を外し、サリア嬢の前で膝を折った。
 「サリア嬢」
 白い手袋に包まれた、繊細な指に口づけする。
 「この美しい指に伴侶の指輪を送る栄誉を、我に」


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長くなっちゃったーっ
次回からやっと、いちゃらぶに入れるーっ うれしーっ
サリア嬢の魅力もぐいぐい出していきますっ
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