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4.見て愛でる*
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怒涛の一日だった。
あの後、サリアを『ギャフン』するつもりが、逆に俺から『ギャフン』されてぐうの音も出ない四人を後目に、サリアを連れて宴から退出した。
王宮に配置している俺の『耳』からの報告によると、エディアールはもう一度ファムを妃にすること、サリアとの婚約を破棄することを宣言したというが、反応はグダグダだったそうだ。
それはそうだろう
『俺がそうしたいから』以外に何の根拠もない(俺が論破)にも関わらず、王の意に反したことを宣言したのだから。
大方の貴族が、『王が帰還してからの対応待ち』の状態だったそうだ。
あの状況で、あえて苦言を呈するのが本当の忠臣だと思うが、肝心の最側近の二人があれではどうしようもない。
あそこまで前後の見境のない行動に走らせたファムとかいう娘は、ある意味大したものだ。
魅了の術でも使っているのかもしれない(『乙女ゲーム』の清純派主人公が魅了の術で攻略対象を落としていく、というのは斬新すぎるか)。
とにかく兄王と、それに随行しているサリアの父親である公爵に状況を知らせる手紙を書き、マジックアイテムを使って即座に届けさせた。
この世界は、転生前の感覚からすればほぼ中世ヨーロッパな感じだが、ファンタジー要素もある。
精霊や魔物がわずかながらに存在するし、魔法も然り。
ただし魔法を使えるのは本当にごくわずかの人間で、それらが作り出すマジックアイテムもそれなりに高額だ。
今回の『手紙』は、俺の今後の進退にかかわってくるので普段は口うるさい執事もなにもいわなかったが、一通出すのに平民四人の一家が一年程度暮らせる程度の金額だ。
兄王へは、貴方の息子が貴方の不在時にやらかしていること。
その尻拭いをしたことを報告した。貴方の子育てが現在進行形で失敗しており、今後悪化の予定であることを、敬意と畏敬の念を込めた言葉で、懇切丁寧に書き送った。
片頭痛を発症して、頭を抱え込んでいる兄王が浮かぶ。
亡き王妃との一人息子を甘やかして育てたツケだ。せいぜい悩んでいただきたい。
公爵には事の経緯のほか、娘さんを伴侶に頂きたい、というか頂くからよろしく、とも書いた。
公爵家にはサリアの兄も弟もいるから後継には問題ないはずだ。
それに加えて、ちょっとした提案も書き足しておいた。
愛娘をコケにしたしょーもない輩の父親には見せないだろうが、検討してみてほしい提案だ。
それから、王宮内にある俺の大公の館では休まらないだろうから、少し郊外にある別荘に居を定めた。
有能な家臣たちが、いつでも使える状態にしてある。
王都の公爵邸では、万が一エディアールが王子の名のもとに押しかけてきた場合、押し返すのが難しい。
それならば俺といた方が安全だ。
公爵邸からは、サリア付きの侍女たちと、しばらくの身の回りの品を運ばせた。
王と公爵が王都に帰還するまでの十日間程度を過ごせば、後はどうにでもなる。というかする。
諸々の下準備も含めてバタバタしていたら、落ち着いたのが日も暮れた時間になってしまった。
おかげでこの館の入り口で別れて以来、サリアに会えていない。
背を淵に預け、天井に向かって長く息を吐いた。
転生前の習慣からか、俺は湯船につかりたいし、大きい湯舟だとなおいい。
一般の貴族の習慣では、部屋にバスタブを持ち込んで、使用人たちに世話をさせるのがこの世界の入浴だが、俺はこの館にテルマエを作った。
大公ならではの贅沢だな。
天井はあるが二方は壁を作らず吹き抜けになっている。明かりを消せば湯に入ったまま夜空の星も見える。
俺専用のものなので、なにを遠慮するものではないが、今夜はいつもより少しばかり多めに明かりをつけている。
華美は俺の好みではないが、半裸の女神や男神の像、動物や花々の像で囲まれていているので、初めて入る者にはいささか勝手が悪いだろう。
俺も自分のテルマエに浸かっているのに、湯帷子なんぞ着ている。
しかも下半身には透けないほどの厚手のひざ丈のズボンまで履かされている。
『この状況なら身に着けるべきです。それでなくても貴方様のお持物は、万が一にもうら若いお嬢様のお目に触れてよいものではございません』などと、褒められているんだか微妙にけなされているようなことをいってきた執事が用意したものだ。
転生前の記憶からすると、衣服を身に着けて湯に入るのは違和感しかないが、まぁ、今宵は仕方ないとしておこう。
前室からの戸が開き、白い姿が現れた。
月明りと薄暗いロウソクの明かりだけに目が慣れないのだろう。しばらく立ち尽くしている姿を、俺は湯につかりながらとても楽しく堪能する。
なんの装飾もない白い湯帷子が、サリアの肢体の美しさを際立たせる。
コルセットを外しているはずなのに、軽く紐で結ばれている腰とその上にある胸との落差は大変すばらしい。
そのくびれた腰から健やかに伸びた腿は、かじりついたらとても美味そうだ。
宴の時とは異なり、緩く上げただけの髪から下がるおくれ毛が、湯気にあたってしんなりとうなじに張り付いている。
濃い金色の髪が薄明りの中、それ自体が発光しているように輝いている。
他のところはどうなのだろうかと、とても楽しい想像が膨らんでとまらない。
「た、大公殿下っ。どうしてここにっ」
俺に気づいたサリアが足を止める。身を守るように湯帷子の前をきつく合わせるが、素晴らしい造形の胸が強調される。合わさった両腕からこぼれんばかりだ。
大変すばらしい眺めだ。
「どうして? ここは俺の別荘で、俺のテルマエだ。いてもおかしくないだろう?」
まぁ、確信犯だけどな。
サリアは一度、前室への扉を振り返ったが、ここが俺の館であり、使用人たちも俺の意をくんで行動していると瞬時に理解したようだ。
この聡明さが好ましい。
つん、と可愛らしくあごをあげると、
「それでは、大公殿下と湯を共にする栄に浴しますわ」
「もちろんだろうとも。我が『伴侶』の君」
俺がそういうと、サリアは指輪をした指を、反対の手で隠すように抑えた。まるで取り上げられるのを恐れているかのように。
サリアの指には、俺が宴で差し出した『伴侶の指輪』がある。
もし不本意なものだったら、俺がいない間に外してしまっていただろう。
この反応からすると、問題なさそうだ。
初っ端から裸同士では刺激が強すぎるだろう、と湯帷子をまとわせたのだが、これはこれで大変眼福だ。
サリアは少しでも身を隠そうとしているのか、湯帷子を体に巻き付け、腕で胸を覆っているが、そうするとより体の線がはっきりと見える。
これは黙って鑑賞しているのが、男として正しい在り方だろう。
サリアは自分の体は隠しながらも、チラチラと俺の方を見てくる。
俺が体の向きを変えると、ビクッと体を揺らすが、逃げはしない。
狩りの時に目が合ってしまった鹿を思い出す。黒目勝ちな目で、じっとこちらの出方をうかがっている。
うかつに動けば逃げ出されてしまうが、対処を間違えなければ、得られる獲物だ。
罠はゆっくりと絞ってゆけばいい。
俺は湯を楽しむように、ゆったりと体を広げた。
「今日は慌ただしい日だった」
「……はい」
それ以外、言いようがないだろうな。
『ゲームのイベントがわかっていた』俺と、何もかも突然降ってきたサリアとでは、疲労の度合いも違うだろう。
その華奢な背に負わされた重荷が、少しでも軽くなるとよいのだが。
「俺を恨むか?」
サリアは横に首を振った。
「……エディアール殿下もお気づきだったのでしょう。私の気持ちが殿下に向けられていないことに」
「別に、気に病むことではない。所詮陛下と公爵が取り決めた政略婚だ。結果として気持ちが生まれるなら、それに越したことはないだろうが、始めから気持ちを求めるのは傲慢というものだろう」
確かに兄王と妃は政略婚だが、結果的には気持ちの通じる関係になった。それでもあくまでたまたま相性が良かっただけだ。
王族として、婚姻は義務であって己の好悪でどうこうできるものではない。
仮にも王族であるのなら、義務として受け入れるべきことを、受け入れなくても済むと考える浅はかさ。
まぁ、もう知ったことではない。
お陰で俺は、極上の伴侶を得られるのだから。
「まずは、湯に浸かったらどうだ? 俺も愛しい伴侶に風邪でもひかせたとなっては、立場がない」
少し戸惑いを見せたが、再び促すと、サリアはゆっくりと湯に浸かった。
入浴の作法なんてない世界で、波を立てないように、揃えた足先からゆっくりと入ってくる様のは、公爵家の教育の賜物だろう。
「先程から、視線が熱くてのぼせてしまいそうなんだが、そんな珍しいものでもあるのか?」
「と、殿方と、こんな薄物で、こんなに近くにいるなど……」
「兵士たちとの訓練で半裸になるなどよくあることだが、エディアールは脱がなかったのか」
「王子殿下は、教師に習う剣術をなされていたので……」
確かに、指揮を執る立場の人間が、実際に敵と交わる兵士と同等の技量を持つ必要はないかもしれないが、兵たちと同じ汗を流すのは、お互いを知るよいきっかけになる。
兵たちの気持ちが、忠誠心だけとは限らない。
兄王よ、やはり貴方の教育方針は、大幅な方向修正を要すると思う。
「そ、それに、エディアール様は細身でいらしたので、大公殿下のように、その、厚みがある……といいましょうか。野性的と申し上げよろしいのか……」
「あぁ」
俺と兄王は腹違いの兄弟だ。
俺の母親は南方出身で、今の俺の大公領も母親からの相続だ。
さほど広くはないものの、外洋への港を有しているので、生活は都とさほど遜色はない。
ただ、エディアールの、いかにも王子様然とした白い肌と金の髪、青い目とは違って、俺は浅黒い肌に黒髪。目もありきたりな濃い茶色だ。
若い貴族の令嬢からすれば、あまり魅力的な外見とはいえないかもしれない。
「何をおっしゃるのですかっ、大公殿下っ。
大公殿下の絵姿は描かれるたびに、どんな無名の画家の絵でも、みなこぞって手に入れようと、それは熾烈な競争が起こりますのにっ」
「ほぅ、では貴女も持っていると」
「もちろんですわっ。私がまだ宮廷に上がれなかった頃に行われた、大公殿下の成人の儀のご様子と、戦から凱旋なさって馬上で民衆の歓呼にお答えになっているお姿。
そして一番素晴らしいのは、色彩のないスケッチ画ですけれど、兵たちと町の酒場で戯れているお姿は、私の寝室のチェストに……飾って……」
興奮して語っていたのに、目の前に本物がいるのに気づいていしまったようだ。
語尾がか細くなり、代わりに頬の赤みが増した。
白い肌が内側からの血色で赤く染まっていく。
それだけでも十分に鑑賞に値するものだが、それが自分への情で染まっていると思えば、愛しさもいや増すというものだ。
しかし、兵士たちと入った酒場に絵師なんていなかったはずだが。
兵の誰かが小遣い稼ぎに書いたのだろう。
そんなものがサリアの寝室にあるというのは、納得がいかないので、その『画家』は見つけ次第、早急に筆を折ってもらおう。
「そうか。俺の部屋にはサリアの肖像画が一枚もない。早速描かせるとしよう。どんな姿がいい?
俺としては公爵令嬢として華麗に着飾った姿を広間に飾りたいが、俺の寝室には、今のサリアの姿など好ましい。
しかし大きな問題があるな」
気品を保ったまま、小首をかしげるというのは、大変愛らしすぎるので、他の者の前では絶対にやらないように注意をしなくては。
こんな愛らしい姿を、たとえ画家といえども、自分以外にさらしたくない。
自分でも馬鹿らしいことを考えているとわかっている。だが、仕方ない。
「確かに、ありえないほど目まぐるしい日でした。
朝起きた時は、いつも通りのありきたりな日にしかならないと思っていましたのに。
私、朝起きた時の婚約者の方と、今この時の『伴侶の君』が違う方ですのよ。
こんな女がおりまして?」
サリアは白い手で湯をすくうと、そこに映った自分の顔を見ていた
「私、幼い時から憧れている御方がいましたの。
私は王子殿下の婚約者として陛下に選ばれた身。己の立場和わきまえているつもりでした。
ですのに、その方ったらどうやっても私の視界から外れてくれませんの。
その方に褒めていただきたくて、認めていただきたくて、王子殿下の婚約者として誰に指さされることもないような振る舞いを心がけて参りました。
そうすればするほど、王子殿下のお心が離れていくのを感じていましたのに、それよりも、その方に認めていただきたかった。
こんな女はお厭いですか?」
「それは困った方だ。だが、その健気さを、俺はたまらなく愛おしいと思うだろうな。
俺のよく知る男で、十二歳も年下の甥の婚約者を気に入ってしまって、あきらめもできず、虎視眈々と狙っていた男がいる。
今日、ようやく隙があったので、そのまま攫ってきてしまうような、我慢の利かない男でね。
彼女の親の承認も得ずに『伴侶の指輪』を渡してしまった。
こんな男をどう思う?」
「…………お慕い、しております」
俺とサリアの目が合う。
遮るものはない。
「おいで」
俺が手を広げて待つと、立ち上がったサリアが、ゆっくりと湯をかき分けて近づいてくる。
じれったくて思わず襲い掛かってしまいそうだが、ここは獲物が来るのをじっと待たなければならない。
獲物が自分の意思で、俺の前にその身を投げ出すのを待つのも、狩人の嗜みだ。
近づいてきた手を取り、宴でしたように口づけを落とす。
宴の時は指に。
今は『伴侶の指輪』に。
そのままゆっくりと湯に浸からせ、足の上で横抱きにする。俺の胸にサリアの右腕が、足には柔らかな尻が、抱えだ左腕には背が、抱え上げた右腕には足が。
湯の浮力で重さもほとんど感じない。
逆に、さぞ弾力に富んでいるであろう尻の柔らかさを、しっかりと堪能できていないのが残念だ。
「すまないな。両手ともふさがってしまっている」
わからせるように、俺はサリアの左肩を左手でつかんだ。手のひらで包み込んでしまえるほどの華奢な肩だ。
右腕は少し引き寄せて、サリアの可愛らしい膝頭からほっそりした足首までが湯から出るようにした。
ロウソクの光を反射して、それ自体が淡く光を発しているかのようだ。
サリアは両腕をあげ、俺の頭を抱えると、自分から唇を俺に許した。
俺は舌でサリアの唇を舐め、その隙間に舌を入れた。歯を撫でるとうっすらと開き侵入を許された。
少し首を傾け、より深く唇を重ねる。
「っ……うっんんっ」
サリアの声を、そのまま俺の喉で受け取る。
首筋に縋りついてくる指は、震えていても離そうとはしない。
昂っているのか、寄せられた胸の柔らかい感触と、頂のしこった感触が俺の胸にあたる。
目を開けてサリアの顔を見れば、目を閉じたまま顔を赤く染めて、けなげにも必死で俺の唇と舌の動きを追っている。
健気で愛らしい俺の『伴侶』。
王たちが戻ってきた暁には、さっそく式を挙げよう。
それまでは、ゆるりと時間をかけて、さらに俺好みの『伴侶』となってもらおう。
ー-------------------
*つけるほどでもなかったかな?
これからテオにはサリアを五感で楽しんでいただきますです。
今回は「視覚」(一部フライングあり)
次は「触感」で愛でていきたいっ
あの後、サリアを『ギャフン』するつもりが、逆に俺から『ギャフン』されてぐうの音も出ない四人を後目に、サリアを連れて宴から退出した。
王宮に配置している俺の『耳』からの報告によると、エディアールはもう一度ファムを妃にすること、サリアとの婚約を破棄することを宣言したというが、反応はグダグダだったそうだ。
それはそうだろう
『俺がそうしたいから』以外に何の根拠もない(俺が論破)にも関わらず、王の意に反したことを宣言したのだから。
大方の貴族が、『王が帰還してからの対応待ち』の状態だったそうだ。
あの状況で、あえて苦言を呈するのが本当の忠臣だと思うが、肝心の最側近の二人があれではどうしようもない。
あそこまで前後の見境のない行動に走らせたファムとかいう娘は、ある意味大したものだ。
魅了の術でも使っているのかもしれない(『乙女ゲーム』の清純派主人公が魅了の術で攻略対象を落としていく、というのは斬新すぎるか)。
とにかく兄王と、それに随行しているサリアの父親である公爵に状況を知らせる手紙を書き、マジックアイテムを使って即座に届けさせた。
この世界は、転生前の感覚からすればほぼ中世ヨーロッパな感じだが、ファンタジー要素もある。
精霊や魔物がわずかながらに存在するし、魔法も然り。
ただし魔法を使えるのは本当にごくわずかの人間で、それらが作り出すマジックアイテムもそれなりに高額だ。
今回の『手紙』は、俺の今後の進退にかかわってくるので普段は口うるさい執事もなにもいわなかったが、一通出すのに平民四人の一家が一年程度暮らせる程度の金額だ。
兄王へは、貴方の息子が貴方の不在時にやらかしていること。
その尻拭いをしたことを報告した。貴方の子育てが現在進行形で失敗しており、今後悪化の予定であることを、敬意と畏敬の念を込めた言葉で、懇切丁寧に書き送った。
片頭痛を発症して、頭を抱え込んでいる兄王が浮かぶ。
亡き王妃との一人息子を甘やかして育てたツケだ。せいぜい悩んでいただきたい。
公爵には事の経緯のほか、娘さんを伴侶に頂きたい、というか頂くからよろしく、とも書いた。
公爵家にはサリアの兄も弟もいるから後継には問題ないはずだ。
それに加えて、ちょっとした提案も書き足しておいた。
愛娘をコケにしたしょーもない輩の父親には見せないだろうが、検討してみてほしい提案だ。
それから、王宮内にある俺の大公の館では休まらないだろうから、少し郊外にある別荘に居を定めた。
有能な家臣たちが、いつでも使える状態にしてある。
王都の公爵邸では、万が一エディアールが王子の名のもとに押しかけてきた場合、押し返すのが難しい。
それならば俺といた方が安全だ。
公爵邸からは、サリア付きの侍女たちと、しばらくの身の回りの品を運ばせた。
王と公爵が王都に帰還するまでの十日間程度を過ごせば、後はどうにでもなる。というかする。
諸々の下準備も含めてバタバタしていたら、落ち着いたのが日も暮れた時間になってしまった。
おかげでこの館の入り口で別れて以来、サリアに会えていない。
背を淵に預け、天井に向かって長く息を吐いた。
転生前の習慣からか、俺は湯船につかりたいし、大きい湯舟だとなおいい。
一般の貴族の習慣では、部屋にバスタブを持ち込んで、使用人たちに世話をさせるのがこの世界の入浴だが、俺はこの館にテルマエを作った。
大公ならではの贅沢だな。
天井はあるが二方は壁を作らず吹き抜けになっている。明かりを消せば湯に入ったまま夜空の星も見える。
俺専用のものなので、なにを遠慮するものではないが、今夜はいつもより少しばかり多めに明かりをつけている。
華美は俺の好みではないが、半裸の女神や男神の像、動物や花々の像で囲まれていているので、初めて入る者にはいささか勝手が悪いだろう。
俺も自分のテルマエに浸かっているのに、湯帷子なんぞ着ている。
しかも下半身には透けないほどの厚手のひざ丈のズボンまで履かされている。
『この状況なら身に着けるべきです。それでなくても貴方様のお持物は、万が一にもうら若いお嬢様のお目に触れてよいものではございません』などと、褒められているんだか微妙にけなされているようなことをいってきた執事が用意したものだ。
転生前の記憶からすると、衣服を身に着けて湯に入るのは違和感しかないが、まぁ、今宵は仕方ないとしておこう。
前室からの戸が開き、白い姿が現れた。
月明りと薄暗いロウソクの明かりだけに目が慣れないのだろう。しばらく立ち尽くしている姿を、俺は湯につかりながらとても楽しく堪能する。
なんの装飾もない白い湯帷子が、サリアの肢体の美しさを際立たせる。
コルセットを外しているはずなのに、軽く紐で結ばれている腰とその上にある胸との落差は大変すばらしい。
そのくびれた腰から健やかに伸びた腿は、かじりついたらとても美味そうだ。
宴の時とは異なり、緩く上げただけの髪から下がるおくれ毛が、湯気にあたってしんなりとうなじに張り付いている。
濃い金色の髪が薄明りの中、それ自体が発光しているように輝いている。
他のところはどうなのだろうかと、とても楽しい想像が膨らんでとまらない。
「た、大公殿下っ。どうしてここにっ」
俺に気づいたサリアが足を止める。身を守るように湯帷子の前をきつく合わせるが、素晴らしい造形の胸が強調される。合わさった両腕からこぼれんばかりだ。
大変すばらしい眺めだ。
「どうして? ここは俺の別荘で、俺のテルマエだ。いてもおかしくないだろう?」
まぁ、確信犯だけどな。
サリアは一度、前室への扉を振り返ったが、ここが俺の館であり、使用人たちも俺の意をくんで行動していると瞬時に理解したようだ。
この聡明さが好ましい。
つん、と可愛らしくあごをあげると、
「それでは、大公殿下と湯を共にする栄に浴しますわ」
「もちろんだろうとも。我が『伴侶』の君」
俺がそういうと、サリアは指輪をした指を、反対の手で隠すように抑えた。まるで取り上げられるのを恐れているかのように。
サリアの指には、俺が宴で差し出した『伴侶の指輪』がある。
もし不本意なものだったら、俺がいない間に外してしまっていただろう。
この反応からすると、問題なさそうだ。
初っ端から裸同士では刺激が強すぎるだろう、と湯帷子をまとわせたのだが、これはこれで大変眼福だ。
サリアは少しでも身を隠そうとしているのか、湯帷子を体に巻き付け、腕で胸を覆っているが、そうするとより体の線がはっきりと見える。
これは黙って鑑賞しているのが、男として正しい在り方だろう。
サリアは自分の体は隠しながらも、チラチラと俺の方を見てくる。
俺が体の向きを変えると、ビクッと体を揺らすが、逃げはしない。
狩りの時に目が合ってしまった鹿を思い出す。黒目勝ちな目で、じっとこちらの出方をうかがっている。
うかつに動けば逃げ出されてしまうが、対処を間違えなければ、得られる獲物だ。
罠はゆっくりと絞ってゆけばいい。
俺は湯を楽しむように、ゆったりと体を広げた。
「今日は慌ただしい日だった」
「……はい」
それ以外、言いようがないだろうな。
『ゲームのイベントがわかっていた』俺と、何もかも突然降ってきたサリアとでは、疲労の度合いも違うだろう。
その華奢な背に負わされた重荷が、少しでも軽くなるとよいのだが。
「俺を恨むか?」
サリアは横に首を振った。
「……エディアール殿下もお気づきだったのでしょう。私の気持ちが殿下に向けられていないことに」
「別に、気に病むことではない。所詮陛下と公爵が取り決めた政略婚だ。結果として気持ちが生まれるなら、それに越したことはないだろうが、始めから気持ちを求めるのは傲慢というものだろう」
確かに兄王と妃は政略婚だが、結果的には気持ちの通じる関係になった。それでもあくまでたまたま相性が良かっただけだ。
王族として、婚姻は義務であって己の好悪でどうこうできるものではない。
仮にも王族であるのなら、義務として受け入れるべきことを、受け入れなくても済むと考える浅はかさ。
まぁ、もう知ったことではない。
お陰で俺は、極上の伴侶を得られるのだから。
「まずは、湯に浸かったらどうだ? 俺も愛しい伴侶に風邪でもひかせたとなっては、立場がない」
少し戸惑いを見せたが、再び促すと、サリアはゆっくりと湯に浸かった。
入浴の作法なんてない世界で、波を立てないように、揃えた足先からゆっくりと入ってくる様のは、公爵家の教育の賜物だろう。
「先程から、視線が熱くてのぼせてしまいそうなんだが、そんな珍しいものでもあるのか?」
「と、殿方と、こんな薄物で、こんなに近くにいるなど……」
「兵士たちとの訓練で半裸になるなどよくあることだが、エディアールは脱がなかったのか」
「王子殿下は、教師に習う剣術をなされていたので……」
確かに、指揮を執る立場の人間が、実際に敵と交わる兵士と同等の技量を持つ必要はないかもしれないが、兵たちと同じ汗を流すのは、お互いを知るよいきっかけになる。
兵たちの気持ちが、忠誠心だけとは限らない。
兄王よ、やはり貴方の教育方針は、大幅な方向修正を要すると思う。
「そ、それに、エディアール様は細身でいらしたので、大公殿下のように、その、厚みがある……といいましょうか。野性的と申し上げよろしいのか……」
「あぁ」
俺と兄王は腹違いの兄弟だ。
俺の母親は南方出身で、今の俺の大公領も母親からの相続だ。
さほど広くはないものの、外洋への港を有しているので、生活は都とさほど遜色はない。
ただ、エディアールの、いかにも王子様然とした白い肌と金の髪、青い目とは違って、俺は浅黒い肌に黒髪。目もありきたりな濃い茶色だ。
若い貴族の令嬢からすれば、あまり魅力的な外見とはいえないかもしれない。
「何をおっしゃるのですかっ、大公殿下っ。
大公殿下の絵姿は描かれるたびに、どんな無名の画家の絵でも、みなこぞって手に入れようと、それは熾烈な競争が起こりますのにっ」
「ほぅ、では貴女も持っていると」
「もちろんですわっ。私がまだ宮廷に上がれなかった頃に行われた、大公殿下の成人の儀のご様子と、戦から凱旋なさって馬上で民衆の歓呼にお答えになっているお姿。
そして一番素晴らしいのは、色彩のないスケッチ画ですけれど、兵たちと町の酒場で戯れているお姿は、私の寝室のチェストに……飾って……」
興奮して語っていたのに、目の前に本物がいるのに気づいていしまったようだ。
語尾がか細くなり、代わりに頬の赤みが増した。
白い肌が内側からの血色で赤く染まっていく。
それだけでも十分に鑑賞に値するものだが、それが自分への情で染まっていると思えば、愛しさもいや増すというものだ。
しかし、兵士たちと入った酒場に絵師なんていなかったはずだが。
兵の誰かが小遣い稼ぎに書いたのだろう。
そんなものがサリアの寝室にあるというのは、納得がいかないので、その『画家』は見つけ次第、早急に筆を折ってもらおう。
「そうか。俺の部屋にはサリアの肖像画が一枚もない。早速描かせるとしよう。どんな姿がいい?
俺としては公爵令嬢として華麗に着飾った姿を広間に飾りたいが、俺の寝室には、今のサリアの姿など好ましい。
しかし大きな問題があるな」
気品を保ったまま、小首をかしげるというのは、大変愛らしすぎるので、他の者の前では絶対にやらないように注意をしなくては。
こんな愛らしい姿を、たとえ画家といえども、自分以外にさらしたくない。
自分でも馬鹿らしいことを考えているとわかっている。だが、仕方ない。
「確かに、ありえないほど目まぐるしい日でした。
朝起きた時は、いつも通りのありきたりな日にしかならないと思っていましたのに。
私、朝起きた時の婚約者の方と、今この時の『伴侶の君』が違う方ですのよ。
こんな女がおりまして?」
サリアは白い手で湯をすくうと、そこに映った自分の顔を見ていた
「私、幼い時から憧れている御方がいましたの。
私は王子殿下の婚約者として陛下に選ばれた身。己の立場和わきまえているつもりでした。
ですのに、その方ったらどうやっても私の視界から外れてくれませんの。
その方に褒めていただきたくて、認めていただきたくて、王子殿下の婚約者として誰に指さされることもないような振る舞いを心がけて参りました。
そうすればするほど、王子殿下のお心が離れていくのを感じていましたのに、それよりも、その方に認めていただきたかった。
こんな女はお厭いですか?」
「それは困った方だ。だが、その健気さを、俺はたまらなく愛おしいと思うだろうな。
俺のよく知る男で、十二歳も年下の甥の婚約者を気に入ってしまって、あきらめもできず、虎視眈々と狙っていた男がいる。
今日、ようやく隙があったので、そのまま攫ってきてしまうような、我慢の利かない男でね。
彼女の親の承認も得ずに『伴侶の指輪』を渡してしまった。
こんな男をどう思う?」
「…………お慕い、しております」
俺とサリアの目が合う。
遮るものはない。
「おいで」
俺が手を広げて待つと、立ち上がったサリアが、ゆっくりと湯をかき分けて近づいてくる。
じれったくて思わず襲い掛かってしまいそうだが、ここは獲物が来るのをじっと待たなければならない。
獲物が自分の意思で、俺の前にその身を投げ出すのを待つのも、狩人の嗜みだ。
近づいてきた手を取り、宴でしたように口づけを落とす。
宴の時は指に。
今は『伴侶の指輪』に。
そのままゆっくりと湯に浸からせ、足の上で横抱きにする。俺の胸にサリアの右腕が、足には柔らかな尻が、抱えだ左腕には背が、抱え上げた右腕には足が。
湯の浮力で重さもほとんど感じない。
逆に、さぞ弾力に富んでいるであろう尻の柔らかさを、しっかりと堪能できていないのが残念だ。
「すまないな。両手ともふさがってしまっている」
わからせるように、俺はサリアの左肩を左手でつかんだ。手のひらで包み込んでしまえるほどの華奢な肩だ。
右腕は少し引き寄せて、サリアの可愛らしい膝頭からほっそりした足首までが湯から出るようにした。
ロウソクの光を反射して、それ自体が淡く光を発しているかのようだ。
サリアは両腕をあげ、俺の頭を抱えると、自分から唇を俺に許した。
俺は舌でサリアの唇を舐め、その隙間に舌を入れた。歯を撫でるとうっすらと開き侵入を許された。
少し首を傾け、より深く唇を重ねる。
「っ……うっんんっ」
サリアの声を、そのまま俺の喉で受け取る。
首筋に縋りついてくる指は、震えていても離そうとはしない。
昂っているのか、寄せられた胸の柔らかい感触と、頂のしこった感触が俺の胸にあたる。
目を開けてサリアの顔を見れば、目を閉じたまま顔を赤く染めて、けなげにも必死で俺の唇と舌の動きを追っている。
健気で愛らしい俺の『伴侶』。
王たちが戻ってきた暁には、さっそく式を挙げよう。
それまでは、ゆるりと時間をかけて、さらに俺好みの『伴侶』となってもらおう。
ー-------------------
*つけるほどでもなかったかな?
これからテオにはサリアを五感で楽しんでいただきますです。
今回は「視覚」(一部フライングあり)
次は「触感」で愛でていきたいっ
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