推しも萌えもございませんので、モブな私を放っておいてください……って、メインキャラのみなさんっ、聞いてますっ⁉

藍川 東

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ピンチはチャンス? でもやっぱりピンチでしょっ!④

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 ここがクラムド=クリシャの研究室だとなぜわかったのかというと、小説の挿絵通りだったから。
 ひと言でいうと、『片付けられない子供のおもちゃ箱』。
 部屋の三方を囲む棚には本はもちろん、小物も大物も差別なく置いてある。
 中には、どう見ても壊れていたり、作りかけで放置されているようなものまである。
 物は床にも侵食してきていて、アリ塚みたいになってる。
 それがあちこちが隆起していて、それぞれが絶妙なバランスで独立を維持している。
 整理整頓が好きな人なら腕が鳴る部屋だし、ちょっとでもミニマリストなら発狂しそうな場所だ。
 そして、片付けようと手を出そうとすると、『どこに何があるかわかっているから、手を出すなっ』的なことをいう部屋の主だ。
 私の目の前。
 大ぶりの椅子に埋まりそうに座っている少年。
 これがクラムド=クリシャだ。
 全体的に色素が薄い。そして華奢。
 メインキャラなので、当然美少年。
 『目だけは経てきた時間を表すように、叡智と、愚か者たちへの侮蔑と、好奇心と、世界へのあきらめが見て取れる。』
 …………って小説には書いてあったけど、私の目の前にいるのは、結構生意気な顔した、ナジャ君やアクシオ君よりちょっと幼ないかな? って子供。
 大魔導士サマだとは知ってるんだけど、圧とか感じられないんだよねー。
 私がモブだから。
 ではなくて、きっと抑え込んでる。
 クリシャの後ろには、宙に浮いたスクリーンがあって、私が急に消えたので探してくれているみなさんが映っている。
 これで、いろいろ見てニヤついていたわけだ。
 ひまじん。

 クラムド=クリシャーー長いしめんどくさいので、以下クリシャーーからすると、『ここはどこ、あなたはだれ?』って戸惑う私を想像しているだろうけど、そんなお約束のことをしてくれるのは、メインキャラだから。
 モブに正しいメインストーリー進行を求めるほうが、間違ってる。
 クリシャの後ろのスクリーンでは、あるもの手あたり次第攻撃してみるって案が通ったらしく、メインキャラたちが広間にある『もしかしたらクラムド=クリシャじゃない?』ってものたちを攻撃している。
 でもそれもクリシャのお遊びで、そのたびに爆発したり、べとべとに溶けたり、逃げ出したり。
 とにかくとっても面倒なことになっている。
 大怪我はしないように調整してあるんだろうけど、大きくなくても怪我したら痛いんだぞ。

 私はイラつきをまったく出さないようにして、最大限恭しく見えるように、目の前のクリシャに礼をした。
 「古の大魔導士 クラムド=クリシャ様にゴアイサツ申し上げます」
 ……………………ノーリアクション。
 せっかく、魔法士団に入ったばっかりの時に教えてもらって以来、一度もやったことない最上級の礼をやってみたのに(ほら、そういうのって意外と忘れないじゃない?)、ノーリアクションはないでしょ。
 顔を上げると、クリシャがむーっと不本意顔をしてた。
 「どうして、我がクラムド=クリシャというのじゃ」
 「違いますか?」
 そんなわけないけど。
 「いや。違わぬが……」
 クリシャとしては、もっとじらしたり、弄んだりしたかったんだろうけど、知らん。
 「では、一度で当てましたので、いうこと聞いてください」
 「むぅ」
 さらに口をへの字にするクリシャ。
 少年の外見だから、許されるけど、中身オジーちゃんでしょ。
 への字口のオジーちゃんて、どこに需要が?
 「よもや、偉大なる先達たるクラムド=クリシャともあろうお方が、一度出した課題と約束を、つまらないからひっこめる、といって感情的な、幼い子ども、いえガキのようなことは、なさるわけがないと信じておりますが」
 スクリーンの向こうでは、イスリオを先頭に騎士さんたちがガスガスとクラムド=クリシャらしきものを切り刻んでいっているし(イスリオ、力入りすぎじゃない?)、サルファス王子の先導の元、魔法士たちもクラムド=クリシャ的なものをバンバンに(サルファス王子、やり方がえげつなくない?)砕いたり燃やしたり溶かしたりしてる。
 クリシャが作って保護してる空間なんだろうけど、内包している力が膨大になってきてるんじゃないかな?
 「おぬし、我がなぜこの場に連れてきたのか、気にならぬのか」
 「私の魔法が珍しかったからでしょ?」
 ほかに、モブたる私がこんな目に合う必然性が感じられない。
 「それより先にっ」
 私は大魔導士に詰め寄った。体の大きさだけでいったら、少年の体をしているクリシャより、私のほうが背も(……体重も……)大きいもの。
 「早く彼らを止めてください。
  あなたの『おもちゃ』がいくら壊れようと知ったこっちゃありませんけど、そのとばっちりで怪我をしたり、危ない目に合うのは嫌ですから」
 「そうは申してもな、せっかくのことじゃ。
  我も準備にそれなりの手間と時間をかけたのじゃ。
  多少楽しんでもバチは当たるまい」
 なんだか子供が母親に『僕、悪くないもん』って駄々こねてる風情。
 しか~し、私はあなたの母ではない。
 そして、バチは当ててみる。
 「そうですか。でしたら」
 言葉を切ると、私は床から生えている『塚』のひとつを蹴っ飛ばした。
 「あぁぁっ。
  おぬしっ、それは気候変動の魔法についてのっ」
 おお、そんな貴重なものが無造作に置かれているなんて。
 でも、今、必要なのは、それではないので、ちゃんとしてくれるまで、ガスガスいくよー。
 「やめよっ、それは錬金術の……あぁっ、それに触ってはならぬ。
  それは古の、ドラゴンのうろこじゃぞっ。ゆめ丁寧に扱うのじゃっ」

 と、クリシャの悲痛な声で、塚倒しをやめてやった。
 床の上は、わずかな私の足元以外、本屋や意味不明の道具が広がり、正しくカオス。
 足元に転がってきた、なんだかわからない珠を足で踏みつけた。
 「おぬしっ。 なにに足を乗せおるのか、わからぬのか?」
 わかっておりますよ~。
 だからこそ、知らんぷりして足かけられてるんだもん。
 
 さて、古の大魔導士サマ。
 お覚悟は決まりましたか?
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