掌中の珠のように

花影

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エピローグ

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サブタイトル「溺愛」でもいいんですが……。


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「ん……」
 沙耶が目を覚ますと義総の腕の中だった。首を巡らすと反対側には幸嗣もいて、2人に挟まれるようにして眠っていたようだ。
 閨で2人同時に抱かれても、近頃は何かと忙しい2人がこうして朝まで一緒にいてくれるのは珍しい。
 昨夜連れ込まれたのは義総の部屋だったが、ここは自分の部屋のベッドだった。嫉妬した2人に攻め立てられ、失神した後は体を清めてここへ連れてきてくれたのだろう。
「おはよう、沙耶」
「沙耶、Happy Birthday!」
 2人が同時に沙耶の頬に口づける。ダーヴァッドとの会談から一夜明けて、沙耶は18回目の誕生日を迎えたのだ。
「おはようございます、義総様、幸嗣様。ありがとうございます」
 顔を赤らめながら礼を言い、2人の頬に口付けを返す。ゆっくりと体を起こすと、幸嗣が夜着を体にかけてくれる。礼を言おうとしたが、目の前の光景に言葉を失う。
「これ……どうしたの?」
 いつもならまだ閉められているはずの天蓋布が開けられていて、部屋の様子が見渡せられる。ベッドの上だけでなく、床やテーブルの上にもリボンをかけた大小様々な包みや花束、ぬいぐるみ等々が足の踏み場も無い程置いてあった。驚きを通り越して絶句し、呆然とその光景を眺める。
「沙耶?」
「どうした?」
 仕掛けた張本人たちは彼女の反応が無い事を気にして顔を覗き込んでくる。
「こんなにたくさん……」
 呟く沙耶に2人は両脇から頬に口づける。
「せっかくのお祝いだからな」
「そうそう。嬉しくない?」
 もちろんプレゼントは嬉しいが、ここまでされてしまうとちょっと引いてしまう。しかも薬の後遺症で苦しんでいた間、2人は見舞いと称して毎日の様に花束やプレゼントを届けてくれたのだ。そのおかげで部屋は贅沢な小物で溢れ、もう置く場所がない。これらの物をどうやって片付けるかの方が心配だった。

 クンクンクン……

 ベッドの上に座り込んで途方に暮れていると、すぐ側に置かれた大きなかごの中から切ない鳴き声と何かを引っ掻くような音が聞こえてきた。沙耶はハッとしてベッドから降りると、籠に近づきそっと蓋を開ける。
「かわいい……」
 中には赤い首輪をしたサルーキ種の仔犬が入っていた。毛色はアレクサンダーと違って淡いクリーム色。沙耶が抱き上げると、嬉しそうに尾を振りながら彼女の頬を舐める。
「気に入ったか?」
 送り主の義総が満足そうに声をかける。
「はい。ありがとうございます」
 沙耶は義総に礼を言うと、嬉しそうに仔犬に話しかけ、夢中で頭を撫でている。
「名前も付けてやってくれ。確かメスだ」
「女の子……どうしよう……」
 急に名付け親になる事になってしまい、悩んでいたが、仔犬のかわいらしいながらも優美な姿を見て閃いた。
「グレイス……グレイスに決めていいですか?」
「……良い名だ」
 義総が満足そうに頷く。よく見れば、グレイスが入っていた籠の周りには、仔犬を飼い始めるのに必要な小物類が入った包みが置かれている。これらも全て義総からの贈り物だろう。
「そろそろ俺からのプレゼントも見て欲しいな」
 幸嗣が少し拗ねたように言いながら一抱えもある某キャラクターのぬいぐるみを沙耶に差し出す。沙耶は仔犬を義総に預け、そのぬいぐるみを受け取った。
「ありがとうございます」
 礼を言って受け取ると、ぬいぐるみは何かの封筒を持っていた。
「開けてみて」
 幸嗣に促されて開けてみると、このキャラクターがいるテーマパークの年間パスポートが入っていた。以前に一度も行ったことが無いと言ったのを彼は覚えていたらしい。
「え……」
「体調がいいみたいだからさ、今度一緒に行こうよ」
 どうやらデートのお誘いらしい。沙耶はそうっと仔犬を膝に抱えている義総を伺うと、彼はちょっと不機嫌そうにしている。
「いくらか出せば貸し切れるだろう。人が多い所へ沙耶を連れて行くな」
「閑散としたテーマパークなんてつまらないだろう? 人がいる時の方が楽しいよ」
 幸嗣もムッとして言い返す。年間パスポートも驚いたが、それ以上にテーマパークを貸し切るなんてスケールが違いすぎる。
「どうせなら本場のテーマパークへ連れて行ってやる」
「自家用ジェットは手放したばかりじゃなかった?」
「太平洋を一周するクルージングにまだ空きがあるらしい。船旅なら移動中でも愛し合える」
 話のスケールが大きくなるにつれて沙耶はどんどん怖くなる。
「あ……あの、そんなにお金を使うのはもったいないです……よ?」
 遠慮がちな沙耶の提案に2人は思わず吹き出す。
「可愛い事言うなぁ」
「この位まだ序の口だ」
 2人は笑いながら沙耶の頬に口づける。更にクルージングは世界一周にするとか、沙耶専用の車や別荘を買うとか話がどんどん膨らんできて、彼女は眩暈を感じてくる。
「沙耶?」
「気分が悪くなった?」
 2人は沙耶はの異変に気づき、血相を変える。義総は仔犬を籠に戻し、大慌てで額を押さえている彼女を抱き上げてベッドに横たえた。
「綾乃を呼んでくる」
 バスローブ姿の幸嗣が部屋を飛び出して行き、義総はギュッと沙耶を抱きしめる。その腕の中が心地良く、先程の眩暈の理由がなかなか話し出せない。
「薬が来るからな、もう少し辛抱してくれ」
 沙耶を抱きしめたまま義総が沙耶の額に口づける。早く言わなければと思うのだが、大事にされている事が嬉しくなってしまい、彼女はそっと彼の広い背中に腕を回してその胸に顔を埋める。
「早く、早く!」
 幸嗣が綾乃を急かす声が聞こえる。沙耶を溺愛するあまり、周囲が見えなくなっている2人に話すよりも綾乃に話す方がいいかもしれない。後ろめたさを感じるが、沙耶はそう思い直す。
 あと少しだけ……心地いいこの腕の中で甘えている事に決めた。


END


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次の人物紹介で完結します。
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