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3.上手に騙して

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「自由騎士?」
「そうだ」
「それってすごいんじゃないの?」

 私の働く店と違って朝まで開いてる酒場に案内した。
 男はやっぱり思った通りに街には詳しくなくて、でもそれも名乗った肩書に頷いた。

 騎士っていうのは国に雇われた人たちを指す。そうでなければ帯剣は許されない。
 小さな村には自警団がいたりするけど、その人たちは騎士は名乗れないしこの街に自警団はない。
 国に雇われてる騎士には自由はない。任務地は指定されたところで、拒否権はないと聞いた事がある。その代わりに待遇はとても良いとも。

 自由騎士って言うのはその名前の通り、騎士でも『自由』がある。
 自由騎士は自分の思うまま各地を転々としてその地の問題を解決する権限を与えられている。ただ本当に強くて国からも信頼されているほんの一握りの人だけ、らしい。

 らしいというのは、噂でしかないからだ。
 普通まずお目にかかることはないから出回ってる話が本当なのかどうかも分からない。

 国からも信頼された一握りの騎士?
 酒場で初対面の女を誘うような男が?
 噂がやっぱり嘘だったか、それともこの人が嘘つきなのか。多分後者だろう。

 そんな偏見と先入観を持ちながら私は運ばれてきたビールに口を付けたんだけど、でも男の話は嘘でも面白かった。
 北の山脈で村を襲っていたドラゴンを倒したり、南で不正をして税金を巻き上げている領主を裁いたり、西では隣国との小競り合いの勝利に貢献した話も、どれもこれも胸のすくような冒険譚みたいだ。

「西の話って聞いた事がある気がする。正に一騎当千で、たった一人で争いを終わらせた英雄がいるって。それがあんたなの?」
「その話がどうかは知らんが、まぁドラゴン相手よりは人相手の方がよっぽど楽だな」
「なんか私は熊みたいな人を想像してたよ」

 英雄っていうからには。
 目の前の男はまぁ確かに筋肉質ではあるかもしれないけれど、熊には程遠い。顔も身体も洗練されすぎてる。

「そりゃあ剣の腕だけを磨いてきたヤツらとは違って俺は魔法を使えるから、バカみたいな筋肉ダルマになる必要がない」
「魔法っ!? 本当に!?」

 魔法って言えば国どころか大陸中で数える人しかいない程、自由騎士よりはるかに超貴重な人材だ。

 前のめりになりかけて、一瞬で冷静になった。

 そんな貴重すぎる人がこんなとこで女を引っ掛けてお酒を飲んでるはずがない。
 お金出して女を抱くどころか、王族と結婚したっておかしくないんだから。

 嘘をつくならもっと上手に騙して欲しい。
 思わず零れそうになった溜息を飲み込んだ。顔は良いんだし一晩だけの相手だ。あとはセックスさえ良ければそれでいいし、それ以上踏み込む必要もない。
 ビールの残りを飲み干して席を立った。

「知ってる宿屋があるから、そこでいい?」

 男もビールの残りを喉に流し込んで、並んで店を出た。
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