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ロストバージンの関係

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 叔母さんも叔母さんだ。復讐するなんて大層なこと言っていた癖に、コトをする時に俺を拘束するのをやめた。そのままでも俺が大人しくしていると思ったのだろう。体格の差も、俺に守るものがなくなったことも、何も理解できない大馬鹿野郎だ。
 すぐに組み敷いてやってトラウマだかなんだか知らないが呼び起こしてやると思ったが、コトが終わった後に彼女が言ったのは“私、あの人のその目が好きだったの”、このクソ女!!
 何もかもが最低だった。良いことが起きる気なんか何もしなかった。将来自分の力が必要だと思ったから勉強だけは続けたが、友達付き合いは適当になり、みんな自然と離れていった。孤立していたわけではない、なんとなく距離ができてしまったのだ。でも仕方ない、環境が違いすぎる。
 最低限の愛想をキープしながら学校へ通い、叔母さんを抱いて、夜はまた部屋へ篭もる。ずっとそこから抜け出せない気がしていた。実際、中学二年生まではそんな生活だった。けれどもそれをぶち壊したのも叔母さんだった。
「隼人くんの子を妊娠したかもしれないわ」
 並んで座っている叔母さんと叔父さんと、向かい合ってダイニングテーブルで食事をしていた。そのタイミングで彼女は突然そう呟いたのだ。
 俺はすぐにそれが嘘だとわかった。彼女はピルを服用している。
 叔母さんはこの時も笑ってた。少し丸みのある子供のような顔で。
「お前達、やっぱり影でそんなことしてたのか! さすがあのクズの子供だな!」
 普段寡黙な叔父さんが立ち上がって、座ったままの俺の胸ぐらを掴んだ。拳が振り上げられたので立ち上がると、彼は俺を見上げて動きを止めた。悔しそうに歯を食いしばり、血管が浮かぶほど拳を握っているというのに、何もしてこない。この人も可哀想な人だ。叔父さんの手を、力を入れないようにできるだけ優しく振り払った。
「そんな嘘ついて、何になるんですか。それも復讐ですか」
 叔母さんは何も答えない。一人で席についたまま、黙々と目の前のステーキ肉をナイフで切っては口に運んでいた。なんだよそれ。
 俺はそのまま、なんの荷物も持たずに家を出ていった。二人共、俺なんてまるでいなかったかのように反応一つせずにそのまま見送った。それ以来、俺は十一年間を過ごしたこの家に足を踏み入れてはいない。





 鏡を見ることすらほとんどしなくなった自分の顔だったが、この時また俺は自分の目立つ容姿に感謝せざる負えない事態になった。家を出て、夜の街をふらふらと歩いていればいくらでも声をかけられた。頼れる人もなく行く場所もないためこれにはかなり助けられたのだ。
 体格は良かったが顔はまだ幼さが残るため、終電近くなり真っ暗で冷たい駅の周りをウロウロと歩いていると、地味めなOLさんなんかも心配して話しかけてくれた。逆ナンパよりもそういう人を選んで泊めてもらい、家を渡り歩いた。何も考えずに自宅があった場所の隣駅で過ごしていたが、彼らが探しに来ることはなかった。
 そんな生活が二週間ほど続いた時だった。いつも通り駅の近くを歩いていると、叔母さんらよりも少し上くらいの、背の高い夫婦に話しかけられた。美男美女だったが、とくに奥さんは目が大きくて堀が深く、日本人離れした顔をしていた。
「ねぇ、もしかして、違っていたら申し訳ないんだけど……大鳥、隼人くん?」
「え……?」
 遠慮がちに問われたが、同級生の親か何かかと思って焦る。こんなことをしているのがバレたらまずい。走って逃げようと踵を返すが、旦那さんに腕を掴まれた。帰宅ラッシュ時だったため人が多く、それをされるとうまく身動きが取れない。周りに少なからずこちらを注目している人間もいて嫌だった。
「離してください……!」
「待ってくれ、私たちは君のご家族に頼まれてきたんだ!」
「え……家族……?」
 家族と言われても何にも浮かばなかった。俺に家族なんていないよ。でもすぐに叔父さんと叔母さんの事だと察することはできた。法的にいえばあんなのでも家族だ。旦那さんはまっすぐ俺の目を見てゆっくりと一語一語丁寧に話す。こんな風に話してくれる人は初めてだった。
「あのな……よく聞いてほしい。私たちは先日、君の叔父さんから連絡をもらって、ついさっきこの土地に着いたところだ。それなのに君はずっと家に帰っていないと聞いて、心配で探しに来たんだ」
「心配って……なんで……連絡って……?」
「落ち着いて聞いてくれ……君を、引き取ってほしいと言われたんだ」
 引き取る、の意味がしばらくわからなくなるほど、俺にとっては寝耳に水の一言だった。そして意味を理解した時、一瞬でも捨てられたんだと思ってしまったことが悔しかった。
 言われたことはわかっても言葉がでず、目の前の夫婦を見て狼狽えた。そんな俺の様子を見て、二人はレストランへ場所を移そうと誘ってくれた。それを素直に受け入れる。
 外は七月の蒸し暑さで空気が重くじっとりとしていたので、涼しく快適な店内はまさに天国だった。頭もだんだんと冷えていき、夫婦を改めて観察した。まだわからないが、人の良さそうな二人だ。それに叔父さんと叔母さんと違い、とても仲が良さそうだ。メニューも人数分あるのにわざわざ一つのものを二人で覗き込んで見ている。
「あのね、私は隼人くんのお父さんの従姉妹なの。子供の頃のゆうちゃん……お父さんに、そっくりだからすぐわかったの!」
 楽しそうに懐かしそうに目を細め、目尻に皺を作りながら、奥さんは話し始めた。店内のオレンジ色の間接照明に照らされたその顔は柔らかく、本当に優しそうだった。彼女は俺の父親の話をたくさんしてくれたが、悪く言うことはなかった。
 食事中は明るい奥さんの話をずっと聞いていた。戸惑いもあったけれど、普通の楽しい家庭の食事ってこんななのだろうなと嬉しい気持ちもあった。そしてレストランを出た後、旦那さんは俺の手を取り真剣な面持ちで話を始めた。
「隼人くん、聞いてくれ。私たちは東京に住んでいるから、私たちと暮らすならここを離れることになってしまう。でも絶対に悪いようにはしないよ。大学まできちんと出せるくらいの蓄えもある。うちには娘も一人いるけれど、何も気にしなくていい。うちにおいで」
「あの……」
 ずっと相槌を打つだけだった俺の話に、二人はうんうんと頷きながら耳を傾けた。少し話し出すだけでこんなに、まるで一音も漏らすことのないようにと話を聞いてくれるのか。涙が出そうだった。
「もうあの家には、帰りたくないです」
 そうして俺はこの夫婦に引き取られることになった。そのまま俺は東京へと二人に連れられて行き、調度その頃夏休みが始まり、手続きや荷物の手配なんかも全て夏休みの間に終わっていた。叔父さん叔母さんとは呼びたくなかったので、篤志さん、美穂さんと名前で呼ばせてもらっている。
 二人の話では初めから自分達が俺のことを引き取りたいと名乗り出たが、叔母さんの強い意向でそれは認めてくれず、叔母さんの姉である母親が亡くなっているのもあって強くは出られなかったらしい。驚きだ。
 しかし、この家にも問題はあった。俺より一歳年下で一人娘の麗奈だ。
 こんなに優しい両親がいるというのに、彼女は学校に行かず部屋にずっと引きこもっていた。しばらくは顔を見たことすらなかった。
 もしかしたら俺はこの子の代わりに頑張らなければいけないのだろうか。たまにふとそんなことを思い息が苦しくなることもあったが、そんなことを言われたわけでもなんでもない、余計なことを考えるなと自分に言い聞かせた。ここでの暮らしはそれ以外は平和なのだから。
 問題があるのはむしろ俺の方だった。普通の生活というのがもうよくわからなくなっていた。そして自分の悪癖に気づく。一人部屋をもらい、ベットについても全然眠れないのだ。はじめは場所に慣れず緊張しているのだろうと考えたが、数日たっても一週間が過ぎても上手く眠ることができず、うとうとしては起きたり寝てもすぐに起きてしまったりを繰り返した。
 そんな時決まって思い出すのは叔母さんや、たった一日二日泊めてくれただけの女達だった。学校になんの挨拶もせずに逃げるように転校していったが、同級生のことを思い出すことは一切なかったというのに。一緒に学校生活を送り、それなりに会話などしていたはずなのに。俺が思い出すのはセックスした女だけ。
 自分が気持ち悪いと思った。せっかく平穏な環境を手に入れたのに俺自身が手遅れだと絶望した。なんでどうして、嫌で仕方なかったのではないのか。理性では拒否していても、誰かに触りたくて、触られたくて仕方なかった。人肌が恋しい。
 それに気付いてしまったらいてもたってもいられず、しかし夜中に出かけては美穂さん達に迷惑をかけてしまうため、朝を待って出かけた。顔色が悪いと彼らは毎日心配してくれていたが、その理由を知られたくなくて必死で笑顔を作った。こんな醜い自分が知られたらまた捨てられてしまう。
 外へ出てしまえば後はもう簡単だった。夏休みということもあり、街へ出ると人で溢れかえっていた。都会はこんなにも人がいるのかと驚いたと同時に、これならいくらでも誰かを捕まえられると安心していた。もう待ってなんていられない。年上でできるだけ金に余裕のありそうな人に、“地方から出てきたばかりなので街を案内してほしい”と声をかけまくった。そうやって初めてこの土地で女を抱いた日、俺はようやく安眠することができたのだ。
 毎日外に出ると家に馴染めないのかと心配されるだろうと思い、数日毎にそれは行われた。慣れない人混み、知らない女、けれどそんなものに俺は安らぎを求めた。時には自己嫌悪に嘔吐しながら、時には父親に似たせいだと恨みながら。




 どこに行っても平穏な暮らしなんかもうできないじゃないか。原因は全て俺だ。
 ひどい夏休みを過ごし、新しい学校になんか行きたくなかった。何も得るものなんかない。またキラキラした同級生達の中で酷く汚い自分が嫌になるだけだ。
 知らない土地、知らない制服、知らない中学校、知らない教室。
 教師に連れられ初めて足を踏み入れた瞬間、ざわついていた生徒達が俺を見て一斉に息を飲んだ。恐らくまた一番背が高いだろうし、目立つだろう。仕方ない。そう思いながらも教室を見回すと。
 静まり返った教室で全員、本当に全員が俺の顔を見ていた。そんな中で窓際の後ろから二番目に座っている生徒だけが、窓の外を見ていた。
 九月のまだまだきつい日射しを浴びながらも、それが全く似合わない白い肌と涼し気な凛とした横顔。眉間には皺を寄せて気難しい表情をしている。
 それが、玲児だった。
「ほら、挨拶して」
 何故だか気になって夢中で観察していたら教師に肩を叩かれてしまった。慌てて頭を下げる。
「大鳥隼人です。よろしくお願いします」
 名前を言い終えた途端に生徒達から悲鳴に近い声が上がった。カッコイイ、信じられない、足めちゃくちゃ長い、とかそんな感じの声がキンキンと響く。うるせぇ。
 既にこのクラスの生徒達に嫌気が差しながらも顔を上げると、さすがに彼奴もこちらを見ていて目が合った。
 その瞬間だ。仏頂面が驚きで和らぎ、幼さを見せる。眉を上げ、少し垂れた目を開き、白い頬が……わずかに、思い過ごしかもしれないというほどわずかに、紅潮した。
「ぶっ」
 あんな凛々しい顔してたのに何それ可愛いと思って、つい吹き出してしまった。彼奴はばつの悪そうな顔をして思い切りふんっと目を逸らし、俺は教師に不審がられたのを苦笑いで誤魔化す。
 こんなに他人に興味を惹かれたのは初めてだった。友達になんかなれるかなとこの時は考えていたけれど、今にして思えばあれは一目惚れだったのだろう。




 転校してからの数日間、クラスメイト達だけでは収まらず他のクラスや学年の人間が俺の元へやって来た。遠巻きに見る奴、話しかけてくる奴、つきまとってくる奴。色々いたが、なんとなく返事して笑顔見せて愛想振りまいておけば平和だった。驚いたのは体の関係迫ってくる女がいたこと。面倒臭いことは避けたいなとも思ったが、町で物色するよりは楽で安全かと思い何人か頂いた。セックスするってこんなに簡単なんだなってどんどん自分の中で感覚が麻痺していく。
 けれども触れ合う相手よりも気になる奴は全然話しかけに来てはくれなかった。それなのに幾度となく視線を感じてそちらを見ると毎回目が合うんだ。もちろん逸らされるんだけど。
「なぁ、瑞生。なんか用?」
 二週間くらい様子を見ていたがさすがに痺れを切らし、また目が合った瞬間に話しかけた。昼休みで他の奴と話していたのも中断し、空いていた玲児の前の席に後ろ向きで座る。
 玲児はいきなり話しかけられて面食らった顔をしていた。眉間にさらにシワが寄っていて笑える。
「む? どういう事だ、用などない」
 これが初めてちゃんと聞いた玲児の声。可愛げがないセリフだ。ハッキリと話しているのに囁いてるような響きをもった、低い声だった。
「じゃあ俺が用事作ってもいい?」
 少し俯き加減だった顔を覗きこみながら聞いた。玲児は首を傾げる。
 興味を持ち思いつきでそのまま話しかけるほど、俺は無鉄砲なことはしない。もう既に探りを入れてコイツが陸上部のエースだと言うことはわかっていた。ただし、この時点でなんでそこまで慎重に玲児に近付いたかは自分でも謎だ。他の生徒と比べて異質な雰囲気なのと、反応が面白かったからか。
「んーと、そうだなぁ……陸上部の見学してもいい?」
「今思いついたのか? しかしそういうことならば教師に聞け」
「えー、瑞生が連れてってくれればいいじゃん」
「しかし……」
「頼む!」
 言うと同時に女に頼み事をする時の癖で、机に置かれていた玲児の手を握ってしまった。
 やばいな、男なんかに手を握られても気持ち悪いだけだろ。嫌がられると思い急いで手を離そうとしたが、その顔を見たら離せなくなった。目を丸くして握られた手を見つめ、白い頬を桃色に染めている。ちょっと一番最初に見た顔に似てるけど、もっと可愛かった。
 こういう反応する女が今までいなかったわけじゃない。それなのに何だか俺まで恥ずかしくなってきて、心臓が高鳴っていくのまで感じて戸惑った。なんだこれ、自分がこんな風になったのは初めてだ。どんどん意識してしまって、握る手に力が入ってしまって、その手は俺よりも細くて肌がきめ細かくて……
「お、大鳥。わかったから、手を離してくれ」
「えっ? あ……」
 かなり名残惜しかったが、スッと手を退いた。玲児は解放された手にもう片方の手を重ね、キュッと握った。手を見つめている瞼が妙に色っぽい。色白な頬に影を落とす真っ黒な長い睫毛だ。
「放課後……陸上部に連れていく。それでいいな?」
「ん? ああ、そんな感じで!」
「貴様……本当に見学したいのか」
「したいしたい、超したい」
「よくわからん男だ……」
 こうして疑われつつも約束を取り付けることができ、めちゃくちゃ嬉しかった。陸上部なんてもちろん興味なかったが、それを利用してでも玲児との接点がなにかしら欲しかった。これで仲良くなれなければ部活に入ってもいいと思えるほどだ。
 ここで昼休みは終わり、午後の授業を受けながら“今日は女はいいや”とぼーっと考えていた。そしたら無意識に玲児は気持ちよくしてやったらどんな顔するのかなと考えてしまい、さらに妄想して反応する下半身に気付いてしまい、本当にどうしたことかと思った。窓を見るふりをして、一列挟んで斜め後ろの席にいる玲児をこっそり見ようと思ったらまた目が合ってしまい、ますますどうしたらいいか分からなくなる。
 苦し紛れに小さく教科書の影で手を振ったら、振り返しはしないものの、こちらを見て子首を傾げる。本当になんなんだろ、すげードキドキする。こんなにときめいてるのにまだ俺は恋と気づけない。




「瑞生さ……なんで陸上部なのにそんなに肌白いの」
 陸上部に連れられてユニフォーム姿に着替えた玲児を見てまずそう聞いた。そして内心、更衣室に無理にでも一緒に入ればよかったと後悔した(最初は着替えを見ようかと思ったが全力で拒否をされた)。
 ランニングとショートパンツから伸びた手脚は筋肉はついているものの細く、青白い。この頃の俺と玲児は数センチほどの身長差しかなかったが、体重はめちゃくちゃ軽そうだなと思った。腰も細いし尻も小さいし、でも太ももは少し太くてエロい。
 相手は男だぞという抵抗感を自分で意識しようするが全く効かず、自分は本当に変態だと思った。けれども他の陸上部の奴らを見てもなんとも思わない。
「大鳥、そんなに見るな ……やめろ!」
 校庭の端で恥ずかしそうなユニフォーム姿の玲児を、しゃがんだまま眺めてる自分を想像しこれじゃマジで変態だと急いで立ち上がる。玲児はあまりに俺がじろじろ見るからかそわそわとして落ち着きがなかったが、顧問に呼ばれると人が変わったように背筋が伸びた。顔つきも鋭くなる。こっちが彼の本来の姿なのだろう。
 そのまま走り出した玲児は信じられないくらいに速かった。細いくせに凄い脚力で地面を高く蹴り、砂埃と一緒に飛んでいってしまいそうで、本当の風のように走り抜けていた。周囲の話を聞いていると短距離走の選手で一年の時からエースらしいが、それも納得の走りだった。
 そして走っている時の彼はいつもの仏頂面がとれ、とても楽しそうだった。真剣な顔をしているのだが、ほのかに微笑んでいるような。走るのが本当に好きなのだろう。玲児が起こした風は俺の身体をも吹き抜けていき、この時に悟った、好きだって。俺の全てをその風で攫っていってしまったのだ。
 それは俺の、初恋だった。




 その後は俺も顧問に言われて走ったりしてみたものの、それよりも玲児が見たくて見たくて仕方がなかった。だんだん夕暮れになると紅潮した肌がさらに赤く染まり、流した汗は陽の光を反射して輝いていた。こんなに綺麗なものがこの世にあるのかと、ずっと玲児に見蕩れていた。
「大鳥、本当に陸上部には入らないのか」
 ジャージに着替えてしまった玲児と部活の感想なんかを話していたら、家が案外近いことが判明したため二人で家路を並んで歩いていた。そこそこ足の速い俺を顧問は勧誘してきたが、あっさり断ったのが意外だったらしい。
「部活なんか面倒臭ぇもん、やだよ」
「なら、なぜ見学など……」
 横目で玲児をチラッと見て、呟く。
「瑞生がいたから」
「え?」
「瑞生玲児がいたから」
 言葉にしたら少し気恥ずかしくなって、あー疲れたと両腕を伸ばして誤魔化した。玲児の顔が怖くて見れない。
「何を……言っているんだ」
 随分と間を開けた後の、静かな声だった。
「お前と話してみたかったんだ。その口実」
 そんなに嫌そうではない声音だったので玲児の顔を見ると、大急ぎでそっぽを向かれてしまった。なんにも見えない……けど、夕焼けのせいなのか何なのか、耳が真っ赤。
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