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第二章 彼は呪いの子?

7.エマの助言

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 シエラは町の学校へ通っているので、平日は朝早く出かけて夕方まで帰らない。
 シエラを見送った私は聖堂へ朝のお祈りをしに行き、ついでに修道院の食堂の裏で食材をもらおうと教会の庭を歩いていた。
 するとシスターエマがマリア様の像の前を竹ぼうきで掃いていた。

「アイネ、無事だったのね!」

 エマは私の顔を見るなりすぐに駆け寄って、ほうきを投げ出して私の体を強く抱き締めた。小屋に引っ越してまだ二日しか経っていないというのに。

「エマ、大げさよ」

「だって私、大変な話を聞いたんですもの」

 エマは辺りに誰もいないことを確認してから、私に耳打ちした。



「シエラはただの孤児じゃないわ。呪われた子かもしれないの!」

「えっ!」

シエラが呪われている? そんなことがあるのだろうか。
 エマは何を根拠に言っているのだろう。

「孤児院の子から聞いたのよ。シエラは人間とは思えない不思議な力を持っているんですって」

「そんな……」

 司祭様はシエラを優秀で将来有望な子だと言っていたのに。
 両手で口を塞いだまま固まる私の両腕を掴んでエマは言った。

「悪魔に呪われた子だったら危ないわ。襲われて淫魔にされる前に逃げて。きっとあなたは生贄として呪いの子に捧げられたんだわ。二人きりで小屋で暮らすなんておかしい話だと思ったのよ」

 でも彼の親代わりを私に頼んだのは他ならぬ司祭様だ。彼が私を呪われた子の生贄にするだろうか。

「それにね……」



 エマが何か言いかけた時、私たちの背後から声がした。

「シスターエマ、だめじゃないこんなところで庭掃除をさぼって。マザーヘレンへ言いつけるわよ」

 二人で肩をビクッとさせながら振り返ると、私たちのすぐ後ろにシスタージュリエッタが立っていた。
 いつからそこにいたのだろう。



「ご、ごめんなさい、シスタージュリエッタ」

 エマはすぐにほうきを手にしたのに、ジュリエッタはムッと怒った顔をしている。

「集めた枯葉を捨ててきてちょうだい。さぼった罰よ」

 近くの手押し車を指差して、ジュリエッタは命令した。

 エマは私を心配そうに振り返りながら車を押して行ってしまった。



「まったくエマったら、ひどいわね。シエラを呪われた子呼ばわりするなんてあんまりだわ」

 大きなため息をついて彼女は言った。

「シスタージュリエッタ、今の話を聞いていたの?」

「ええ、立ち聞きなんてするつもりじゃなかったけど、偶然聞こえてしまって。きっとエマは仲良しのあなたが修道院から出て行ってしまったことが寂しくて仕方がないんだわ。早く戻ってきてほしいからあんなことを言ったのよ。エマの言うことを気にしてはいけないわ、シエラが悪魔に呪われているなんて証拠はないでしょう?」

「そうね、私もシエラが呪われているだなんて思えないわ」

 ジュリエッタの言う通り、エマが私に会えなくて寂しいと思っているのは確かだ。
 エマの言ったシエラの「不思議な力」というのが何なのかもわからない。

「アイネは司祭様を信じて、シエラのお世話に尽力なさいね」

「ありがとう、シスタージュリエッタ」

 これまで私はお嬢様育ちのジュリエッタが孤児院出身である私やエマを毛嫌いする意地悪な人だと感じていたが、案外優しいことを言うんだなと、少し彼女を見直した。
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