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レヴェント編・真紅の血鬼《クリムゾン・ブラッド》
31.最悪――最恐/最凶
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黒い爆風と黒い魔弾が衝突、互いに消失する。
あと三発――
接近接近接近。こちらの生命線である魔力球は残り三発、確実に直撃する位置の黒風暴のみを打ち抜き、他二発は回避する。
一発とて無駄に出来ない。
触手と不可視の斬撃が止めどなく降り注ぐ戦火を駆け抜ける。
頬を鎌鼬が斬り裂き、全身にも無数の裂傷が走った。降り注ぐ弾幕は先程より濃く、それでいて的確にこちらを狙っている。完全回避は既に不可能――いかにネビルスが本気なのかがわかる。
流石にキツイ。
元々コイツは馬鹿じゃない。攻撃を回避されている理由を理解した奴は、回避しにくい方に攻撃を変えて来ている。コイツは回避位置に攻撃を置くことで回避の難易度を上げて来ている。
「チッ」
即死だけは回避しているが、ダメージの蓄積が著しい。これ以上、肉体が損傷すれば動きに支障を来すだろう。
はぁ――やっぱり、アレしかないか。
「ふぅ――――、――――、……やるか」
方向転換。
「?」
俺は左右移動を止め、ネビルスを正面にした。
攻撃回避のため左右移動を混ぜ込み、ダメージを最小限する回避動作から一転――直線に、ネビルス目掛けて走り出した。
ザシュグサッ、と上腕と太ももが斬撃と触手の攻撃によって出血する。地面に大量の血が吹き漏れ、血だまりを作った。
が――止まらない。
鋭い痛みに顔を歪ませつつも、脚を止めることはなく、以前、前進を続ける。
先程まで回避できていた攻撃が体を斬り裂き、貫く。即死の一撃のみを回避してその他の攻撃を全て受け、真っ直ぐと疾駆する。ネビルスはこちらの動きに困惑した表情を見せるも、一切油断した様子はなく、全力で潰しに掛かってくる。
黒風暴が三点、展開される。
っ――
驚愕の表情を浮かべる。展開された魔法陣の射角は、先程と違い、その全てが直撃するようになっている。俺は放たれる魔道三つ全てを潰さなければ――死。
読まれたか。
唇を噛む。奴は俺が先程、一発しか黒風暴を防がなかったことで魔力の底が尽きかけだという事実に感づいた。そもそもとして、アイツは俺が魔力が少ないことを知っていた、遅かれ早かれ気付かれるのは必然。
放たれる三発、その全てを弾かなければ即死――しかし、弾けば次はない。
…………。
思考が高速回転する。黒風暴だけは魔力球以外では防げない。紅月を使えば何とかなるかもしれないが、取り出すまでの時間がない。
紅月を取り出すのには数秒掛かる。だが、今のネビルスは紅月を出そうとすれば、その隙に首を弾くだろう。
死――今のヤツは完全に俺を殺しに来ている、そんな余裕はない。
「――――」
視線を静かにネビルスに向ける。
鋭い殺気に籠った目が俺を射抜く、しっかりと切り替えて、俺を殺す気だ。やはり隙を見せて生きていられる自身はない。
殺される殺される――
心臓の鼓動が妙に強く感じられる。
このままでは〝死〟は避けられない……――それはいいのか?
一瞬――瞳を閉じた。
――――行くぞ
覚悟を決めろ――――
瞳を大きく開く。
即座に右手を伸ばし、魔力球を三砲展開する。
黒色の弾丸が発射され、それぞれ正確に黒い爆風へ飛んで行く。直撃、三弾とも見事に直撃し、黒い爆風を消失させる。
同時――地面を蹴りつけ、加速。
次は相殺はできない。故、ここは全力を乗せて突っ込む。
全身に斬撃と触手が当たり、血液を撒き散らせる。ぐらり、体が揺らぐのを感じ、動きが鈍くなっていくのを感じる。
当然だ。人間である以上、血液をここまで失えば生命維持に異常が出てもおかしくない。そして、暴威は血流の速度上昇などで身体能力を向上させる身体強化法、血液が減れば、身体強化が落ちるのは仕方ない。
既に暴威による身体強化が消えたカラダで前進する。
「残念です」
その言葉と共にネビルスの指先に魔力が籠るのを感じた。
ネビルスとの距離、約10m。暴威を発動している状態ならまだしも、今の死に体では三秒で詰め切るのは不可能――
死ぬ
死ぬ死ぬ
死ぬ死ぬ死ぬ
死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ
死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ
死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ――――
頭の中をノイズのように響き渡る言葉。
脳裏に明確にイメージできてしまう。
――――、――――。
思考を停止させる。
一……――
血が抜けたせいなのか、戦意が潰えたからなのか、体から力が抜ける。
二……――
瞳は淡い光を灯し、死人のような目で敵を見た。
三……――
ゆったりとその時を待つ。
黒い風が正面に展開される。命を粉々に散らせる漆黒の風は無慈悲に襲い来る。
ドガガガガガ―――ッ!!!
全てを切り刻む黒い風が通り過ぎる。
真っ赤な鮮血が舞い散る――命が散る。
ネビルスは空に舞った血を見て、ひどく残念そうな表情をした。彼のその表情は、おもちゃを失った子供のようで、失望と悲しさの混ざったものだった。
黒風が空を煽った。
…………黒風暴。
その所在を俺は詳しく知らない。が、この戦いでそれなり理解した。
黒風暴は展開の要するのに約三秒の広範囲攻撃、その攻撃力は地面や壁を容易く粉砕できるほどである。この世界で見て来た魔法の中ではトップクラスの性能だ。
ただ何点か欠点も見えた。
一つ目、発動には高い集中力が求められることだ。
これは他の魔法、魔道にも言えるのかもしれないが、発動の際は周囲への意識が散漫になりやすい傾向にある。それは黒風暴を使用する際にネビルスからの意識が外れる感覚、不可視の斬撃や触手の手数が落ちることからわかる。
二つ目、再発動に時間を要するだ。
まあ、詳しいことは知らないが、黒風暴は上位の魔法なのだろう、故に次の発動に時間が掛かっても仕方ないのかもしれない。
五秒――俺が計測した再発動までの時間だ。
再発動の五秒、発動に必要とする三秒、計八秒……――
たかだ10mの距離を詰めるのには――
――――十分過ぎる時間じゃないか?
そして――
「最後三つ目。発動の際は――視界を大部分を潰す、だ」
「!?」
驚愕の表情が向けられる。
黒風暴が消えると共に、ネビルスの左下側から死んだ筈の俺が現れたのだ。
ギリギリぃ――
冷や汗を掻き、笑みを浮かべる。
「なっ!? よ、避け――」
「いや全然」
言葉を遮って即答。同時に距離を詰める。
ネビルスの視線がこっちに向き、俺の体を見て悟る。
先程の一撃、羅列した欠点で何とか即死を免れたが、しっかりと喰らっている。
距離が詰まっていた故に、視界が潰され接近できたが、同時に距離が近い故に、その全てを躱し切ることはできなかった。
右腕――皮がズタズタに引き裂かれ、辛うじて動く程度の悲惨な姿になっている。
痛ぇ……流石に右腕一本は覚悟がいる。
機能は失っていないが、それでも今すぐに治療しなければならない程度には酷い有様だ。風が当たる度、叫び出したいほどの痛みが走って、動きはするが激痛が走る。
予想以上に損傷していることに若干焦るが、これくらいなら何とかなると気合いを振り絞って地面を蹴った。
斬撃が胸を斬り裂いた。
ネビルスは同様していながらも、即座に反応して見せる。
俺は左手に握ったショートソードで斬撃を仕掛ける。
グサグサグサ、触手が全身に貫く。
「ブハッ――――」
吐血。
バキンッと左手のショートソードが弾かれ、動きが停止する。
流石に対応が早い。明らかに異常事態が発生しているのにも関わらず、即座にこちらの動きに対応してくるとは。暴威の切れている今の俺では、斬撃も触手も躱せない。
でも――
「流石にこれで――」
「いや、まだ死なないぜ?」
どこか安堵した表情ネビルスに向けて、ニヤ、と嫌な笑みを浮かべる。
両手をダランと垂れ下げた状態で前進、全身から血液が溢れ出し、失血多量真っ直ぐら。だが――止まらない。
最後の力を振り絞り、最大出力の暴威でネビルスへ飛び付く。
「っ――!?」
触手の拘束を越え、ネビルスの上空へ飛んだ俺はそのまま、空中でクルッと一回転した後、彼を通過して道の先へ飛んだ。
ザザザと地面を擦って着地し、ネビルスに背を向ける形で四つん這いになる。
両手に力は入っていない。そもそも全身に力が入らない、既にこの身は死に体、生きているか死んでいるか曖昧な状態である。
「――――、!?」
無言でこちらを見つめるネビルスは自身の異変に気づく。
首元から血液がダラダラと溢れ出し首元を押さえる。手で損傷部分を確かめると、それが何かに――噛み千切られた跡だと理解する。
ハッと再びこちらに視線が向く。
グウィ、と口角が歪に吊り上る。
四つん這いの体勢から立ち上がり、腰を落し両手をダランと垂れ下げた態勢を取る。
メチメチメチ……グチャグチャ……――ゴックン――――
ネビルスの額を冷や汗が滑り落ちる。
彼の眼前にいる怪物は、何かを飲み込んだ。
プシュッ――――
怪物の全身からモクモクと白い蒸気が吹き上がる。
よく見ると、ズタズタになって右腕が再生を始めている。他にも全身の裂傷、穴がどんどんと塞がり、再生――修復されていっている。
「か、怪物……――」
心底怯え切った声で呟いた。
先程までの嬉々とした様子は完全に消え失せ、ただそこにいる最悪に恐怖している。
怪物はそっと異空間収納から紫色の鞘をした刀を取り出し、菫色の刀身を露わにさせる。
嶽劣し――逆手に持った菫色の刀は、暗い路地裏で妖艶に輝く。
ゆっくりと振り返り、ネビルスを見る怪物。
「ひっ――」
影に染まった顔と歪に吊り上った口角。人のモノとは思えないその表情に、思わず恐怖する。
ゆったりと歩みを始める怪物は言った。
「さあ――絶滅タイムだ」
死神の言霊が響いた。
あと三発――
接近接近接近。こちらの生命線である魔力球は残り三発、確実に直撃する位置の黒風暴のみを打ち抜き、他二発は回避する。
一発とて無駄に出来ない。
触手と不可視の斬撃が止めどなく降り注ぐ戦火を駆け抜ける。
頬を鎌鼬が斬り裂き、全身にも無数の裂傷が走った。降り注ぐ弾幕は先程より濃く、それでいて的確にこちらを狙っている。完全回避は既に不可能――いかにネビルスが本気なのかがわかる。
流石にキツイ。
元々コイツは馬鹿じゃない。攻撃を回避されている理由を理解した奴は、回避しにくい方に攻撃を変えて来ている。コイツは回避位置に攻撃を置くことで回避の難易度を上げて来ている。
「チッ」
即死だけは回避しているが、ダメージの蓄積が著しい。これ以上、肉体が損傷すれば動きに支障を来すだろう。
はぁ――やっぱり、アレしかないか。
「ふぅ――――、――――、……やるか」
方向転換。
「?」
俺は左右移動を止め、ネビルスを正面にした。
攻撃回避のため左右移動を混ぜ込み、ダメージを最小限する回避動作から一転――直線に、ネビルス目掛けて走り出した。
ザシュグサッ、と上腕と太ももが斬撃と触手の攻撃によって出血する。地面に大量の血が吹き漏れ、血だまりを作った。
が――止まらない。
鋭い痛みに顔を歪ませつつも、脚を止めることはなく、以前、前進を続ける。
先程まで回避できていた攻撃が体を斬り裂き、貫く。即死の一撃のみを回避してその他の攻撃を全て受け、真っ直ぐと疾駆する。ネビルスはこちらの動きに困惑した表情を見せるも、一切油断した様子はなく、全力で潰しに掛かってくる。
黒風暴が三点、展開される。
っ――
驚愕の表情を浮かべる。展開された魔法陣の射角は、先程と違い、その全てが直撃するようになっている。俺は放たれる魔道三つ全てを潰さなければ――死。
読まれたか。
唇を噛む。奴は俺が先程、一発しか黒風暴を防がなかったことで魔力の底が尽きかけだという事実に感づいた。そもそもとして、アイツは俺が魔力が少ないことを知っていた、遅かれ早かれ気付かれるのは必然。
放たれる三発、その全てを弾かなければ即死――しかし、弾けば次はない。
…………。
思考が高速回転する。黒風暴だけは魔力球以外では防げない。紅月を使えば何とかなるかもしれないが、取り出すまでの時間がない。
紅月を取り出すのには数秒掛かる。だが、今のネビルスは紅月を出そうとすれば、その隙に首を弾くだろう。
死――今のヤツは完全に俺を殺しに来ている、そんな余裕はない。
「――――」
視線を静かにネビルスに向ける。
鋭い殺気に籠った目が俺を射抜く、しっかりと切り替えて、俺を殺す気だ。やはり隙を見せて生きていられる自身はない。
殺される殺される――
心臓の鼓動が妙に強く感じられる。
このままでは〝死〟は避けられない……――それはいいのか?
一瞬――瞳を閉じた。
――――行くぞ
覚悟を決めろ――――
瞳を大きく開く。
即座に右手を伸ばし、魔力球を三砲展開する。
黒色の弾丸が発射され、それぞれ正確に黒い爆風へ飛んで行く。直撃、三弾とも見事に直撃し、黒い爆風を消失させる。
同時――地面を蹴りつけ、加速。
次は相殺はできない。故、ここは全力を乗せて突っ込む。
全身に斬撃と触手が当たり、血液を撒き散らせる。ぐらり、体が揺らぐのを感じ、動きが鈍くなっていくのを感じる。
当然だ。人間である以上、血液をここまで失えば生命維持に異常が出てもおかしくない。そして、暴威は血流の速度上昇などで身体能力を向上させる身体強化法、血液が減れば、身体強化が落ちるのは仕方ない。
既に暴威による身体強化が消えたカラダで前進する。
「残念です」
その言葉と共にネビルスの指先に魔力が籠るのを感じた。
ネビルスとの距離、約10m。暴威を発動している状態ならまだしも、今の死に体では三秒で詰め切るのは不可能――
死ぬ
死ぬ死ぬ
死ぬ死ぬ死ぬ
死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ
死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ
死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ――――
頭の中をノイズのように響き渡る言葉。
脳裏に明確にイメージできてしまう。
――――、――――。
思考を停止させる。
一……――
血が抜けたせいなのか、戦意が潰えたからなのか、体から力が抜ける。
二……――
瞳は淡い光を灯し、死人のような目で敵を見た。
三……――
ゆったりとその時を待つ。
黒い風が正面に展開される。命を粉々に散らせる漆黒の風は無慈悲に襲い来る。
ドガガガガガ―――ッ!!!
全てを切り刻む黒い風が通り過ぎる。
真っ赤な鮮血が舞い散る――命が散る。
ネビルスは空に舞った血を見て、ひどく残念そうな表情をした。彼のその表情は、おもちゃを失った子供のようで、失望と悲しさの混ざったものだった。
黒風が空を煽った。
…………黒風暴。
その所在を俺は詳しく知らない。が、この戦いでそれなり理解した。
黒風暴は展開の要するのに約三秒の広範囲攻撃、その攻撃力は地面や壁を容易く粉砕できるほどである。この世界で見て来た魔法の中ではトップクラスの性能だ。
ただ何点か欠点も見えた。
一つ目、発動には高い集中力が求められることだ。
これは他の魔法、魔道にも言えるのかもしれないが、発動の際は周囲への意識が散漫になりやすい傾向にある。それは黒風暴を使用する際にネビルスからの意識が外れる感覚、不可視の斬撃や触手の手数が落ちることからわかる。
二つ目、再発動に時間を要するだ。
まあ、詳しいことは知らないが、黒風暴は上位の魔法なのだろう、故に次の発動に時間が掛かっても仕方ないのかもしれない。
五秒――俺が計測した再発動までの時間だ。
再発動の五秒、発動に必要とする三秒、計八秒……――
たかだ10mの距離を詰めるのには――
――――十分過ぎる時間じゃないか?
そして――
「最後三つ目。発動の際は――視界を大部分を潰す、だ」
「!?」
驚愕の表情が向けられる。
黒風暴が消えると共に、ネビルスの左下側から死んだ筈の俺が現れたのだ。
ギリギリぃ――
冷や汗を掻き、笑みを浮かべる。
「なっ!? よ、避け――」
「いや全然」
言葉を遮って即答。同時に距離を詰める。
ネビルスの視線がこっちに向き、俺の体を見て悟る。
先程の一撃、羅列した欠点で何とか即死を免れたが、しっかりと喰らっている。
距離が詰まっていた故に、視界が潰され接近できたが、同時に距離が近い故に、その全てを躱し切ることはできなかった。
右腕――皮がズタズタに引き裂かれ、辛うじて動く程度の悲惨な姿になっている。
痛ぇ……流石に右腕一本は覚悟がいる。
機能は失っていないが、それでも今すぐに治療しなければならない程度には酷い有様だ。風が当たる度、叫び出したいほどの痛みが走って、動きはするが激痛が走る。
予想以上に損傷していることに若干焦るが、これくらいなら何とかなると気合いを振り絞って地面を蹴った。
斬撃が胸を斬り裂いた。
ネビルスは同様していながらも、即座に反応して見せる。
俺は左手に握ったショートソードで斬撃を仕掛ける。
グサグサグサ、触手が全身に貫く。
「ブハッ――――」
吐血。
バキンッと左手のショートソードが弾かれ、動きが停止する。
流石に対応が早い。明らかに異常事態が発生しているのにも関わらず、即座にこちらの動きに対応してくるとは。暴威の切れている今の俺では、斬撃も触手も躱せない。
でも――
「流石にこれで――」
「いや、まだ死なないぜ?」
どこか安堵した表情ネビルスに向けて、ニヤ、と嫌な笑みを浮かべる。
両手をダランと垂れ下げた状態で前進、全身から血液が溢れ出し、失血多量真っ直ぐら。だが――止まらない。
最後の力を振り絞り、最大出力の暴威でネビルスへ飛び付く。
「っ――!?」
触手の拘束を越え、ネビルスの上空へ飛んだ俺はそのまま、空中でクルッと一回転した後、彼を通過して道の先へ飛んだ。
ザザザと地面を擦って着地し、ネビルスに背を向ける形で四つん這いになる。
両手に力は入っていない。そもそも全身に力が入らない、既にこの身は死に体、生きているか死んでいるか曖昧な状態である。
「――――、!?」
無言でこちらを見つめるネビルスは自身の異変に気づく。
首元から血液がダラダラと溢れ出し首元を押さえる。手で損傷部分を確かめると、それが何かに――噛み千切られた跡だと理解する。
ハッと再びこちらに視線が向く。
グウィ、と口角が歪に吊り上る。
四つん這いの体勢から立ち上がり、腰を落し両手をダランと垂れ下げた態勢を取る。
メチメチメチ……グチャグチャ……――ゴックン――――
ネビルスの額を冷や汗が滑り落ちる。
彼の眼前にいる怪物は、何かを飲み込んだ。
プシュッ――――
怪物の全身からモクモクと白い蒸気が吹き上がる。
よく見ると、ズタズタになって右腕が再生を始めている。他にも全身の裂傷、穴がどんどんと塞がり、再生――修復されていっている。
「か、怪物……――」
心底怯え切った声で呟いた。
先程までの嬉々とした様子は完全に消え失せ、ただそこにいる最悪に恐怖している。
怪物はそっと異空間収納から紫色の鞘をした刀を取り出し、菫色の刀身を露わにさせる。
嶽劣し――逆手に持った菫色の刀は、暗い路地裏で妖艶に輝く。
ゆっくりと振り返り、ネビルスを見る怪物。
「ひっ――」
影に染まった顔と歪に吊り上った口角。人のモノとは思えないその表情に、思わず恐怖する。
ゆったりと歩みを始める怪物は言った。
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