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第13話 家族とは

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 もしかしたらと期待していた事が、すべて夢だったことがわかり、息が苦しくなる。

 ずっと目を背けてきた。
 私はずっと家族として扱ってもらえなかった。

 太ってはいけないと言われ家族とは別の内容の食事を一人でとらされていた。
 勉強が必要だと家族の談笑やふれあいの時間などはなく、ずっと一人で婚約者に相応しい人になれるように努力してきた。

 ひとりぼっちで家族の笑い声を聞くたびに、惨めすぎて涙が出た。

 でも、いつかは変わると期待をし続けていた。

 努力しているから、頑張っているから。

 きっと結婚すれば、王太子妃にさえなれば皆が私の努力が実った事を喜んでくれるだろうと。
 家族としてのお祝いの言葉も、温かさもきっと得られると思っていた。

 もしそれが叶わなくとも、ハインリヒとなら、温かい家庭をつくれると……。

 なのに、私の努力は全く意味がなかった。

 少なくとも、カノリアが妃教育をうけた後に婚約すると思っていた。
 何も求められずしてこなかったカノリアが、もう婚約者になれるなんて。

 私がやってきたことは、信じてきたことはなんだったのだろう。

「わぁ! 本当にお父様! 嬉しいわ」

「良かったわねカノリア。今まで頑張っていたものね。間違いが正されて私も嬉しいわ」

「おめでとう、カノリア。いい娘で私は誇らしい。ハインリヒ殿下も、おまえの事をとても推してくれたんだよ」

 目の前で繰り広げられる光景に、うんざりしたいのに泣いてしまいそうになる。
 家族はそのままカノリアのものだ。愛されるのはカノリアなのだ。

 結局私は何一つ手に入れられない。

「お姉さま」

 カノリアは弾む声でにっこりと私に微笑んだ。

 私のくるくるした赤毛とは全く違う、綺麗なまっすぐな青い髪。小動物のような大きな瞳は長いまつ毛に縁取られている。
 誰もが好きになるような、可愛い子だ。

「なあに、カノリア」

 私は震えそうになる声を、手を握って抑えた。

「お姉さまは、おめでとうと言ってくれないのかしら」

 くらくらする。
 何故私のお祝いの言葉が必要なのだろう。

 私は王太子妃の座を手に入れるために努力を求められ、今や何も持っていない。

 それなのに、その努力を必要とされなかった義妹が婚約し、私からのお祝いの言葉を求めるだなんて。

 自分でその機会を捨てたとはいえ、もし私がハインリヒと結婚できていたとしても、皆が私を家族として優しくしてくれたとはもう思えなかった。

 私が努力した事なんて、誰にも関係がなかった。私が欲しかった全てを手に入れるのは、彼女なのに。

 息苦しくなって何も言えない私に、父は冷たい目線と言葉をかける。

「ちゃんと義妹の事を祝福しなければ駄目だろう。お前は能力がないだけでなく性格も悪いな」

「……そう、ですね。……おめでとう。カノリア」

 凄く気を付けて言ったはずなのに、声は震えてしまったし私の目からは涙が零れた。それを見て、カノリアは本当に嬉しそうに笑った。

「ありがとう、お姉さま」

 私は絶望と共にその言葉を受け取った。

「良かったな。マリーシャ、お前にもちゃんと縁談を用意してくるから安心しなさい」

 父の言葉に、不自然な程驚いた顔でカノリアが首を傾げる。

「まぁ、お父様! 魔術が使えないお姉さまを欲しがる人なんているのかしら。それも、婚約破棄されたばかりで」

「魔力があり、若い。それだけでちゃんと価値はあるんだよカノリア。その辺はきちんと見極めて家の利益になる縁談を探してくる。おいマリーシャ、それまでは家の魔導具に魔力を入れる仕事をするように」

 父が言った言葉は私には死刑宣告のように響いた。
 それは父が私の事を娘とは思っていないという事と同意だった。

 カノリアは私のことをちらりと見て、嫌悪感を露にした。

「魔力があって若いだけって……それって、そういう事なのかしら」

「そうよ。でも、そんな事あなたとは関係ないわ。あなたは王妃になるんですから」

「父上。カノリアの汚点になるような縁談だけは避けてください。……そうですね、ファラー伯爵などはどうでしょう。若い結婚相手が欲しいと聞いたことがあります」

「そうだな。彼は商才がある。話をしてみるか」

「あとは、ミダッタ子爵はどうでしょう。奥様が亡くなったばかりだ」

「ああ、確かに。彼もなかなかお相手が見つからないからな」

「あんな事ばかりなら当然ですがね。でも、彼の領地の鉱山は魅力的ですよ」

「まぁ、良かったわねお姉さま! 色々なお相手がいそうだわ」

 お金で買った若い相手を次々と変える男の名前や結婚相手が何度も亡くなった男の名前が出てきて、それを四人で笑っている。

 上がる名前はどれも私でさえ悪評を聞く人ばかりだ。
 それなのに平然と彼らは私の結婚相手候補としてあげていく。

 私はそれを、ただぼんやりと眺めるしかできなかった。
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