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逃避へ
47.意図と目的
しおりを挟むアランは立ち上がって、ヒロキの肩を掴んだ。
「ちょっと!!何を考えているんですか?」
アランも予想していない展開のようでひたすら声を裏返して言った。
「…ヒロキさんと…ですか。」
ライガは警戒するようにヒロキを見た。
「そうだ。俺と闘え。」
ヒロキはゆっくりと剣を抜いて、流れるようにライガに刃を向けた。
「…追跡としてですか?」
ライガはミラを庇うように立ちあがり、ヒロキを睨んだ。
「ヒロキさん!!団長から言われたこと忘れたんですか?無茶をするなって…」
アランはヒロキの横で窘めるように言った。
「止めたければ、ジンでも呼び出せ。俺はライガと闘う。」
ヒロキは横目で鋭くアランを見た。
「何を…ヒロキさん!!いいじゃないですか。闘わなくて済むなら…」
アランはヒロキの腕を引いた。
が、ヒロキはそれを払った。
「そうはいかない…」
ヒロキはライガを見た。
「ライガ。お前皇国の者とどの程度の交流がある?」
ヒロキは眉を吊り上げて訊いた。少し冷淡な口調だった。
「馬の用意や逃走のために馬を放したり…協力してくれました。俺は…最初に警備の場所を流しました。それ以降は向こうが勝手にやってくれています。」
ライガはヒロキを睨んで言った。
アランは少し険しい顔をした。
「アラン。お前の知りたいライガと皇国の繋がりはわかった。俺はライガと闘うまでここを動くことも、ライガを逃がすつもりもない。」
ヒロキはライガに剣を構えたまま言った。
「…ライガ。ヒロキさんを殺すなよ。」
アランはライガを睨んだ。
「…ヒロキさん次第だ。」
ライガはヒロキを睨んだまま言った。
「団長を呼びに行く…言った通り、マルコムたちよりも先に団長に知らせるよう言われているからな。わかったか?ライガ。」
アランは、向き合うライガとヒロキを見て言った。
アランの言葉に二人は目をお互い逸らさず黙っていた。
アランは険しい顔をしたが、仕方なさそうに小屋から急いで出て行った。
「馬、一頭だけでしたけど…いいんですか?」
ライガは二人が連れてきた馬が一頭だけだったことを思い出した。
「言っただろ?闘うまで動かないってな。」
ヒロキは口元に笑みを浮かべた。
「ライガ…」
ミラは不安そうにライガを見た。
「…もう一度聞きます。追跡ですか?闘う理由は…」
ライガは鋭い目を向けてヒロキを観察するように見た。
ヒロキは首をゆっくり振った。
「違う。お前に頼みがあるからだ。」
彼はライガを真っすぐ見た。
どうやら、アランがいたら話しにくいことのようだ。
「一体…何ですか?」
ライガもヒロキと同じく剣を抜いて、ヒロキに刃を向けた。
「お前に…ジンを倒してほしい。」
ヒロキはライガを見て言った。
「ジンって…団長ですか?」
ライガは声がひっくり返りそうになるほど驚いた。
「そうだ。」
ヒロキは淡々と頷いた。
「わかりません。どうして…」
ライガはヒロキの意図が分からなかった。
「俺にはできないからだ。」
ヒロキは少し悲しそうに言った。
「そりゃあ、誰だってできないですよ!!…ヒロキさんでなくても…」
ライガはヒロキを窘めるように言った。
「違う…あいつを助けることは…」
ヒロキは俯いて、少し投げやりな様子で呟いた。
「助ける…?」
ライガはヒロキの普通じゃない様子に、少し心配になった。
「俺がジンの対策を教えてやる。」
ヒロキはライガを見て言った。
市場の一角にある小屋に滞在しているアシ、イシュ、シューラは慎重に外を見渡してから小屋を出た。
「帝国騎士団は、いないらしいね。」
シューラは安心したように伸びをした。
「えぐい話は聞いたけどな。あの槍の騎士。心身ともに要注意人物だ。」
アシは苦い顔をした。
「鍛えていなかったら、俺はあの女の矢で動けないままだったぜ。あーあ。鍛えていてよかったなー。」
イシュはシューラの様子を見て言った。
「うるさい筋肉馬鹿。僕はね、繊細なんだよ。」
シューラはイシュを横目で睨んで言った。
「といっても、イシュは肩に矢が刺さっていたんだ。無理はするな。」
アシは肩を押さえるイシュを心配そうに見て言った。
「大丈夫だ。幸い深くないし、いつもほどは引けないが、矢は射れる。」
イシュは肩を叩いて言った。
「僕はまだ無理だよ。変に捻ったから、繊細な戦い方をする身としては、精度が落ちるね。」
シューラは肩と腰を抑えて、困ったように眉を寄せて言った。
「じゃあ、俺とアシが様子を見に行くとするか。」
イシュはアシの肩を叩いて言った。
「うまく潰し合ってくれると思う?君が会った騎士たちとライガ。二人ともライガにやられているんじゃないの?」
シューラは冷ややかな笑みを浮かべて言った。
「精鋭は厄介と想定しておくのが一番だ。ライガは殺すまではやらないと思うし、お宝様を殺すような馬鹿をやる精鋭とも思えなかったから、大丈夫だろ。うまくいけば鑑目だけでなく手土産も手に入る。俺たちは帝国も皇国も動かせるほどのものを得られる…かもしれないんだ。」
アシはシューラを宥めるように言った。
「手土産ね…まあ、両方とも皇王陛下は喜ぶだろうな。」
シューラは皮肉気に笑った。
「そう冷ややかに言うな。俺の矢を弾いただけでも相当なはずだから、俺は油断すべきだと思う。」
イシュもシューラを宥めるように言った。
「僕は別に人形が弱いとか言っているわけでないんだよ。ただ、今はイラついているだけなんだ。」
シューラは肩を押さえて言った。
「あれは仕方なかった。お前の負傷は…」
アシはシューラを慰めるように肩を叩いた。
「仕方なくない。視界に入っていたんだ。後ろから射られるのとはわけが違う。…そして、僕は視界に入っていて、対策を出来たのに、察知をしていなかった。人形の相手をしていたからもあるけど…」
シューラはどうやらマルコムから受けた攻撃のことについて言っているようだ。
「リベンジしたいなら…今度、雇い主に頼めばいいだろう。」
イシュもシューラを慰めるように言った。
「…ふん。まあ、せいぜい二人はかわいこちゃん二人を連れて来るんだね。」
シューラは慰められたことによりさらにむくれて言った。
「じゃあ、俺たちは行くから、お前は待ってろ。帝国騎士の特に槍には気をつけろ。今はまだお前は全快でないからな。」
アシはシューラの肩を叩くと、イシュをつれて市場から出て行った。
二人の背中を見てシューラは溜息をついた。
「わかっているよ。」
シューラは変わらず拗ねたように呟いた。
市場を歩き、少し大通りから逸れたところにある小屋を見てシューラは顔を顰めた。
小屋の前には数人の女性が困ったように立っていた。
「…マルコム・トリ・デ・ブロックか…覚えてろ。」
シューラは小屋を見て憎々しそうに、吐き捨てるように言った。
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