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10.5章【そんなに変化を見届けないで】
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しおりを挟むそれは、カナタが実家に電話をかける前のこと。
ダイニングに一人で残ったカナタのそばには、ツカサがいた。
扉を挟んで、通路に一人。ツカサはなにを言うでもなく、ダイニングで悩むカナタのことを想っていた。
──『そろそろ、実家に向けて電話を発信しただろうか』なんて。そんなことを考えていると、不意に。
「──こんなところでジッとしているなんて、アンタらしくないね」
ウメが、通路を通りかかった。
ツカサは腕を組んだまま、輝きのない暗い瞳でウメを振り返る。
「丁度良かった。お前に訊きたいことがあるんだよ。……一応確認しておくけど、カナちゃんに変なことを吹き込んだりしていないよね?」
「逆に一応確認しておくけど、アタシが『吹き込んだ』って言った場合……アンタはどうするんだい?」
「腹立たしいからお前を殺す」
「『吹き込んでいない』って言った場合は?」
「存在が腹立たしいからシグレもろとも殺す」
「それじゃあ答えは前者だね。そっちが事実だし」
やはり、カナタが突然『家族にツカサを紹介したい』なんて言い出したのには原因があった。……そしてその起爆剤が、ウメだったらしい。
組んだ腕をそのままに、ツカサはウメから視線を外す。
「あっそ。バカバカしいお節介を焼いてカナちゃんに嫌われたって知らないよ。……まぁ、俺からしたら万々歳だけどさ」
「心にもない忠告をありがとうね。親孝行者に育ってくれて母さんは嬉しいよ」
「うわぁ、気持ち悪い。カナちゃん以外を喜ばせても俺はちっとも嬉しくないよ」
露骨に嫌がるツカサを見て、ウメは自身の腰に手を当てる。
「……それにしても、本当にツカサらしくないね。誰か一人にここまで執着するなんてさ」
その言葉に、ツカサは小さく反応した。
「『ツカサらしくない』か。……なら、ウメが希望する【俺らしさ】って、なに?」
問いに対し、今度はウメが反応を返す。
「なんだい、そりゃ。それも、随分とアンタらしくないね。他人からの評価を気にするなんて、らしくないどころの話じゃないよ」
「冗談。興味はないよ。ただ、それらしい相槌をしただけ」
ウメから視線を外したまま、ツカサは静かな声で言葉を紡いだ。
「……あのさ、ウメ。今まで黙っていたことなんだけど、お前に聴いてほしいことがあるんだ」
「そうかい。なんでも言ってみな。生憎と、今日はもうどんな不思議なことが起こっても驚けそうにないんだよ」
口角を上げつつ、ウメはまるで挑発でもするかのように、どこか楽しそうにツカサの言葉を待つ。
まるで、その挑発に乗るように。それでいて導かれるかのように、ツカサは言葉を続けた。
「──俺さ、お前もマスターも嫌いなんだよ。心底疎ましくて、大嫌いだ」
本人を前にしてするような話題では、決してない。だというのに、ツカサの口調はどこまでも静かだ。まるで、寝物語を聞かせているかのように。
「それは……うん。今日一番、驚かなかったことかもしれないね」
予想外で想定内の言葉を送られたウメはと言うと、ただただ目を丸くしているだけ。
『知っていましたがなにか?』と言いたげに、ツカサの横顔を怪訝そうに見つめていた。
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