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1話・追い詰めるのが好き

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 他の生徒は、早々に帰った。
 それか、学校で雨宿りをしているのだろう。

 おかげで、人通りは少ない。転んだ俺を見ている奴なんかいなかった。

 ……と、思っていたのに。


「……な、に……ッ、転んでるんだよ。……だっせェ」
「は……っ?」


 声がした方を、慌てて振り返る。


「な、んで……っ」


 そこには。
 俺と同じく、雨でビショビショになった高遠原が、立っていた。


「……ん」


 そしてあろうことか、俺に向かって手を伸ばしてきたのだ。
 不遜な態度で『勿論、手をとるよな?』と言外に伝えたそうな顔をして。


「……っ」


 当然俺は、手をとらない。……当たり前だろう?

 ふいっと、視線を反らす。そうすると、俺の視界から憎い男の手が消えた。
 代わりに、頭上から声が聞こえる。


「……悪かったよ。……無神経だった」


 降ってきた声は……予想だにしていなかった台詞だ。

 余談だが……コイツは、俺がどれだけ母さんを好きだったか、知っている。
 つまりさっきのは……それをふまえたうえでの、発言。

 だからこそ、俺は。


「――本当は、満足してるんだろっ!」


 ――我慢の、限界だった。


「いい加減にしてくれよ……っ! 俺があぁいう反応するのは分かってたくせに、なんなんだよっ! よりにもよって、こんな……雨の日に……っ!」
「……だから、無神経だったっつってんだろ」
「『無神経だった』って何だよ……っ? そんなに……そんなに俺が嫌いなのかよっ! なぁっ! いったい俺がお前になにしたんだよっ!」


 俺たちがもっと、小さい頃。
 女子からよく……『美鶴くんが私のことをどう思ってるか訊いてほしい』と、頼まれていた時期。

 ――俺の周りからは何故か、友人がどんどん減っていった。

 女子への伝書鳩行為が原因だとは思ったが、それにしたって異様な避けられ方だ。

 だからこそ理由が分からず、俺は高遠原に相談しようと思った。
 高遠原を探して、校内をウロウロしていると。

 ――耳を疑ってしまうような会話が、聞こえてきた。


「――何で、なんで……っ? 何でお前は子供の頃……俺の悪い噂なんか、流したんだよ……っ?」


 ――高遠原美鶴が、俺の友達に……あることないこと吹き込んで。

 ――俺が嫌われるよう、誘導していたのだ。

 ずっと、高遠原は一番の友達だって……そう、信じていたのに。

 それだけの信頼感があったからこそ、女子は俺に『美鶴くんが私をどう思っているのか』なんて、訊いてきたんじゃないのか。

 ――俺だって……美鶴のことなら何でも知ってるくらい、大好きな親友だと思ってたのに……っ!


「もう放っておいてくれよっ! 俺のことが嫌いなのは、分かったから……っ! 頼むから、もう……勘弁してくれよ……っ」


 涙なのか、雨なのか。ハッキリと分からないなにかが、俺の頬を濡らす。

 それでも……雨は依然として、やみそうになかった。




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