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6話・大事にするのが好き

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 俺が、美鶴のことを好きなのか。
 胡桃沢さんに、美鶴をどう思ってほしい。

 そんな、色々の……言葉にできないモヤモヤ。

 そういうの、全部。


「くっ、胡桃沢さん……っ?」


 吹き飛んでしまった。

 女の子に抱きつかれたのなんて、生まれて初めてだ。
 柔らかくて、甘い匂いがして……美鶴の体とは、全然違う。

 慌てて抱き留めると、胡桃沢さんが首を横に振った。


「詩織……っ!」


 胡桃沢さんはいきなり、自分の下の名前を告白する。


「詩織って、呼んでほしいの……っ! アタシ、真冬くんに……そう呼ばれたこと、一度もないんだよ……っ!」


 胡桃沢さんの言う通り。
 確かに俺は、胡桃沢さんのことを……下の名前で呼んでいない。

 だけど、それとこの抱きつきに何の関係があるのか。

 その疑問は……胡桃沢さんの言葉で、解決してしまった。


「好き、なの……っ! ずっと、真冬くんが……真冬くんのことだけが、好きだったのっ!」


 聞き間違えるはずのない。

 感極まったような。
 自分の耳や、言葉を疑う余地なんて微塵もありはしない。

 そんな、告白。


「……え、っ?」


 あまりにも唐突すぎる告白に、俺は言葉を失くす。

 胡桃沢さんが。
 俺のことを。

 ……好き?


(てっきり……胡桃沢さんは、美鶴が好きなんだと思ってた……っ)


 口に出したら今度こそ叩かれそうだけど、それは俺の本心だ。

 だから、まさか……俺のことをそんな風に思っていたなんて。
 全くの、想定外。


「お、俺……っ」


 胡桃沢さんは、美人で明るくて……優しい、友達。
 美鶴と仲違いしても、親戚だからって理由で美鶴を庇わず。俺を、守ろうとしてくれた。

 本当に大切な、友達。


(でも、じゃあ……あの、電話は……っ?)


 美鶴はハッキリと、胡桃沢さんに告白していたじゃないか。

 それを、胡桃沢さんは断ったってこと?

 俺のことが好きだから?

 じゃあ、それじゃあ……っ。


(美鶴、は……っ?)


 分かってる。今大事なのは、胡桃沢さんの告白だって。
 分かってるんだ。今は、美鶴のことを考えている場合じゃないってことくらい。

 だけど、考えてしまうんだ。

 ――美鶴が好きなのは、誰なんだろうって。

 ――ここで告白を断ったら、美鶴はどう思うのか。

 ――美鶴は……俺のこと、好き……っ?


(俺は……っ)


 答えが、見つからない。

 胡桃沢さんのことを考えなくちゃいけないのに、美鶴のことばかり考えてしまう。
 胡桃沢さんへの答えは、決まっている。それは、分かっているけど。

 何て答えたらいいのか分からなくて、俺は胡桃沢さんから手を放した。
 すると。


「――あぁっ、もうっ!」


 何故か。

 ――バシッ! と。

 力強く、頬を……はたかれた。




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