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63.智紀、ごはんを作らされることになる

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 冬休みに入って、稲村にせっつかれた。

「トモ君、せっかくだから食堂のおばさんたちに頼んでみようよ!」

 なんか目がキラキラしている。ちょっと引く。
 一瞬何を言われたのかわからなかったけど思い出した。メシを作りたいとかそういう話だった。まぁ寮で食べられない物で、簡単に作れる物は自分で作って食べたいってのはあるけど。

「え? マジで? でも……」

 さすがに寮の厨房を使うのはまずいだろう。せめて先に嵐山さんに聞こうと、はやる稲村を宥めつつ寮の入口へ向かった。
 嵐山さんは目をぱちくりさせた。

「え? 料理がしたい? 君たち料理男子だったのかい?」
「僕は違いますけど、トモ君が料理男子みたいです!」

 稲村が力説していた。なんなんだいったい。つか、料理男子ってなんだ? 稲村は俺の作るメシが食べたいらしい。
 嵐山さんは少し考えるような顔をした。

「うーん、さすがに寮の厨房はダメかな」

 ですよね。食堂のおばさんたち以外が立ち入っちゃだめだろ。衛生管理とかもあるだろうし。そのまま稲村を連れて戻ろうとしたのだが、嵐山さんは更に続けた。

「でも4階の簡易キッチンでよければ使ってもいいよ」

 なんですと?

「えっ? 4階にキッチンなんてあるんですか?」

 稲村が食いついた。

「うん、一応教職員用なんだけどね。冬休み中は先生方も帰省する人が多いから使っても大丈夫だよ~。一応簡易コンロはあるから」

 マジか。

「やったー、これでトモ君のごはんが食べられるー!」
「おいおい……」

 やっぱり俺が作るのかよ。つっても材料とかなんもないんだが。さすがに売店で肉とか野菜とか売ってないし。

「でもまず食材がないだろ」
「あ、そっかー」

 食材をわざわざ下の町まで買いに行くってのもどうかと思う。だったら下の町でうまい飯でも食ってきた方がいいだろう。

「そうだねぇ……よかったらちょっと買い出しに行くかい?」
「えっ?」

 嵐山さんに言われてしまったけど、何言ってんだと思った。

「ほら、冬休みなんてヒマじゃないか。もちろん食堂の冷蔵庫には相応の食材が入ってて毎日おいしいごはんは出てくるけど、一日中ここに座ってるだけってのもアレなんだよね。ってことで下の町のスーパーへ行こう」
「え? あ、はい……」

 なんか逆らえる雰囲気ではなかったので、村西も巻き込んで下の町へ買い出しに向かうことになった。村西すまん。昼間なのでピコーもピースケも林の方にいる。夕方までに戻ってくれば問題はないだろう。

「わーい、トモ君のごはーん!」

 稲村はなんかテンションアゲアゲ(死語?)だった。

「……ちゃんと手伝えよ」
「うん! がんばる!」

 だからなんでそんなに俺が作る物が食いたいんだよ。絶対食堂の飯の方がおいしいって。
 ピー太がいつも通り寮の入口の側の木から飛んできたので、「今日は出かけるから帰ってきてからなー」と言ったら付いてこようとするので困った。
 おーい、今日はお目付け役はいないのかよー。周りを見回したけどユーリが飛んでくる気配がない。

「タカがいませんね……」
「ユーリ君なら今日は山の向こうの見回りに行ってるみたいだよ」

 嵐山さんが教えてくれた。困ったな。でもこのままじゃ出かけられない。

「ピー太、ちょっと出かけてくるだけだから留守番しててくれ。あ、そうだ。寮の周りとか、学校とか見回りしておいてくれないか? なんかあったら寮の入口に人がいるから伝えてくれればいいし!」

 とどうにかして説得した。ピー太はコキャコキャ首を傾げていたけど、

「ピー太にしか頼めないんだ、頼む!」

 と強く言ったら、

「オッケー!」

 と調子よく返事してくれた。どうやらピー太はノせるといいらしい。俺、学んだ。(なんでカタコト

「じゃあ行ってくるなー」

 ピー太の気が変わらないうちにと、俺たちは急いで出かけた。今日は嵐山さんも入れて4人なので乗用車である。

「そういえば、大林君は何を作るつもりなんだい?」

 嵐山さんに聞かれて詰まった。

「えーと、笑わないでくださいよ」
「うん、笑わないよー」
「具がいっぱい入った煮込みラーメンが食べたくなったんです」
「ああ~、確かにそれは寮のごはんだと難しいかもね~」
「ラーメン! 僕も食べたい!」
「俺も」

 ということで全会一致し、煮込み用のラーメンと野菜とか肉とか適当に買って(嵐山さんの財布から)寮に戻った。お菓子とかも買ってもらえた。嬉しい。
 簡易コンロしかないというならひと鍋でできるごはんが基本だ。雑炊も食べたいんだよなと呟けば「食べたい食べたい!」と稲村に食い気味に言われる。
 とりあえず今回は煮込みラーメンを作ることになったのだった。
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