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あなたといっしょなら
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昼下がり。
今日もいい天気だ。
オレは私室で向かい合わせにソファーに座り、魔女と話していた。
柔らかい光が窓から差し込んで、魔女とオレを照らしている。
「オレを女体化して満足したか? 魔女」
「んー。ビジュアルは最高に可愛くできたから満足なんだけど。そうね……ゲームとしてはどうかなぁ」
あー。ご不満ですか。すみませんね。ぶっちゃけ途中から忘れてたんで。
「だってあなた、初めて会ったときからずっと彼だけに惹かれていたわよね。他のキャラとの絡みというか、イベントが全然ないんだもの。つまんないー」
可愛らしく唇をとがらせる魔女。
「そうだっけ?」
確かにシーズベルト様にはいつの間にか惹かれていたけど、彼以外には心が惹かれなかった。それを魔女に改めて言われると恥ずかしいが。
てかゲームと違って現実世界なんだから、そんなに思い通りの出来事なんかおこんねーだろ。今更だけどさ。
「女体化されなかったらきっとシーズベルト様と結ばれることなかったから、だからオレ感謝してるんだ。魔女には。その……ありがとう」
かなり照れくさかったが、オレはお礼を言った。
魔法をかけられたときには「何しやがんだ、オレ跡継ぎなんですけど!?」って思ったけどさ。アルバートじゃシーズベルト様と会うことすらなかったかもしれないし。
今となってはシーズベルト様は、色々な意味でかけがえない人になっている。唯一の前世からの同士だしな。
魔女は大きな目を見開いた。いつになく震える声で、
「お礼なんて、言われたのは初めてだわ。いつも災厄をもたらして嫌われてばかりだから」
災厄もたらさなきゃいいんじゃ?なんてことは言わない。怒られるのが分かってるから。
「まぁ、あのさ」
オレは軽く頬をかいた。
「オレもセシルもアナベルも……。魔女のこと好きだし、友達……だと思ってるからさ。これからもちょくちょく顔見せろよ」
「ええ。気が向いたらね」
そう言ってニコッと笑った顔は、いつもの勝ち気な魔女だった。
「言い忘れたけど、今日のあなた最高に綺麗よ」
「き、綺麗?」
おめかしはしているが今オレは、リディアじゃなくてアルバートなんだけど?
「魔女の祝福を」
その言葉とともに、頬に唇が降りてくる。
ほんっとなんなの? オレのこと好きなの?
恋愛経験ないに等しくて、勘違いするからやめて? 貴重な恋愛経験はほとんど片思いで終わってるしな!
「ああ。あなたの王子様が来たわね。先に行ってるわ」
ちらっと扉に目を向けた魔女が、ぱっと空中に消える。
魔女の言葉通り、ノックののちにシーズベルト様が顔を出す。
「アルバート」
「ふぁ、ああー……!」
シーズベルト様の姿に、オレは思わず変な声を出してしまう。
「な、何だ!? どうした?」
「想像以上にかっこよくて……! す、すみません」
髪型ばっちり、衣装もこの日のために用意した特上なもの。盛装したシーズベルト様はめっちゃかっこいい。
この人人前に出さない方がいいんじゃない?
「お前もいつも可愛いが、今日は特別に可愛いな」
「は、はぁ。ありがとうございます」
今日も恋人の欲目炸裂のシーズベルト様。
オレのこと可愛いっていうのシーズベルト様くらいだよ。
「準備はいいか?」
「はい。シーズベルト様」
オレは微笑んで、シーズベルト様の手を取った。
屋敷の庭に出た途端、皆が口々にお祝いを口にしてくれる。
「おめでとう、アルバート」
「おめでとう!お兄ちゃん」
「おめ、おめでとうございます……アルバート様」
アナベルなんかめちゃくちゃ涙ぐんでるし……どういうこと?
親父やおふくろも泣いてないのに。
今日はオレとシーズベルト様の結婚式。
シーズベルト様の地位を考えれば大々的に開いたほうがいいのだが、相手がオレであることは秘密なので、身内だけを集めて食事会のようなこじんまりとしたものにすることにした。誓いのキスだのブーケトスだのもない。
レオナルド様をお誘いしたけれど、家族の集まりに行くのははばかられる、と断られてしまった。後日お祝いに来ていただけるらしい。「そんなに気になさらなくても」と思ったが、確かに親父は卒倒するかもしれない。
一応レオナルド様の力を借りて、シーズベルト様はリディアと婚姻関係を結んだという届を出している。
リディアの姿で結婚式をしてもよかったのだが、嫉妬深いオレはどうしてもそれは嫌だった。そう言ったら、シーズベルト様が嬉しそうにしていて、多少イラッとしたけれど。
「リディアのドレス姿見たかったけど、お兄ちゃん可愛いよー! 私嬉しい!」
「あ、ありがと……」
妹にも可愛いって言われたら、お兄ちゃん大変複雑です。
「次はお前だな」
「うん。私もできれば恋愛結婚したいなー。資産持ってて、伯爵任せられる人ゲットするよ!」
「う、うん。頼んだぞ。セシル」
こいつなんつーかこんなに肉食系だったっけ?
伯爵うんねんはオレのせいだからそこは責任の一端を感じるなー。なんにせよ、セシルを大事にしてくれる人ならいいんだが。
しばらくしてシーズベルト様が傍にやってきた。
「ようやく君と結婚できたな」
「そうですね。オレ、嬉しいです」
長かったようで、なんだか早かったなーとオレは感慨深くシーズベルト様との出会いを思い返す。
ああ、初めて会ったのはアーテルのほうだったな。
こそっとシーズベルト様がオレの耳元に口を持ってきて、声をひそめる。
耳に息が当たってくすぐったいんですけど。
「今夜が初夜になるな」
「な!?」
あけすけな言葉に、オレは顔を真っ赤にしてしまう。
女の子じゃないし、体の関係はすでにあるけど、そんなことわざわざ言われたら恥ずかしいんですけど!
「最近ゆっくり君を抱けなかったからな。楽しみだな?」
確かに最近色々ありすぎて、長らくごぶさたな気がする。
返事の代わりに、オレは愛しい人に軽いキスをした。
END
今日もいい天気だ。
オレは私室で向かい合わせにソファーに座り、魔女と話していた。
柔らかい光が窓から差し込んで、魔女とオレを照らしている。
「オレを女体化して満足したか? 魔女」
「んー。ビジュアルは最高に可愛くできたから満足なんだけど。そうね……ゲームとしてはどうかなぁ」
あー。ご不満ですか。すみませんね。ぶっちゃけ途中から忘れてたんで。
「だってあなた、初めて会ったときからずっと彼だけに惹かれていたわよね。他のキャラとの絡みというか、イベントが全然ないんだもの。つまんないー」
可愛らしく唇をとがらせる魔女。
「そうだっけ?」
確かにシーズベルト様にはいつの間にか惹かれていたけど、彼以外には心が惹かれなかった。それを魔女に改めて言われると恥ずかしいが。
てかゲームと違って現実世界なんだから、そんなに思い通りの出来事なんかおこんねーだろ。今更だけどさ。
「女体化されなかったらきっとシーズベルト様と結ばれることなかったから、だからオレ感謝してるんだ。魔女には。その……ありがとう」
かなり照れくさかったが、オレはお礼を言った。
魔法をかけられたときには「何しやがんだ、オレ跡継ぎなんですけど!?」って思ったけどさ。アルバートじゃシーズベルト様と会うことすらなかったかもしれないし。
今となってはシーズベルト様は、色々な意味でかけがえない人になっている。唯一の前世からの同士だしな。
魔女は大きな目を見開いた。いつになく震える声で、
「お礼なんて、言われたのは初めてだわ。いつも災厄をもたらして嫌われてばかりだから」
災厄もたらさなきゃいいんじゃ?なんてことは言わない。怒られるのが分かってるから。
「まぁ、あのさ」
オレは軽く頬をかいた。
「オレもセシルもアナベルも……。魔女のこと好きだし、友達……だと思ってるからさ。これからもちょくちょく顔見せろよ」
「ええ。気が向いたらね」
そう言ってニコッと笑った顔は、いつもの勝ち気な魔女だった。
「言い忘れたけど、今日のあなた最高に綺麗よ」
「き、綺麗?」
おめかしはしているが今オレは、リディアじゃなくてアルバートなんだけど?
「魔女の祝福を」
その言葉とともに、頬に唇が降りてくる。
ほんっとなんなの? オレのこと好きなの?
恋愛経験ないに等しくて、勘違いするからやめて? 貴重な恋愛経験はほとんど片思いで終わってるしな!
「ああ。あなたの王子様が来たわね。先に行ってるわ」
ちらっと扉に目を向けた魔女が、ぱっと空中に消える。
魔女の言葉通り、ノックののちにシーズベルト様が顔を出す。
「アルバート」
「ふぁ、ああー……!」
シーズベルト様の姿に、オレは思わず変な声を出してしまう。
「な、何だ!? どうした?」
「想像以上にかっこよくて……! す、すみません」
髪型ばっちり、衣装もこの日のために用意した特上なもの。盛装したシーズベルト様はめっちゃかっこいい。
この人人前に出さない方がいいんじゃない?
「お前もいつも可愛いが、今日は特別に可愛いな」
「は、はぁ。ありがとうございます」
今日も恋人の欲目炸裂のシーズベルト様。
オレのこと可愛いっていうのシーズベルト様くらいだよ。
「準備はいいか?」
「はい。シーズベルト様」
オレは微笑んで、シーズベルト様の手を取った。
屋敷の庭に出た途端、皆が口々にお祝いを口にしてくれる。
「おめでとう、アルバート」
「おめでとう!お兄ちゃん」
「おめ、おめでとうございます……アルバート様」
アナベルなんかめちゃくちゃ涙ぐんでるし……どういうこと?
親父やおふくろも泣いてないのに。
今日はオレとシーズベルト様の結婚式。
シーズベルト様の地位を考えれば大々的に開いたほうがいいのだが、相手がオレであることは秘密なので、身内だけを集めて食事会のようなこじんまりとしたものにすることにした。誓いのキスだのブーケトスだのもない。
レオナルド様をお誘いしたけれど、家族の集まりに行くのははばかられる、と断られてしまった。後日お祝いに来ていただけるらしい。「そんなに気になさらなくても」と思ったが、確かに親父は卒倒するかもしれない。
一応レオナルド様の力を借りて、シーズベルト様はリディアと婚姻関係を結んだという届を出している。
リディアの姿で結婚式をしてもよかったのだが、嫉妬深いオレはどうしてもそれは嫌だった。そう言ったら、シーズベルト様が嬉しそうにしていて、多少イラッとしたけれど。
「リディアのドレス姿見たかったけど、お兄ちゃん可愛いよー! 私嬉しい!」
「あ、ありがと……」
妹にも可愛いって言われたら、お兄ちゃん大変複雑です。
「次はお前だな」
「うん。私もできれば恋愛結婚したいなー。資産持ってて、伯爵任せられる人ゲットするよ!」
「う、うん。頼んだぞ。セシル」
こいつなんつーかこんなに肉食系だったっけ?
伯爵うんねんはオレのせいだからそこは責任の一端を感じるなー。なんにせよ、セシルを大事にしてくれる人ならいいんだが。
しばらくしてシーズベルト様が傍にやってきた。
「ようやく君と結婚できたな」
「そうですね。オレ、嬉しいです」
長かったようで、なんだか早かったなーとオレは感慨深くシーズベルト様との出会いを思い返す。
ああ、初めて会ったのはアーテルのほうだったな。
こそっとシーズベルト様がオレの耳元に口を持ってきて、声をひそめる。
耳に息が当たってくすぐったいんですけど。
「今夜が初夜になるな」
「な!?」
あけすけな言葉に、オレは顔を真っ赤にしてしまう。
女の子じゃないし、体の関係はすでにあるけど、そんなことわざわざ言われたら恥ずかしいんですけど!
「最近ゆっくり君を抱けなかったからな。楽しみだな?」
確かに最近色々ありすぎて、長らくごぶさたな気がする。
返事の代わりに、オレは愛しい人に軽いキスをした。
END
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