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第2章~ジロー、人里へ出る~
閑話 ある狼さんのお食事事情。
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ある日の午前中、その日のアシナは悩んでいた。
昨日、ジローにあることを質問されたことへの返答に困っていたのだ。
これまで生きてきて、これほど悩んだことがあっただろうか。
いや、ない。
住みかを荒らされて国にケンカを売った時も、時の権力者がアシナを無理矢理支配下に置こうとした時も、はたまた2体の古代竜が暴れてアリスから助力を頼まれた時にもこれほど思い悩んではいなかっただろう。
それもこれもジローが悪いのだ!
このような命題を私に投げ掛けるなど、正気の沙汰ではない。
この私に選べというのか…。
今日の夕御飯……鶏肉かラヴィ肉か選べなどと。
決められる訳がないではないか。
これまで生きてきて食べるというのはただの行為でしかなかった。
腹が減ったから食う、単純に食わねば死ぬから食う。それだけのはずだった。
それがジローに会ってから変わった。正確にはジローが食事を担当、料理をするようになってからだろうか。
とにかくジローが作る料理がうまいのだ。最初はただ焼くだけだった。焼くだけでも随分違うのだが、アリスに街から調理道具や調味料なるものを持ってきてもらうようになってからはさらに味が良くなった。もはや進化したと言っても過言ではないだろう。
魚なんぞ焼いて塩を振りかけただけだと言うのに全然違う。ジローは今日は適当だよとか言うがそんなことはない。
今まで食べてきたものがなんだったのかというぐらい違う。
だからこそ今回の私に選べと言うのはとても残酷だ。今までそんなこと聞いてきたことはなかったではないか。
鶏肉なんて最高だ。鳥の唐揚げなんて特にうまい。
最初、アリスに持ってきてもらった油を鍋で温め始めた時は、ついにジローも頭をやられたと思った。さらにはその中に粉を付けた鶏肉を投げ込み始めたものだから年甲斐もなくハラハラしてしまった。
ジローに食べてみてと言われた時は
「こんなもの食べられるか!」
と怒鳴ってしまったが、ジローは物は試しに食べてみてと言う。
それで恐る恐る食べてみたらこれがなんともうまいのだ。外はカリカリ、なのに中のふわふわの肉との絶妙な食感。
思わずおかわりしてしまった。
ソテーなるものもうまかったな。
しかし、ラヴィの肉も捨てがたい。
前にジローが作ったラヴィ肉の香味焼きなるもの、あれもうまかった。
ただの塩焼きとは違う味の奥深さ。色や形の違うだけの粉を振りかけるだけでああも味が変わるとは。
ジローに言わせれば、この世界には調理道具や調味料なんかはとても少ないらしい。ジローが住んでいた世界には、もっと様々な器具や材料があり、ジローですらも知らないような料理が山のようにあるそうだ。
なんて夢のような世界なのだ。
きっとこの世界にも私が知らないだけで様々な料理があるのだろう。
ジローにはそれを覚えてもらいまた作ってもらおう。
それはそれとして、鶏肉かラヴィ肉…どちらを選べば良いのだ。
正直に言えば今日は鳥の唐揚げの気分なのだ。だがもしかしたら、ラヴィ肉を選んだら今まで作ったことのない料理を作ってくれるのかもしれん。
くそう。ジローめ。
私がこれほど悩むとわかっていたのではなかろうな。
だとしたならば相当な策士だ。私の気持ちをこうも掻き乱すとは。
…ダメだ。私にはどちらかを選ぶことなど出来そうにない。もはやジローにおまかせするしかなさそうだ。
狩りに出ていく時のジロー、いい顔をしていた。
「とりあえず両方取ってくるから、どっちがいいか決めておいてよ。」
そう言っていたな。
すまぬジロー。私には決められそうにはない。
両方取ってくると言うし、ジローの好きな方を料理して……………両方?
なんということだ。最高の選択肢を見つけてしまった。
どちらも料理してもらえばよいのではないか。なぜ気付かなかったのだ。
これでどちらかを選ぶ必要などなくなったではないか。
はっはっは!
ジロー、早く帰ってこないだろうか。
わしに料理を食べる楽しみを教えてしまったのだ。ジローにはこれからも頑張ってもらわねばならんな。
昨日、ジローにあることを質問されたことへの返答に困っていたのだ。
これまで生きてきて、これほど悩んだことがあっただろうか。
いや、ない。
住みかを荒らされて国にケンカを売った時も、時の権力者がアシナを無理矢理支配下に置こうとした時も、はたまた2体の古代竜が暴れてアリスから助力を頼まれた時にもこれほど思い悩んではいなかっただろう。
それもこれもジローが悪いのだ!
このような命題を私に投げ掛けるなど、正気の沙汰ではない。
この私に選べというのか…。
今日の夕御飯……鶏肉かラヴィ肉か選べなどと。
決められる訳がないではないか。
これまで生きてきて食べるというのはただの行為でしかなかった。
腹が減ったから食う、単純に食わねば死ぬから食う。それだけのはずだった。
それがジローに会ってから変わった。正確にはジローが食事を担当、料理をするようになってからだろうか。
とにかくジローが作る料理がうまいのだ。最初はただ焼くだけだった。焼くだけでも随分違うのだが、アリスに街から調理道具や調味料なるものを持ってきてもらうようになってからはさらに味が良くなった。もはや進化したと言っても過言ではないだろう。
魚なんぞ焼いて塩を振りかけただけだと言うのに全然違う。ジローは今日は適当だよとか言うがそんなことはない。
今まで食べてきたものがなんだったのかというぐらい違う。
だからこそ今回の私に選べと言うのはとても残酷だ。今までそんなこと聞いてきたことはなかったではないか。
鶏肉なんて最高だ。鳥の唐揚げなんて特にうまい。
最初、アリスに持ってきてもらった油を鍋で温め始めた時は、ついにジローも頭をやられたと思った。さらにはその中に粉を付けた鶏肉を投げ込み始めたものだから年甲斐もなくハラハラしてしまった。
ジローに食べてみてと言われた時は
「こんなもの食べられるか!」
と怒鳴ってしまったが、ジローは物は試しに食べてみてと言う。
それで恐る恐る食べてみたらこれがなんともうまいのだ。外はカリカリ、なのに中のふわふわの肉との絶妙な食感。
思わずおかわりしてしまった。
ソテーなるものもうまかったな。
しかし、ラヴィの肉も捨てがたい。
前にジローが作ったラヴィ肉の香味焼きなるもの、あれもうまかった。
ただの塩焼きとは違う味の奥深さ。色や形の違うだけの粉を振りかけるだけでああも味が変わるとは。
ジローに言わせれば、この世界には調理道具や調味料なんかはとても少ないらしい。ジローが住んでいた世界には、もっと様々な器具や材料があり、ジローですらも知らないような料理が山のようにあるそうだ。
なんて夢のような世界なのだ。
きっとこの世界にも私が知らないだけで様々な料理があるのだろう。
ジローにはそれを覚えてもらいまた作ってもらおう。
それはそれとして、鶏肉かラヴィ肉…どちらを選べば良いのだ。
正直に言えば今日は鳥の唐揚げの気分なのだ。だがもしかしたら、ラヴィ肉を選んだら今まで作ったことのない料理を作ってくれるのかもしれん。
くそう。ジローめ。
私がこれほど悩むとわかっていたのではなかろうな。
だとしたならば相当な策士だ。私の気持ちをこうも掻き乱すとは。
…ダメだ。私にはどちらかを選ぶことなど出来そうにない。もはやジローにおまかせするしかなさそうだ。
狩りに出ていく時のジロー、いい顔をしていた。
「とりあえず両方取ってくるから、どっちがいいか決めておいてよ。」
そう言っていたな。
すまぬジロー。私には決められそうにはない。
両方取ってくると言うし、ジローの好きな方を料理して……………両方?
なんということだ。最高の選択肢を見つけてしまった。
どちらも料理してもらえばよいのではないか。なぜ気付かなかったのだ。
これでどちらかを選ぶ必要などなくなったではないか。
はっはっは!
ジロー、早く帰ってこないだろうか。
わしに料理を食べる楽しみを教えてしまったのだ。ジローにはこれからも頑張ってもらわねばならんな。
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