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Ⅱ.体に優しいお野菜編

72.僕、わからないけどわかってます②

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 夜食を食べ終えて、二人で寝室へと上がる。

 ああ。今日のスープも、最高に美味しかったな。お野菜と卵のスープ。
 ヴァルは好きなものを最初に食べる派だから、真っ先に卵に齧り付いてた。ちょっと熱かったみたいで、はふはふしてるのが可愛かった。

 僕も一人の時はあんなに食べる気がしなかったのに。ヴァルがいるだけであんなに美味しくなっちゃうなんて。

 もはや、美味しいのはヴァルなのか、ご飯なのか。

 はっ!ヴァルがいるだけで、周りの空気まで美味しくなっちゃう説!なんてお得なんだろう!!



 で、僕は今、ヴァルのベッドの上でヴァルに向かい合うように正座して姿勢を正してます。

「ルルド、お前、何してんだ」

 ぴしっと背筋を伸ばす僕を、完全にリラックスモードで胡坐をかいたヴァルが訝し気に見ている。

「僕、ヴァルに謝らなくちゃいけないことがあると思うんだけど、どう思う?」
「は?」
「だから。僕、ヴァルに謝らなくちゃいけないことがあると思うんだけど、どう思う?」
「いや、聞こえてるっつーの。言ってる意味がわかんねーって意味だよ。
 どう思うって聞かれても……。
 お前の言う謝らなくちゃいけないことがわからない以上、俺には答えようがねーだろうが」

 あれ?おかしいな。
 あれやこれやそれ……色々怒られることがあると思うんだけど。ねぇ?

「あれもこれもあり過ぎて……逆にどうでも良くなったんだよ。キリがねぇ」

 あふぅ……。なるほど。なるほど、たしかにね。
 ………それは、おいおい確認して、ちゃんと一つずつ謝ることにして。

 今は、もっと重要で早急に解決しておかなくちゃいけないことがある。

 だって、僕、グノの竜気をもらって、ちょっと竜として成長して、から。

「僕、ヴァルが疲れてると、とっても……とっても、とーっても美味しそうな匂いがするな、って……ずっとそう、思ってたんだけどね」
「ああ。俺が疲れてる時ほど、クンクン嗅ぎまくって、べろべろ舐めまくってきたもんな」
「それって……つまり、黒い竜気が溜まってくると、ヴァルはツライってことなんでしょう?」
「あー……そりゃあ……」

 ヴァルの顔が曇る。
 この顔は、「やっと気づいたのか」、もしくは「気づいてしまったのか」という顔だ。

 僕は、単に竜気術を使ったり、そもそも術を使わないといけないような事態そのものが、ヴァルを疲れさせてると思ってた。

 でも、違った。

「僕、わかったよ。ヴァルにとって……いや、生き物にとって、この世のすべてにとって、黒い竜気は毒だってこと。
 心身を蝕んで、いずれは死をもたらす元だってこと」

 そして、それがこの世に充満すれば、この世そのものを蝕むんだってこと。
 だから、人は黒い竜気を“澱み”なんて全く美味しくなさそうな名前で呼ぶんだ。

 青銀竜の長、テティに竜気をもらい、黄金竜の長グノに竜気をもらい、僕はちょっと成長した。

 竜はすべてを知っている。
 僕も、それに近づいたのだ。つまり、『この世の理』ともいう当然の摂理を、以前よりずっと理解できるようになった。

「どうして、教えてくれなかったの?こんな大事なこと。
 こんなの……こんなの……。ヴァルがこれまでツラかったのは、……結局、僕のせいじゃないか」
「なんで、そうなる」

 呆れた嘆息混じりの答えが返ってくる。

 世界の危機とかどうでもいい。
 そんなのは、ヴァルに黒い竜気が溜まって、それが悪さするという事実に比べれば、根っこが同じだけのおまけみたいな些細な問題だ。

「だって、」
「ばーか。俺が“澱み”を……黒い竜気を溜めこむのは、俺の体質が一番で、あとは神殿の連中と、俺の選択の問題だ。お前には、関係ねぇよ」

 関係なくなんて、無い。

「僕が未熟じゃなかったら……僕がちゃんと自分の竜気を取り込めていたら、そもそもヴァルはこれまでだって、黒い竜気に蝕まれることはなかった、てことだよね」

 ヴァルに黒い竜気を溜める間もなく、僕が食べれちゃえばよかったんだから。
 そうすれば、苦しい思いも、辛い思いも、痛い思いもずっとずっとする必要はなかったはずだ。

「ううん。それどころか……僕が……僕が、ヴァルに甘えちゃったから。
 僕に黒い竜気をくれるために、ヴァルは……」

 もっと、“澱み”から離れられなくなった。

「ヴァルは、竜気を扱うたびに、黒い竜気が溜まって……ずっと、ずっと、苦しめられてきたはずなのに……」

 ヴァルには、僕のことを責める権利がある。なのに、何も言わずに、教えてもくれずに、僕を責めない。

 神殿にいるのだって、僕のため……竜気術を使って、自分に“澱み”を溜めるためなんでしょう。
 わざわざ、苦しむために……寿命を縮めるために、神殿にとどまるなんて。

 ヴァルって……やっぱり、ドMでしょ。間違いない。だって、こんなの正気と思えない。

 ……そして、僕がそうさせてしまっている。

「………え。つまり、僕がドSってこと……?」

 つぶやく僕を、ヴァルが渋い顔で見ていた。
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